第47話 神豆販売でまたまた感謝される。
新キャラ来るか? 回。
神豆の販売が開始されて、1ヶ月後――。
ぼくとガヴ、クレリアさん、パーヤは豆を販売所に持っていくため通りを歩いていた。手には今朝摘んだ神豆が入った壺を抱えている。
「トモアキ、今日売上がわかるんだろ?」
「まあね」
「楽しみですね」
「結構、売れてたからな」
「パーヤの料理のおかげかな」
パーヤには、神豆を使った料理を考案させていた。
神豆は単体で食べると味気ないことこの上ない。
さらに1粒食べるだけでお腹一杯になってしまうから、他のおかずが食べられないから、どうしても淡泊な食事になってしまう。
みんなが飽きてしまうのは目に見えていた。
だから、神豆を使った料理をパーヤに考えるようにお願いしたのだ。
ちなみに着想は、あの恐怖の豆弁当であったことは内緒である。
「トモアキ、あたしは?」
「もちろん、クレリアさんにも感謝してるよ」
「でへへへ……」
嬉しそうに笑った。
大通りに出ると、人だかりが出来ていた。
市民が沿道に集まって歓声を上げたり、拍手を送ったりしている。
凄い盛り上がりだった。
「お祭りかな」
「いえ。そのようなことは聞いてませんが」
しばし騒ぎを見守る。
すると、大通りの奥から甲冑を纏った一団が現れた。
2、30人といったところだろうか。
「来たぞ!」
「青い箱船騎士だ」
「すっげぇ!」
「頑張ってくれぇ!」
声援が送られる。
青い箱船騎士?
初めて聞く名前なんだけど、有名なのかな。
「知ってる?」
後ろに控えたぼくの女の子たちに尋ねる。
すると、クレリアさんは冒険者の装備に記されたマークを指さす。
船首に女神像が掲げられた青い船が描かれていた。
「青い箱船騎士は、レベル50以上の冒険者だけで構成された集団だよ」
「冒険者なの? でも、騎士って」
「勝手に名乗ってるだけ。でも、実力は折り紙付きだよ。あたしも何度か共闘したことがあるけど、下手な王国騎士団よりも実力は上。戦闘という点において、プロよりもプロ意識が高いね」
「へぇ……」
「まあ、なんかお高く止まっていて、あたしは好きになれないけど」
「どうして、アリアハルなんかに来たんだろ?」
街の周辺には、スライムなどの雑魚モンスターしかいない。
レベル50以上の冒険者には用がない場所のはずだ。
「たぶん、東の方で発見されたダンジョンを攻略するのではないでしょうか?」
パーヤは説明する。
そういえば、そんな情報を聞いたことがある。
街から出たくないぼくには関係のないことだけどね。
視線を切ろうとすると、不意に青い箱船騎士の1人と目が合った。
甲冑姿とはいえ、綺麗な人だった。
まるでヴァルハラを疾駆する戦乙女を彷彿とさせる。
ブロンドの髪を揺らし、毅然と歩いていた。
茶色の瞳を細める。
一瞬ぼくに挑むような目つきを放った。
その目はすぐに前を向く。
なんだったんだろうか。
首を傾げていると、不意にトントンと肩を叩いた。
「ご主人様……」
「今、どこを見てたの、トモアキ」
「がう゛~」
こめかみを辺りをひくつかせ、女の子3人がぼくを睨んでいた。
慌てて首を振る。
「べ、別に何も見てないよ。甲冑が高そうだなって思っただけさ」
「わ、私はご主人様を信じてますが」
「本当に?」
「がう゛がう゛」
ますます顔を近づけ、真偽を計ろうとする。
「そ、それよりも早く豆を届けないと。ロダイルさんに怒られるよ」
ぼくは回れ右をする。
販売所の方を向いて歩き出した。
終始、背中に突き刺さった視線が痛かった。
販売所を訪れた。
ロダイルさんが雇った店員さんが挨拶してくれる。
もうすっかり顔なじみになっていた。
ロダイルさんは奥の事務部屋で仕事をしていた。
「おお……。魔法使いか」
「今日の分の納品に来ました」
「ご苦労だな」
「あと、それと――」
「ああ。まあ座れ」
ロダイルさんに促され、デスク前の席に座った。
店の奥に儲けられた事務部屋はとても狭い。
ロダイルさんとぼくが座るだけで精一杯だ。
「正直、売上は芳しくない」
ロダイルさんはいきなり切り出した。
「といっても、初月は上々だ。だが、今の売上の落ち込みからみると、来月はかなり悪いかもしれない」
「やっぱり飽きが来るのが早かったのでしょうか?」
「それもあるし、野菜の供給量も戻ってきたのも原因だ。価格を見直す必要があるだろう。だが、やはり問題は商品だ。何か付加価値をつけられないか、考えているのだが」
「パーヤが考案した料理は?」
「悪くはないが、決め手に欠けるといったところだ」
商売は難しいなあ。
ぼくは唸る。
異世界に来たんだから、もっとチートな感じで馬鹿売れしてもいいはずなのに。
「わかりました。何か考えておきます」
ぼくは販売所を後にした。
転機が訪れたのは、2日後のことだ。
朝のうちに畑仕事を済ませ、クレリアさん、ガヴと一緒に屋敷に戻っていると、大通りから人の叫び声が聞こえた。
「誰か高度神託を使えるものはいないか!」
現場に向かうと、多くの冒険者が蹲っていた。
皆一様に怪我をしている。
さながら大通りは野戦病院のような騒ぎになっていた。
よく見ると、装備に青い箱船のマークがついていた。
2日前に見送った青い箱船騎士の一団だ。
ぼくの脳裏に行進する女騎士の姿がよぎった。
「クレリアさん。畑に戻って、神豆を1籠持ってきて」
「助けるの、トモアキ」
「見て見ぬ振りは出来ないよ。ガヴは屋敷に戻ってパーヤを呼んできて」
「がう゛!」
ガヴは力強く頷くと、屋敷へと走る。
クレリアさんも飛翔魔法を使って、大急ぎでハウスへ引き返していった。
ぼくは現場へと急行する。
野次馬を割って入ると、大通りに出た。
血の臭いが鼻をかすめる。
想像以上に、混乱していた。
「誰か! 誰かいないのか! 副長が! 我らが副長が死んでしまう!」
その中で一際声を張り上げているものがいる。
赤髪の真面目そうな男。
頭から血を流しながら、猛り狂っている。
助けを求めているというよりは、まるで周囲を咎めているような気がした。
その傍らに倒れた者を見つめる。
ぼくは大きく瞼を開き、驚いた。
あの娘だ。
一昨日、青い箱船騎士が行進する中で見かけた女性だった。
美しかった姿は見る影もない。
ブロンドの髪にはべったりと血が貼り付き、何より胸の甲冑には、ぽっかりと穴が開いていた。
完全に致命傷だ。
が、彼女は生きていた。
ダンジョンがどこにあるかは知らないが、そこからアリアハルまで地獄のような苦しみに耐えながら、生き延びたということになる。
側を見ると、神官らしき男が2人倒れていた。
魔力切れの症状が出ている。
回復の神託をかけ続けたのだろう。
よっぽど青い箱船騎士の団員にとって、この人は大事な人なのだ。
ぼくは駆け寄った。
すると、赤髪の男がぼくの行く手を阻む。
「貴様、何者だ? 神官か?」
助けを求めている割には、やたら高圧的な態度だった。
けれど、今は懇切丁寧に説明も、返答もしている時間はない。
ぼくは早口で呪文をまくし立てた。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
レベルマ状態になる。
しかし、その行動はさらに男の不興を買った。
「なんだ、そのふざけた呪文は! 神官でもないのに近づくなど……」
「どいてくれる」
自分でも驚くほど冷徹な声だった。
柄に手をかけた男を、ぼくは張り飛ばす。
壁に激突すると、あっさりと意識を失った。
騒がしかった大通りが一気に冷める。
静寂が支配する中で、ぼくは女性に駆け寄った。
ポケットから常備している神豆を取り出す。
「これを食べて」
荒い息をする女性の口に入れた。
だが、すぐに吐き出す。
唇から神豆がぽろりと落ちた。
ぼくはもう1度、神豆を拾い上げる。
今度は、自分の口にいれると、よくかみ砕いた。
飲み込めるぐらい小さくする。
改めて女性の口元を見つめた。
後で振り返ってみれば、一体どうしてこんなことが出来たのか。
ぼくにもよくわからなかった。
ただこの女性を助けたかった。
その一心だったのだ。
かみ砕いた神豆を含ませたぼくの唇を、彼女の唇に重ねる。
「おおお……」
歓声とも、悲鳴とも取れる声が上がった。
ぼくは必死に彼女の口の奥へと神豆を押し込む。
やがて反射的に喉が蠕動すると、ようやく女性は飲み込んだ。
「ぷはっ」
ぼくは顔を上げる。
一方、苦しそうにうめいてた彼女が、すうすうと小さな寝息を立て始めた。
傷口を確認する。
胸の大穴がふさがり、すっかり元通りに戻っていた。
ぼくは胸を撫で下ろす。
良かった。
神豆が上手く機能したみたいだ。
本来の設定から知っていたけど、傷を治すのに使ったのは初めてだったから、少しドキドキしていた。
「ん……。ううん……」
女性は目を覚ました。
何事もなかったかのように上体を起こす。
誰かが呟いた。
「神だ……」
その言葉をきっかけに爆発的な歓声が沸き起こった。
負傷し、蹲っていた冒険者でさえ、傷のことを忘れ飛び上がる。
ぼくと女騎士さんを取り囲んだ。
「すごい!」
「神の所行だ!」
「また魔法使い様が奇跡を与えてくださった!」
「おお。なんと慈悲深い!」
「まさか口づけで、重傷者を治してしまうとは」
おいおい。
なんかすごい勘違いをしていないか。
その時、ぼくの脳裏にロダイルさんの声が聞こえた。
“何か付加価値をつけられないか”
あ。そうか。
咄嗟にまだポケットに入っていた神豆を取り出す。
皆に見えるように掲げた。
「ぼくの力じゃなくて、この豆の力です。この豆はお腹一杯にもしますけど、どんな傷も癒やすことができます。ただ今、絶賛発売中なので皆さん買って下さいね」
宣伝する。
皆の目の色が変わった。
「マジか!?」
「私、珍しくて一粒買ったけど、そんな効力があるなんて」
「また買いにいこう!」
「どこで売ってんだよ、それ!」
「大通りに販売所があったぞ!」
すると、野次馬は群れをなして、販売所へと突っ込んでいった。
やれやれ。
お客さんって現金だよね。
まあ、これで豆が売れてくれるなら、問題ないけどね。
民衆の集まりを見ながら苦笑する。
隣で睨む女騎士の胸中に、その時全く気づかなかった。
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