第36話 魔法使い、ダンジョンの秘密と対峙する。
まんまアレが出てくる回。
「雷鳴を讃えるものヴォードよ。我、ルーイが命じる。其の力、我が手に宿りて、その戒めを轟け!!」
雷鳴の槍!!
ルーイさんの手から雷光を纏った矢が生まれる。
振りかぶると、眼前の魔物に投擲した。
一見、雪達磨にも見える巨大な熊。
その胸を貫く。
唸りを上げて、大量の電撃を浴びると絶命した。
どお、と倒れるモンスターを見ながら、ぼくとガヴはパチパチと手を叩く。
格好いい。
ぼくももうちょっと何か魔法を覚えようかな。
まともな魔法は、火の弾と明光ぐらいだしね。
「感心してる場合ではないぞ。そっちは終わったのか」
「ええ。終わりましたよ」
「がう゛がう゛」
ぼくはダンジョンで拾った棍棒を肩に担ぎ、ガブもまた尻尾を振った。
後ろには、魔物の死体が転がっている。
皆、撲殺されていた。
ルーイさんはため息を吐く。
「お主、仮にも魔法使いなのじゃから、魔法を使ってみせよ」
「いや、やっぱり室内で使うのには抵抗が……」
「だから、大丈夫といっておろうが」
うーん。でも、爆炎がこっちまで伸びてくるのは怖いし、本当にダンジョンがぼくの魔法に耐えられるかも疑問だ。
「奥の手ってことで」
「まあ、良いか」
「随分、降りてきましたね」
ぼくは天井を見上げる。
ダンジョンに潜って、2時間ほど経っただろうか。
かなり下まで降りてきてしまった。
その間、色々なアイテムを拾い、ぼくの魔法袋はもうすぐ限界だ。
おそらくルーイさんも同じ状況だろう。
「15階といったところかの」
「そろそろ戻りましょうか」
「いや、もう少し降りるぞ。目的地まであと少しだからな」
「目的地?」
ぼくは眉を顰める。
「うむ。実は、我は2度目なのだ、このダンジョン」
「前にも来たことがあるんですね」
「そうじゃ。でな、お主に見てもらいたいものがあるのじゃ」
「ぼくに?」
「恐らくお主の世界のものだと思うのだが……。まあ、現地で見てもらう方が早いじゃろ」
ぼくたちは階下へと降りていく。
一旦、魔物の攻勢が落ち着くと、魔法袋の中に手を伸ばした。
ダンジョンの中で拾ったアイテムを整理する。
武器に始まり、魔草、お金も落ちていた。
先端に魔石が付いた杖なんかもあって、バラエティに富んでいる。
さすがに巻物とか鉄の金庫なんかは落ちていないようだけどね。
「この杖……どんな効果があるんですかね?」
「わからん。帰ったら調べてみるつもりじゃが、それまでは大事に取っておけよ」
「階段近くで試せばいいんじゃないですか」
「なんで階段なのじゃ?」
「すいません。独り言です。気にしないでください」
ついゲーム脳が出てしまった。
18階まで降りる。
いよいよモンスターが強くなってきたが、レベルマのぼくとガヴの敵ではない。
ルーイさんが何レベルかは教えてもらってないけど、おそらく高レベルだろう。
そんな人が、アリアハルで魔導書専門店を営んでいるのは、少しもったいないような気がした。
「ルーイさんのレベルって――」
「我か? 今は68といったところか」
やっぱり高い。
「なんで魔導書専門店の店主なんかやってるんですか?」
「魔導書の店主を舐めるなよ。そもそも高レベルでなければ、魔導書自体が読めん。一定の実力がなければ店主は勤まらんのだ」
なるほど。
高位の魔導書を読むためには、知力が必要だからか。
「冒険者になろうとは思わなかったんですか?」
「昔、こう見えて冒険者だったぞ。すぐに飽きて辞めたがな」
「飽きてって――」
「というより、しんどい。我は店の中でゴロゴロしてる方が性に合う」
「ゴロゴロって……。ルーイさんもぼくのこといえないじゃないですか」
「お主は才能があるのにゴロゴロしてるではないか。我とは全く違う」
「レベル68も十分才能があると思いますけど」
「おだてても、我は店を閉める気はないぞ」
頑なだなあ……。
何かあったんだろうか。
今度、クレリアさんに聞いてみよう。
雑談しながら、19階までやってきた。
フロアの様子が変わる。
さっきまで如何にも洞窟という感じだったのが、急に人工的な雰囲気になった。
お城の地下という感じだろうか。
石畳みが敷き詰められ、全体がほのかに青白く光っていた。
「なんか様子が変わりましたね」
「うむ。トラップに気を付けよ。我の後についてくるんじゃ」
「がう゛」
カチッ!
「カチッ?」
びよよよよ~~~~んん!!
その瞬間、ガヴの霊圧――ではなく、姿が消えた。
目の前に現れたのは、バネ仕掛けの床だ。
どこかへ飛んでいってしまったらしい。
「がう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛……ぅ゛……!!」
ガヴの声が遠ざかっていく。
上方向へ飛んだのに、何故か横方向へと移動してるみたいだ。
「ガヴ!!」
「トモアキ! 不用意に走り回るな!」
ルーイさんが叫んだ時には、すでに駆け出していた。
カチッ!
またスイッチ音が鳴る。
あ。やばい!
ズッッゴオオオオオオンンンン!!
轟音がダンジョンに鳴り響いた。
震動と共に、爆煙が床を滑っていく。
「トモアキ!!」
「だ、大丈夫です……」
けほけほ……。
うーん。すごい爆発だった。
身体中真っ黒だ。
ぼくは炭を払う。
咳をすると、煙を吐き出した。
「お主、無事なのか?」
「はい。まあ……。ちょっと身体がヒリヒリしますけど」
レベルマ凄いなあ。
あんな爆発でも耐えちゃうんだ。
ん? あれ?
ルーイさんの目が赤いように思えるのは気のせいだろうか。
「ルーイさん、目が赤いですけど、どうしたんですか?」
慌ててルーイさんはごしごしと目を拭った。
帽子のつばを掴み、ギュッと下ろして、赤くなった目元を隠そうとする。
「な、なんでもない! 煙が目に入っただけだ!」
「そうですか? なんか泣いてるように思えましたが」
「ううううるさい! それよりも、あれほど注意しろといったのに。不用意にもほどがあるぞ!」
「ごめんなさい。……えっと、それよりもガヴを見つけないと」
「わかっておる。行くぞ! ついてこい!」
ルーイさんは勇ましく手をあげ、先導する。
だが――。
コテッ!
いきなりこけた。
顔からダイブする。
痛ったそう~。
爪先を見れば、いつの間にか大きな石があった。
これに躓いたらしい。
罠の一種だろうか。
「大丈夫ですか? ルーイさん」
「痛くない!」
ガバッと顔を上げる。
おでこに擦り傷が出来ていた。
目には涙が滲んでいる。
今度は絶対泣いてる。
「泣いてるんですか?」
「な、泣いてなんかないもん!」
突然、幼児退行する20歳。
こっそりと涙を拭った。
「行くぞ!」
気を取り直して、ルーイさんは歩き出した。
絶対泣いてるよね。
しばらく歩くと、声が聞こえてきた。
「がう゛がう゛!」
ガヴの声だ。
今度は、走らない。
というか、すぐルーイさんがぼくの腕を掴んだ。
「抑えよ。慎重に近づくぞ」
ぼくは黙って頷く。
ゆっくりとガブの声の方へと近づいていった。
広いフロアに出る。
そこにいたのは、ガヴと――。
「ぶおおおおおおおおおお!!」
大きな巨人――いや、動く石像だ。
高さ3メートルほどあるだろうか。
灰色の肌に、逞しい腕と足。
身体には一枚布が巻かれ、右乳首だけが露出していた。
ガヴの情操教育には、少々過激すぎる格好だ。
下からのぞき込むと、男のあれが見えるんじゃないか。
いや……そうじゃなくて。
どうやら、かなり手強い相手らしい。
レベル50のガヴでも、苦戦しているようだった。
早く助けないと。
「我が来た時にはいなかった。おそらくなんらかの罠が起動したな」
「考察は後にしてください。ガヴ!!」
ぼくは叫ぶ。ガヴの頭の耳がくるくると動いた。
ご主人を見つける。石像に背を向けて一目散にぼくを目指して走ってきた。
ピョンと軽く飛び上がり、抱きつく。
その目には涙が滲んでいた。
「がう゛~」
怖かったんだね。
スライムと戦う時は勇敢だけど、やっぱりガヴはまだ小さな子供なんだ。
よしよし、と頭を撫でる。
ついでに“モフニウム”も補充しておこう。
モフモフ……。
何度、撫でてもこの触り心地はたまらないなあ。
「お主、和んでいる場合ではないぞ!」
ルーイさんが叱咤する。
そうそう。今はバトルの真っ最中だった。
まったく……。ぼくはスローライフを送りたいのに、戦ってばっかりだ。
辟易しながら、ぼくはガヴを下ろす。
地響きを鳴らして近づいてくる石像を睨んだ。
「下がってください! 魔法を使います」
ルーイさんはガヴを連れて退避する。
ぼくは手を掲げた。
レベルマの状態も維持されている。
特大の1発をお見舞いしてやる。
「精霊の一鍵イフリルよ。其の力、我の手に宿りて、紅蓮を示せ!」
火の弾!
呪名が高らかに響く。
巨大な炎の渦が迫り来る石像に突き刺さった。
視界が赤く染まる。
フロア全体が、巨大な火の鍋の中に放り込まれたかのように一変する。
「がああああああああああ!!」
動く石像は咆哮する。
顔面を抑えながら、身悶えた。
そのまま崩れ落ちるかと思ったが、寸前で持ちこたえる。
1歩ずつ、ぼくの方に近づいてきた。
さすがは動く石像。
これだけでは足りないらしい。
でも……悪あがきだね。
「ふ」
たった一文字を唱える。
瞬間、さらに火の弾が放たれた。
凄い熱量だ。
レベルマ状態のぼくでも、肌がチリチリするのを感じる。
背後ではルーイさんが、風の魔法で炎を防いでいた。
「ぐ……お…………お………………」
次第に炎が消えていく中、動く石像の顔が下をむき始めた。
それでもまだ倒れない。
タフだなあ!
「ガヴ!」
「がう゛?」
ぼくが叫ぶと、黄金色の耳がピンと立った。
「やり返せ!!」
「がう゛がう゛!」
タタタッと走っていくと、勢いそのままにガヴは頭突きをくらわせた。
石像の右胸を貫く。乳首が出ていた方だ。
ガヴはそのまま空中で回転すると、格好良く着地を決めた。
「がう゛!」
やったか、というように背後を確認する。
すると、炭化した動く石像にヒビが入り始めた。
自重に耐えきれなくなると、一気に崩壊が始まる。
盛大な音を立てて、崩れ去った。
「がう゛!!」
どうだ! と言わんばかりに、ガヴは両腕を掲げる。
ぼくは当然、その頭を何度もモフモフするのだった。
20階。
そこにあったのは、1つのフロアだけだった。
またガラリと様子が変わる。
今度は、古代遺跡に迷い込んだかのようだ。
フロアの真ん中には、台座が置かれている。
そこには文字が刻まれ、さらに見たことがある機器が埃を被って置かれていた。
赤と白のツートンカラー。
中央には何かを入れるような口。2つのボタン。逆から見ると何か人の顔が見える。その耳となる部分には、眼鏡ケース程度の大きさの四角い物体が収まっていた。
「お主、わかるか?」
ルーイさんが尋ねる。
ぼくは口をムズムズさせながら、歓喜とも呆れともいえる奇妙な感情に取り憑かれていた。
口を抑えながら、腹から昇ってきた笑気を必死に押さえつける。
そして心の中で叫んだ。
ふぁ、ファ○コンじゃん!!
ポイントが8000を越えました!
月間総合も54位。
異世界転移/転生(ファンタジー)では16位に付けることができました。
ブクマ・評価をいただいた方、本当にありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




