第29話 魔法でなんか見たことがある豆を手に入れる。
新パスワード回。
なんのパスワードが使われたか、読む前に予想してみてください。
屋敷の台所に水を飲みに行くと、パーヤが頬に手を当て首を傾げていた。
「弱りましたわ」
背中を丸め、肩を落としている。
いつも楚々としているメイドとは思えないがっかり感だ。
「どうしたの、パーヤ」
突然、声をかけられたパーヤは、シャキンと背筋を伸ばした。
振り返り、笑顔を浮かべる。
何か無理をしているように思えた。
「ご主人様……。どうしましたか?」
「水を飲みに来たんだけど」
「それでしたら、お部屋までお持ちしましたのに」
「それよりも何が弱ったの。ぼくで良ければ、相談に乗るよ」
「トモアキ様に相談するようなことでは」
「それってぼくが信用できないってこと?」
ぼくは少し意地悪に言う。
パーヤは慌てて手を振った。
「め、滅相もありません。その……実はお野菜がここのところ高いのです」
「え? じゃあ、お金が足りなくて買えないとか」
「そこまでは切迫していないのですが。これが続くと、さすがに台所事情が火の車になるのです」
「うーん。じゃあ、お金を出す魔法をまた使おうか」
「それには及びません! あまりご主人様のご負担になるようなことは……」
「遠慮することないのに」
「そうではありません。魔力切れは怖い症状なのです。何度も魔力切れになると、回復しても一種の幻覚作用と無気力状態を引き起こすのです。最悪、廃人同然になる人もいるんですよ」
魔力切れってそんなに怖い症状だったんだ。
てっきり薬を飲めば大丈夫だと思ってた。
今度からは気を付けよう。
「わかった。忠告に従う。今日は勉強の日だったけど、今からスライムを狩りにいってくるよ」
「お願いできますか。わたしも市場の半額品をゲットしてきます」
腕に買い物籠を装備したパーヤは、ギラリと目を光らせる。
半額品を求める1匹の狼と化していた。
ガヴとクレリアさんを伴って、ぼくはフィールドにやってきた。
いつも通りにスライムを狩る。
今回はぼくも手伝った。
合計200個が溜まる。凄い量だ。よくこんなにスライムがいるものだと感心してしまう。
「トモアキ、お金に困ってるなら、適当に賞金になってる魔王幹部を2、3匹、あたしがぶっ潰してこようか」
「そんな! 危ないよ! それにぼくはクレリアさんやガヴ、パーヤといる時間を大切にしたいんだ。あまりぼくの目の届かないところに行ってほしくない」
「それってあたしともっと一緒にいたいってこと?」
「うん」
「……でへへ」
クレリアさんは背中を向けると、変な声で笑った。
髪から微かに見える耳が赤くなっている。
「さてと……。じゃあ、ぼくは引き続き魔法開発をしようかな」
「あ! あたしも付き合う!」
「がう゛!」
すぐにくるりと回って、クレリアさんは目を輝かせた。
ガヴも同じくらしく、両手を挙げている。
「色々パスワードを試してみたけど、まだ試していないものがあるんだ。それを使おうと思う」
パスワードとその効果の連動性はまちまちだ。
例えば、お金が出てくる魔法の金額が11676ゴルなのは、この復活の呪文が11676ゴールドで始まる状態のものだからだ。
だけど、「ふ」のパスワードは全く違う。
これはとあるゲームで最強状態になれるパスワードだけど、その効果は魔法をリピートする呪文だった。
ぼくの結論としては、とにかくトライ&エラーを繰り返すということだ。
ランダムなところは少し怖いけど、ぼくにはこれしかない。
「じゃあ、行くよ」
手を掲げた。
「くり○んう○ろん○くうてん○んはんやむ○やひつ○ろかめせ○にんたお○い○いふ○ま」
しかし、なにもおきなかった。
「相変わらず、変な呪文ね。あと、一部の言葉が微妙に聞こえづらいのはなんでなの?」
「うーん。色々な人への配慮かな」
ぼくは説明する。
クレリアさんにはステータスカードを確認してもらった。
別段異常な部分はない。
スカか……。
じゃあ、もう1つ覚えている魔法を試してみようかな。
「7」の数を間違えないようにしないと。
諦めかけたその時、空から何か落ちてきた。
非常に小さなもので、初めは雨かなと思ったけど、青空には雲1つ存在しない。
首を傾げながら、落下物が落ちたと思われる付近を捜索する。
すると、1粒の豆が転がっていた。
大きさは空豆ぐらいのサイズ。薄い緑色をしている。
辺りを窺ったが、他に同じ豆は見当たらない。
この1粒だけだ。
つまり、自然発生的に生えてきたというわけでもない。
そもそも茎や根もなく、豆が1粒だけあるのもおかしな話だ。
ぼくは恐る恐る拾い上げる。
「トモアキ、それは?」
「多分、これが魔法の効果だよ」
「え? どういうこと?」
首を傾げるクレリアさんを尻目に、ぼくはもう1度魔法を唱えた。
「くり○んう○ろん○くうてん○んはんやむ○やひつ○ろかめせ○にんたお○い○いふ○ま」
また1粒の豆が空から落ちてきた。
一体空はどうなっているのだろうか……。
とにかく豆の検証が先だ。
ぼくの推測では、効果はあれだと思うけど。
じっと豆を見ていると、ガヴも気になったらしい。
ぼくの肩によじ登り、じっと豆を見つめた。
くんくんと嗅ぐと、ぼくの手ごと豆にかぶりついた。
「ちょっと! ガヴ!」
慌ててぼくは手を引っ込める。
ガヴの涎でベトベトになっていた。
どうやらお腹が空いていたらしい。
一方、ガヴはペロリと豆を平らげると、コロリと地面に寝っ転がった。
お腹が大きく膨らんでいる。
さらに口からげっぷを吐き出した。
「おなか、いっぱい」
ポンポンと膨らんだ腹を叩く。
ポテ腹幼女もなかなか……。
いやいや、ぼくは何を考えているんだ。
悪魔の考えを振り払い、もう1つの豆を見つめる。
「やっぱりね」
「何がやっぱりなの?」
「これは恐らくぼくの世界にあった豆だ。といっても、創作物の中だけどね。たぶん、これ1粒でお腹が膨れたり、どんな傷でも治してしまう効果があるんだと思う」
「それ! すごいじゃない!」
「うん。これなら、食糧にも困らないかも」
「効果が本物なら、売り物にも出来るかもね。あたしも食べたい」
「いいよ」
ガヴの反応を見る限り、毒とかはなさそうだ。
ぼくはクレリアさんに豆を渡そうとすると、待ったがかかった。
「トモアキが食べさせて」
「え? ぼくが……」
「ダメ? ガヴにも食べさせてあげたじゃない!」
あれはむしろガヴが奪ったって感じなんだけど。
仕方ないなあ……。
ぼくは豆を指で摘む。
「じゃあ……。はい。あーん」
「あーん」
大きく口を開けるクレリアさんに食べさせた。
すると、クレリアさんはぼくの指ごと口に入れる。
唇をすぼめ、指についたぼくの汗でも拭き取るかのように舐めると、やがて豆だけ取っていった。
咀嚼しながら、軽く指で口元を拭う。
頬を上気させながら、蠱惑的に笑った。
そして豆を飲み込んだ。
「おいしかった!」
な、何が美味しかったのかな。
豆? それとも指?
「どっちだと思う?」
「え? いや……えっと…………」
「むふふ……。どっちも美味しかったよ」
今度は悪戯っぽくクレリアさんは笑った。
それからぼくは何度か魔法を試してみた。
わかったのは、やはりあの豆と同等の効果があること。
魔法で出せる数には上限があって、7つ以上出せないようだ。
7つというところも、あの漫画と合わせたのかな。
ぼくはこの豆のことを神豆と名付けることにした。
さすがに呼称に何度も○を入れるわけにはいかないからね。
ともかく、神豆のおかげで屋敷の食糧事情は一気に解決したのだった。
あのバトルシステムは、ゲームをやりながら漫画を見てるようで画期的でしたw
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