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異世界最強魔法が、“復活の呪文”なんだが!? ~ぺぺぺ……で終わる?異世界スローライフ~  作者: 延野正行
第3章 お屋敷の生活編

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第22話 魔法使い、また街の人たちに感謝される。

受付嬢、ざまぁ回。

 翌日――。


 ぼくたちは店先に店舗を設け、声を張り上げていた。

 といっても、主にルーイさんだけど。


「さあ、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! ここにある薬は街で今、猛威を振るうインフルエンザの特効薬だ。本日500本の限定発売! 早いもの勝ちだよ! 買った買った!」


 売り口上を披露する。

 普段の店の奥で引きこもっている魔法使いとは思えないほど滑らかだ。

 今にもバナナのたたき売りでも始まりそうな商売人の姿があった。


 ルーイさんの可愛い声を聞いて、道行く人は足を止める。

 魔導書専門店は大通りから少しはずれているが、声を張るだけで、みんなが集まってきた。


「インフルエンザが治るって本当かい?」

「あれには特効薬がないって効いたぞ」

「本当か?」

「偽薬じゃないのか?」


 訝りながらも、台に並べられた薬に興味津々だった。

 だが、誰も手を出そうとはしない。

 当たり前だよね。

 自ら実験台になろうなんて思う人は、なかなかいないよ。


 野次馬の反応を見ていると、1人の親子が現れた。

 母親は元気そうだったが、その背におんぶされた子供は罹患しているらしい。

 顔を赤くして、激しく咳をしていた。

 とても苦しそうだ。


「あの……この子、流行病にかかってしまって。お医者にいったんですけど、6時間経っても診察が始まらなくて。早く薬を上げないと死んじゃいます」

「よし! わかった、お母さん! 1人目のお客さんということで、100ゴルにまけて――――痛ッ! ちょ! 痛いではないか、トモアキ!」


 反射的に思いっきりルーイさんの頭をぼくは殴っていた。

 無視して、ぼくは母親に話す。


「最初のお客さんですから、無料でいいですよ」

「あ、ありがとうございます」


 早速、お母さんは子供に薬を与えた。

 みるみる顔色がよくなっていく。

 色あせた目に生気が戻り、顔を上げた。


「ママ……?」


 子供の声を聞いた瞬間、母親は号泣した。


「おおおおおおお!!」


 群衆から声が上がる。


「マジか!」

「ホントに治っちまったぞ!」

「仕込みじゃねぇの」

「いやー、あれは演技じゃなかったと思うぞ」

「じゃあ、あれはマジで効くのか」


 しん、と静まりかえった。

 皆の視線が台に並ぶ薬に向けられているのがわかった。

 うっすら獣じみた息づかいが聞こえる。


 すると――。


「俺のだ」

「くれ!」

「俺に売ってくれ!」


 我先にと群衆が群がっていた。

 揉みくちゃになりながら、台へと手を伸ばす。


「ちょっとちょっと! 勝手に持っていくでない! ちゃんと金を払え」


 ああ。

 もう滅茶苦茶だよ。

 節操ってものはないのかな。


 その時、視界の角で子供たちが固まっているのが見えた。

 服はボロボロで、如何にも貧民街に住んでるような格好をしている。

 その側には、まだ幼い少女の姿があった。

 赤い顔をし、苦しそうにしている。

 おそらく罹患者だ。

 大人たちの圧力に負けて、近づけないでいる。


 全く……。

 さもしい連中だな。

 助けるべき人を助けない。

 なんら変わっていないじゃないか。

 右も左もわからない異世界人を放り出して、放置する。

 手を差し伸べようともしない。


 アリアハルは好きな街だけど、こういうところはぼくは大嫌いだ。


 ぼくはすっくと立ち上がった。

 手を掲げる。


「ゆう○い――」


 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。


 せめて死なない程度には威力を抑えてあげるよ。


「精霊の一鍵イフリルよ。其の力、我の手に宿りて、紅蓮を示せ!」


 火の弾(ファイヤボール)


 魔法をぶっ放した。

 悲鳴を上げながら、群衆は吹き飛んでいく。

 直撃はさせていない。

 目の前で炸裂させ、その爆風で飛ばしただけだ。


「ちょっ! そなた! やりすぎであろう」

「単なる火の弾(ファイヤボール)です。大人ぐらいなら死にはしませんよ」

「そ、そうだが……。折角のお客を」

「この人たちはお客じゃないですよ。それにぼくたちが相手をするのはお客じゃない」

「お客じゃないならなんなのじゃ?」

「インフルエンザの罹患者です」


 ぼくは台の上に立つ。


 吹き飛ばされた群衆に叫んだ。


「見る限り、そこにいる人たちは健康な人ですよね。申し訳ありませんが、薬を買うことができるのは、罹患者もしくはその家族だけです。もし、この店まで来るのが困難な場合はいってください。その家までお届けします。だから、ご近所で苦しんでおられる方がいたら、報告してもらえると有り難いです」


 すると、台の前に先ほどの子供たちがやってきた。

 台の上に貨幣を並べる。

 たった2ゴルだった。


「あのお金……。これだけしかないんだけど、足りる?」


 不安そうな目でぼくを見つめる。

 ぼくは一旦台から降りると、2ゴルを子供たちに返した。


「お金はいいよ。早く薬を飲ませてあげなさい」


 薬を渡す。

 子供は「ありがとう」といって、早速少女に薬を飲ませた。

 どんどん顔色がよくなっていく。

 ほぼ昏睡状態だった少女が目を開いた。

 ぼくはそれを確認した後、言った。


「子供には無料で提供します。大人にはそうですね。……3ゴルってとこでどうですか? ルーイさん」

「はあ……。仕方ないのぅ。勝手にせい」


 手を振った。

 ぼくは礼を述べて、話を続ける。


「あと転売品を見つけた場合、地の果てまで犯人を追いかけて、さっきの魔法を直撃させますからそのつもりで――以上」


 ぼくは何事もなかったかのように席についた。




 インフルエンザが治る薬の噂は、瞬く間にアリアハルに広まった。

 さらにその噂は、近くの街にまで広がり、遠方からやってきたという人もいた。

 ぼくやルーイさんを悪くいう人もいたみたいだけど、そんな陰口など問題にならないほど、店の前は涙と感謝で溢れかえっていた。


 大変なのは、薬の製造だ。

 パーヤにお願いをして、梅干しを作ってもらったんだけど、それでもすぐに喉がカラカラになる。

 どんなに頑張っても、1日700瓶がせいぜいだった。


 だけど、甲斐あってインフルエンザは次第に終息していった。

 「患者が減った。商売あがったりだ」なんていうお医者さんのクレームが来るほどだ。


 そんなある日、ぼくの前によく知る人物が現れた。


 黒い鼻に、鹿のような耳の獣人。

 ギルドのリタさんだ。


 ちょうどルーイさんは席を立っていて、店舗にはぼく1人しかいなかった。

 お客さんもまばらだ。

 そんな折り、リタさんは言った。


「あの薬を3つ売ってほしいんですけど……こほこほ」


 リタさんは咳をしていた。

 絶対に仮病だ。

 ぼくにはすぐにわかった。これでも、ここのところずっと罹患者を看てきたのだ。本当の咳かそうではないか、音でわかる。


 ぼくはひとまず気さくに話しかけた。


「リタさん、お久しぶりです」

「え? え? どこかで――――こほこほ」


 やっぱり忘れてる。


「以前、ギルドでお会いしましたよ」

「あ。そうそう。確か………………ポクテさん?」


 なんだよ、その名前。

 人の名前を、南の島を舞台にしたギャグ漫画の食糧みたいで呼ぶなよ。


 ぼくはちょっと意地悪したくなった。


「相田トモアキです」

「ああ。異世界人の――――こほこほ。ご活躍は聞いております」


 聞いておりますも何も、この前キングシャドルを倒した件で賞金をもらいにいったところなんだけど……。

 で、またお金がないから、2日ほど待たされた者なんだけどね。


「ところで、3つというのは?」

「実は子供もインフルに」

「あれ? リタさんって独身って言ってませんでした」

「そそそそんなことは言ってませんよ」

「勇者様にそう言って、逆ナンしてたのぼく見てましたよ」


 うん。

 居酒屋というよりはクラブっぽいところで、リタさんが勇者を口説いているのをこの目でぼくはしかと見ている。


「あ。……ああ、思い出しました。実は私の子供じゃなくて、近所の人に頼まれてですね」

「そうですか」


 リタさんって嘘が下手だなあ……。

 それでバレてないって思ってるんだろうか。


「き、今日はやっぱり1本でいいです。自分のぶんだけで――こほこほ」


 そして思い出したように嘘咳を始める。


「わかりました。リタさんにはよくしてもらったので、タダでもいいですよ」

「ホントですか! ありがとうございます」


 尻尾を振って、獣人受付嬢は喜んだ。

 薬を取ろうとする彼女の手を、ぼくは掴まえた。


「その代わりといってはなんですけど、1つ聞いてほしいことがあるんです」

「な、なんでしょうか?」


 恐る恐る尋ねる。


「実は、この薬の成分のほとんどがぼくの体液――詳しくいうと唾液なんですよ」

「ひぃ――」


 短い悲鳴を上げて、彼女は手を引っ込めようとするものの、ぼくは離さない。


「あなたもギルドの人ならわかりますよね。人の体液には魔力が宿っていて、時としても魔法薬の材料にもなる。だから、あなたたちが普段なにげに飲んだりしている薬の中には、少なからず人間の体液が入っているんです」

「そ、それとこれとはまた別――」

「そうですか? ――で、ここから本題なんですけど。無料にする代わりに」



 ぼくの頬を舐めてくれませんか?



「ぼくの体液ならなんでもいいそうです。例えば、頬についた微量の汗とかでも」

「そ、そんな汚らしい!!」

「汚らしい? そうですか? 別にキスするとかそんなじゃないんですよ」


 きっと今、ぼくの顔は悪魔のように微笑んでいるだろう。


 我ながら悪党だとは思うのだが、転売しようとする人間には容赦はしないと決めている。それが知り合いで、散々ぼくを振り回してくれた人なら尚更だ。


「ちょろっと舐めてくれるだけです。それとも舐められないわけでも?」

「そ、そんなの決まっています。――――い」


 今かすかにだが、聞こえたぞ。

 気持ち悪いっていったな、この人。

 よーし。それならこっちもとことんやってやる。


「でも、それなら薬を買うしかないですね。でも、残念ながらここにある薬は売約済みで」

「そ、そんな!! 私、今すぐほしいんですけど」

「そうでしょうね。リタさん、咳をしてますものね」

「え? あ。こほこほ。そうです! 苦しいんです、こほこほ。だから、薬を」


 だから、みえみえの嘘を吐かないでよ。

 情けなくなってきた。


「だったら、ぼくの頬を舐めるしかないですね。それとも薬じゃないと(ヽヽヽヽヽヽ)いけない(ヽヽヽヽ)理由があるんですかね?」

「そ、そんなことはありません」


 目が泳いでるよ、リタさん。


「例えば転売とか。……知ってますよね~。この薬を転売するとどうなるか?」


 ぼくはなるべく殺意を込めて睨んだ。

 リタさんはギュッと喉を蠕動させて、息を飲む。


「も、もちろん……」

「じゃあ、証明してくださいよ。ぼくを舐めて」

「で、でも……」

「しんどいんでしょ。苦しいんでしょ。今すぐ楽になりたいんでしょ? だったら、ほら――」


 ぼくは頬を差し出す。


 にわかに周りも騒ぎ始めた。


「どうしたの?」

「転売だってさ」

「うわ。サイテー」

「苦しんでる病人がまだ一杯いるのに」


 ぼくは密かにほくそ笑んだ。

 次第に状況は、転売目的ではないことを証明するために、ぼくの頬を舐めるという方向へと変わっていく。

 頬を舐めるというセクハラ紛いの行動も、転売行為ではないということの踏み絵として受け止められていた。


 そもそもぼくはここではちょっとした聖人扱いだ。

 悪いことなどするはずがない。今、そういう不文律が働いていた。


 その空気はリタさんも感じているらしい。

 顔は青ざめていたが、多量の汗を掻き、本当にインフルエンザに罹患したかのようだ。


「わ、わかりました。舐めます」

「うーん。でも、どうしようかな」

「え?」

「だって他人が自分の頬を舐めるなんて気持ち悪いじゃないですか」


 しれっと言った。

 自分でもどの口が言うんだって思うけどね。


「だから、お願いしてくださいよ」

「お願い?」

「『レベル1の魔法使い様。どうかこの無能で卑しいギルドの受付嬢に、その頬を舐め舐めさせてください』とか」

「そ、そんな――」

「出来ませんか?」


 ぼくは睨む。

 彼女は1歩たじろぐが、その背中にも多くの聴衆の視線が突き刺さった。

 獣人故か。敏感に察した彼女は立ちすくむ。

 四面楚歌。

 もう逃げ場などどこにもない。


 今にも放尿してしまいそうなぐらいがくがくと震え、リタさんは台にもたれかかる。

 顔を真っ赤にしながら、哀願した。


「れ、レベル1の魔法使い様。……ど、どうかこの無能で卑しいギルドの受付嬢に、そそその……頬を舐め、舐めさせてくださいませんか?」

「はい。どうぞ」


 ぼくは改めて顔を差し出す。


 彼女は舌を出す。

 徐々に距離を狭めていき、そして――。


 ちろっ……。


 かすかに頬を舐めた。

 すると、くるりと背中を向ける。

 脱兎のごとく――いや、脱鹿()の如く逃げていった。


 強制的にお願いをして、男の頬を舐めたのだ。

 これでぼくの名前を忘れることはないだろう。

 次会う時は、名前を呼んでくれると嬉しいな。


 その日のぼくは、ちょっとスッキリした気持ちで店に出ることが出来た。




 ちなみに2日後。

 本当にインフルエンザにかかったリタさんは、ぼくのいない時を見計らって、薬を買いに来たという。


朝集計で日間総合8位に返り咲いてました。

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます!

毎日更新頑張ります!

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『ゼロスキルの料理番』
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