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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第3章 お屋敷の生活編

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幕間 魔法使いの守護者

感想欄の要望に早速応えていく回。

 その出来事の始まりは夜の空から始まった。


 アリアハルの上空300メートル。

 街が一望できる高さである。

 何もない中空に、奇妙な黒点が1点浮かんでいた。

 もぞもぞと大量の油虫が這い回るかのように動き出すと、次第に人の形を取りはじめる。

 やがて現れたのは、女――。


 しかし、その姿は人間というには、やや常軌を逸していた。


 男のなに(ヽヽ)どころか、腕すらスッポリ包んでしまいそうな大きな胸。

 くびれから臀部、さらに太股へと向かう優雅な曲線は見事で、まるでレーザーで切り取られたかのように精緻だった。

 妖姿媚態の女。

 だが、その肌は濃い闇色をしていた。


 彼女の名前はレミルという。

 姿形こそ人間と似ているが、これでも魔族。

 しかも、魔王の四天王の1人で“夢魔(ナイトメア)”のレミルと恐れられた大魔族である。


 そのレミルは、月夜の空のような青ざめた髪を夜気にさらし、黒く染まった唇を歪曲させる。


 すると、すとんと落下した。

 降りた先は、貴族の屋敷や別荘が建ち並ぶ一画。

 その中でも比較的小さな屋敷の屋根だった。


「ここが噂の魔法使いの屋敷か……」


 黒目に赤い斑点のような虹彩を細める。


 レミルがアリアハルにやってきたのは調査と対象の即時抹殺だった。


 先日、この街にてキングシャドルが何もかによって殺された。

 何故、かの魔族が雑魚しかいないはじまりの町にいたのかは、今を持って不明であったが、周辺を調査する限り、何かの実験を行っていたらしい。


 それはともかくとして問題なのは、キングシャドルほどの幹部を殺してしまう手練れが、アリアハルに存在するということだ。

 最初は気まぐれでこの街に帰還した勇者の仕業かと思われた。だが、部下が調査したところによると、街に住む魔法使いが倒したらしい。


 その部下も調査中に行方を断った。

 その魔法使いと接敵すると言い残した直後だった。


 次期四天王候補とも呼ばれたキングシャドルを殺したほどの手練れ。

 さらに魔族の行方不明に関わっている可能性がある。

 その接近は細心の注意を払わねばならない。

 そこで白羽の矢が立ったのが、レミルだった。


 彼女が選ばれたのは3つ。

 1つキングシャドルよりも強いこと。

 2つ彼女の能力が諜報向きであったこと。

 3つレミル自身が、志願したことである。


 キングシャドルは彼女の部下だった。

 部下の仇などという人間くさい感情は生憎と持ち合わせていないが、部下の失態は上司の責任でもある。

 汚名返上のためにも、自ら志願した。


 時間が丑三つ時。

 街は静謐に包まれていた。

 屋敷の周りに明かりはなく、遠くの方で門灯の篝火がポツンと光るのみだ。


 レミルは天窓を開けようと、手を伸ばした。


「おっと」


 伸ばした手を引っ込める。

 トラップだ。

 おそらく高レベルの魔法使いが仕込んだ結界。

 だが、これぐらいの障害は想定内だった。


 レミルは一旦身体を気化させる。

 黒い泡に戻ると、結界の隙間を伝い、中へと侵入した。


 さらにいくつかのトラップが仕掛けられていたが、そのすべてをレミルは無効化してしまう。やがて人間の肢体になり、辺りを窺った。


 男が寝ていた。

 黒髪。白というよりは、黄色の肌。

 ややとぼけた感じの容貌。


 部下の報告と一致する。

 間違いない。

 この男こそが、キングシャドルを倒したという魔法使いだ。


 忍び寄る魔族のことなど知らず、魔法使いは規則正しい寝息を立てている。

 こんなマヌケ面に我が部下が殺されたと思うと、怒りを通り越して唖然としてしまう。


 レミルは中空から黒いダガーを取り出す。

 逆手で持ち、切っ先を男の顔へと向けた。


「死ね!」


 思いっきり振り下ろす。

 しかし、その刃が魔法使いの皮膚を突き刺すことはなかった。

 横合いからレミルの手を掴んだ者がいたのである。

 緑のグローブをした手が、がっしりと魔族の腕を掴んでいた。


「ちょっと待った、お嬢さん」


 直後、軽薄な声。

 レミルの禍々しく歪んだ耳を打つ。

 横を見ると、やはり男がいた。


 ゴーグルを巻いた茶色の髪。

 童顔で小さく、背丈もさほどない。

 その口元は皮肉っぽく歪み、つぶらな瞳も笑っている。

 前掛けのような緑の司祭服には、まるで鳥のような意匠が描かれていた。


 レミルは、二瞬ほど呆然とした後、慌ててダガーを男に振るう。

 掴んだ手を離し、バックステップをして緑の小男は、距離を取った。


「貴様、何者だ?」

「それを聞きたいのは私たちの方です」


 声は別方向から聞こえた。

 ちょうど後ろだ。


 振り返ると、女が立っていた。


 赤い頭巾を被り、はみ出でた長い髪は深い紫色をしている。

 肌は白く、容貌も整っているが、その肢体は白いローブに覆われ判然としない。 男とは違って油断なく、赤い眼を光らせ、先に宝玉が付いた杖をレミルに向けていた。

 頭巾には男と同じ鳥の意匠が描かれている。


 レミルは驚いていた。

 2人の人間に出会ったことにではない。

 この人間たちが起きているこ(ヽヽヽヽヽヽ)とに驚いてい(ヽヽヽヽヽヽ)()


 レミルは夢魔だ。

 そしてその能力の1つは、人間に強い睡眠状態を強いること。

 どれほどステータスを磨いたところで、レミルを前にして10分以上起きてられるものなどいない。それほど強力なものなのだ。


 能力の発動は、彼女がアリアハルの上空に現れた時点で効果が出ていた。

 たった一瞬で、街に住む人間全員をレミルは夢の世界へと落としている。


 しかし、この男女どうだ。

 レミルの前にあって、眠い目を擦るどころか溌剌としている。

 ただ者ではないことは確かだった。


 やがて女は息を吐く。


「黙りですか……。王子」

「はいはい」


 王子と呼ばれた緑の小男は、手を掲げる。

 何やら短い呪文めいたものを唱えた。

 すると――。


「う……。ぐぅぅ…………」


 いきなり喉元を締め付けられる。

 呼吸を奪われ、さらに身体中の筋肉が弛緩し、力が入らなくなった。

 必死に抗おうとするも、ダガーを振るうことさえ出来ない。


「あんたに今、死の魔法をかけた。大人しくゲロった方が身のためだぜ」


 やばい。

 この魔法はやばい!


「わ、私は魔族」

「そんなことは見ればわかります。どこのどなたなのかはっきり仰って下さい」


 赤の女の声が、冷然と響いた。


「名前はレミル。“夢魔”のレミル。ま、魔王四天王の1人だ」

「ひゅー。今度は四天王様かよ」


 緑の小男は唇を鳴らした。

 赤の女が質問する。


「何故、ここに?」

「そこにいる魔法使いを調査および暗殺をしにきた」

「何故?」

「そいつがキングシャドルを殺したからだ」

「なるほど。あなたも一緒ですか」

「一緒? ということは貴様らか! 我ら魔族を――」

「ええ……。あなたたちが放った刺客は、すべて私たちが排除しました」


 女は淡々と言った。


 レミルは赤い眼を燃え上がらせる。

 しかし男の放った死の魔法とやらは確実に身体を蝕んでいった。

 すでに視界をかすみ始め、言葉を発することさえ難しい。


 まずい。

 非常にまずい状況だ。

 レミルの頭の中ではすでに戦闘継続という文字はない。

 どうにか撤退し、この状況を伝えねばならないと考えていた。


「き……。き、きさまら、なにものだ。けっかいも、おまえ……たちが……」

「結界はここに住んでいらっしゃる別の魔法使いが張ったものです」


 女は答える。


「……で、では……お前たちも、そ、そこの男の……仲間、か……」

「仲間というよりは、俺たちは自分たちのことを守護者と呼んでいる」

「しゅ、ご……しゃ……」

「我々は普通の人間とは異なる存在。そこにいる相田トモアキ様によって、召喚され、この世界にて現界した存在なのです」

「といっても、俺たちのご主人様はこのことを知らないがな」

「いくつかマスターが唱えた呪文の中に、我々を召喚する魔法が存在していたのです。ただし、我々が現界している時間は、主人が眠りについている間。さらに、我々はマスターの御身に危険が迫った時にのみ、現界できると規定しております。故に、そのことをマスター自身が確認することは容易ではないでしょう」

「本当なら自由に現界して、いろんなところを見て回りたいのによ。俺たちのリーダーがそう決めてしまったから、出来ないんだ」

「我々の存在は秘匿しなければならない。この魔法を悪用されては、この世界のシステムすら危うくなるのですよ、王子」

「わかってるよ、王女」


 緑の小男は肩を竦める。


 話をぼんやりと聞きながら、レミルは必死に抵抗していた。

 夢魔状態――つまり黒の泡――になるよう試したが、全く変化出来ない。

 おそらく、何か魔法やスキルを封じる手段を守護者とやらが行使しているのだろう。


 やがて2人は、レミルに向き直った。

 女は1歩進み出る。


「さて、あなたには粉微塵になってもらいます」

「――――! ――――!!」


 もはや声すら出せない。

 ただ女の冷たい赤い眼を見ていることしか出来なかった。


「我々の存在を知る手がかりは、塵1つも残すわけには行きませんので」

「じゃあな、ねーちゃん。久しぶりにおっきなおっぱいが見られて、眼福だったぜ。なんせ王女の胸はよ」

「黙りなさい、王子。手元が狂って、あなたの方に向けるかもしれませんよ」

「ちょ! 勘弁してくれよ」


 その時だった。

 ほんの一瞬だが、レミルを捉えている死の魔法が緩む。

 すかさずレミルは飛び出した。

 部屋の天窓を突き破り、夜の闇へと飛び出す。


「はは! 馬鹿め! 油断するからだ」


 喉元を押さえながら、生の喜びと共にレミルの口から笑声が漏れる。


 だが、その生は一瞬だった。


 不意に影が覆う。

 星が雲に隠れたのかと思った。

 が、そうではない。


 中空を舞うレミルの前に、真っ青な服を纏った男が躍り出る。

 精悍な顔立ち。真一文字に結ばれた口元。

 青い目を冷たく光らせた男の手には、禍々しい大剣と盾が握られていた。


 盾には鳥の意匠――。

 それを見て、レミルは理解した。


 こいつがリーダー(あたま)だ。


 大剣が光る。

 風切り音が2つ。

 瞬間、レミルは袈裟、さらに逆袈裟に斬られていた。


 地面に落ちる。

 四天王“夢魔”のレミルは、4つに分断され、絶命していた。


 遅れて青い男も地面に降り立つ。

 剣を背中に提げた鞘にしまった。


「王子、大丈夫ですか?」


 声をかけたのは、赤い女だった。

 その背後には、緑の小男もいる。


「王女。処分を頼む」

「わかりました。それにしても――」


 赤い女は緑の小男を睨む。


「ごめんごめん。でも、こいつは絶命したし。問題ないだろ」

「魔族を取り逃がすなんて。許されざる失態だわ」

「だから、ごめんってば」

「王女。それぐらいで許してやれ」


 青い男は仲裁する。


「さすがリーダー! 持つべき者は頼りになる兄貴分だよな」

「王子がそう仰るなら。……でも、私の胸のことについては、あとでお話があります」

「そ、そんな――」


 寝静まった街に、3人の笑声が響き渡る。

 つと朝日が彼らを照らした。


「朝日だわ……」


 赤の女は手を組み、聖句を唱えた。

 男2人にも、光がかかる。

 すると、彼らの体躯が塵のように崩れ始めた。


「今日は、ここまでだな」

「今日もマスターが健やかでありますように」

「…………」


 三者三様の反応を見せながら、守護者達は消え去るのだった。


だいぶ気色が違った雰囲気の回だったのですが、いかがだったでしょうか?


7000pt突破しました

目指せ5桁!

ブクマ3000件も目の前です。

今後ともよろしくお願いします。

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