第40話 家族で温泉旅行に行く。
残念ながら、お風呂は次回。
操舵室にいくと、ぼくは唖然とした。
あの宇宙船では、目が回るぐらい計器スイッチがあるのに、あったのは4つの椅子と、ゲーム機のコントローラだけだった。
またこれでコントロールするのか……。
適当すぎるんじゃないかな。
この惨状を見たら、本当の持ち主は泣いちゃうだろうね。
「とりあえず、席について」
「じゃあ、あたしはトモアキの隣!」
クレリアさんはコパイロット席へと座る。
「ずるいですわ、クレリアさん」
「がう゛がう゛!」
「こういうのは早いもの勝ちよ」
「喧嘩しないの、2人とも。後で代わってもらえばいいじゃないか」
「ご主人様がいうなら」
「がう゛~」
「それよりもベルトを締めて」
「「ベルト?」」
さっきまで喧嘩していたクレリアさんとパーヤが、声を揃えた。
ガヴも頭に?マークを浮かべている。
そうか。
シートベルトとかいってもわからないよね。
「座席にベルトがついてるだろ。こうして――」
と実演してみせる。
クレリアさんとパーヤは要領がわかったらしい。
1人首を傾げるガヴの席にいって、ぼくはベルトを締めてあげる。
ガヴはむずがった。
拘束されるのが嫌なのだろう。
奴隷時代を思い出すのかな。
「ちょっと我慢してね。一旦飛び立ったら、外していいから」
「がう゛~」
渋々頷いた。
「ご、ご主人様~」
切ない悲鳴が横から聞こえた。
「うぇ!」
思わず変な声を上げてしまう。
パーヤは顔を真っ赤にしている。
うまく装着出来たようだが、問題はその姿だった。
肩から腰に向かって、2つのベルトが装着されるタイプなのだが、どうやらパーヤにはきつかったらしい。
正確に言えば、パーヤの巨乳にベルトが食い込んでいた。
押しつけられた風船のように胸が盛り上がっている。
ぼくの顔が上気していくのがわかった。
とてもエッチな光景だ。
「ご、ご主人様。……く、くるひぃでふぅ」
頬を朱に染め、口元から涎が垂れていた。
いやいやと身体を動かすと、さらにベルトが食い込んでいく。
今にもパンッと音を立てて破裂してしまいそうだ。
無意識的に喉を鳴らす。
改めてぼくのメイドの凄さを知った。
「ご、ご主人様?」
「あ。ごめん。……えっとベルトを緩めればいいんだよ。これでどうかな?」
「はい。ありがとうございます」
感謝される。
良いスマイルだ。
でも、ちょっと残念。
締め付けられたパーヤを、もうちょっと見ていたかった。
……ぼくってSなのだろうか。
「トモアキ~」
また甘えるような声が聞こえる。
今度はクレリアさんだ。
何事かと思い、コパイロット席を覗き込む。
ベルトにがんじがらめになり、ひっくり返っている魔法使いの姿があった。
「た、助けてよ」
ぼくは頭を抱える。
クレリアさんって、結構不器用なんだね。
ようやく準備が整う。
「出発するよ」
「はーい」
「うーん。楽しみ!」
「がう゛がう゛」
それぞれの声が返ってくる。
ぼくはスタートボタンを押した。
震動が起こる。
目の前の景色が上がっていくのが見えた。
まだ飛んでもいないのに歓声が上がる。
横のクレリアさんは口を開けて、固まっていた。
地上に出る。
機首が空へと向けられ、射出体勢が整う。
「イオンエンジン、スタート」
急に船内が騒がしくなる。
微震が起こり、後部の方から甲高い音が聞こえてきた。
「出発!」
轟音――。
さらにシートに叩きつけられるようなGが襲う。
ぐ……。結構キツい。
前に乗った戦闘機よりも、G対策が施されていないらしい。
劇中も結構揺れたりしてたしね。
あっという間に、ハイミルドの空へと到達する。
気が付けば、アリアハルが彼方にあった。
とりあえず、離陸成功だ。
「大丈夫。みんな……」
「はい。なんとか」
「すごい! 面白い!」
「がーう゛がーう゛」
パーヤは頭を抱えていたが、残る2人は楽しそうだった。
「そろそろベルトを外してもいいよ」
指示を出すと、早速パーヤとクレリアさんはベルトを外した。
ぼくはガヴの席へ行き、解除作業をする。
「こんなに高い高度……。飛んだことがないよ」
「すごい! 王宮があんなに小さく見えますわ」
雲間から見えた王宮をパーヤは指さす。
あれがアリアハルを治める王都らしい。
ともかくパーヤとクレリアさんはびっくりしていた。
ぼくはガヴを抱っこし、外を見えるようにする。
薄い水色の目を大きくし、「がう゛~」と驚いていた。
下を覗き込もうとする。
地面が遠くにあったことを確認すると、ぼくの胸に顔を埋めた。
耳をぺたりと倒し、小さく震えている。
「はは。ガヴは怖いのかい?」
「たかい。たかい」
「そうだね。でも、大丈夫だよ。落っこちたりしないから」
すると、再びガヴは地上を覗き込んだ。
だが、また引っ込める。
ちょっと慣れが必要のようだ。
宇宙に連れて行くのは、もうちょっと後かな。
あんな高いところの高度まで連れて行ったら、他の2人はともかくとしても、ガヴが目を回してしまいそうだ。
しばらくぼくたちは遊覧飛行を楽しむ。
快適な航行だ。
竜は殲滅したし、そうそう脅威はないだろう。
「ねぇ。どこか行きたいところがある?」
ぼくは質問してみた。
しばらく考えた後、クレリアさんが手を挙げる。
「あたし、温泉に行きたい?」
「温泉?」
「最近、農作業ばっかりだから、筋肉が悲鳴を上げててさ」
クレリアさんって見た目は美人系だけど、15歳ですよね。
「それはいいですけど、温泉なんてあるんですか?」
「はい。温泉街なんかもあって、ハイミルドには昔から」
ふーん。
ぼくと同じ世界の人が始めたのかな。
「でも、ご主人様。温泉の入浴料が高くて。その……」
パーヤは指と指を合わせながら、申し訳なさそうに上目遣いで訴えた。
そうか。今、うちは一食を神豆にしなければならないほど、財政難だった。
「いいじゃん、パーヤ。今日ぐらいはさ」
「よくありません。神豆の経営のためにも、今は引き締めることが寛容です」
2人は火花を散らす。
諍いを見守りながら、ぼくはポンと手を叩いた。
「なら、タダで入ろう」
「タダで?」
「もしかして温泉を見つけるのですか? ご主人様」
「そんなところかな。任せて!」
ぼくは機首を北に向けた。
十数分ほどで、ハイミルドの北にある雪原にたどり着く。
ちょうど天気の谷間らしい。
どんよりとした雲間から陽の光が帯のように見える。
それが白い雪原に反射し、キラキラと輝いて、とても幻想的な雰囲気を醸し出していた。
あそこの辺りがいいかな。
山陰になっていて、動物も魔物も入りにくそうな地形を見つける。
危険なさそうだ。
「こんなところにきて、どうするの? トモアキ」
「いいから見てて」
ぼくはコントローラーを動かす。
積もった雪に照準を向けた。
「レーザー砲、発射!」
チュゥン!
映画館で何度も聞いたような音が鳴る。
レーザーは雪原を貫いた。
衝撃で雪が花火のように開き、谷底へと落ちていく。
やがて現れたのは、茹だったお湯だった。
「すごい!」
「温泉が現れましたわ」
「がう゛がう゛!」
突然、現れた露天風呂に一同は驚きの声を上げた。
ブラスターキャノンでまた雪を吹き飛ばす。剥き出しになった大地に、宇宙船を下ろした。
少し歩いて、先ほどの場所へと行く。
ちょうどレーザー砲にくり貫かれた部分に、お湯が溜まっていた。
手を入れると、ちょっと熱い。
残った周りの雪を入れて、調節した。
「雪を溶かして、温泉を作ってしまうなんて」
「さすがはトモアキだな」
「正確には温泉じゃないけど、景色もいいし。いいでしょ」
「問題ありませんわ」
「やった! お風呂に入れる」
「がう゛~」
家族は諸手を挙げて喜んでくれた。
アイナァァァァァアア!! って叫んだらオッサン。
たくさんの感想ありがとうございます。
参考にさせていただきます!




