第35話 屋敷の地下は、不思議なダンジョンでした。
某有名アニメ映画のキャッチコピーをもじって、先にサブタイを思いついたのはいいけど、偶然出てきたある言葉に強く興味を引かれ、4時間くらいプレイ動画を見た末に出来た回(長い)
向かった先は、ぼくの家から近い、屋敷街の一角だった。
ルーイさん、そしてガヴと歩いて向かう。
パーヤもクレリアさんも行きたがっていたが、それぞれ用事があって3人で行くことになった。
やってきたのは、大きな屋敷だ。
随分、長い間誰も住んでいないらしい。
窓は割れ、壁に葛が這い、屋根に雑草が生い茂っていた。
ぼくの屋敷も最初は荒れていたけど、それよりも長く放置されていたらしい。
赤錆が垂れた地面から察するに、立派な鉄の門扉があったのだろう。
今は取り外されて、代わりに『解体中』という木の看板が下がっていた。
その脇を抜け、ぼくたちは庭を横切っていく。
「いいんですか? 勝手に入って」
「かまわん。ここの解体業者の社長とは知り合いでな」
「どういうご関係なんですか?」
「うーん。なんというか、向こうが一方的に我を気に入っていてな。ロリ魔女ッ子爆誕がどうのこうのとか。とにかく、我を見るたびにハアハアと興奮してくるおかしなヤツじゃ」
へ、変態だぁああああああ!
ルーイさん逃げてぇええええ!!
それおかしい人のレベルを越えてるから!
てか、その人、絶対元はぼくたち同じ世界の人だよね。
こう見えてもルーイさんが20歳ってわかってるのかな。
わかってて、そこまで興奮出来るなら、かなりの強者だよ。
「あの~。老婆心から言わせてもらうと、あんまりそういう人と付き合わない方がいいですよ」
「何を言う。見た目は太った親父だが、我を模した人形を作ってきたり、我が活躍する絵本を持ってきたり……。実に心優しい奴なんじゃぞ」
え、絵本……? まさか……!
「中身確認しました?」
「最近、忙しくてな。まだ読んでおらん。休日にゆっくり楽しむつもりだ」
「表紙は? ルーイさんと魔物――例えば、オークと一緒に描かれているとか」
「聡いの、お主。何故、わかる」
やっぱり……。
「悪いことはいいませんから、捨ててください」
重大なトラウマが精神に埋め込まれる前に……。
「なんじゃ、お主。人の知人を悪くいうのは、あまりよくないぞ。そもそも、ここのダンジョンを教えてくれたのは、その社長なんだからな」
「解体中ってことは、やっぱり壊すんですか?」
入口までやってきて、ぼくは屋敷を見上げた。
ぼくが住んでいる所よりも大きく、姿こそボロボロだが作りは立派だ。ちゃんとメンテナンスをすれば、綺麗な屋敷になるだろう。少しもったいないように思えた。
ルーイさんは扉を開ける。
中は外よりもボロボロだった。
木の床に所々、穴が空き、中央の石階段には埃が堆積している。
美しいガラス細工が施されていたと思われるシャンデリアは、固定具だけを残してゆらゆらと揺れていた。
広い空間の中、ルーイさんは口を開く。
「ここは元々はある武器商人の屋敷だったらしい」
「武器商人?」
「うむ。肩書きこそ物騒だが、なかなか実直な商人だったそうだ。奥さんと子供が1人いてな。それはそれは幸せな家族だった」
なんか……。
凄い既視感があるんだけど……。
「一代で大屋敷を買えるほどの巨万の富を手にした武器商人だったが、困ったことが起こった」
「困ったこと?」
「泥棒じゃ」
「泥棒……!!」
「何度も店を襲われてな。盗賊番や犬を置いたのだが、風来の者の足はとても速く、また頭も良かったらしい。おかげで店は立ちゆかなくなり、泣く泣く屋敷を手放したそうだ」
既視感どころの話じゃないな。
それ毎回ぼくが竹林○村とかでやってたことじゃないか。
「まあ、そういう話はともかくとして、巨万の富を手にした武器商人には秘密があったのだ」
「それがダンジョン」
「さすがじゃ、主。その通りよ。解体作業中に偶然、この屋敷の地下室にダンジョンが見つかったそうだ。どうやら、武器商人はそこで武器を調達していたらしい」
まんま初代じゃないか!
色々混ざりすぎぃ!!
「ふむ。どうやらここのようじゃな」
ルーイさんは足を止めた。
屋敷の奥。和室を思わせるような木の部屋がある。
掛け軸のようなものでもかかっていたと思われる床の間に、ぽっかりと穴が空いていた。
その先に地下への階段がある。
真っ暗だ。
うう……。ちょっと怖いなあ。
ムカデとかゴキ○リとか出そう。
怖じけるぼくだったが、ルーイさんもガヴもやる気満々だ。
特に獣人娘は怖い者知らずで、タタタッとあっという間に階段を駆け下ってしまった。
野生児は強いなあ。
感心しながら、ぼくは明光を照らして、降りていく。
階段が終わり、廊下に出た。
両脇に迫るように壁が続いている。
相変わらず暗く、明光を使っても、5メートル先もわからなかった。
「ガヴ、ぼくから離れちゃダメだからね」
「がう゛がう゛」
頭と一緒に尻尾を振る。
ぼくたちはルーイさんを先頭に廊下の先を進んだ。
道が開ける。
だが、一層暗く、どこに進んでいけばわからなかった。
途端、ガヴがしきりに鼻を動かす。
ピンと尻尾と耳を立て、唸りを上げた。
何かいるらしい。
「仕方あるまい」
ため息を吐きながら、ルーイさんは詠唱する。
「光の精霊フォリリアよ。我はルーイ。光に傅くものなり。御身の吐息、我に立ちふさがりし闇を吹き散らせ!」
光の息
暗闇が吹き飛ばされた。
一気に目の前が明るくなり、フロアの全容が露わになる。
同時に現れたのは、モンスターだった。
スライム。さらにぼくの背丈ほどのナメクジ――いわゆる大ナメクジだ。
涎を垂らし、ぬめぬめと体肌を動かして、触角をこちらに向けている。
気持ち悪い……。見てるだけで吐きそうだ。
苦手なんだよね。虫って。
「結構、数が多いな。お主、グリオネは任せていいか」
「グリオネっていうんですか、あのナメクジみたいなの。だったら、パスです。グロいです」
ぼくははっきり言った。
大ナメクジはゲームの中で結構だ。
「仕方ないのう。では、スライムは任せたぞ」
ルーイさんが前に出る。
魔法を詠唱した。
離れたところを見計らい、ぼくはガヴに「ほりい○う……」の魔法を唱える。
レベル50になった幼女は、ギラリと目を光らせた。
スライムが密集している場所に躍り出る。
いつもの要領で、草刈りみたいに狩りを始めた。
勝負はすぐについた。
グリオネが4体。スライムが7体が倒される。
前者から異臭が吹きだし、ぼくは鼻を摘んだ。
出来れば、一生相手をしたくないね。
「なんじゃ、お主。ガヴに任せて、高見の見物か」
「ぼくが魔法を放つと、このダンジョンごと潰れてしまいますよ」
「例のレベルマの力か」
すでにルーイさんにも、ぼくのオリジナル魔法のことは話していた。
あまりにイメージが難しく、売り物にならないとがっかりしていたことは、今でもよく覚えている。
「心配しなくていい。ダンジョンは頑丈に出来ておる。お――」
「がう゛がう゛……」
ガヴが何かを銜えて持ってきた。
剣だ。それもかなり綺麗な。
ルーイさんはガヴから剣を受け取ると、眺める。
「おお! 銅製の剣ではないか!」
歓声を上げる。
「見よ! お主! 綺麗な銅製の剣じゃ! 銅製の剣じゃぞ」
うん。そんなに連呼しなくてもわかってるから。
その……なんか誰かに断っているような言葉の繰り返しは、文学的修辞上あまり良くないと思う。
「あっち、ある」
ガヴが指さす。
行ってみると、確かに何かの魔草が落ちていた。
「回復草だな。回復薬の原料になるのだ、回復草は。売ってもなかなか良い値が付くしな、回復草は。回復草1個で、回復薬が5つも作れるのじゃ」
だから、連呼するの止めようね。
すっごく読みにくいから!
「でも、おかしくないですか?」
「何がじゃ?」
「草が何でダンジョンに無造作に置かれているんです? それに剣も新品同様だ。おかしいですよ」
ゲームのダンジョンなら話はわかるけど、長いこと放置されていれば、草は枯れるだろうし、銅製とはいえ、剣も錆ていく。
なのに、草は青々として新鮮だし、銅製の剣もつい今し方まで手入れをされていたかのようにピッカピカだ。
「それがダンジョンの凄いところなのじゃ」
まるでわしが作ったと言わんばかりに、ルーイさんはない胸を反らした。
「ダンジョンというのは、単なる暗い洞窟というわけではない。この中には古代の魔法がかかっておる」
「古代の魔法?」
「未だにそのメカニズムは解明されておらんが、ダンジョンに放置されたものは、時が止まったかのように状態を保持されるのだ」
ゲームのダンジョン構造を説明しているみたいに聞こえてきた。
「この壁や天井にも魔法がかかっておる。どんな衝撃にもビクともせんぞ。だから、お主もドンドン魔法を使うがいい」
ルーイさんは大手を振って、ダンジョンの奥へと進む。
その小さな背中を見ながら、ぼくもガヴとともにダンジョン探索を続けるのだった。
作者は、初代はやっておらず、2代目も友達に借りてプレイした程度です。
フェイの最終問題? なんだね、それは?
次回、待望のアレが!!




