第3話 スライムって強いじゃん!
早速ブクマいただきありがとうございます!
第3話です。
よろしくお願いします。
結局、成果のないまま、ぼくはリタさんの元に引き返した。
「わかりました。また明日考えましょう」
お決まりの営業スマイルを浮かべる。
対策を考えておくとも言われたが、問題を先送りにされたような気がした。
だけど「また明日」なんて言われれば、ぼくもそう応じるしかない。
それにショックすぎて反論する気にもならなかった。
これは後から知ったことなのだが……。
魔法使いというのは、なりたくないジョブの一番後ろから数えて5番目ぐらいにあるらしい。
1つはなんの後ろ盾もなく、一から始めるには難しいジョブであること。
2つめは死亡率が高いということ。つまり、ぼくみたいに人生が詰んだ人間が多いということだろう。なのに、学派争いなんてしてる連中がいるから滑稽だ。
家族や友人に学派の権威だったり、元々裕福な家庭の生まれでもなければ、魔法使いとして生きていくなんて不可能かもしれない。
けど、悠長なことを言ってられない。
ぼくにはなんのコネもない。
あるのは、死亡率を増やす要因だけだ。
折角、うるさい上司からも、憎たらしい同僚からも離れることに成功したのだ。
なんとしてでも、異世界生活を順風満帆なものにしなければならない。
あの店主(そういえば名前を聞くの忘れた)も言っていたじゃないか。
1つ魔法を覚えれば、食いっぱぐれることはないと。
今この苦境を乗り越えれば、明日はある。
頑張ろう。
◆
次の日、リタさんのところに行く。
何故か、木製のバットみたいな棒と、薬瓶を2本渡された。
「あの? これは?」
「昨日、私も寝ずに考えたのですが」
その割にはリタさんの肌艶は良かった。
悩みすぎて憔悴している気配もない。
ぼくの顔を参考にしてほしいものだ。
昨日、不安で一睡も出来なかった
「やはり、マエダさんには魔物を倒してもらうしかないと思ってます」
マエダって誰?
ボクの名前は相田なんだけど……。
“だ”しか合ってないんだけど。
なにげにこの娘、ぼくより無能なんじゃないだろうか。
「ぼく、魔法を使えないんですよ」
「はい。だから、これを」
改めて棒を渡そうとする。
一応聞いてみた。
「これは?」
「はい。棒です」
単なる棒かよ。
せめて“ひのきの”とか付けてよ!
「これでスライムとかやっつけちゃってください。大丈夫ですよ。あいつら弱いですから」
スライムといえば、最弱モンスターの筆頭候補だ。
ゲームとかお話とかによって、強さはまちまちなのだが、ギルド職員の彼女がいうのだから、弱いのだろう。
「わかりました。頑張ってみます」
「こちらの回復薬はサービスしておきますね」
え? ていうことは、この棒って有償なの?
と質す前に、受付嬢は手の平を指しだしていた。
結局ぼくは10ゴルを支払った。
「兄ちゃん、無理するなよ」
初日に出会った門兵に見送られ、ぼくは町の外に出る。
しばらく草原を歩いていると、ぶよぶよしたスライムが出現した。
形状こそ気持ち悪いが、さほど大きくなく、あまり脅威は感じられない。
武器はあるのだ。
蛇を棒で叩くつもりで、近づいてみよう。
「えい!」
思いっきり棒を叩きつけた。
ところが、さっきまで鈍行列車のように平原をはい回っていたスライムが、突然新幹線みたいな速さで動き始める。
「あわわわわ……」
速い。
目が追いつかない。
気が付けば、左腕にスライムが巻き付いていた。
ジュッと肉が焼ける音が耳朶を打つ。
「いてえええええ!!」
喉から胃が飛び出るぐらいの大きな声を上げた。
無我夢中でスライムを振り払う。
ぼくは背中を見せて一目散に逃げた。
幸いスライムに回り込まれることはなく、城門近くまで戻ってくる。
すごい痛い……。
ぼくは左腕を見た。
真っ赤だ。
火にあぶられたかのような腫れていた。焦げ目すらついている。
ひどく現実感のない光景に、ぼくはただただ呆然とするしかなかった。
回復薬をもらったことを思い出す。
傷口に振りかけてみたが、全く治る気配がない。
え? なんで? ますます狼狽した。
「おい。大丈夫か、兄ちゃん」
顔を上げる。
門兵が心配そうに見つめていた。
「薬が効かないんです」
「ああ。ダメだよ。薬はかけるんじゃなくて、飲むんだ。ギルドで説明されなかったか?」
あんの馬鹿獣女め!
説明しとけよ!!
ぼくは慌ててもう1本の薬を口に含んだ。
不思議なことに、一気に痛みと共に傷口が治っていった。
ふう、と息を吐く。
ありがとうございます、と頭を下げた。
「あんま無理すんなよ。弱いんだったら、強い冒険者のグループに入って手伝ってもらえばいい」
パーティープレイか。
そうか。そういう手もあるか。
「兄ちゃん、職業は? 魔物と戦おうとしていたんだから、冒険者タイプなんだろ?」
冒険者タイプというのは、魔物を倒すことを生業とする職業全般をいうらしい。
「魔法使いです」
門兵は顔をしかめた。
「なるほど。じゃあ、難しいかもな」
「どうしてですか?」
「そりゃあ。ソロで初心者の魔法使いに恩を売ったところで、他の冒険者にメリットがないからさ」
なるほど。
受付獣人女がパーティープレイを薦めなかったのはそのためか。
下手にギルドが介入して、他の冒険者の不興を買いたくなかったのだろう。
段々とあの女の腹黒さが見えてきた。
「ともかく、今日は帰った方がいい」
「そうですね。わかりました」
ぼくは安宿に戻ることにした。
気が付けば、お金は20ゴルを切っていた。
この宿に泊まることが出来るのは、あと2回。
なるべく食事代なんかを削って切りつめていたけど、それでもお金はどんどん減っていく。
正直、野宿は嫌だ。
馬小屋とかでも寝るのも。
安宿で隙間風が寒くとも、やはり屋根がある場所でなければ、怖くて眠れない。
治安は良い町のようだが、強盗や置き引きなんかがいないという保証はなかった。
ぼくはベッドに寝っ転がりながら思案していた。
もうギルドは当てにならない。
向こうもそろそろぼくの存在を邪魔に思っている頃だろう。
次の対策をと相談しても、良い返事がかえってくるとは思えなかった。
ぼくに残された選択肢は3つ。
1つは明日、やぶれかぶれでスライムと再戦すること。
だが、ぼくは早々にこの選択を放棄した。
そもそも勝てる気がしない。
いくら魔法使いになったからといって、身体のスペックはサラリーマンのままなのだ。
ちなみに今のぼくのステータスはこんな感じ。
相田トモアキ
じょぶ まほうつかい
れべる 1
ちから 1
たいりょく 2
すばやさ 2
ちりょく 3
まりょく 4
きようさ 2
うん 1
ジョブがなかった頃と比べれば、進歩したといえるが、ちからが1の時点でなんら変わらない。やはり魔法使いは魔法を使ってなんぼの職業なのだろう。
選択肢2つ目。
他の職業に働きに出る。
適性がないというだけで、別の職業として働くことは出来ないわけではない。
ギルドの仕事なんかは、リタなんかよりよっぼどぼくの方が上手くやれるかもしれない。
苦労はするだろうけど、現実的な手段だ。
選択肢3つ目。
座して死を待つ。
ま。論外だね。
というわけで、2つ目を選択したぼくは、明日街中回って、仕事を探すことにした。
★
結果、すべて門前払いでした。
ギルドにも働かせてくれといったが、基本的にギルド職員のジョブでなければ、採用はしていないらしい。
そういうところはギルドだけじゃなく、ほとんどがそうだ。
魔法使いだけど、ここで働かせてというと、たいてい「大神の導きに背いてはいけない」という答えが返ってくる。お祈りではなく、お導きによるお断りだ。
やばい。マジで詰んできたぞ。
ぼくは一縷の望みをかけて、以前訪れた魔導書の専門店へと足を運んだ。
子供店主は相変わらずソファで昼寝の最中らしい。
ちなみにもう日が暮れ始めていた。
「いらっしゃい。……ああ、お前か。元気にしてたか?」
「今はなんとか」
「悪いが、何度来たところで魔法は教えられんぞ」
「わかってます。今日は、ここで働かせてもらえないかと」
「お前がここで……?」
店主は三角帽子のつばを抑えながら、クツクツと笑った。
「なるほど。考えたな。でも、ダメじゃ。魔導書の専門店といっても、実入りはよくない。自分で食ってくのだけで精一杯だ」
「お願いします」
ぼくは土下座した。
子供みたいな20歳の前でだ。
もうプライドもクソもない。
こうなったらとことんやってやる。
こっちは命がかかってるんだ。
だが、無情にも店主は小さな首を縦に振ろうとはしなかった。
「可哀想じゃが、どんなにお願いされてもダメなものはダメなのじゃ。そ、それにお主がここで働くということは、わたしと一緒にここで暮らすということだろ。その男女の過ち的なことがあっては……」
「それはありません。ぼくの守備範囲は20歳以上ですから」
「入ってるじゃろうが! わたしはバリバリ20歳だ!」
子供店長は地団駄を踏む。
「なんでもしますから。ここに置いてくれるだけでも」
「あんまりしつこいと衛兵を呼んでつまみ出してもらうぞ」
「そうするならそうして下さい。ぼくはここを動きません」
膝に手を置き、正座したままじっと相手を睨み付けた。
やがて、店主は「はあ」と大きく息を吐く。
「わかった」
「じゃあ、ここで働く――」
「それはダメじゃ。……その代わり、1つヒントをやる」
「ヒント?」
「魔法使いというのは、魔法で魔物を倒すっていう仕事以外に、もう1つ大事な仕事があるのだ」
「確か魔草を拾ってきて、薬を作るって」
「それも1つじゃな。でも、もう1つ。第3の仕事があるのだ」
「第3の仕事? なんですか、それは」
「魔法を作る仕事だ」
「魔法を……。作る……?」
「そうだ。それはどんな職業の人間でも出来ない。魔法使いしか出来ない仕事なんじゃぞ」
結局、ぼくは魔導書の専門店を追い出された。
魔法を作る。
その方法もわからない漠然とした希望を胸に……。
いやいや、無理だろ。
明日になれば、宿を追い出されるんだぞ。
今から魔法開発ってやっぱ無理だろ。
もう1度、店主にお願いしに行こう。
ぼくが振り返ったまさにその時、不意に声をかけられた。
「よお。相田じゃねぇか」
立っていたのは同僚――いや、選ばれし勇者殿だった。
次回とうとう呪文詠唱です!!
日付が変わる前には更新します。