第25話 魔法使いのまったりな1日(クレリア編)
ボドゲをやりまくった日の夜に見直した回。
朝――。
いい匂いが鼻を突いて、ぼくは目が覚めた。
反応したのはガヴも同じらしく、ぼくと一緒に寝床から起き上がる。
お互い寝ぼけ眼を擦りながら、階下へと降りた。
台所の入口前にパーヤが立っていた。
「いい匂いだね、パーヤ。今日は何を作っているの?」
「おはようございます、トモアキ様。実は私ではなくて……」
彼女は苦笑する。
そして台所へと視線を向けた。
ぼくは中を覗く。
クレリアさんが、台所に立っていた。
しかも、メイド服を着ている。
「朝、わたしが朝食の支度をしようとした時にはもう――」
パーヤは複雑な顔でそう言った。
自分の仕事が取られて、戸惑っているのだろう。
そのクレリアさんは、ぼくの気配に気付いたらしい。
エプロンドレスをくるりと回して、挨拶した。
「あ。おはよう、お師匠様」
「おはようございます。クレリアさん。朝食を作ってくれているんですか?」
「そうだよ」
「でも、クレリアさん。屋敷とご主人様のお世話はわたしの仕事でして」
職分侵犯だと言いたいのだろう。
強い口調ではなかったが、パーヤは抗議した。
クレリアさんは包丁を振りかざしながら。
「いいじゃない、たまに……。一応あたし弟子だし。師匠の身の回りを世話するのも弟子の務めだと思うの」
答える。
どうしましょう、とパーヤはぼくの顔を見た。
「たまにならいいじゃないかな。パーヤにも休日は必要だよ」
「そうそう。あんまり仕事ばっかしてると、疲れちゃうよ」
くるっと包丁を回転させると、クレリアさんは料理の続きを始めた。
ぼくたちはしばらく食堂で待った。
パーヤもエプロンを脱いで待機している。
すると、料理を抱えたクレリアさんがやってきた。
手には土鍋を抱えている。
テーブルの中央に置く。
すでにおいしそうな匂いが食堂に立ちこめた。
「じゃーん」
クレリアさんは効果音を口にしながら、鍋の蓋を開けた。
もあっと湯気が上がる。
現れたのは、卵と数種類の山菜が入ったおじやだった。
「おいしそう!」
ぼくは唾を飲み込む。
パーヤも息を飲み、ガヴは涎をポタポタと床に垂らしていた。
「トモアキは胃が弱いんでしょ。だから、おじやにしてみたの。それだけじゃないわ。入ってるのは山菜じゃなくて、魔草なの。お腹に優しいのは勿論のこと、滋養強壮や病気に強くなる効果もあるのよ」
「すごい。薬膳料理だ」
「ふふん。どう――。少し見直したかしら」
クレリアさんは鼻を高くする。
「食べていいかな?」
「どうぞ」
「わたし、器を用意しますね」
パーヤは慌てて食器を用意する。
4人一緒にテーブルに付くと。
「「「「いただきます」」」」
声を揃えた。
口に運ぶ。
うーん、うまい!
薬膳というから、ちょっと苦かったりするのかなと思ったけど、そんな事はない。
どちかというと、口の中がスッキリする感じ。
それに加えて、程良く卵のとろみと甘みがあって、何杯でも食べられそうだった。
「おかわり!」
「おたわり!」
ぼくとガヴは同時にお椀を掲げる。
はいはい、といいながら、クレリアさんはよそってくれた。
「あの、このレシピ……。教えてくれませんか?」
「いいよ。でも、魔草はあたしがもっているのはこれだけだから。市場でも仕入れられる普通の山菜で同じ味を出せるのを教えてあげるよ」
「本当ですか。ありがとうございます」
パーヤは素直に感謝した。
「パーヤも気に入ったようだね」
「はい。何よりご主人様のお体にいいというところが気に入りました」
雑談の中で、パーヤはクレリアさんにレシピを教えてもらっていた。
楽しそうにしている。
よかった。
初めはどうなるかと思ってたけど、仲良くやっているようだ。
「それにしてもクレリアさんのメイド服姿もなかなか可愛いですね」
「な!」
ポッとクレリアさんの顔が真っ赤になる。
「そ、そうかしら。……ちょっと胸の方がスースーするけど」
「すいません。それはたぶんわたしのメイド服だからかと」
「う……」
クレリアさんは恨めしそうにパーヤの巨乳を見つめる。
改めてスカスカのメイド服を確認した。
「ねぇ。パーヤ」
「なんですか、クレリアさん」
「レシピを教える代わりに、どうやってそんなに育ったのか、あたしに教えてよ」
「それは――」
真剣なクレリアさんに対して、パーヤは苦笑で返すしかなかった。
朝食を食べ、少し休憩した後、ぼくはスライム狩りにガヴを伴って出かけた。
「あたしも付いていくわ、お師匠様」
と言ったのは、クレリアさんだ。
朝のメイド服から一転して、いつもの魔女コスに戻っていた。
コスプレじゃなくて、本当の魔法使いだけどね。
「今日は、スライム狩りだけですよ」
「いいわよ。あたしも手伝うわ」
「そうですか。じゃあ――。パーヤ、留守を頼むよ」
「はい。いってらっしゃいませ。トモアキ様」
いつも通り丁寧なお辞儀で、パーヤは見送ってくれた。
3人で街中を歩いていると、クレリアさんが話しかけてくる。
「ねぇねぇ。お師匠様って、パーヤみたいなお淑やかな女の子が好きなの」
「い゛! 何を突然……」
「いいじゃない。それぐらい」
「うーん。そうだね。優しい女の子は好きだよ」
「タイプとかある。胸が大きい方がいいとか。やっぱ美人がいいの?」
「容姿とかは特に……。やっぱり優しい子がいいな」
「ふーん」
「なんで、そういうことを聞くの?」
「うん? むふふ……。秘密」
そう言えば、前に「彼女いる?」とか聞かれたんだよな。
今度は何を企んでいるんだろう。
でも、まあ……。クレリアさん楽しそうだからいいんだけどね。
ぼくは、周りの女の子が、明るく笑っていることが、何より嬉しいんだ。
狩り場に到着すると、早速ガヴを魔法で強化する。
恩恵を受けると、獣娘はいつも通りスライムに飛びついていった。
「ふわぁ」
ぼくは大きく欠伸をする。
今日も快晴だ。
気温も丁度良くて、眠気を誘う。
「お師匠様、眠たいの?」
「うん。ちょっとね。昨日、夜遅くまで起きてたから」
「夜遅くって……。何をしてたの?」
「魔導書を書いてたんだ」
「魔導書を?」
「前にクレリアさん言ってたでしょ。イメージが大事なんだって。だから、なんとかこの世界の人でもイメージ出来るようにと思って、向こうの世界とゲームのことを最近少しずつ記しているんだよ」
「なに? それが上手くいったら、商売にでもするつもり」
「そこまで大それたことは考えてないよ。ただクレリアさんが、ぼくの魔法を使えるようになったらいいなあって思ってるだけ」
「あたし?」
「だって、クレリアさんはぼくの魔法がほしくて弟子になったんでしょ。だったら、師匠としては、教えられる状態にしないと」
「でも、そんな……。魔導書を作るなんて、なかなか出来ないわよ」
「そうなんだよね。作り始めてようやくわかったよ。……でも、折角ぼくの弟子になったんだし。手ぶらで返すわけにもいかないよ」
クレリアさんが強くなって、魔王を倒して世界が平和になれば、ぼくも住みやすくなるしね。
「お師匠様……」
「ぼくのことはトモアキでいいよ」
「え? でもあたし、弟子だし。それにパーヤだって」
「パーヤは何度言っても改めてくれないんだ。本当は呼び捨てで呼んでほしいんだけど」
「そ、そう。じゃあ、トモアキ……」
「うん」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
真っ赤になったクレリアさんの顔を見ながら、ぼくは笑った。
また欠伸をする。
「ちょっと寝ようかな。気持ちいいし」
「あのさ」
「なに? クレリアさん」
すると、彼女は正座をする。
とんとんと自分の太股を叩いた。
「使ったら……」
「それって膝枕ってこと?」
「そ、そうよ」
「いいの?」
「いいわよ。……トモアキなら」
ぼくはクレリアさんの太股を見つめた。
純白で、とても綺麗な足をしている。
とても“爆撃の魔女”なんて物騒な2つ名を持っているとは思えない。
まるで大きな宝石のようにぼくには思えた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ぼくは身体を倒し、頭をクレリアさんの太股に置いた。
思った以上に柔らかい。
そしてとてもいい匂いがする。
パーヤやガヴとは違う――クレリアさんの皮膚の匂いだ。
ぼくはその弾力を確かめたくて、太股に顔を埋めようとする。
「ひゃっ!」
女の子の悲鳴が聞こえた。
「ご、ごめん。ちょっとやりすぎた」
「……べ、別にいいわ。そ、それよりあたしの方こそごめん。変な声が出ちゃった」
「凄く可愛かったよ」
クレリアさんの顔から、ポンと音を立て、湯気が上がった。
「ななななな何を言ってるのよ」
「クレリアさん。あともう1つお願いがあるんだ」
「なに?」
「スリスリしていい?」
「スリスリ?」
「こうするんだよ」
ぼくはクレリアさんの太ももに頬をこすりつけた。
柔らかい。
そしてとても滑らかだ。
どんな高級な絹だって、この質感は出せない。
この世でただ1つのぼくの枕。
クレリアさんは唇をむずむずさせていた。
耳まで赤くなっている。
「ごめんごめん。いやだった」
「べべべべ別に……。ただちょっとこそばゆいだけだから。も、もういいの」
「うん。堪能した」
「じゃ、じゃあ……。おやすみ」
「おやすみなさい、クレリアさん」
ぼくは瞼を閉じた。
すぐに眠りに落ちる。
その中で、女の子の声が聞こえた。
――もう! 本気になっちゃうじゃない!
それは夢なのか、それとも現実なのかわからない。
その声はとても愛おしかった。
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