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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第3章 お屋敷の生活編

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第28話 魔法使い、世界の理に疑問をもつも、めんどくさいので考えるのをやめる。

ちょっとめんどくさいことを考える回。

 魔物たちは全滅した。

 アリアハルの街に平和が戻り、改めてぼくとぼくの女の子に賞賛が送られる。


「さすが、魔法使い様だ」

「いや、今回は魔法使い様じゃないぞ」

「魔法使い様の奴隷も強いんだな」

「魔王の幹部をあっさり倒してしまうなんて」


 やんややんやとぼくたちを持ち上げる。

 その賞賛を受けることができるほど、元気ではなかったのだけど、代わりにパーヤたちが手を振って応えていた。


 そのぼくに近寄ってきた人がいた。

 アリアハルを守る兵士たちだ。その中には、顔見知りの門兵さんも含まれていた。


「ありがとう、魔法使いくん」

「いえ。今回は、ぼくの女の子たちが頑張ってくれたので。ぼくは何も――」

「そうか。すまない。我々がふがいないばかりに」


 見る限り、門兵さんたちも魔物と戦ったらしい。

 概ね回復薬を飲んで助かったようだが、みな防具や武器がボロボロだった。


「いえ。相手が魔王の幹部なら仕方ないです。それよりも大丈夫ですか?」

「負傷したものがいたが、みんな回復している。……まあ、傷を負うのが我々の仕事みたいなものだからな」

「この街って他に兵はいないんですか?」


 どう見ても、50人もいない。

 街を守るのに少ないような気がする。


「兵士が不足しているのは、どこの街も同じさ」

「兵士を募ったらダメなんですか?」

「それは出来ないんだよ、魔法使いくん」

「どうしてですか?」


 ぼくの疑問に答えてくれたのは、質問を聞いたパーヤだった。


「ご主人様……。ハイミルドでは、大神がお与え下さったジョブに従って生きることが常識として捉えられています。それに法律にも、ジョブ以外の職業に就くことを禁止されているのです」

「でも、奴隷は? パーヤやガヴは」


 パーヤは少し困ったように苦笑した。

 言いにくそうにするぼくの奴隷に、クレリアさんが補足してくれた。


「法律上、奴隷は人間ではないという括りになっているんだよ」


 うーん。

 ひどい話だな。

 どう見ても、パーヤもガヴも可愛い女の子なのに。


「でも、職業選択の自由はあった方がいいと思うよ。いくら神さまから与えられても、その人に合わないことだってあるだろうし。お金や、パーヤさんのように家の都合だってあるでしょ。今も転職が自由なら、多くの兵を集めることが出来るかもしれない」

「それはそうなんだけどね。こればっかりはどうしようもないよ」


 門兵さんは肩を落とす。


 法律に、神さまか……。

 国も、大神とやらも、どうしてこんなめんどくさいことをしたのかな。


 ぼくはふと空を見上げた。



 ★



 ぼくがハイミルドのシステムに疑問を持つことは、1度や2度ではない。

 そもそもこれのおかげで、異世界生活序盤は苦しめられたといっていい。

 パーヤだって厳しい修行しないで、神官にすんなりなれたかもしれない。

 ガヴだって、学校へ行って同い年の子と机を並べて勉強していたかもしれないし、クレリアさんも魔法使いじゃなくて、薬膳料理のエキスパートになっていたかもしれない。


 人が持つ可能性を摘んでまで、大神とやらは一体何をしたいのだろうか。

 それにのうのうと従う国や権力者もどうなのかなあ、と思う。


 ああ……。

 でも、難しいことはあまり考えたくないなあ。

 ぼくは、基本的には平和主義者の日和見主義だし。

 とにかく、1日1日に小さな幸せがあれば、ぼくは満足なんだから。


 そんなことをしばし考えた後、ジャイアントオーク(弟)の襲撃から1週間が経とうとしていた。


 そんなある日。

 ぼくの屋敷にまたしても事件が起きる。

 そいつは突然、現れたんだ。


 初めに応対したのは、パーヤだった。

 その者の名前を聞き、私室でクレリアさんから魔法の基礎を教えてもらっていたぼくの元にやって来た。


「どうしたの、パーヤ? 血相を変えて」

「ご主人様。実は、勇者様が先ほど屋敷を来られまして」


 へ? 同僚が?


 なんでうちに来たんだろう?

 家を買ったなんて話はしてないんだけどなあ。

 誰かに聞いたかな。

 あの鹿のヤツあたりが怪しい。


「わかった。ぼくが相手をするよ。それで勇者はどこにいるの? 客間?」

「それが……。台所に……」

「台所?」


 ぼくは首を捻りながら、パーヤと共に台所へ行く。

 クレリアさんとガヴも付いてきた。


 台所をのぞくと、如何にも軽薄そうな男が、壺の中を覗き込んでいる。


「ああ。なんか金目のものとかねぇなあ。貴族の屋敷だから、なんかもっとあると思っていたのに」


 ぶつぶつ呟いている。

 ぼくは顔をしかめた。


「あの……」

「ん? おお。あんたがもしかしてこの屋敷の当主かい?」

「は、はあ……」

「じゃあさ。金庫がある場所とか教えてくれない。もしくは宝箱とか。武器とかでもいいよ。安物はいらないけどね」

「なんでそんなものを教えなきゃならないんですか?」

「え? そんなことも知らないの」


 ケラケラと笑い出す。

 そして、胸を張り、自分を指さした。


「おれは勇者様だぜ。つまりは救世主だ。日夜、世界を救うため戦っている。だが、戦いには金が必要だ。だから、こうして財産を供出してもらってる」

「でも、強制じゃないでしょ?」

「そうさ。けどな。あんたの金庫から盗んでもいいんだぜ。そんなことをしても、誰もおれを罪に問えないからな」

「どうして?」

「そんなことも知らないのかよ。国が決めたんだ。勇者保護法って言ってな」


 そういえば、そんなものがあったな。

 おかげで、ぼくにとばっちりが来たんだ。

 あの時は散々な目にあったよ。


「なるほど。それで君はぼくの屋敷に来て、勝手に物色してるってわけ?」

「そういうこと。だから、早いところ金庫のところに案内してくれない」

「トモアキ……」


 怒りに滲んだ声がぼくの後ろから聞こえた。

 振り返らなくてもわかる。

 クレリアさんだ。

 おそらくやや広めのおでこには、青筋が浮かんでいることだろう。


「こいつ、殴っていい?」

「な! なんだよ。おれに危害を加えたら、どうなるかわかっているだろうな。王国から憲兵がやってきて、お前たちをたちまちしょっ引いちまうぞ」


 クレリアさんのあまりの迫力に、勇者はたじたじになっていた。


 ぼくはそんな彼女を手で制す。

 1つ質問を加えた。


「最後に質問があるんだけど……」

「な、なんだよ?」

「ぼくの顔に見覚えは? これでも結構有名人なんだけど」

「は? お前みたいな冴えない顔のヤツなんて知らないな」


 どいつもこいつも冴えない冴えないって。

 そんなにぼくの顔って、冴えない顔をしてるかな……。


「そうか。わかったよ」


 ぼくは肩を竦める。


 1つわかったことは、この人は勇者じゃない。

 まあ、向こうがぼくを忘れている可能性はなきにしもあらずだけど、そもそも顔の作りからして違う。

 なんせ本物の2倍ぐらいはいい(ヽヽ)男なんだからね。

 似ているのは、軽薄な雰囲気と、傲慢なところかな。

 でも、同僚(あいつ)がこういうことを他の街でやっていないか、心配になってきたよ。


「君、偽物だよね」


 ずばり言う。

 むしろその質問を待っていたかのように前髪を払い、得意げに微笑んだ。


「偽物? なんの証拠があっていってるんだ?」

「簡単だよ。勇者はぼくの知人なんだよ」

「は? 嘘つけ!」

「本当です。トモアキ様は勇者様と同じ異世界人の方なのです」

「もしかして、そんなことも知らなかったのか?」

「ばか? このひと、ばか?」


 3人の女の子から同時に非難を浴びる。


 しかし、偽勇者は態度を崩さない。

 大した精神力だ。


「まったく……。そこまで言うなら、これを見ろ!」


 差し出したのは、ステータスカードだ。

 そこには「じょぶ ゆうしゃ」と書かれていた。

 だが、名前は違っている。

 ちょいちょいディテールが甘いよね、この偽勇者。


 でも、カードは本物っぽい。

 これどうやって作ったんだろう。


「魔法だね」


 というと、クレリアさんは魔法を唱える。

 カードにかかっていた変化魔法を解除してしまった。


「げっ!」


 偽勇者は初めて狼狽した。

 ステータスカードにこう書かれていた。


 マックズ・ボードレル

 じょぶ   さぎし

 れべる   25

 ちから   88

 たいりょく 114

 すばやさ  198

 ちりょく  288

 まりょく  55

 きようさ  223

 うん    67


 うぇ!

 詐欺師ってジョブもあるの!?

 てか、詐欺師って職業じゃないと思うんだけどなあ。


「化けの皮が剥がれたね。トモアキ」

「うん。クレリアさん、死なない程度にね」

「よし!」


 クレリアさんは、1歩進み出る。

 拳をボキボキ鳴らし、くふーと唇から白い息を吐き出した。

 怒りに満ちた青い瞳は、赤へと変色し、光っている。


「ひぃ! いや、これは軽い冗談のつもりで」

「住居不法侵入が冗談だって? さらに勇者の名前を語るなんて、どうせ余罪があるんだろ、お前」

「お、お助けを!」


 お助けをって時代劇以外で初めて聞いたなあ。


「運がなかったな。詐欺師野郎。……いや、運が良かったな。うちの主人は優しいんだ。半殺し程度にすませてやるよ」

「ぎゃああああああ!!」


 詐欺師の断末魔が、ぼくの屋敷にこだます。


 一撃目はフックだった。

 綺麗に顎を捉えると、偽勇者の顔が歪んだ。

 さらにボディ……。

 吐瀉物をまき散らす。

 顎が出たところにアッパーを喰らわせた。

 それで完全に意識を失う。

 ぐるりと白目を剥いていた。


 だが、男への攻撃はそれで終わらない。

 クレリアさんは倒れかけた男の手を取り、引き寄せると頭突きを喰らわせた。

 痛そう……。ぼくは反射的に目をつぶる。


 さすがにこれで終わりかと思ったが、思わぬ参戦者が現れる。

 パーヤだ。その手には台所にあった平底の鍋が握られていた。


「クレリアさん、私も1発! ご主人様を脅すなんて飛んでもありません」

「はいよ」


 偽勇者の背中を突き飛ばす。

 とととっと、パーヤに近づいていくと、思いっきり男の顔面に鍋を叩きつける。


 その時点で男の顔の輪郭はぺしゃりと凹んでいた。

 しかし、追撃は終わらない。

 横からガヴが参戦すると、偽勇者に組み付く。


「がう゛!」


 お得意のマウントポジションから何度も殴りつけた。

 ガヴにとっては良い玩具だ。


 うわー、生きてるかな、これ……。

 てか、うちの女の子たちが怖い。

 偽勇者の自業自得だけどね。


 結局、詐欺師は顔面陥没、さらに全身の骨折する重傷を負うはめになり、2度と詐欺なんて出来ない身体になった。

 その上、街の衛兵に引き取られ、厳しい取り調べを受けたそうだ。

 どうやら、ぼくと同じような手口で、何軒もの屋敷に入って、物色していたらしい。他にも結婚詐欺なんかもやっていて、風の噂で聞いたところ、あの鹿(もう、名前忘れたわ)も、被害にあってたらしい。

 転売ヤーになってまで金を工面しようとしていたのは、男に貢ぐ金ほしさだったのだろう。


 こうして、一時アリアハルを震撼させた偽勇者は捕まった。


 ぼくも1発ぶん殴っていきたかったけど、それは本物の勇者のために残しておくことにする。


 ああ。でも、詐欺師ってこれからも詐欺師として生きていかなきゃならないのかな。やっぱおかしいよ。このジョブシステムは……。


偽勇者回は、本物の勇者が出てきた時のデモンストレーション回。


投稿2週間で月間総合60位まで来てます!

ブクマ・評価・感想いただいた方ありがとうございます。

もう少し伸ばして、異世界転移/転生(ファンタジー)四半期ランキングに食い込めるように頑張ります!!

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