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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第4章 農地経営編

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第33話 魔法使い、スマートに裏カジノを後にする。

GWだからというわけではありませんが、長めです(2回目)


※ 前回、裏カジノとの遺恨云々という部分を少し変えました。

  この話を読む前に読んでいただけるとわかりやすいかもです。

 賭け金10万ゴルのポーカーが始まる。


 その噂は瞬時に裏カジノ全体に伝わった。

 仮面を付けた紳士淑女が集まり、2人の男を取り囲む。

 ぼくとマティスだ。


「どうぞ。ご確認を」


 10万ゴルが入った袋を広げる。

 正確にはわからなかったが、ここまで人に注目させておいて、小狡いことはしないだろう。同時に、これほどの人の目があれば、イカサマもやりにくい。


 確かに、とぼくは頷いた。


「ご主人様」

「トモアキ」


 振り返ると、パーヤとクレリアさんが心配そうに見つめていた。

 ぼくは笑う。


「大丈夫だよ」


 席につく。

 マティスはぼくの女の子の方に分厚い投げキッスを送った。

 同じく席に座る。

 にぃ、とマティスは金歯を見せつけた。


「正々堂々とやりましょう。ロト殿」

「運ゲーに正々堂々もないと思いますが。ようは大神がどちらに微笑むか肝要ということでしょう」

「なるほど。確かに」


 マティスは大きく頷く。

 指を立てると、ディーラーはカードを切り始めた。


 すでに「ゆう○い……」の呪文はプレイ前に唱えている。

 レベルマ状態。

 もちろん、運の値もカンストしている。

 運ゲーの要素が大きいこのポーカーでは、まさにチートだ。


 カードが配られた。

 1枚1枚丁寧に広げると、大商人はまたしても金歯を見せびらかす。

 すると、ぼくに向かって話しかけてきた。


「少し昔話をしましょう」

「ほう……。一体どういう?」

「実は、私はね、ロトさん。商人ではないのですよ」

「ジョブは別のジョブということですか?」

「その通りです」

「では、一体どういう?」

「遊び人ですよ」


 ぼくは思わず笑いそうになったのを堪えた。

 レベル20で賢者になれたりするのだろうか。

 まあ、男はある時に限っていえば、賢者なんだけどね。


「楽しそうな職業ですね」

「ええ……。実際、楽しい人生でした。色々な遊びをやりましたし、色々な遊びを提供しました。もちろん、ポーカーもね。レベルもどんどん上がっていきましてね。気が付けば、レベルMAXになっていました。遊ぶことこそ、遊び人の仕事なのでね」


 ――――!


 ぞくりと背筋に冷たいものが走った。

 自分の顔が固まっていくのを感じる。

 明らかに動揺が顔に表れていた。


 後ろに控えたパーヤやクレリアさんが、そっとぼくの肩に手を置く。

 それで少し冷静になれた。


 ぼくは質問する。


「レベルMAXですか。それは素晴らしい。差し支えなければ、ステータスカードを見せていただけませんか?」

「よろしいですよ。ただし名前のところ隠しますが、よろしいですか?」

「構いません」


 マティスは懐を探ると、すんなりステータスカードの表を見せた。


 じょぶ   あそびにん

 れべる   99

 ちから   45

 たいりょく 241

 すばやさ  521

 ちりょく  202

 まりょく  5

 きようさ  391

 うん    999


 な!

 運が999!

 カンスト!!


「いかがですか?」

「り、立派な数値ですね」


 ぼくは平静を装った。

 でも、どうしても喉が震える。

 自分のステータス以外では、初めて見るステータスカンスト。

 さすがに動揺を抑えることは出来なかった。


 やがてマティスはカードをしまう。

 台に置いた5枚のトランプを扇のように開いた。


「何かを達成するということは、とても気持ちいいと同時に、少し虚しい気持ちになるものです。見ていただいておわかりかと思いますが、私の運は999。カンストしております。運のゲームであれば、まず私が負けることはありません。遊びでも。あるいは商売でも」


 と断言する。


 なるほど。

 ぼくは得心した。

 裏カジノにある遊戯台の数々。

 特にこのポーカーは最たる物だ。

 知略戦を極力排除し、運ゲーに徹している。


 すべてはマティスが勝つためだ。


「いいですか。そんなネタ晴らしをして。皆があなたのステータスを知ってしまいましたよ」

「良いのです。皆さん、このために参加されているようなものですから」

「このため?」


 ぼくが眉を顰めると、マティスは大きな顔を近づけてきた。


「何も知らずに挑んでくる哀れなチャレンジャーが、落ちぶれていく様をですよ」


 すると、あちこちから笑みが聞こえた。

 憐れみ、嘲る声だ。

 センスで口元を隠し、仮面の奥から歪んだ瞳をぼくに向ける。


 どうやらここに、ぼくの味方は1人もいないらしい。


「如何でしょうか? 今、フォールドするなら、片方いずれかのご婦人を差し出せばゲームを降りることができるというのは?」


 マティスは提案する。


 ぼくの肩に置かれたパーヤの手が震えていた。

 クレリアさんもギュッと力を込める。


 いや……。

 味方ならここにいるじゃないか。

 むしろ十分。

 大神の前髪を掴み損なったかもしれないけど、ぼくには2人の女神がいるのだ。


「私は降りません」


 ぼくは断言した。

 マティスは少し表情を変える。

 パーヤの震えが止まる。クレリアさんも少し力を緩めた。


「勝負に絶対はありません。運ゲーに100%なんて文字はありませんから」


 1枚ドローし、ディーラーからカードを受け取る。


 マティスはゆっくりと顔を引く。

 1枚をドローし、手札を揃えた。

 口元が大きく裂けていく。

 3度、金歯が光った。


「残念ですが、ロト殿。私の勝ちです。いやはや自分の豪運が恐ろしい」


 マティスはディーラーがコールする前に、手札を台に向かって投げた。


 スペードの10。

 スペードのジャック。

 スペードのクィーン。

 スペードのキング。

 そしてスペードのエース。


「ロイヤルフラッシュです」


 むはははは……。

 会場に笑い声がこだます。

 歓声が沸き起こり、あまりの興奮に踊り出すものまで現れる。


 その中にあって、静かな場所があった。

 ぼくの周りだけ沈鬱な空気が流れている。


 マティスがぼくの肩に手を置いた。

 手負いの子鹿でも発見したかのように、憐憫の言葉をかける。


「気を落とすことはありません。結果はわかりきったことでした。それでも挑んだあなたの勇気は大したものです。賞賛すべきでしょうね。そうでしょ、会場の皆様」


 観衆を煽ると、どこからともかく拍手が聞こえた。

 しかし、マティスのいう賞賛とはほど遠い。

 憐れみが蜜のようにたっぷりと塗られた――ひどく気色の悪い拍手だった。


 ぼくはまだカードをオープンしない。


「お客様。どんなカードであろうとも、最後にオープンするのがルールでして」


 騒ぎには加わらず、ディーラーは冷静にぼくの手札を見ていた。

 この瞬間にも、イカサマをしないか見張っていたのだろう。

 なかなかプロ意識の高い。


「おいおい。結果はわかりきっているだろ? 大目に見てやれ」

「恐れながら、それがルールでございまして」

「そうか。なら仕方がない。……申し訳ありませんが、ロト殿。手札を見せていただけませんか。たとえ、豚であろうと。我々は馬鹿にしたりしませんので」


 それでもぼくは手札を見せない。

 じっと顔を項垂れ、手を伏せている。


 やがてじれてきた客が、手拍子を送りはじめる。


「めくれ!」

「めくれ!」

「めくれ!」

「めくれ!」


 異様な空気が包む中、ようやくぼくは顔を上げた。



 そろそろ頃合(ヽヽヽヽヽヽ)いだろう(ヽヽヽヽ)



「わかりました」

「おおおお!」


 耳で笑声と歓声を聞きながら、ぼくはゆっくりとカードを開いていった。


 スペードの7


 ハードの7。


 ダイヤの7。


 クローバー7。


 そしてジョーカー。



「……ファイブカードです」



 ぽつり、呟いた。


 一気に騒然とした空気が引いていく。

 1滴の雨だれに、全員が耳をそばだてているような静けさが広がった。


「あ゛?」


 側の者とハイタッチしていたマティスが振り返る。

 台に並んだカードを見て、大きく瞼を開いた。


「ば、馬鹿な!!!!」


 台を叩く。

 目線が何度もカードを往復した。

 だが、結果が覆ることはない。


「ぼくの勝ちですね。マーティー様」

「いや。そんなことあり得ない。私はレベルMAXの遊び人だぞ。このポーカーで負けるようなことは――」

「イカサマはしてませんよ。なんならボディチェックをしますか?」

「いや! それよりもあなたのステータスカードを見せてほしい」

「いいですよ」


 ぼくは服をまさぐる。

 ステータスカードを探した。


「あれ? どこいったかな?」

「まだですか?」

「しばしお待ちを。ああ。ありました」


 1度ステータスカードを確認する。

 ぼくはにこやかな顔を浮かべマティスに見せた。

 もちろん、名前の部分は伏せる。


 じょぶ   まほうつかい

 れべる   1

 ちから   1

 たいりょく 2

 すばやさ  2

 ちりょく  3

 まりょく  4

 きようさ  2

 うん    1


 そこにレベルマ状態が切れた(ヽヽヽ)ぼくのステータスが刻まれていた。


「運が1……? 馬鹿な!! こんなことがあり得るはずが!」


 マティスは椅子から転げ落ちる。

 それは巨大な大木が倒れる時に似ていた。

 口をあんぐりと開け、悪夢だと言わんばかりに天を仰いだ。


 ぼくは席を立つ。

 マティスの巨体が小さく見えた。


「言ったでしょ。勝負に絶対はないと」


 踵を返し、10万ゴルが入った袋を受け取る。


「このお金は有り難く使わせていただきます」

「お待ち下さい」


 台に手を突き、項垂れていたマティスは立ち上がった。

 袋を担いだぼくの前に進み出る。

 そのマティスに立ちふさがったのは、パーヤとクレリアさんだ。


「マーティー様。勝負は正式なものだったはずです」

「それとも、見送りも出来ないの、このカジノは?」


 キッと、マティスを睨み付ける。

 初めは前屈みだった大商人も、女性2人のパワーにあっさりと足を止めた


 襟元を正し、服装の乱れを直した。


「ロト殿……」

「はい」

「またのお越しをお待ちしております」


 頭を下げる。

 ギギギ、と音が聞こえてきそうだ。

 顔を上げたマティスはぼくを睨む。


「次は負けませんぞ」


 ぼくを睨む。

 その瞳はリベンジに燃えていた。

 彼の中の遊び人としての本能に、火を付けてしまったらしい。


「一生分の運を今日ここで使い果たしてしまいました。今はお約束できませんが、またいつかまたどこかの台で」


 会釈をし、袋を持って入り口を目指す。


「失礼いたします。マーティー様」

「相手が悪かったな、おっさん」


 パーヤは貴族令嬢らしく、あくまで淑女らしく頭を下げた。

 クレリアさんは挑発するように笑みを浮かべると、踵を返す。


 こうしてぼくたちは裏カジノを脱出した。

 手には10万ゴル。

 主催者の見送り付きだ。


 すべては計画通りだった。



 ★



 ぼくたちは歩いた。

 マティスの屋敷が見えなくなるまで、とにかくだ。


 いつの間にか、アリアハルの中央噴水広場に来ていた。

 月が天頂に達している。

 広場には人影がなく、猫らしき小動物が泉の水を舐めているのが見えた。


「追ってきませんね」

「ああ。なんか報復があると思ってたけどね」

「たぶん、それはないと思うよ」


 周囲を警戒するパーヤとクレリアさんに話しかける。

 彼女たちは同時に首を傾げた。


「どういうことですか、ご主人様」

「言ったろ? 遺恨だよ。この賭けに、遺恨は残らなかったってことさ」

「けど、トモアキ。あの豚野郎は賭けに絶対的な自信を持っていた。それに10万ゴルを持っていかれたら、遺恨が残らない方がおかしいだろ」

「確かにマティスさんほどの大商人でも、タダで10万ゴルを持っていかれたら困るだろうね。だけど、見返りがあれば、その気持ちを幾分鎮めることが出来る」

「見返り……ですか、ご主人様」

「そんなもん。いつ渡したんだよ?」

「ぼくは10万ゴルを投機に使うといったんだ。つまり、近日中にある品物について大金が投資されるという――商人にとって大変貴重な情報を見返りとして渡したんだよ」

「あっ!」

「なるほど」

「だから、あの勝負は……。どちらに転んだとしても、マティスさんには利があったんだ。例え負けたとしても、10万ゴル以上の投機が行われるという情報を元に、ある程度回収が出来るかもしれないからね。……もちろん、君たちが本命だっただろうけど。……ごめんね。怖い思いをさせて」


 2人は首を振った。


「とんでもありません、ご主人様」

「だけど、ちょっと驚いたわね。相手の数値がカンストしてるなんて。よく降りなかったな、トモアキ」

「君たちどちらかが欠けるなんて、絶対にだからね」

「トモアキ……」

「ご主人様……」


 クレリアさんは照れくさそうに頬を掻き、パーヤは涙ぐんだ。


「それに勝つってわかってたから」

「でも、相手もレベルマだろ?」

「うーん。クレリアさんだったら気付いているかもしれないと思ってたんだけどな」


 ぼくは苦笑いを浮かべる。

 名指しされた魔女は、首を傾げた。


 ぼくは懐を探る。

 ステータスカードを取り出すと、呪文を唱えた。


「ゆう○い――」


 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。


 そしてレベルマ状態のステータスカードを見せる。


 相田トモアキ

 じょぶ   まほうつかい

 れべる   99

 ちから   999

 たいりょく 999

 すばやさ  999

 ちりょく  999

 まりょく  999

 きようさ  999

 うん    999


「すべての数値がカンストしてるよね。でも、これって表示可能な最大の数字であって、正確な数値ではないと思うんだ」

「どういうことだ、トモアキ」

「つまり、この数字の横にもう1桁あるんじゃないかってこと」


「「――――!!」」


 ぼくの女の子たちは、目を剥いた。


 最初に疑問に思ったのは、クレリアさんとの戦いだった。

 ぼくの火の弾(ファイヤボール)とクレリアさんの第5階梯魔法“死と炎(デス)()破壊を司るものよ(グロージョン)”の威力は、ほぼ同等だった。


 だが、クレリアさんのその時のレベルは50。

 魔力値は下がってはいるけど、高い階梯の魔法が同等というのはおかしい。

 念のため後で検証してみたのだけど、なんとレベル90のクレリアさんでも同じ事が起こった。

 魔力値がカンストし、さらに高い階梯の魔法でも、ぼくの火の弾(ファイヤボール)の威力は同じだったのだ。


 つまり、ぼくの能力値はカードに書かれている以上に高い可能性がある。


 マティスとの賭けは、その推測を裏付ける1つの好例となったわけだ。


「なるほど。ご主人様、凄いです」

「ああ。さすが、あたしのトモアキだ」


 ばん、とクレリアさんはぼくの背中を叩いた。

 ぼくはあっさりと尻餅を付く。


「ちょっと! クレリアさん、思いっきり叩きすぎですよ」

「いや。そんな力を込めたわけじゃないんだけど」

「違うんだ、2人とも」


 言い争う2人の女の子を見ながら、ぼくは苦笑いを浮かべた。


「ずっと気を張っていて、緩んだら今度は腰に力が入らなくなった」

「だ、大丈夫ですか、ご主人様」


 真っ先にパーヤが駆け寄る。


「無理もないわね。あんなところでトモアキは1人で戦っていたんだもん」

「そうです。普段とは違って、何か別人のように格好良かったですわ」

「それはぼくがいつも冴えないってことかな、パーヤ」

「あ。失礼しました」

「冗談だよ。ぼくにもそんな感覚はあったし」


 そう。

 あそこでは普段のぼくとは違った人格が出ていたような気がする。

 ロダイルさんに、金持ち然としていろ、というアドバイスが効いたかもしれないけど、ぼくの結論は違う。


 きっとこの2人の女の子だ。


 クレリアさんは1人だっていったけど、ぼくは孤独なんかじゃなかった。

 ずっと背中に2人がいた。

 それだけで何でも出来ると思った。

 マティスに物怖じすることはなかった。


 前ならレベルマのおかげだと思っただろう。

 けど、今はぼくの家族が、ぼくの力になってくれている。


 そう思うと、たまらなく嬉しくなった。


「あ。そういえば、ガヴを迎えに行かなくちゃ」

「そうですね。きっと首を長くして待ってます」

「その前に、あいつは背を伸ばした方がいいと思うけどな」


 雑談をしながら、2人の女の子と手を組み、ぼくは夜の街を歩いていった。


たまにはこんな感じの無双もどうかな、と思い書いてみました。


次回もよろしくお願いします。

 

【修正】

クレリアとの戦いの時、レベル50でした。

つじつまが合うように修正いたしました。

ご指摘いただいた方ありがとうございます(対応が遅れて申し訳ない)。

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