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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第3章 お屋敷の生活編

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第23話 新呪文のお披露目と爆撃の魔女

新ヒロイン登場回


少しいつもより長めです。

 その日、ぼくに天啓のごとくアイディアが浮かんだ。

 それは次なる呪文についてだ。


 ぼくはいてもたってもいられず、ベッドを抜け、屋敷を飛び出した。

 時間は午前5時。

 山の稜線から太陽が顔を出しはじめていた。

 空気は澄み、ひんやりとしている。

 まだ人がまばらに往来する大通りを抜け、ぼくは街の外へ向かった。


「おはようございます」

「おや。今日は随分と早いんだな」


 門兵さんに挨拶をすると、珍しがられた。


 少し街から離れ、いつもの狩り場へと向かう。

 相変わらず、うようよとスライムが這い回っていた。


 本来ならガヴに任せるのだけど、今日は連れてくるのを忘れていた。

 今もまだぼくのベッドで寝ているだろう。


 とりあえず、実験の邪魔だな。

 ぼくはレベルマ状態にして、火の弾(ファイヤボール)を放つ。

 一瞬にして、スライムは蒸発。

 コアがそこかしこに転がった。


 これで少しは落ち着いて、呪文の研究が出来る。


 ぼくが思ったのは、復活の呪文にこだわり過ぎていたということだ。

 実は、覚えている限りの呪文は唱え尽くしてしまった。

 いくつか有効な呪文は見つかったけど、「ぺぺぺ……」や「ほりい○う……」のような目に見えて能力値を引き上げることが出来る魔法は見つかっていない。


 つまり、当初の目的であった「持続時間を長くする」「呪文を短くする」は、まだまだ果たしたとは言い難い。後者は初代のパスワードを使うことによって、クリアしたかに見えたけど、まだまだ戦闘で使うには長いのだ。


 そこで今日のぼくのアイディアだ。


 これがうまく行けば、大幅に「呪文を短くする」という部分はクリア出来る。

 有効な効果があって、持続時間があれば、「ぺぺぺ……」よりも最強の魔法が出来るかもしれない。


 ぼくは早速、手を掲げた。

 集中する。


 そして唱える。


「ふ――」



 ★



 実験が終わり、ぼくはとぼとぼと街へと引き返していた。

 手にはスライムのコアがわんさと入った魔法袋を持っている。


 そして深いため息を吐いた。


 実験は失敗でもなかった。

 ただ大成功というわけではなかった。

 つまり、時間短縮ということには成功はしたのだけど、思った効果ではなかったのだ。


 まあ、使えないことはない。

 使いようによっては便利だし、汎用性もなかなかだ。

 でも、「ぺぺぺ……」以上を期待していたぼくとしては、少しがっかりな結果だった。

 一応、最強の呪文だし。期待してたんだけど。


 肩を落とし、門の前に来ると、門兵さんと何やら女の子が言い合いをしていた。


 とんがり帽子に、黒いマント。

 オーソドックスというか、もはや古典と言ってもいいほどの魔法使い衣装。

 真っ先に思い出したのは、ルーイさんだが、明らかに背丈が違う。


 2メートルを超える大女ではないけど、ぼくより少し低い程度。

 切りそろえたショートボブに、赤い瞳を光らせ、今は門兵さんを睨んでいた。

 胸の大きさはまあまあと言ったところかな。

 でも、綺麗なお椀型。腰も引き締まっていて、ぼく好みだ。

 スリットが入ったスカートからは白い太股が見え隠れしていた。


「どうしました、門兵さん」

「ああ。トモアキさん、実は――」

「トモアキ……」


 さっきまで烈火の如く門兵さんに絡んでいた女の子は、ぼくの名前を聞くなり、態度が一変する。


 ずいっと近づいてくると、親の仇みたいにぼくを睨んだ。


「あんたが相田トモアキ?」

「え……。ええ……まあ……」

「キングシャドルを倒したっていう?」

「は、はあ……。一応そういうことになっています」


 見たこともない子だけど、余所の街の魔法使いかな。

 てか、ぼくがキングシャドルを倒したのって、街の外にまで伝わってるのか。

 やだなあ……。

 ますます有名になるじゃないか。


「そう。あんたが相田トモアキなのね」

「あの……。あな――」


 名前を聞こうとした時、女の子はビシッとぼくを指さした。

 そして口から火を噴く勢いで、こう言ったのだ。


「勝負よ! 相田トモアキ」



 ★



 言われるがままというか、勢いに流されるままというか。

 ぼくは女の子に連れられ、先ほどの実験場へと戻ってきた。


「この辺りでいいかしら」

「あの~。ぼくは勝負とかは――」

「あたしの名前は、クレリア・ミル」


 唐突に名乗りはじめた。

 きっとこの子は人の話を聞かない系の女の子なんだろう。


「“爆撃の魔女(エクスブローラー)”といえば、わかるかしら」


 キラン、と歯を見せ、笑った。

 とんがり帽子のつばを押さえ、如何にも「決まった」と言わんばかりにポーズを取る。

 ポーズを取るのはいいんだけど、爆裂娘は知っていても、“爆撃の魔女(エクスブローラー)”なんて2つ名(?)は初めて聞いたんだけど。


「えっと……。ごめん。初めて聞いた」

「はあぁ! ふざけてるの! 東方の魔女! 世界最強の一角と誰もが賞賛し、勇者が降臨する前までは、あたしこそ世界を救う救世主といわれた“爆撃の魔女(エクスブローラー)”――このクレリア・ミルを知らないなんて。あんた、もぐりなの?」


 もぐりって……。魔法使いのファンクラブでもあるかのかな。


「まあ、いいわ。知らないなら教えてあげる」

「いや、いいです。さっきの説明で大体わかったので。その“爆撃の魔女(エクスブローラー)”さんがなんの用ですか?」

「クレリアでいいわ。その2つ名あんまり好きじゃないし」


 じゃあ、なんで言ったし……。


「理由は簡単。あんたにキングシャドルを倒されたから」

「それだけ?」

「あれはあたしの獲物だったの。それなのに、ポッと出のあんたにやられるなんて。ショックを通り越してがっかりだわ」


 本当にクレリアさんは肩を落とす。


「だから、あんたを倒して、キングシャドルより強いことを証明してみせるのよ」

「わかりました。ぼくの負けでいいので、帰っていいですか?」


 朝、屋敷を飛び出していったから、お腹が空いてるんだよね。

 少し運動したから、朝に弱い胃が今日は活発に動いている。

 今なら、いきなり白米山盛りでも大丈夫かもしれない。


「ちょちょちょちょちょっと! 待ちなさいよ」


 クレリアさんは慌てて引き留める。


「逃げるの、あんた!」

「逃げるも何も、ぼくはこうして負けを認めているんだからそれでいいじゃないですか」

「あたしの気が収まらないのよ!!」


 わがままだな~。


「じゃあ、勝負してぼくが勝ったらどうします?」

「そうね。それは素晴らしいことになるでしょうね。“爆撃の魔女(エクスブローラー)”クレリア・ミルを倒したっていう名声を手に入れるのだから。まあ、万が一そんなことはないでしょうけど」


 おーほっほっほっほ、と高笑いする。

 お嬢様キャラなのか、魔女ッ子キャラなのか。

 キャラぶれすぎ。

 はっきりしてほしい。


「あの……。たとえば、ぼくが勝ったら、ぼくの代わりにあなたがこの街を守るというのはどうでしょうか?」

「イヤよ、そんなの。めんどくさい」


 あっさりと一蹴されてしまった。

 段々、ちょっとイラッとしてきたぞ。


「その代わり、あたしが勝ったらあんたは何でもあたしの言うことを聞くのよ」

「ちょ! なんか全然釣り合ってないんですけど!!」

「何を言っているの。あんたが勝つなんて万が一もないんだから。釣り合う釣り合わないなんて関係ないわ。だいたいあたしに勝ったという名声以上に何がほしいのかしら」


 わけわかんない――という感じで、クレリアさんは首を振った。


 結局、勝っても負けても、ぼくにメリットがないじゃないか。

 やっぱり降りるべきだよな、この勝負。


 すると、少し離れたところから声が聞こえた。


「トモアキ様、頑張ってぇ!」

「パパ、がんがるぅ!」


 何故かパーヤとガヴが敷物を敷いて観戦していた。

 他にも街の人が門の前に集まり、こっちを見ている。


「おお。本当にクレリア・ミルだ」

「“爆撃の魔女(エクスブローラー)”の」

「レベル90もある大魔法使いだぞ」


 げぇ!

 レベル90もあるの、この子!

 しまった……。

 ちょっと迂闊だったかも。


 これは気を引き締めて戦わないといけないかもしれない。

 いや、正直に言おう。戦いたくない。


 ああ、でもさっきの魔法の実験台には丁度いいかな。

 使い方はわかれば、すぐにギブアップすればいいし。

 でも、一生いうことを聞くというのもなあ……。


 一方、クレリアさんは鼻を高くし、耳をそばだてる。

 高原の空気を吸い込むように、自分の賞賛を聞いていた。


「有名人は困るわね。ステータスを隠しても、風の噂で広まってしまうわ」


 嘘つけ!

 絶対自分で広めたろ。


「では、はじめましょうか」


 杖を構える。


 途端、空気ががらりと変わった。

 それを察し、騒がしかった街の人たちも息を飲む。

 やっぱりやるしかないらしい。

 ぼくも渋々手を掲げた。


 やがてクレリアさんの呪文の声が、風に乗って聞こえてきた。



 精霊の一鍵イフリルよ。

 我が御命に応えよ。

 そなたの身体は朱にあり。

 そなたの真命は舞いにあり。

 其は創造の一天にして、破壊を司るもの。

 声を聞け、北の塔より踊り出よ。

 紅蓮を飼い慣らすものよ!



 それは――。

 第5階梯の魔法。

 昔、ルーイさんの店でぼくが読んだ呪文だ。


 なんか嫌な予感。

 ぼくは「ぺぺぺ……」の呪文を唱えた。


 そして――。



 “死と炎(デス)()破壊を司るものよ(グロージョン)!”



 火柱が背後で炸裂した。

 炎が空を掴まんばかりに伸びていく。

 半径30メートル圏内を塵も残さず焼き尽くした。


 おお、という歓声が群衆の中から上がる。


 なるほど。

 これが“爆撃の魔女(エクスブローラー)”と呼ばれる由縁か。


 背後の火を見るぼくに、クレリアさんは微笑んだ。


「今の挨拶程度よ。今度は外さない。降りるなら今のうちよ」


 降りるなら今のうちよって……。

 強引に勝負に引き込んだのはそっちじゃないか。

 とはいえ、負けたら言うことを聞かなきゃならなくなる。

 どんなことをされるのかは想像も付かないけど、こんなわがまま娘の側には、1分たりともいたくなかった。


 ともかく、今の魔法は怖いな。

 レベルマ状態でもさすがにダメージを追うだろう。


 ぼくは手をかざす。


「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」


 と唱えた。

 彼女は呪文を聞いて、ケラケラと笑う。


「なにそれ? 呪文なの?」

「おまじないみたいなものですよ」

「今さら必勝祈願。そんなもの、あたしの魔法で焼き尽くしてあげる」


 再びクレリアさんは先ほどの魔法を発動する。


 ぼくは狙いを見定め、素早く動いた。

 魔法を回避する。


 先ほどよりも効果範囲が狭く、威力も低い。

 魔法発動タイムラグを大きくなり、ぼくは余裕で避けることが出来た。


「あれ?」


 クレリアさんは自分の手の平を見ながら、首を傾げる。


 ステータスカードを確認すれば、すぐにわかるんだろうけど、自分が今レベル50になっているなんて夢にも思わないだろうね。


 一応、研究から「ほりい○う……」の魔法は、能力値を引き上げるのではなくて、強制的にレベル50にするというのがわかっている。

 つまり、相手がレベル90なら、引き下げる効力を持っているのだ。


 これで少しは安全に戦うことが出来る。


 ぼくは手を掲げた。


「精霊の一鍵イフリルよ。其の力、我の手に宿りて、紅蓮を示せ!」

「遅い! 精霊の一鍵イフリルよ。我が御命に応えよ。そなたの身体は朱にあり。そなたの真命は舞いにあり。其は創造の一天にして、破壊を司るもの。声を聞け、北の塔より踊り出よ。紅蓮を飼い慣らすものよ!」


 速い!

 長い呪文を一気にまくし立て、ぼくとほぼ同時に魔法を放った。


 火の弾(ファイヤボール)

 死と炎(デス)()破壊を司るものよ(グロージョン)


 2つの炎がぼくとクレリアさんの中間地点で炸裂する。

 まるで2尾の龍が相争うように拮抗した。

 やがて鋭い音を立てて消滅する。


 さすが第5階梯魔法だな。

 レベル50でも、レベルマ状態のぼくの魔法の威力と一緒なんて。

 威力を押さえ気味にしてるとはいえ、階梯が違うだけでこうも差が出るなんて。

 今度、魔導書を買って読んでみようかな。

 でも、またうんざりするぐらい下準備が必要なんだろうな。


「やるじゃない」


 クレリアさんの顔から笑みが消えていた。

 向こうからしても驚くべき事だろう。

 第5階梯の魔法が、第1階梯の魔法と同じ威力なのだ。

 冷静に見えて、頭の中はパニックになっているかもしれない。


「だが、あなたの弱点はわかってる」

「え?」


 そんな!

 まさか!

 ぼくでも知らない弱点を、あの一合だけで見抜いたのか。

 さすがは“爆撃の魔女(エクスブローラー)”。

「詠唱速度が遅い!」


 悪かったな。

 早口言葉というか、速く喋るの苦手なんだよ。

 噛みそうになるし。


「この勝負もらったわ。精霊の一鍵イフリルよ――」


 再びクレリアさんは呪文を唱え始める。

 先ほどよりも速い。しかも正確だ。


 が、ぼくは落ち着いていた。

 手を掲げる。


 ただ一言――いや、一文字唱えた。



「ふ」



 瞬間、火の弾(ファイヤボール)がクレリアさんに直撃した。


 爆炎が魔女とその悲鳴を飲み込んだ。


 やがて炎が消える。

 煙の中から、ボロボロになった魔法使いが立ち上がった。

 まだ生きているらしい。

 さすがは“爆撃の魔女(エクスブローラー)”。

 炎耐性でも付加されているのだろうか。

 そもそも自分の炎に巻き込まれたら、大事件だしね。


「あ、あんた――今、何を……」

「魔法ですよ」

「くそ! もう一度、精霊の一鍵――」

「ふ」


 再び炎が彼女に襲いかかった。


 さらに魔女は黒こげになる。


「まだ! まだよ! 精霊の――」

「ふ」


 炎がドカーン!


「ま、まだまだ! せいれ――」

「ふ」


 ドカーン!


「せ――」


 一文字言い残し、クレリアさんはパタリと倒れた。

 いやー、しぶとかった。

 ぼくの魔法に4回も耐えきるなんて。

 さすが2つ名を持つ魔女だね。

 たぶん、キングシャドルと戦ってたら、勝てたんじゃないかな。


 ちなみに呪文「ふ」は、ゲームでは最高レベル最強装備になるパスワードだ。

 けれど、ここでは前に使った魔法をリピートすることが出来るらしい。

 1回だけ魔法を唱えれば、後は「ふ」だけで済むからとても便利だ。


「大丈夫ですか、クレリアさん」

「う……。うぐ……」


 なんとか息はあるらしい。

 凄まじい生命力だね。

 さて、どうしようか。

 ともかく回復薬でも飲ませよう。


 人殺しはいけないよね


 すると、いつの間にか側にガヴがやってきた。

 ぼくの背中によじ登ると、片方の手をあげる。


「おおおおおおおおおお!」


 瞬間、怒号が響いた。


「すげぇ! マジで“爆撃の魔女(エクスブローラー)”やっつけちまった」

「無茶苦茶強いなあ、うちの魔法使いは!」

「さすがは、我が街の守り神じゃ。なんまんだーなんまんだー」


 口々にぼくを賞賛する。

 ああ。ヤバい。

 また自分の株を上げてしまった。


 全く……。

 どうしてくれるんだよ、もう。


 ぼくは恨みがましい視線を、倒れたクレリアさんに向けるのだった。




 翌日。

 屋敷に来訪者が現れた。


 たまたまぼくが対応すると、そこには見知ったとんがり帽子を持った少女が立っていた。


「く、クレリアさん?」

「トモアキ……。いや、相田トモアキ様!」


 え? 様?


「どうかあたしを弟子にして下さい」

「へ?」


 …………。





 ……へ?


パスワードについては、「ふ パスワード」でググるとわかります。

密かに好きなRPGの1つです。

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新作の飯ものを始めました! どうぞお召し上がり下さい↓
『ゼロスキルの料理番』
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