表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
間章 ガヴと、がう゛がう゛雨と、子狐のお話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/109

第45話 続・ガヴと、がう゛がう゛雨と、子狐のお話

ガヴ三部作の2話目です。

 屋敷に帰る途中、クレリアさんと合流した。


「ガヴ、ごめんね」


 クレリアさんはとんがり帽子を取って、頭を下げる。

 グリードフォックスの子供を胸に抱いたまま、ガヴはまだ警戒していた。


「ガヴ……。クレリアさんが謝ってるよ。ガヴはどうする」


 ぼくが間に入る。

 すると、ガヴもまた頭を下げた。


「がう゛、あやまる。まじゅう、きけん」

「わかってくれるの。あたしのこと」

「がう゛」


 大きく頷いた。


「ガヴ~」


 反射的にクレリアさんは抱きついた。

 雨に打たれ、髪も顔もびしょ濡れだったが、その目は少し涙ぐんでいるような気がする。

 クレリアさんとガヴはこう見えて、結構仲良しだ。

 容姿が可愛いということもさることながら、素直で勇敢なところが気に入っているらしい。


 だから、ガヴに嫌われることが、不安だったのだろう。

 グリードフォックスを手放せといったのも、ガヴを傷つけないようにするため。クレリアさんなりの愛情だったのかもしれない。


「くでりあ、くるしい」

「あ。ごめんごめん」


 クレリアさんは離れる。


「ところで、どうするの、この子?」

「ともかく屋敷に連れていこうと思うんだ。かなり衰弱してるみたいだから」

「なるほどね。あたしはハウスに一旦戻るわ。戸締まりを忘れてきちゃった」


 そういえば作業の途中だった。


「うん。頼むよ」

「いいわよ。元はといえば、あたしが悪いんだし」


 クレリアさんを見送ると、ぼくは屋敷へと急いだ。




 屋敷に戻る。

 パーヤはぼくたちを出迎えると、魔獣の子供を見るなり食いついた。


「かわいい!」


 目を輝かせる。

 いきなり「殺処分」といったクレリアさんとは大違いの反応だ。

 別に彼女を責めるつもりはないけど、やっぱ可愛いよね。


 ただ魔獣の子供だと説明すると、パーヤもクレリアさんの意見に理解を示した。

 法律上でもそういう決まりになっているらしい。


「ともかく、何か食べ物をあげて体力を回復させないと」

「グリードフォックスって何を食べるんでしょうか?」


 魔獣なのだから人間――と頭に浮かんだが、すぐに振り払った。


 パーヤは神豆のスープを持ってくる。

 神豆をペースト状になるまですりつぶし、乳汁と混ぜたものだ。

 販売に向けて、少しでも販促になるようにと、最近パーヤは神豆を使った料理を研究している。スープはその1つだ。


 人肌程度に冷まし、グリードフォックスの前に置く。

 鼻をひくつかせ、反応を示した。

 スープが注がれた皿をのぞき込み、ペロリと小さな舌で舐める。


 うまい、という感じに、茶色い鼻を上げた。


 すると、何度か息継ぎを挟みながらスープを舐め始める。


「舐めてる舐めてる」

「良かったですわ」

「がう゛がう゛」


 ぼくとパーヤは手を叩いて喜んだ。

 ガヴも同じくだったが、口から涎を垂らしていた。

 物欲しそうにスープを見つめている。


 どうやらお腹が空いていたのは、グリードフォックスだけじゃないらしい。

 外が暗くてわからなかったが、すでに昼を回っていた。

 そういえば、お昼がまだだ。


「パーヤ、ぼくとガヴにもスープをもらえるかな」

「はい。喜んで」


 パタパタとパーヤは台所に戻っていった。




 グリードフォックスの子供は、結局スープを丸々飲み干した。

 神豆1個分が入ったスープが、小さなお腹に収まる。

 風船のように膨らみ、逆に苦しそうだった。


 今度からは分量を考えて、あげないとね。


 バスケットに厚手の布を何重にもして敷き、簡易のベッドを作る。

 そこにグリードフォックスの子供を寝かせると、あっという間に眠りについた。

 いきなり街中に来て、疲れていたのだろう。


「かわいいですわ」


 パーヤはうっとりしながらのぞき込む。

 確かに、とぼくも頷いた。

 ガヴもバスケットに手をかけ、見つめている。

 まだ心配そうだ。


 ぼくは頭を撫でる。


「大丈夫だよ、ガヴ。神豆を食べて、お腹一杯になっただけだよ」

「がう゛~」

「ところで、お名前はどうしましょうか?」

「そうだね。グリードフォックスの子供っていうと、長いし。名前が必要だね」


 うーん……。

 ぼくは考える。

 視界にまだ不安げに見つめるガヴが映り込んだ。


「ガヴは何がいい?」

「がう゛?」

「この子の名前だよ」

「なまえ?」

「……なまえ」


 しばしぼうと子供を見つめる。

 考えているのか、考えていないのか。

 どうにも捉えにくい顔をしていた。


「なまにく」


 とんでもない名前が出てくる。

 それはガヴが食べたいだけじゃないかな。


「ガヴ、それはダメ」


 なんか非常食みたいに思えるから。


「もっとかわいい名前がいいと思うけど」

「かわいい……? がう゛~。……みみ」

「え?」

「みみ……。がう゛のみみといっしょ」


 ちょんちょんとグリードフォックスの耳を触る。

 確かにガヴの耳も狐系だから似ているけど……。

 安直だけど……ま、いっか。


「ミミね。いい名前だと思うよ」

「私も賛成ですわ」


 ガヴは再びバスケットをのぞき込む。

 手を伸ばす。


「みみ、げんき、なる」


 ミミと名付けれた魔獣の子供を撫でる。

 その仕草はいつもぼくがガヴの頭を撫でる動作と似ていた。




 明朝、ミミは元気になっていた。

 神豆のおかげというのもあるのだろう。

 だけど、クレリアさん曰く魔獣はそもそも体力が高い生物らしい。


 元気になったミミは、何かとガヴの後に付いてきた。

 小さなガヴの後に、さらに小さなミミがついていく光景は、微笑ましく、ぼくとパーヤ、クレリアさんをほっこりさせていた。


 ちょっと困ったのは眠る時だ。

 部屋を分けていても、気がつくとぼくのベッドに侵入してくるガヴが、ミミが来てからというもの現れなくなった。

 気になって私室を覗いたら、ミミを抱いて眠るガヴの姿があった。

 狐の耳と尻尾をもつ少女と、狐に似た魔獣の子供。

 本当に親子みたいだ。


 おかげでぼくは、最近1人で寝ている。

 ちょっと寂しいし、モフニウムがみるみる減っていった。

 モフモフしたい(切実)。


 一時的とはいえ、新たな家族を迎えた中、最初の神豆の収穫が始まった。


 家族総出で神豆のさやを摘み取っていく。

 もちろん、ガヴも参加していた。


 そのガヴの横でミミが神豆を食べようとする。


「みみ、だめ()!」


 叱っていた。

 ちゃんとお母さんしてるなあ。

 ガヴは大きくなったら教育ママタイプになるのだろうか。

 そんな妄想をする。


 初収穫の豆をロダイルさんに届けにいくのにも、ガヴは同行した。

 その後ろにミミも続く。

 微笑ましい光景に、街のみんなもほっこりしていた。

 後で「しまった」と思ったのだけど、誰も魔獣であることを指摘しなかった。

 今度、外出する時はバスケットに入れないとね。

 魔獣だとわかると、本当に殺処分されかねない。


 ロダイルさんが新しく作った神豆の販売所にたどり着く。

 小さく手狭だけど、大通りに面していてなかなか立地がいい。

 一応、お値段を聞いているのだが、さほどびっくりするような額面ではなかった。

 前にもいったけど、アリアハルは地価が高くて、さらに競争も激しい。

 こんな物件を探すのも難しいのだ。


 理由を尋ねたら、ぼくはさらに驚いてしまった。

 安宿『キリン』の女将ルバイさんの紹介らしい。

 あの人、どれだけ顔が広いのだろう。

 実は、女スパイ――いや、それはないな。


 レオタード姿のルバイさんを頭の中で払いのけながら、ロダイルさんに初摘みの神豆を渡す。


「おう。ご苦労だったな、魔法使い」

「お願いします、ロダイルさん」

「任せておけ。早速、明日から販売するつもりだ」

「よろしくお願いします」

「それはこっちの台詞だ――ん? お前、それ」


 ロダイルさんはガヴの隣でちょこんと座るミミを凝視する。

 しまった。

 この人、元は魔獣使いだった!


「グリードフォックスの幼体(こども)じゃねぇか」

「あ。はい……」


 ぼくは申し訳なさそうに見つめる。

 ガヴも雰囲気が変わったことを察したのだろう。

 豆が入った駕籠を置き、ミミを抱きしめた。


 その所作を見て、ロダイルさんは察したらしい。


「魔獣を街に入れるのは――」

「わかってます。……元気になったら返すつもりです」

「そうか。わかってるならいい。咎めるつもりはねぇよ」


 ホッと安心した。

 ぼくは思い切って尋ねてみる。


「この辺りでグリードフォックスが住んでいる森ってありますか?」

「街の周辺にはないな。行商人の馬車にでも入り込んだんだろう。知り合いの商人に聞いてやろうか?」

「あ。お願いします」


 ぼくはペコリと頭を下げる。


「別にお礼を言われるようなことじゃねぇ。……あと、ガヴ」

「がう゛?」

「大事にするんだぞ。魔獣ってのはこう見えて繊細な生き物だからな」

「がう゛がう゛」


 わかってる、という風にガヴは頷いた。


「ロダイルさん」

「なんだ?」

「また別にお話を聞きたいことがあるんですけど」

「別に? ここじゃダメなのか?」


 ぼくはガヴを一瞥してから、言った。


「場所を改めたいのですが――」

「訳ありか。生憎と今日明日は無理だ。明後日ならなんとか空けるが」

「それでいいです」

「わかった。『キリン』の近くにある居酒屋でどうだ」

「助かります」


 こうしてぼくは、ロダイルさんと約束をした。


報告が遅れましたが、連載1ヶ月経ちました。

月間総合ランキング53位をいただきました。

ブクマ・評価をいただいた方ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作の飯ものを始めました! どうぞお召し上がり下さい↓
『ゼロスキルの料理番』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ