第37話 そしてあの最強コマンドは刻まれる。
お待たせしてすいません。
お題達成回です!
実物を見るのは久しぶりだけど、間違いない。
端子が並んだ口に、赤鼻のようについた取り出しレバー。
リセットボタンと、起動スイッチ。
赤と白というツートンカラーが、昭和臭を感じさせた。
初代ファ〇コンだ。
何故、異世界の――しかもダンジョンの最奥にあるのか。
この際、考えるのもめんどうだ。
きっとどこかこの先で伏線回収があるに違いない。
――と信じたい。
「どうした、トモアキ?」
ショックを受けるぼくの顔を、ルーイさんがのぞき込んだ。
「何かわかったか?」
「え? ええ……。まあ……。これはぼくの世界にあるゲーム機です」
「ほう。ゲームか……。お主の呪文のイメージになっている元がこれか?」
ルーイさんがマジマジと見つめる。
台座に収まったゲーム機を拾い上げた。
横から見たり、裏から見たり、忙しそうに観察する。
「あわわわ。ルーイさん、精密器機なんですからあまり手荒なことは」
「精密?」
「振動に弱いんですよ。まあ、結構頑丈に出来てる方ですけど。でも、大事に扱って下さい」
ぼくは思わず彼女から奪い取る。
台座の上に戻した。
「がう゛……」
ガヴは涎を垂らしながら見つめていた。
弁当箱にでも見えるのだろうか。
弁当……。
あ。
そういえば思い出した。
行く直前に、パーヤに作ってもらったんだ。
ぼくは慌てて道具袋に手を突っ込む。
ゲーム機のことが気になるけど、まずは噛みつきそうなガヴの腹をなんとかしなくては。
木の弁当箱を取り出す。
「ほーら、ガヴ。弁当箱だぞ」
「がう゛!」
太陽が宿ったかのように獣人娘の瞳が輝いた。
ぼくは早速フタを開ける。
入っていたのは、神豆が丸ごとごろりと入った豆ご飯だった。
…………。
ぼくは固まる。顔から血の気が引いていくのを感じた。
「なんともダイナミックな弁当だの」
ルーイさんは神豆を摘まみ上げると、ぱくりと口に入れた。
初めて食べたのだろう。お腹がパンパンになる現象に驚いていた。
「ガヴ~」
ぼくは弁当箱をガヴに向ける。
すでに幼女の瞳からハイライトが消えていた
このところ、節約のため三食に一食は、神豆なのだ。
ガヴはとうに飽きていて、パーヤが食べさせるのに四苦八苦していた。
渋々といった感じでガヴは神豆とご飯を口に入れる。
お腹は一杯になったが、機嫌が直ることはない。
「ごめんね、ガヴ。今度、キリンの前の食堂に連れていくからさ」
耳をピンと立てる。
くるりと向き直った時、「がう゛~」と幸せそうな顔していた。
良かった。どうやら機嫌を直してくれたようだ。
ガヴは安宿『キリン』の前の食堂がいたく気に入っていた。
思えば、最初にガヴと一緒に外食したのも、あの店だったから、何か思い入れがあるのかもしれない。
ともかくだ。
本題に戻ろう。
ぼくは今一度、台座に向き直った。
ゲーム機本体ではなく、文字の方に視線を落とす。
こう書かれていた。
“そなたのさいきょうをしめせ”
うーん。
よくわからん。
ゲームでもやって、ハイスコアを目指せというのだろうか。
だけど、ゲーム機にはカセットが付いていない。テレビもだ。
最強を示せと言われても、表現するものがなければ、示すことはできない。
「ルーイさん、この文字の意味ってわかりますか?」
「お主にわからないことが、我がわかるわけがなかろう」
ですよね~。
ぼくはとりあえずコントローラーをゲーム機から抜いた。
懐かしいなあ。
子供の時はなんとも思わなかったけど、こんなに小さかったんだ。
ボタンが四角なところが、レトロマニアの魂に響く。
そしてぼくは考えた。
――さいきょうを……。しめせ……か……。
1コンをマジマジと見つめて、1つ思いつく。
まさかな、とは思いつつも、試してみた。
↑↑↓↓←→←→BA
しかし、なにもおこらなかった。
やっぱりね。
まさかこんな安直なコマンドが、パスなわけ……。
突然、微震が起こる。
同時に何か機械音が聞こえてきた。モーターが激しく回るような音だ。
すると、台座の向こうの壁がゆっくりと開き始めた。
真っ黒な穴がぽっかりとダンジョン最下層に現れる。
「すごいではないか、トモアキ!」
ルーイさんはバンバンとぼくの背中を叩いた。
どうやらまさかが的中してしまったらしい。
「行くぞ、トモアキ」
「ちょっと待って下さい」
ぼくは一応ゲーム機を回収していく。
何かの役に立つかもしれない。本体があったのだ。もしかしたら、ハイミルドのどこかにカセットがあるかもしれない。
道具袋に入れると、いよいよ中へと入っていった。
最初に気づいたのは、機械油の臭い。
つんとぼくの鼻を刺激する。
ルーイさんにあちこち照らしてもらうと、天井に大きなクレーンが下がっているのを確認した。
何か機械を整備するような道具まで揃っている。
「整備工場かな?」
「何かあるぞ。トモアキ」
ルーイさんが光を当てる。
ぼくは思わず「ふあ」と変な声を上げてしまった。
飛び出た2つの先端。
間に収まった単座のコクピット。
デルタ翼に似た形状の翼の先は、ややV字に折れ曲がっていた。
Y字の尾翼の下部には、2つの大きなエンジンが口を開けている。
薄い青のカラーリングは、カセットにデザインされた宇宙戦闘機そのまんまだ。
今日はなんて日だ!
「お主、わかるのか? これが……」
ルーイさんの声を無視して、ぼくは戦闘機の周囲を回る。
「全長49.5フィート。全高20.0フィート。全幅51.0フィート。重量38トン。インパルス・パワー推進型エンジン搭載。公式の後付け設定だと、1機だけになってるけど、これは2機ついてるな。うん。でも、間違いない」
感激のあまり思わずぶつぶつ呟いてしまった。
「トモアキ、聞いておるのか?」
「すいません、ルーイさん。はい。よく知ってます」
「それは聞かなくてもわかるわ。これもあれか。ゲームに関連するものか」
「はい。そうです。ゲームに出てくる戦闘機です」
「戦闘機?」
「まあ、簡単に言えば、空――っていうか宇宙空間ですけど、そこで戦争が出来るほどの兵装を積んだ乗り物です」
「ううむ。よくわからんなあ」
「動かしてみましょうか?」
ぼくは機体によじ登る。
キャノピーを開いて、中に滑り込んだ。
様々な計器が押し込まれているのかと思ったが、コクピットの中は拍子抜けするほどシンプルだった。
あったのは、単座シートとゲーム機のコントローラーだけだ。
ぼくは顔を顰める。
機体は割とよく出来ているのに、コクピットの中は非常に残念な構造をしていた。
感動を返してほしい。
すると、ひとりでにキャノピーが閉まる。
え? あ? ちょっと!!
押し上げたが、すでにロックされた後だった。
続いて、微震が起きる。
視界が上がっていくのが見えた。
地面がせり上がり、リフトアップが始まったのだ。
「おい! トモアキ、どこへ行くつもりだ!」
「パパ! どこいく!」
外でルーイさんとガヴの声が聞こえた。
「危ないですから離れて下さい!」
ぼくの忠告が聞こえたらしい。
2人は大人しく待避した。
そのまま宇宙戦闘機はぼくを乗せたまま上へ上へと昇っていく。
弱ったな。
魔法でキャノピーを破壊できるだろうけど、折角見つけたお宝をみすみす壊すわけにいかない。
ついに太陽の光が見えた。
ザァァァ、と音を立てて、水が落ちていく。
屋敷が見えた。
どうやら戦闘機は、屋敷の裏手の泉から現れたようだ。
水が落ちていったけど、ルーイさんとガヴは大丈夫だろうか?
人の心配をしている場合じゃないんだけどね。
リフトと傾斜し、機首が上を向く。
背後から轟音が聞こえた。
赤白い光が見える。エンジンが始動したのだ。
「確か最大で400Gだっけ? レベルマだけど耐えられるかな。あ……。でも、確かGイーターがあるから、Gを消去出来るんだっけ」
コクピット内で呟く。
不安というよりは、興奮して、つい説明が口に出てしまう。
Gで身体がバラバラになる恐怖よりも、この戦闘機に乗って飛び立てる嬉しさの方が圧倒的に優っていた。
どこからともなくカウントが聞こえる。
3……。
2……。
1……。
TAKE OFF!
戦闘機は飛び出した。
第1戦闘加速はマッハ100。
それよりも遅いだろうが、あっという間に高度5000メートル付近にまで撃ち出されていた。
はっや!
後ろを振り返る。
アリアハルが点に見えていた。
このまま行くと、大気圏に到達しそうだ。
コントロールをしなければ。
Gの影響はほとんどない。
キャンセラーがよく効いているのだろう。
ぼくはコントローラーを拾い上げる。
試しに下を押してみた。機首が下へと向かう。
やっぱり、これが操縦桿らしい。
「よーし! これを使って、ハイミルドを1周でもしてみようかな」
街から出たくないなんて言ってる人間の台詞ではないことは、重々承知している。
でも、今はとにかくこの戦闘機を動かしてみたかった。
スピードを抑えながら、水平飛行する。
上は上昇。下は下降。左右はそのまま。おそらくAは機銃発射ってとこかな。
ちなみにスピードの強弱は、どういう構造になっているのかは知らないけど、頭で思い描くとその通りに合わせてくれるらしい。
機銃とかミサイルとか撃ってみたいけど、誤って民家を撃墜したら怖いのでやめておく。
ともかく、ぼくは遊覧飛行を楽しんだ。
とその時だ。
ぼくの頭上を大きな影が横切った。
「嘘でしょ! ここは高度5000の上く――――」
言葉を切り、息を呑んだ。
長い首に、大きな翼。
岩のような表皮。
獰猛な牙を生やした口を開けると、ジェット音よりも大きな嘶きが広い空の上で響き渡った。
「竜だ……」
ぼそりと呟く。
聞こえたのだろうか。
竜の赤い目がこちらを向く。
「貴様、何者だ……」
重苦しい声が、頭の中に響き渡った。
つい最近まで、ビックバイパーをビッ“グ”バイパーだと思ってた人は、正直に名乗り出て下さい。




