第39話 魔法使い、〇〇を増殖させる。
もう! うっかりさんなんだから~(すっとぼけ)
魔王四天王の一角サラマンダーを倒し、竜の軍を殲滅したぼくは、アリアハルへ向けて着陸態勢に入っていた。
すっかり空は黒く染まり、星が瞬いている。
宇宙空間で見た星も綺麗だけど、地上から見える星空も乙なものがある。
さっきも思ったけど、ぼくの家族に見せてあげたいなあ。
前に何かの文献で読んだ事があるんだけど、ハイミルドの人にとって空のさらに上は神の領域らしい。そこには大神が住む神殿があって、人々を監視しているのだそうだ。
驚くだろうなあ。
空の上が、黒くて寒くて、何もない空間なんて。
信じることも難しいかもしれない。
ぼくは戦闘機をリフトに着地させる。
コクピットから降りると、自動的に下降していった。
また今度乗ろう。
もう竜に出くわすなんてことはないだろうからね。
夜の街を歩き、家路につく。
メイド服姿のパーヤが出迎えてくれた。
「ご、ご主人様! おかえりなさいませ!」
「ただいま、パーヤ」
「事情はルーイさんから伺いました。なんでもお空を飛んだとか」
「え? ああ……。うん。まあね」
「すごいです! さすがはご主人様ですわ」
驚くかなあ、と思ったけど、パーヤはうっとりとぼくを見つめた。
心の中で好感度が上がる音が聞こえる。
ますます主人としての株を上げてしまったらしい。
「トモアキが帰ってきたって!」
「がう゛がう゛!!」
バタバタと2階からクレリアさんとガヴが降りてくる。
愛しき獣人娘は、ぼくを見るなり半泣きになった。
タタタタッと走ってくると、抱きつく。
「今日は甘えん坊だな、ガヴは」
「パパ、しんぱい」
「そうかそうか。心配かけてごめんね」
モフモフと耳を撫でる。
この触り心地と絶妙な暖かさが、ぼくにのしかかっていたすべての疲れを吹き飛ばしてくれた。
「ガヴばかりズルい!」
「そうですわ。私も!」
クレリアさんは自慢の太ももを擦り付け、密着する。
パーヤもぼくの腕を取ると、自分の胸に埋めた。
はあ……。
最高だ。
疲れが吹っ飛ぶどころか、元気が溢れ出しそうだ。
ぼくは家族の肩を寄せる。
多幸感にしばし酔いしれた。
ぼくは幸せだ。
改めて思う。
竜を倒すのは大変だったけど、生きて帰って来られてホントに良かった。
それだけじゃない。
異世界に来てから、色々大変だった。
でも、こうしてぼくがほしい幸せを手にすることが出来た。
だから、異世界に来て、ぼくは今とても“良かった”って思ってる。
幸せを補充すると、瞼を開けた。
キョロキョロと辺りを見回す。
「ルーイさんは?」
「先ほどまでいましたが、眠たいから帰ると。ご主人様によろしくと言付かっております」
眠たいって……。
ホント中身は子供なんだから。
まあ、仕方ないか。
ダンジョンでは大活躍だったしね。
「それよりもトモアキ。空を飛んできたんでしょ? 大丈夫だった?」
「何が?」
「魔王四天王の一角サラマンダーが大軍を連れて、勇者討伐に向かったって。そのまま大攻勢を仕掛けるんじゃないかってもっぱらの噂だよ」
「ああ……。もう噂になってるんだね」
ぼくは苦笑する。
「その顔、もしかして……」
「う、うん。倒してきちゃった」
「えっ? それは誰を……」
上目遣いにパーヤが尋ねる。
「サラマンダーとその竜全部を!」
「な……」
「なんだってぇええ!!」
「がう゛?」
パーヤは絶句。
クレリアさんは顔を劇画調に歪めながら叫んだ。
意味がわかっていないガヴだけが、尻尾をふりふりと動かしている。
「だから安心して。魔族の大攻勢はないよ」
勇者討伐が果たされなかったのは、残念だったけどね……。
ぼくの家族を守れたんだ。
それで十分だと思う。
女の子達は、さらに羨望の眼差しを向けた。
「凄いですわ、ご主人様」
「さすがあたしが認めた男だな!」
「ぱぱ、さいきょー。いーこいーこ」
ガヴはぼくの頭を撫でる。
意味がわかってるのかな。
「でも、空ですか。あたしも飛んでみたいものです」
パーヤはぼんやりと天井を仰いだ。
「ごめんね。あの戦闘機は1人用なんだ」
「いえ。とんでもないです。ただご主人様と一緒に飛べたら幸せだなって思っただけですわ」
「うん。あたしも飛びたいなあ」
「クレリアさんは魔法で飛べるでしょ」
「トモアキと飛びたいの!」
「がう゛も、がう゛も!」
うーん。
やっぱりそうなるよね。
なんとか出来ないかな。
ぼくは首をひねった。
★
次の日。
ぼくはダンジョンで拝借してきたゲーム機とにらめっこしていた。
赤と白のレトロな感じがたまらない。
いやいや……。
郷愁に浸っていたわけじゃない。
なんとか家族を空の上に連れていく方法を考えていたんだ。
外ではガヴとクレリアさんの声が聞こえる。
どうやら庭の畑の雑草を抜いているらしい。
キャッキャッと楽しそうだった。
つと私室のドアをノックする音が聞こえる。
「はーい。開いてるよー」
「失礼します」
入ってきたのはパーヤだ。
真っ白なフリル付きエプロンを揺らして、中に入ってくる。
かろやかにターンした。
フリルと一緒にスカートが舞う。
ぽややん……。
相変わらず切れがいいターンだな。
いつもの日課を終えると、パーヤは中に入ってきた。
「お呼びですか? ご主人様。あら?」
パーヤはぼくの肩越しにのぞき込む。
「ダンジョンから持ち帰った遺物ですね」
「そうだよ。ぼくの世界のものなんだ」
「それで私になんのご用でしょうか?」
「パーヤに手伝ってもらいたくてね」
「生憎、遺物には詳しくないのですが……」
「大丈夫。座って座って」
ぼくの横に座らせる。
コントローラーを抜くと、パーヤに2コン側を渡した。
「思ったより軽いんですね。あたしは何をすれば」
「えっとね。これからあるコマンドを打とうと思うんだ」
「コマンド?」
「ぼくが使ってる呪文みたいなものかな」
「はあ……」
「とりあえず、パーヤはこことこのボタンをずっと押し続けてくれる」
パーヤの手を取る。
ひんやりとして、でも柔らかい手だ。
メイドの顔が赤くなる。
「あ……」
「ご、ごめん。突然、触って」
「いいえ! いいんです! でも、その指は敏感で……」
ゆ、指が敏感ってどういうこと?
ぼくは動揺する。
パーヤは顔を真っ赤にしながら、俯いていた。
気を取り直した。
「えっとね……。こことここのボタンを――」
「こ、これでよろしいんですか」
「うん。そのままね」
ぼくも十字キーの左上とA、Bボタンを押したままにする。
そして右人差し指で、スタートボタンを押し込んだ。
ティロン!
懐かしい和音が頭の中で響き渡る。
すると、どこからともなく機械音声が聞こえた。
ツカエル キタイ ガ ツイカ サレマシタ
機体が追加されたってどういうことかな。
ともかく、ぼくの考えは当たっていたらしい。
このゲーム機はゲームをするものじゃない。
どちらかといえば、魔法道具に近いものかもしれまない。
「ご主人様、先ほどの声は一体?」
「うん。ともかく、ダンジョンに行ってみよう。何かわかるかもしれない」
★
ぼくはクレリアさんとガヴも誘ってダンジョンにやってきた。
また同じダンジョンに潜るのは大変だけど、要領がわかっている分、最初の半分の時間で20階に到達した。
後で直通ルートを確保しないとね。
毎回、ダンジョンを降りるのは、かなり骨が折れる。
台座がある部屋にやってくると、戦闘機がある通路とは別の通路が開いていた。
4人で恐る恐る入ってみる。
クレリアさんが、ルーイさんがしてくれたように魔法で照らしてくれた。
「「「おお……!」」」
3人の女の子が同時に叫び声を上げる。
巨大な構造物に目も心も奪われていた。
ぼくもまた呆然とする。
他の女の子とは別の意味でだ。
アカン……!
これは説明したら、一杯お金が持って行かれるヤツや!
思わず関西弁になってしまうほど、ぼくは動揺していた。
可能な限り説明すると、全体的に丸い形をした宇宙船があったということ。
今にも機体の中から、毛むくじゃらの宇宙人と黒いベストを来た船長が出てきそうってことだけ。
ていうか、馬鹿なの!
この魔法だか、機械だか作ったヤツ!
あのコマンドはスター〇ォース!
こっちはス〇ー・〇ォーズでしょ!!
わああああ……。
やばいやばいよ。
シャカイテキニ バン サレルヨ。
ぼくは頭を抱え、ガクガクブルブルと震える。
怖すぎて、しゃべりがロボットみたいになるよ。
「どうしたの、トモアキ? こっち来てみなって」
「ご主人様、すごく中が広いですよ。これも空を飛ぶのでしょうか?」
「がう゛がう゛!」
何にも知らない女の子達は、宇宙船に乗り込んでいく。
ガヴに至っては、近くにあった弁当箱程度の端末に噛みつく始末だ。
ぼくはゆらりと立ち上がった。
「うん。今行くよ」
ぼくは気を取り直し、宇宙船の中へと入っていった。
昨日はたくさんのネタを感想欄に書き込んでいただきありがとうございます。
(特にお礼をするといった覚えもないのに、皆さんありがとう)
返信でも書きましたが、ある方の感想欄のアイディアを丸々使わせていただき、さらにアレンジさせていただきました。
他にいただいたネタも、どこかで使っていこうと思います(全部使い切る自信はありませんが、頑張ります)
随時、受け付けていますので、今後ともよろしくお願いします。
(正否はともかく、記憶にある程度でいいですよ)




