第56話 魔法使い、川で遊ぶ。
暑いですね。
今日のお話は少しでも読者の方に涼しんでもらうために書きました。
楽しんで下さい。
3人に女の子の水着姿を拝めたところで、ぼくは再び釣りの準備を始める。
1人仕掛けを付ける横で、クレリアさんは言った。
「トモアキ、手伝おうか」
「うん。ありがと。でも、大丈夫。ぼくがやるから」
「そう? じゃあ、あたし泳いできてもいい」
「いいよ」
「やった! ガヴ、行こ!」
「がーう゛!」
クレリアさんは子供のようにはしゃぐ。
準備体操した方がいいよ、というぼくの忠告も虚しく、そのままガヴとともに川の中に飛び込んでいった。
ざばーん、という盛大な音を立て、水しぶきが上がった。
「気持ちいい!」
嬉しい悲鳴が上がる。
ガヴも金色の髪を濡らして、はしゃいでいた。
「よし! 息止めの競争よ、ガヴ」
「がう゛!」
望むところだ、とガヴは両手を突き出す。
同時に息を吸い込むと、2人は川に顔を付けた。
その体勢のまま、まるで死んだ魚みたいに川に漂う。
最初に顔を上げたのは、意外にもクレリアさんだった。
「ぷは! ……げぇ! まだ潜ってるの?」
川を漂う小さな黄狐耳族の少女を見つめる。
レベルは圧倒的にクレリアさんの方が上だけど、そもそも身体能力はガヴの方が高いということなのかな。
やがてガヴも顔を上げた。
「負けちゃった。やるわね、ガヴ」
「がう゛」
賞賛したが、ガヴの反応は予想とは違っていた。
「した! した!」
指をさす。
すると、また顔を浸ける。
クレリアさんも遅れて川に潜る。
しばらく、川の中でごそごそしてると、2人とも顔を上げた。
ガヴは手に何かを持っている。
ぼくのところにやってくると。
「これ! パパ! これ!」
「おお! これって……」
エビ?
いや、もしかしてザリガニかな。
赤いし、アメリカザリガニっぽい。
「ガヴが捕まえたの? すごいね」
「がーう゛」
ポンポンと頭を撫でると、ガヴはきゃっきゃっと喜んだ。
敷物を敷き終えたパーヤが近づいてくる。
いつの間にか唾の広い帽子を被っていた。
白いビキニと相まって、とても似合っている。
「ザギリルって川の中に住む甲殻類ですわ」
「へぇ……」
「ゆでて食べると、とってもおいしいんですの」
「食べれるの!?」
「がう゛!」
ガヴの目が輝く。
パーヤはにこやかに笑った。
「はい。塩ゆででソースを浸けて――」
説明が終わらないうちに、ガヴは飛び出していく。
川へと入っていくと、顔を浸けてザギリルを探し始めた。
なんか最近、食べ物のことになると見境がなくなっているよなあ。
成長期ってのもあるのだろうけど、このまま食いしん坊キャラで押し通すのだろうか。ぼくはそんな変な悩みを抱いた。
まあ、楽しそうにしてるようだからいいけど。
「そら!」
水しぶきが飛び散る。
冷たい川の水が、ぼくとパーヤに降りかかる。
「トモアキもパーヤも入りなよ。すっごく冷たくて気持ちいいよ」
にやりとクレリアさんは口角を上げた。
遊び相手がなくなったため、ぼくたちに狙いを定めたのだろう。
みえみえの挑発なんだけど、横のパーヤはあっさりと引っかかった。
「何をするんですか、クレリアさん!」
「へっへー。悔しかったら、やり返してみな」
お尻ペンペンとむき出しの美尻を見せつけるように叩く。
パーヤの黒髪が盛り上がる。
被っていた帽子を投げ捨てた。
なんかちょっとカッコいい。
川の中に入ると、水を掬うように蹴り出す。
水しぶきが今度はクレリアさんにかかった。
「やったわね」
クレリアさんは水で掬ってやり返した。
頭から被ると、すっかりパーヤは濡れ鼠だ。
水を吸った水着が貼り付き、余計バストが重そうに見える。
パーヤが動く度に、プルンと震えて、ぼくは目のやり場に困った。
しかも、お互い激しく動くものだから、いつぽろりが起こってもおかしくない。
昔の日曜の番組みたいな展開が起こりそうだ。
女の戦いが続くかと思われたが、次第にトーンダウンする。
2人は仲良く背中をつけ、息を切らした。
「やるじゃない、パーヤ。もっと体力がないと思ってたけど」
「ふふふ……。屋敷の家事に比べれば楽な方ですわ。でも、クレリアさんもやりますわね」
互いの健闘をたたえ合う。
美しい光景だね。
そんなこんながありながら、釣りの用意が出来た。
仕掛けをつけた竿をパーヤとクレリアさんに渡す。
ガヴは――というと、絶賛ザギリル漁の真っ最中だ。
ぼくが呼んでも、パタリと黄色の耳を閉じるのみ。
もう……。ぼくを無視するなんて。
あとでお説教だね。
楽しそうならそれでいいけど……。
「トモアキ、これをどうやって使う」
「そんなに難しくないよ。ようは魚がいるところに釣り糸を下ろして、釣り針に食いついてきた獲物を獲るだけなんだ」
「でも、そんなに簡単に魚が針を食うものなんですか」
パーヤの質問に、ぼくは笑顔で答えた。
「そう。そこで3人に作ってもらったルアーが役に立つんだよ」
ぼくは木の実で作ったルアーを見せる。
みんなに手伝ってもらって、様々な着色されていた。
「とりあえず、ぼくがお手本を見せるね」
岩場に昇ると、ぼくは魚がいそうなポイントに糸を垂らした。
川は若干濁っているが、透明度は悪くない。
魚にとっても、釣り人にとっても良い条件だ。
魚はあまり綺麗なところに棲みつかないのは、ことわざにある通りだからね。
時折、竿を動かしながら、魚を待つ。
しばらく穏やかな時間が流れた。
クレリアさんとパーヤが退屈かなっと思ってたけど、2人とも水中のルアーを凝視している。
やがて1匹の魚が寄ってきた。
ぼくはルアーを動かす。
魚を刺激しないようにしつつも、見えるようなポジションを取る。
予想通り、魚は反応した。
くいっとターンすると、ルアーの方に向かってくる。
「あ! 来た!」
半ば興奮気味にクレリアさんは叫んだ。
でも、ここからが腕の見せ所だ。
ぼくは慎重にルアーアクションを重ねる。
「ご主人様のルアーがお魚みたいに見えますわ」
水中に入れるとカラフルなルアーもやりようによっては魚に見える。
基本的に視力の悪い魚であれば、なおのこと生きた魚に見えるだろう。
竿を左右に振り、水中を泳いでいるようにルアーを動かす。
完全に魚の目が、ルアーに釘付けになる。
徐々に距離が縮まると、魚が大きく口開けた。
「あ! 食べた!」
「ご主人様! 食べましたよ! 竿を上げてください」
「まだだよ」
ここで竿を上げるのは、素人だ。
しっかり針を飲み込ませないと。
ぼくはタイミングを見計らう。
ルアーを飲み込んだ魚が、急転する。
糸がピンと張った。
その瞬間を見逃さない。
「いまだ!」
竿を思いっきり引く。
サッサ製の竿が激しくしなる。
一瞬、強度が頭をよぎったけど、竿は耐えてくれた。
水しぶきを上げながら、魚が水面に現れる。
「やった!」
「やったやった!」
クレリアさんとパーヤは手を叩いて喜ぶ。
ぼくは慣れた手つきで糸を引き寄せた。
針に引っかかった魚は、激しく暴れる。
きっと驚いたに違いない。
何せエルドラドには「釣り」というものがなかったのだ。
よもやこんな形で釣り上げられると夢にも思わなかっただろう。
「きゃっ!」
魚から小さなしぶきがかかる。
ぼくは一旦岩場の上に置いた。
足で動かないようにして、慎重に針を抜く。
「トモアキ、その魚……。どうするんだ?」
「塩焼きで食べますか?」
ぼくは首を振った。
「いや、また元に戻すよ」
「え? 川に戻すのか?」
「折角、釣り上げたましたのに」
「ぼくの世界では釣りは娯楽の1つなんだ。だから、基本的にリリースするのが一般的なんだよ。といっても、持って帰って食べる人も多いけどね」
「へぇ……」
「ご主人様が優しいのは、その世界が優しいからなんですね」
そうでもないさ。
時間外労働をさせて、給料を払わなかったり。
地位を利用して、仕事を押しつけてきたり。
飲めない人間にお酒を強要したり。
どっちかっていうと、悪い人間の方が多いんだよ。
う……頭が……!
「ともかく、2人もやってみて」
「難しそうですわね」
「あたしはやるよ。なんかこの前のゲームみたいで面白そう」
恐らく祭りでプレイしたインベーダーゲームのことを言っているのだろう。
パーヤはぴくりと反応する。
気を察して、クレリアさんの目も光った。
2人の背中に炎が燃え上がる。
宿命のライバルに出会ったかのように、お互い睨み合った。
「あの時の決着……。まだでしたわね」
「そうね。ま。あたしの方が半分は勝ってたけどね」
「何をいいますの! 勝っていたのはわたしの方です」
「だったら、ここで勝負を付けようじゃない!」
「勝った方が――」
「「ご主人様の唇を奪う!」」
キラーン、と2人の瞳がぼくに向けられた。
え? えええええええええ!!!???
そ、そんな勝負してたの、2人とも。
「恨みっこなしですわよ」
「こっちの台詞よ」
仲良く岩場に仁王立つ。
教えてもないのに、竿を振るとルアーを遠くの方に飛ばした。
ルアーが見やすい近くの方がいいんだけどな。
ぼくが忠告するも、2人はまるで聞いていない。
女2人の勝負は静かに始まった。
「がう゛ー」
水面からガヴが顔を上げる。
獲ったどー! という感じで、2匹目のザギリルを掲げた。
あの~。
誰か、ぼくの話を聞いてくれないかな。
主人公がうらやましすぎて、怒りで余計暑くなったわ!
というクレームは受け付けてないのであしからずご了承ください。




