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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第3章 お屋敷の生活編

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第27話 女たちの戦い2

お待たせしました。

「お待たせしましたわ」


 女性陣の用意を玄関前の階段に座って待っていたぼくは、振り返った。


「おお……」


 思わず歓声を上げてしまう。

 まず目がいったのは、パーヤだ。

 見慣れたメイド服を脱いで、初めて会った時の神官服を身に纏っていた。

 相変わらず、布のサイズが足りなくて、胸が大きく突っ張っている。あれ? 前より大きくなってないかな。まさか……まだ成長しているなんてことは(ごくり)。


「へぇ……。パーヤって神官だったんだ」


 と言ったのは、クレリアさんだった。

 こちらもシックな魔女ッ子コスに着替えている。


「真似事程度ですけど、足手まといにはなりませんよ」

「そう? でも、神官だったらもうちょっと慎みある格好にしなよ」


 クレリアさんは、パーヤの腰に下がった前垂れをひらりとめくる。

 前までスリットが入っていたスカートが変更されて、腰から1枚の布が下がっているだけの仕様になっていた。

 それによって片足だけでなく、両太股が見えるようになっている。


 あ。もちろん、前垂れの下には下着を履いていた。

 ちなみに白だ。


「キャ! ちょっとクレリアさん!」

「明らかに昨日のトモアキの言葉に触発されているだろ。あたしに対抗するなんて百年早いわよ。ね、トモアキ?」

「でも、パーヤの足も綺麗だよ」

「な! ……うーん、あたしももっと露出増やそうかな。でも、どう見ても胸の大きさは――あぁぁああ!」


 絶望的な戦力差を見せつけられ、クレリアさんは頭を抱えた。

 パーヤはふんと鼻息を荒くする。


「がーう゛、どう?」


 そんな2人を尻目に、ガヴがぼくに近寄ってきた。

 普段着ているスモックみたいな服に、膝と肘にサポーターが巻かれている。さらに拳には、ボクサーがするテーピングのように包帯が巻かれていた。


「ガヴのは可愛いっていうよりは、かっこいいだね」

「がう゛、かっこいい……」


 おお、と歓声を上げて、目をキラキラさせる。


「ガヴさんは最低限の装備に留めました。防御を固めるより、スピードを生かして攪乱してもらう方がいいと思ったので」

「なるほど。さすがパーヤだね」

「さ! 準備は出来たよ、トモアキ」

「うん。行こうか」


 ぼくたちは屋敷を飛び出した。




 街の広場に行くと、当然だけど魔物がいた。


 一体は巨大なオークだ。

 灰色の肌に、大きなお腹。首からは人間から奪ったと思われる宝石をじゃらじゃらと垂らしていた。

 ぼくが拾ってきたジャイアントオークの剣を掲げ、がなり立てている。


 その側には、これまた大きなスライム。さらに昼間にも関わらず、ゴーストがくるくると舞っていた。どうでもいいけど、ゴーストって昼間でも出現するんだね。ゲームの中のゴーストって結構昼間でも出てくるから、それと一緒なのかな。


 それを遠巻きに人々が見ている――という状況だ。


 ぼくたちが近づいてくるのを目敏く見つけると、オークは剣の切っ先をぼくに向けた。


「てめぇが魔法使いだな」

「うん。まあ、そうです。一応、言うんだけど、帰ってくれないかな。ぼく、今日は風邪気味なんだ、けほけほ」

「馬鹿か! 貴様は! それで帰る魔族がどこにいるんだよ!」


 だよね~。


「一応、確認するぞ。俺の兄貴であるジャイアントオークをやったのはお前か?」

「それをやったのは勇者だよ」

「しらばっくれるな! 調べはついているんだ!」


 だったら確認なんてしなきゃいいじゃないか。


「生き残ったオークがな。息絶え絶えに俺の腕の中で、死の間際に教えてくれたんだ。勇者とは違う……。冴えない男だったって」


 おい。

 それでぼくだって判別するところに無理がないか?


 しかし、涙ながらに語る人情派オークは、さらに熱弁した。


「それに兄貴はな! ジャイアントオークはな。明日結婚する予定だったんだ!」

「は――?」

「それに嫁さんのお腹には赤ちゃんがいて。来月には生まれる予定だったのに。てめぇはそんな幸せな家族を全部吹き飛ばしやがって! 悪魔か、貴様!!」


 魔族に悪魔とかいわれちゃったよ。

 というか、ぼくに負けたというよりは、完全に死亡フラグで負けてるよね、君の兄貴……。


「てめぇだけは絶対ゆるさねぇ! 地獄に送って、兄貴に百万回土下座させてやるからな!」

「ピキィイ!」

「ヒョロロロロ!」

「おっと! 忘れるところだったぜ。他も紹介しよう! 俺の仇討ちに加わってくれたメンバーたちだ!」


 なんかライブのメンバー紹介にみたいになってきた。


「スライムを倒されすぎて怒り狂ったスライムキング!」

「ピキィイイイ!!」

「昼間で死にそうになってるけど、キングシャドル様の仇を討つため、無理して現れたゴーストたちだ!」

「ヒョロロロロ!」


 スライムはともかく、ゴーストはやっぱ無理をしてたんだ。


「こいつらもお前に恨みがあるらしい。存分に可愛がってもらいな」

「そんなことはさせないわ」

「そうです! ご主人様には指一本触れさせません」

「がう゛! がーう゛!!」


 ぼくとオークの間に入ったのは、女性陣だった。

 クレリアさんは杖を、パーヤは錫杖を掲げ、ガヴはファイティングポーズを取る。


「なるほど。お前も数を揃えてきたというわけか。しっかし、女に守られるなんて情けねぇなあ」

「女と思ったら痛い目を見るよ。この子たちはみんな強いからね」

「ぬかせ! 行くぞ! 同志たち!!」

「ピキィン!」

「ヒョロロ!」


 3種類の魔物と魔族がぼくたちに襲いかかってくる。


「あたしが先行するわ。あんたたちは後から付いてきなさい」


 まずクレリアさんが駆けだした。

 すると、杖を振るう。

 ふわりと空中に浮かぶと、魔物たちの頭上を取った。


「あんまり広範囲な魔法は使えないけど、頭上からの攻撃なら流れ弾も当たらないでしょ!」


 というと、呪文を詠唱した。


「精霊の一鍵イフリルよ。紅蓮を纏いし、火車の獣よ。我が声を聞け! 其の天空を朱に轢きし力()て、罪深き大地を業火に尽くせ!」


 裁きの鉄槌火(ナパームブラスト)


 掲げた手から、炎の雨を降らせる。

 魔物を頭上から襲い、貫いた。

 爆炎と同時に、爆音がアリアハルの街に突き刺さる。


「ちょっと! クレリアさん、自分で1人でやっつけるおつもりですか!?」

「大丈夫だよ、パーヤ。威力はかなり絞っている。たぶん、致命傷にはいたらないと思う。それよりも、彼女が離れてくれた今がチャンスだ。魔法を唱えるからじっとしてて――うっ! けほけほ」

「ご主人様! やはりご無理はなさらない方が……」

「がう゛!」

「大丈夫。ごめんごめん。行くよ」


 ぼくは手を掲げた。

 呪文を唱える。


「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」


 なにもおこらない。


 しかし、クレリアさんは強く拳を握る。


「力が漲ってきましたわ」

「がう゛も! がんばる!」


 ガヴもまた両拳を打ち鳴らす。


「行っておいで。ぼくの可愛い女の子たち」

「はい!」

「がう゛!」


 2人は飛び出していく。

 予想通り、3種類の魔族と魔物は生きていた。


 クレリアさんが降りてきた地点に、パーヤとガヴが合流する。


「遅かったわね。待ちくたびれて全部根絶やしにしてあげるところだったわ」

「ええ。ちょっと心配しましたわ」

「がう゛もたたがう!」

「そう? じゃあ、頼むとしますか」

「オークは譲ってあげますわ。その代わり、わたしはゴーストを」

「ありがたいわね。メインをくれるなんて」

「がう゛はスライムだおず!」


 包帯で巻かれた拳をスライムに向けた。

 パーヤとクレリアさんは同時に微笑む。


「話はまとまったようですわね」

「じゃあ! 行こうか!」


 3人は散る。

 それぞれの狙いモンスターと対峙した。

 先制したのは、パーヤだ。


「慈愛の神エルよ。我が言ノ葉に耳を傾けよ。我は汝の御子パーヤなり。其の手に宿る光の一涙を以て、停滞せし魂をうち払え!」


 浄炎の光よ(セイント・フレア)


 光が渦巻く。

 昼間に現れた弊害か。

 すでに消えかかっていたゴーストに、トドメを刺した。


 街の中でひらりと舞っていた幽霊がすべて消滅する。

 うん。久しぶりの実戦だけど、パーヤも強いや。


 一方、ガヴはなんの小細工もなしにスライムに突撃した。


「ピキィ!」


 スライムキングは身体の一部を突起状に変化させる。

 そのまま獣人の娘に絡みついた。


「がう゛!」


 あっという間にガヴを締め付け、つるし上げた。

 さらに顔へと伸びて、唇を塞ぐ。

 小さな身体がぬらぬらとしたスライムの液によって蹂躙される。


 ごくり――。


 こういうのって巨乳キャラとかやるけど、幼女もなかなか……。


 何を言っているんだ、ぼくは。

 ガヴがピンチなんじゃないか。


「ガヴ!? 大丈夫かい?」

「がう゛!」


 頷くと同時に、喉に入ったスライムを噛み砕いた。

 さらに絡みついた突起を、力任せに引っ張り、引き剥がす。

 緩んだところでするりと抜けた。


 ああ。幼女の触手縛りはこれにておしまいか。

 しょぼん……。


「がう゛!」


 地面に着地し、ガヴは突起を掴んだ。

 思いっきり力を入れると、巨大なスライムがずずずっと動きはじめる。

 次第に回転――。ジャイアントスイングのように投げ飛ばした。


 その膂力は強く、一瞬にしてスライムは街の彼方へと消える。

 レベル50なのに、ガヴの力ってホント凄いんだね。


「あの2人なかなかやるじゃない。あたしも負けてらんないわね」

「くそ! 我が同志たちがこうもあっさり」

「組む相手を間違えたんじゃないの」

「うるさい! こうなったら1人でも!」

「1人になった時点であんたの負けよ」

「はあ?」

「ま。3匹になったところで、あたしは勝つけどね」


 帽子のつばを掴み、レベル90“爆撃の魔女(エクスブローラー)”と呼ばれた魔法使いは、不敵に笑う。

 気が付けば、オークの間合いに入っていた。


 来なさい、指で挑発する。

 オークの怒りの度合いは、一気にMAXへと駆け上がった。

 大きく武器を振りかざす。

 自分の兄の剣だ。


「しねぇええええええええ!」


 オークの剣閃よりも、クレリアさんの呪文の方が早かった。


 熱線掌破(フラム・ブレイク)


 白い手が真っ赤に光る。

 そのままオークの大きな腹をトンと軽く押した。

 瞬間、オークは剣を振り下ろすよりも早く燃え上がる。


「ぐあああああああ!!」


 真っ赤になったオークの身体が炎に溶かされていく。

 爛れた皮膚がボロボロとそげ落ちた。

 さらに筋肉、骨という順番で消滅していく。


 気が付けば、オークは消えていた。

 残ったのは、顔をしかめたくなるような異臭だけだ。


 すごい。

 といったのは、クレリアさんの技術だ。

 彼女は呪文を唱えなかった。

 本来4小節もしくは5小節になる詠唱文が必要になるはずなのに。

 これが詠唱破棄というヤツだろう。

 なんだか、格好いい。


 かくして魔物たちは全滅した。


 3人は同時に振り返る。

 その顔はとても得意げで、ぼくの言葉を待っているように思えた。


「3人とも、凄かったよ」


 というと、パーヤも、クレリアさんも、ガヴも子供のように微笑むのだった。


いつもブクマ・評価・感想いただきありがとうございます。

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