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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第6章 青い箱船騎士編

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第50話 魔法使いはトロルに吠える!

お待たせしまして申し訳ないです。

なんとかギリギリですが、間に合いました。

「そ、それよりもここは一体……。我々はダンジョンの下層で」


 救出された団長さんはリナリィさんの肩を抱きながら尋ねた。

 副長は涙を払い、ぼくを指さす。


「あの方は助けてくれたのです。我々も彼に」

「そうか。ありがとうございます」

「お礼ならリナリィさんに言ってください。彼女が立ち回ったからこそ、あなた方を救出できたのです」

「そうでしたか。リナリィ、礼を言うぞ」

「副長として、当然の義務を果たしたまでです」


 敬礼する。

 先ほどまで泣きじゃくっていた女性の面影は消え、強く厳しい副長殿に戻っていた。


「改めまして。青い箱船騎士ブルー・アーク・ナイトの団長シルエスタ・ヴィノールと申します」

「アイダ・トモアキ、魔法使いです」

「魔法使いか。では、我々が地上に転移したのは魔法……?」

「そんなところです。あ、ところで怪我をしてる人がいるようなので、これを。お腹も一杯になりますよ」


 ぼくは神豆が入った袋を渡す。

 シルエスタさんは初めは訝しげに見つめていたが、リナリィさんの薦めもあって、パクリと口にした。


 すると、傷が霞のように消えていく。

 変わりに、シックスパッドに割れたお腹がぽこりと膨らんだ。


「な、なんだ、これは!?」


 叫ぶ。

 驚愕に歪んだ顔を見ながら、ぼくは思わず笑みを浮かべた。


 一通り神豆が行き渡る。

 これで帰るのかと思ったが、シルエスタさんは首を振った。


「その前に、このダンジョンは封印しなければならないでしょう」

「封印?」

「周辺のモンスターと比べて、このダンジョンの中の魔物は格段に強い。それにどうやら出入りもあり、巣のようになっているのです。このままでは周辺の村々に被害が及ぶ可能性がある」

「アリアハルにも?」

「おそらくは」


 シルエスタさんは神妙に頷く。


「わかりました、シルエスタさんたちはここに残ってて下さい」

「どうするつもりですか、トモアキ殿」

「ぼくは、このダンジョンのトロルを駆逐します」

「お1人でか?」

「はい」


 ぼくは頷く。

 その話を聞いて、激昂したのはハインツだった。


「我々、青い箱船騎士ブルー・アーク・ナイトですら手こずった魔物だぞ。それを1人で相手するなど」


 我々を愚弄するのか――とまではいわなかったが、ぼくの態度が気に入られなかったのだろう。自分たちが下に見られていると思ったのかも知れない。

 でも、いちいち突っかからないでほしいなあ。

 1発で気を失ったくせに。


「私も同行する」


 腰の差した鞘に手をかけたのは、リナリィさんだった。

 ならば俺も、とハインツも手を挙げる。


 だけど、ぼくは首を振った。


「ぼく1人で十分です」

「俺たちが足手まといとでもいうのかよ」

「足手まといというよりは……。そうですね。邪魔になります」

「な――」

「何か策があるのか、トモアキ殿」


 尋ねたのは、シルエスタさんだった。

 口調こそ穏やかだが、眉間には皺が寄っている。

 ハインツほどではないにしろ、心中は心穏やかではないのかもしれない。


 ハインツにしろ、シルエスタさんにしろ、多かれ少なかれ自分たちの強さにプライドがあるのだろう。

 でも、邪魔というのは言い過ぎたかもしれないが、その言葉以外に表現する方法をぼくは知らなかった。


「有り体にいえばそうです。正直、試したことはないのですが、あなた方がいれば、巻き込むことになりかねません」

「それはトモアキ殿も危険ということにはなりはしないのか?」


 他の2人とは違って、リナリィさんは心配そうに見つめている。

 鞘にかけた手をおもむろに胸に置いた。


「それは大丈夫だと思います」


 いざとなれば、レベルマがあるしね。


 そうか、とリナリィさんは俯いた。

 沈痛な顔を浮かべている。

 彼女は彼女なりに、ぼくに同行したいのだろう。


「大丈夫だよ、リナリィさん。ぼくはちゃんと帰ってくるから」

「約束だぞ」

「指切りでもしようか」


 冗談で差し出した小指に、彼女は縋るように両手で握った。


「必ずだ」

「うん。針千本飲むのは、痛いだろうからね」


 真面目なリナリィさんのことだから、本当にやりかねない。

 ぼくは苦笑しながら、約束を交わした。




 例の裏技を使って、ぼくは19階に到達する。


 視界に映ったのは暗闇。

 鼻腔を突いたのは、むせ返るような血の臭いだった。


 軽く1歩踏み出す。

 カラリと乾いた金属音が鳴った。

 明光(ライティング)を使って確認する。

 刀身に血がこびり付いた剣と、肉をしゃぶられた人の手があった。


「ひぃ!」


 思わず悲鳴を上げる。

 足を上げて、仰け反ってしまった。


 人骨を見たのは、祖父母のお葬式以来だが、落ちているのを見るのは初めてだった。異世界へ来て、それなりに度胸は付いたとは思うけど、人の死だけには慣れそうにない。


 1人で行くなんて大言壮語を吐いたのに、このざまだ。

 ハインツが見れば、笑ったかもしれない。


 でも――。

 1つぼくの中で意志が固まる。


 こんな悲劇を繰り返してはいけない。

 特にぼくの家族には。


 頭の中にパーヤ、クレリアさん、ガヴの顔が浮かぶ。

 この名も無き人骨が、ぼくの家族のものだと思うだけで、怒りがふつふつと湧いてきた。


「ううううう……」


 うなり声が聞こえた。

 明光(ライティング)の明かりの向こうから、歪な形をした足が現れる。

 次いで現れたのは、大きな棍棒。

 さらに獣のような牙だった。


 現れたのは、岩肌を纏ったような黒い巨獣。

 臭気をまき散らし、赤い目をちらつかせた。


 闇に無数の赤い光が浮かんでいる。

 気がつけば、囲まれていた。


 あちこちから巨獣のうなり声が聞こえる。

 歓喜しているようにも、眠りを妨げられて怒っているようにも感じた。


 これがトロルか。

 青い箱船騎士ブルー・アーク・ナイトを、リナリィさんを傷つけた張本人。


 昔のぼくなら、未知の生物を前に居すくんでいたかもしれない。

 だが、今頭に充満する感情は、恐怖ではなく、怒りだった。


「ゆう〇い――」


 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。


 レベルマ状態にする。

 本来であれば、このまま火の弾(ファイヤボール)を唱えて、殲滅するのが妥当だろう。

 レベル50の冒険者集団を退けたトロルとはいえ、一瞬で蒸発するはずだ。


 しかし、それでは少し芸がない(ヽヽヽヽ)

 わざわざリナリィさんたちを置いてきた意味がないのだ。


「悪いけど、君たちは実験台だよ」


 言葉が通じたのかわからない。

 それともぼくの声が命乞いにでも思ったのだろうか。

 トロルたちは一際に大きな雄叫びを上げた。


 ぼくはゲーム機を取り出す。

 2コンと握り、ボリューム(ヽヽヽヽヽ)を上げた。


 トロルたちのボルテージも上がっていく。

 呪文の詠唱も、構えも見せない人間を見て、観念したのだと思ったのだろう。


「ぐあお!」


 大きな声を合図に一斉に襲いかかってきた。

 短い足でダンジョンの床を掻きながら走ってくるトロルを見て、ぼくは口角を上げる。


 やおら、大きく息を吸い込んだ。


「あ――」



 ★



「あああああああああああああああああああ!!」


 絶叫がダンジョンから聞こえてきた。

 空気に震える。

 外でトモアキの帰りを待っていた青い箱船騎士ブルー・アーク・ナイトの冒険者たちは、一斉に振り返った。


「トモアキ殿の声だ!」


 ずっとダンジョンの入り口の方を向き、胸に手を置いていたリナリィが反応する。

 瞬間、ブロンドの髪を振り乱し、彼女は駆けだしていた。


 あっという間にダンジョンの闇に飲まれる。


「副長!」


 ハインツが制止を促した時に、上司の姿は消えていた。

 その背中に向けて怒鳴ったのは、団長だ。


「ハインツ!」

「はっ!」

「行け!」


 短い命令だった。

 ハインツはそこに込められた意味をすべて理解し、短く敬礼する。

 そしてリナリィを追いかけた。


ちょっといいところで終わりますが、ご勘弁を……。

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