第19話 レベルマ家庭教師のチート言語講座
あれ?
何かサブタイに既視感を感じる。
(さりげなく既刊の宣伝をぶっ込んでいくスタイル)
その日は雨だった。
はっきりと見えるほどの大きな粒が、鈍重な空から落ちてくる。
風も強く、雨と共にガラスを打ち付けた。
その度に屋敷が揺れたような錯覚に陥る。
加えてうるさくて昼寝も出来ない状況だ。
異世界に来て、随分経つけどこれほどの土砂降りは初めてだった。
ぼくは一旦窓の外から目を切る。
振り返ると、点々と桶が置かれた部屋を見つめた。
その桶には水が張っていて、天井から落ちてくる雨滴を受け止めている。
雨漏りしているのだ。
我が家は。
「すいません、トモアキ様。ご不便をおかけしてしまって」
謝ったのはパーヤだ。
朝からせっせと桶に溜まった水を外へ吐き出している。
「仕方ないよ。長い間、人の手が入ってなかったんだ。雨漏りぐらいはするさ」
「ともかくすぐに修理します」
「雨が降っているのに? 危険だよ。もっと晴れた日にやれば」
「晴れた日にやると、どこが雨漏りしているかわからないので」
「でも、今日はダメだ。それに――」
光が閃く。
次瞬、ぼくの言葉は、轟音に飲み込まれていった。
雷だ。
かなり近い場所に落ちたらしい。
「きゃっ!」
可愛い悲鳴が部屋に響く。
パーヤは反射的にぼくの腕に縋り付いた。
ぽよん……。
おお。
大きなマシュマロがぼくの腕に当たっている。
顔が熱くなる。
鼻血の気配を察して、慌てて鼻を塞いだ。
ぼくの腕に捕まるパーヤを見つめる。
小さく子猫のように震えていた。
「大丈夫? パーヤ」
「は、はい――」
再び空が割れたような音がする。
パーヤはひしっとぼくにしがみついた。
「すいません。少しの間、こうしてていいですか?」
「ぼくは構わないけど、これだと雨漏りの修理ができないよ」
「むぅ。トモアキ様はいけずです」
「ははは……」
ぼくは苦笑しつつ、窓の側で外を眺めている幼女を見つめた。
ガヴは雷が怖くないらしい。
むしろ珍しいのだろうか。
口を半分開けて、感嘆していた。
今日はスライムを倒しにいけないなあ。
屋敷でゆっくりするか。
そういえば、異世界に来てから、室内でくつろぐってことしたことなかったんだよなあ。
前の世界では、休みの日は1日中ゲームしてるか、寝ているかのどっちかだったのに。
しばらくして、雷雲は遠ざかっていった。
「トモアキ様、ありがとうございます」
「ううん。気にすることないよ。落ち着いた?」
「はい」
パーヤの顔に笑みが戻った。
うん。いい笑顔だ。
「ともかく今日、修理するのはやめておいた方がいい」
「はい。ご忠告に従います。ただ屋敷の中でやれることはやろうと思います。しばらく主のお世話から離れることをお許しください」
「うん。今日は、ガヴと1日屋敷の中で遊んでいるよ」
「遊ぶ。そうですわ」
パーヤはパンと手を叩いた。
一旦部屋を出ていくと、1冊の本を持ってきた。
パラパラとめくると、絵と文字が書かれている。
「ガヴさんと本を読むというのは如何でしょうか?」
「へぇ。ハイミルドにも絵本があるんだね」
「確か作者は異世界のお人だと。たまたまこっちに来て、ジョブが作家さんだったそうです。向こうの世界でも作家をされていたそうですよ」
それは幸せだなあ。
自分の強みをこの世界でも行かせるからね。
「わたしのお古ですが、どうぞ」
「でも、ガヴはわかるのかな」
「絵も付いてますし、雰囲気でわかると思います。ただそろそろ、ガヴさんも文字や言語を覚えさせてもいいと、わたしは思いますけど」
「え? ガヴって喋ることができるんですか?」
獣人族って喋れないものかと思っていた。
「彼女は黄狐耳族という頭のいい種族の娘だと思います。だから、普通に人語を介することが出来るのですが、おそらく幼い時に親と離れてしまったんでしょう。今の今まで言葉を教えられずに育ったんだと思います」
パーヤはガヴを見ながら、目を細める。
とても悲しそうだ。
親と離れる悲しみは、彼女もよく知っている。
「わかった。ぼくがガヴに言葉を教えるよ。パーヤはお仕事頑張って」
「はい。頑張ります」
パーヤは両拳をギュッと握る。
腕まくりをして部屋を出ていった。
ぼくは本を見ながら、ガヴに近づいていく。
「ガヴ。本を読んであげようか」
表紙を見せる。
ガヴの目が星のように輝いた。
「じゃあ、座って」
ぼくは床の上で胡座をかいた。
その上に乗るようにと、膝を叩く。
ガヴはちょこんと座った。
金髪から甘い香りが漂ってくる。
相変わらず綺麗な髪だな。
「がう゛?」
「なんでもない。じゃあ、読むよ」
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがすんでました。
随分、オーソドックスな入りだな。
絵本ってこんなものなのか。
あるとき、おばあさんが川でせんたくをしていると、川かみから大きな柿がどんぶらっこっこ、どんぶらこっこ――。
――って! まんま桃太郎じゃん!
パクリじゃないか。
いいのか、こんなんで。
まあ、異世界で著作権云々なんていう人はいないと思うけど。
てか、パクるんだったら、もう徹底的にパクってよ。
柿って……。
なんか凄くモヤモヤするんだけど。
結局、その後、桃太郎もとい柿太郎は、スライムとゴブリン、ドラゴンを仲間に従え、悪魔が巣くう悪魔ヶ島に行き、悪魔退治をしたのだそうな。
めでたしめでたし。
スライムとゴブリン、ドラゴンって――。
急にランク上がりすぎでしょ。
むしろ、ドラゴン以外別にお供がいらないんじゃ……。
絵本にツッコんでも仕方がない。
子供が読むものだもんね。
大人がツッコンだところで虚しいだけだ。
その証拠にガヴには大受けだ。
キャッキャッと喜んでいる。
すると、文字に興味を持ったらしい。
「がう゛」
と最初の「む」を指し示した。
「それはね。“む”」
「が」
「“む”」
「が」
うーん。うまくいかないなあ。
パーヤの話を聞く限り、声帯は言葉を話せるように出来てるみたいだけど。
あ。そうだ。
レベルマ状態にしたらどうだろうか。
すべての能力値が上がるのだから、ぼくの家庭教師としての能力も上がるかもしれない。
ともかくやってみる。
「ゆう○い――」
ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。
相変わらず何も起こらないけど、これでレベルマ状態になったはずだ。
「もう1度、“む”」
ぼくが言うと、ピクピクとガヴの耳を動いた。
すると――。
「ぐ」
お。ちょっとおしい。
もう1度。
「“む”」
「む」
おお。やった!
ぼくはガヴの頭を撫でる。
くすぐったそうにキャッキャッと笑った。
「よし。今度は一気に言ってみよう。“む・か・し”」
「む・あ・し」
いい感じ。いい感じ。
もう1回!
「“む・か・し”」
「む・か・し」
思わずぼくは拍手を送った。
レベルマ状態いいぞ、これ。
理屈はわからないけど、ぼくの声が彼女の脳神経か何かを敏感にして、学習意欲を高めているのかもしれない。
よし。ここはもう1つ。
ぼくは指をさした。
「“と・も・あ・き”」
「た・ま・が・い」
うーん。ちょっと難しいのかな。
「“と・も・あ・き”」
「ま・ま・が・い」
まだまだ難しいかな。
強制はよくないし。
徐々に慣らしておこう。
もう1つ。
またぼくは自分を指さした。
「“パパ”」
「パパ」
おお。今度は1発だ。
パ行は言いやすいのかも。
「ぼくは、君のパパ」
「パパ……。パパ……」
くぅ~!
なんかジンとしてきた。
自分の名前を呼ばれるよりも感動するような気がする。
実は、結婚には興味なかったけど、子供はほしかったんだよね。
ちょっとぼくって父性よりも母性の方が高いのかもしれない。
すると、そこにパーヤが入ってきた。
いつも通りターンをした。
ひらりとスカートが舞う。
ぼくはぽややんとなった。
「会話が弾んでいるようですね」
「うん。今、ぼくのことをパパって呼んでくれたんだ」
「へぇ……。それは羨ましいかも」
「ん? なんか言った?」
「何でもありません」
パーヤはぶんぶんと頭を振る。
「よし。今度はパーヤの名前を言ってみようか。“パーヤ”」
パーヤを指さしながら、ぼくは語りかけた。
ガヴはぼんやりメイド服の女性を見ながら。
「BBA」
いや、ちょっと!
ガヴ! その間違いはダメだよ。
てか、なんかカタカナじゃなくて、ローマ字表記的に聞こえたような気がするんだけど。
パーヤの方をそっと見つめる。
青い瞳が三角になり、背後でメラリと炎が上がっているような気がした。
「ぱ、パーヤ。こ、子供のいうことだから気にする必要はないと思うよ」
「……そ、そうですね。子供のいうことですからね。で、でもガヴさん。ちょっと後でわたしとお話しましょうか。ご主様がいないところで」
怖い。怖いよ、パーヤ。
その眉間に筋を作りながら、冷たい笑みとか浮かべないで。
とまあ、こんなことがありつつ、次第にガヴは言葉を覚えていった。
異世界転移/転生(ファンタジー)部門で2位をいただきました。
1位までもう少し!
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