第54話 魔法使い、星に願う(後編)
今日中っていったよね!(半ギレ)
「うーん。美味ですわ~」
白い綿菓子を食みながら、声をあげる。
幸せそうな顔から後光が差していた。
「へぇー、どれどれ」
横で見ていたクレリアさんが興味を示す。
パーヤが差し出す前に、綿菓子をくわえていた。
ぺろり、と唇に残った砂糖を舌で丁寧に舐め取ると、ごくりと飲み込む。
「こっちもいけるわね。あたしも綿菓子にすれば良かった」
「ちょっと! クレリアさん。勝手に人の食べ物を食べないでください」
「いいじゃない。どうせ買ってくれたのは、トモアキなんだから」
「じゃあ、クレリアさんのソーセージももらって良いんですね」
クレリアさんが手に持つソーセージを見つめる。
こちらも祭りの定番――フランクフルトだ。
ハイミルドではソーグというらしい。
赤いトマトソースはかかっていたけど、こちらにはマスタードはないそうだ。残念だなあ。マスタードのないフランクフルトなんて、人生の半分を損してるよ。今度、作ってみようかな。
「仕方ないなあ。ほら、あーん」
「あーん」
パクッとパーヤはソーセージにかぶりつく。
噛もうとした瞬間、クレリアさんはパーヤの口から引き抜いた。
さらにソーセージをしごくように動かし始める。
「ちょ! もがっ! クレリ――あっ、さん! なにを……」
「ほーれほれ。あたしのソーセージを食べてみな」
「そ、そんな! ふごご! ――ことを、したら、ふもっ! 食べれ!」
「どうした! そんな舌の使い方じゃ。トモアキに喜んでもらえないわよ」
にや~、といやらしい笑みをぼくの方に向ける。
パーヤも少し涙目になりながら、ぼくの方を見つめた。
そ、そんな風に見られても……。
なんでだろう。凄いドキドキする。
変な罪悪感を感じるのは、気のせいだろうか。
「く、クレリアさん! 食べ物で遊ばないの」
「はーい」
ぼくが注意すると、クレリアさんはようやく動きを止めた。
軽く舌を出す。全く反省していないようだ。
一方、パーヤはようやくソーセージから口を離すと、ケホケホと咳き込んでいた。
「何をするんですか、クレリアさん!」
「うん? 練習だよ」
「わ、訳のわからないこと……」
「そういいながら、赤くなってるじゃない」
「う、うるさいですわ。……わたしは、そんなはしたないこと」
「でも、トモアキが要求してきたらどうするの?」
「え?」
パーヤと視線が合う。
お互い顔が猛烈に赤くなった。
「と、トモアキ様がそうおっしゃるなら」
いやいや、パーヤ!
そこは自分をもとうよ!
嬉しいけどさ(本音)。
ぼくたちが口論してるのをよそに、ガヴは林檎飴をなめていた。
持ち手の近くの方から、ゆっくりと舌を這わせていく。
丁寧に――何かを刺激するように――少女は小さな舌を出していた。
って、誰だよ、こんな食べ方を指南した人は!
1人ぐらいしかいないけどさ。
フランクフルトを食べきると、クレリアさんはお腹をさすった。
まだ満足していないようだ。
「お祭りの食べ物ってなんか中途半端なんだよね。特に量が」
「縁起物みたいなものだしね。がっつり食べる人はいないんじゃないかな」
「実は、わたしもお腹が……」
「2人ともゲームしてる時、すっごい動いてたもんね」
インベーダーゲームをやっている時、2人は自機と一緒に動くという初心者にはありがちなパターンに嵌っていた。
おかげでゲームなのに、終わったら息を切らす始末だ。
「じゃあ、もっと何か食べようか」
ぼくが提案した時、空に一条の光が昇っていくのが見えた。
ひゅるるるるるる……。
ノスタルジックな音が、辺りに響く。
すると、パンと弾け、夜空に大輪の花を咲かせた。
花火だ。
ぼくは目を奪われる。
すごい。
異世界で花火が見られるなんて。
「パパ! パパ! たいほー! こわい!」
「ガヴは初めてなんだね」
耳を押さえて怖がるガヴを、ぼくはそっと抱きかかえる。
「あれは花火っていうんだよ。綺麗でしょ」
「は・な・び?」
「そうそう」
再び光がひょろひょろと昇っていく。
今度は3つ同時だ。
光の花が空に浮かぶ。
ガヴは「おお」と目を開けて、歓声を上げる。
光の花びらを掴もうとして、何度も手を掲げた。
横を見ると、パーヤもクレリアさんも、空のイリュージョンに心が奪われている。
白い2人の顔には、いくつもの光が当てられ、妙に愛おしく見えた。
何発もの花火が、空を彩る中、パーヤはふと呟く。
「残念ですわね」
彼女は見ていたのは、花火の向こう。
どんよりとした空だった。
「逸話では曇り空の日には、ヘカテとデルカを分かつ川が増水して会えなくなってしまうといわれていますの」
「そうか。それは残念だね」
「残念といえば、いつもこの時季の祭りは曇りだよね。パァーッと晴れてくれたらいいのに」
「雨季と重なるから仕方ありませんね」
「花火と一緒に、星も見られたらロマンチックなのになあ」
「意外とクレリアさんってロマンチストだよね」
これでも15歳だからね。
仕方ないね。
あ。そうだ。
「じゃあ、星を見に行こうか」
「え?」
「どうやって?」
「こうするのさ」
ぼくは例のゲーム機を取り出す。
コマンドを打ち込むと、一瞬にして遺跡地下の格納庫にやってきた。
目の前に、円盤状の宇宙船が現れる。
「船で雲の向こうまで行こう」
「祭りの日に遊覧飛行か」
「いいですわね」
「がう゛!」
早速、ぼくたちは乗り込む。
出発の準備をする。
イオンエンジンが暖まると、宇宙船は射出された。
機首を上に向ける。みるみる地上が遠ざかっていった。
後ろ髪を引かれるような強いGにみんなが耐える。
「雲に入るよ」
水蒸気を弾き飛ばし、真っ暗な雲の中を進んでいく。
それは一瞬だった。
宇宙船は雲を突っ切り、穏やかな夜の空へと躍り出る。
機首を水平にし、遊覧速度での飛行に切り替える。
みんなはホッと一息つくと、コクピットから見える空の景色に息を飲んだ。
黒地に宝石をちりばめたような星空が、広がっていた。
「見惚れてしまいますわ」
「きれい……」
「がーう゛」
空に打ち出された3人の乙女は、それぞれ感想を口にする。
目を大きく広げ、口を開け、天然のプラネタリウムに見とれていた。
「ねぇねぇ。3人とも……。コクピットよりもっといい場所があるよ」
ぼくが誘うと、3人は顔を見合わせた。
キョトンとした表情にぼくは苦笑しながら、付いてくるように指示を出す。
向かったのは、上部の銃座だ。
「ちょっと狭くない」
「だったら、クレリアさんは後にすればいいじゃないですか」
「がう゛がう゛」
「なんですって! だいたいパーヤの胸が大きいのが悪いのよ」
「なんでそうなりますの!」
「わざとらしくトモアキに当たるように動いてるんじゃない?」
「ぼくはこのままでもいいけど」
「もう! トモアキまで! 差別だ! 横暴だ!」
「がーう゛がう゛!」
クレリアさんはわかるとして、なんでガヴまで怒ってるんだろう。
それにしても、パーヤの胸が柔らかい。
ただ柔らかいんじゃなくて、弾力があるというか。
押すと、小さく弾かれるような感じがたまらないというか。
あ。ごめん。
何をいっているんだろうか。
狭い銃座の中で、ぎゅうぎゅう詰めになりながら、ぼくは腕を掲げた。
「それよりも、2人とも。空を見て」
「え?」
「あ」
「がーう゛!」
空に浮かんでいたのは、川だった。
光り輝く星の川だ。
無数の星々が集まり、まるで様々な柄で染めた絹のように空を縦断している。
圧倒的な光景に、誘ったぼくも言葉を失った。
前に高々度にやってきた時は、星を見る暇もなかったけど、こうして見ると本当に素晴らしい光景だ。
何より――。
ぼくは3人の女の子を見つめる。
異世界で出会ったかけがえのない女の子たち。
そんな彼女らと同じ空を眺める。
今日は会えなかったヘカテとデルカには申し訳ないけど、ぼくは今幸せで一杯だった。
本当に良かったな。
異世界に来て……。
すると、流れ星が空を横切る。
見ながら、ぼくはふと思い出した。
「ねぇねぇ。3人とも短冊に願いは書いたんだよね」
「はい」
「うん。書いたよ」
「がう゛!」
「なんてお願いしたの?」
「それは――」
「秘密だな」
「ひみづ」
3人とも教えてくれなかった。
ちょっと残念。
でも、まあ……いいや。
「じゃあ、ぼくの願いだけいうね」
あのね――。
※
アリアハルのとある小さな屋敷にかけられたサッサには、4つの短冊がかかっている。
その4つの短冊には同じようなことが書かれていた。
いつまでも4人全員、一緒にいられますように……。
というわけで、突発企画がやっと終わりました。
長く付き合わせてすいません。
見切り発車すぎたんだ……(それをいったら、「ぺぺぺ……」自体が見切り発車なんですけどね)。
しばらくこうやって何かイベント的なことがあれば、更新していこうと思ってます。
「ぺぺぺ……」は基本的に終わりとかあまり設定はしてないので、
作品の中みたいにまったりと続けていければなあ、と思ってます。
なので、しばらく不定期になりますが、活動報告やTwitterなどで更新報告はいたしますので、
ゆるりとお待ちいただければ幸いです。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
これからも拙作をよろしくお願いしますm(_ _)m




