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第18話 魔法使いのまったりな1日

たまにはこういう日もいいかもっていう感じで書きました。


てか、こういう1日を過ごしてみたい……。

 わたしの名前はパーヤ・エミンダと申します。


 ジョブは貴族令嬢ですが、今は相田トモアキ様の奴隷。

 お世話係と屋敷のハウスキーパーを務めております。

 ちなみにトモアキ様がいた世界では、ハウスキーパーのことをメイドというらしいです。

 メイド……。

 うん。なかなか可愛い響きですね。


 今、着ている服も、トモアキ様のイメージからわたしが作ったものです。


 通常の家政婦のシックなドレスに、エプロンを付けたもの。

 エプロンには一杯フリルがついていて、これがトモアキ様の大のお気に入りのようです。

 わたしの顔を見るたびに、主は命令します。


「一回転してみて」


 わたしはすぐさまの命令を実行します。

 これでも貴族令嬢です。

 ターンは得意ですよ。


 ひらりとわたしが舞うと、トモアキ様はぽややんという感じで顔を赤らめます。

 とってもお好きなんですね。

 今度から、言われなくてもターンをしてみましょう。


 さて、時間はそろそろ10時。

 お寝坊な主を起こさなければ。


 主の部屋をノックします。

 ちなみに、この部屋は先代――つまりわたしのお父様のものでした。

 トモアキ様のような方が使ってくれるなら、お父様も本望でしょう。


 ノックをしましたが、返事は返ってきません。

 どうやらまだ眠っていらっしゃるようです。


「失礼します」


 わたしは部屋に入りました。

 やはりトモアキ様は熟睡しておられました。


 とても可愛い寝顔。

 御年24歳とのことですが、まだ何かあどけなさが残っていて、とても可愛いです。実は、こうして主の顔を見るのが、わたしのマイブームなのです。


「トモアキ様、そろそろ起きて下さい」

「むむ……。あと5分……」

「もう10時を過ぎてますよ」

「うう……」


 わたしから遠ざかるように背中を向けます。

 その時、何か違和感を感じました。

 トモアキ様のお布団が不自然に膨らんでいるのです。


 まさか――。


 バッと布団を剥がしてみました。


「やっぱり……」


 わたしはベッドの上に広がっていた光景を見下ろします。


「がーう゛ー。がーう゛ー」


 という寝息を立てながら、ガヴさんが主と一緒に寝ていたのです。

 しかも、主に抱かれるような形です。


 わたしは顔を赤くしました。

 そして――。


 羨ましい!!!!


 心の中で絶叫しました。

 しかし、主とガヴさんはわたしの心中などお構いなく寝ています。

 布団を剥がされた主はちょっと寒そうです。


 これはチャンスではないでしょうか。

 主が寒そうにしているなら、わたしが寄り添えばいいのです。

 そうすれば、トモアキ様も寒さから解放されるというもの。


「では、早速――」


 わたしはブーツを脱ぎ、主のベッドに横たわりました。

 恐れ多いことです。

 でも、これは仕方がない。

 トモアキ様がお風邪を召されては事です。

 これも奴隷――いえ、メイドの務めなのです。


 わたしはそっと主の背中に寄り添いました。

 とても暖かい――そして広い背中でした。



 ★



 気が付いたら、メイドさんが隣で寝ていた。


「うわあぁぁああ!!」


 ぼくは思わず素っ頓狂な声を上げた。

 仰け反るものの今度後ろで何かつっかえる。

 態勢を変えると、今度は獣娘がぼくの背中に寄り添うようにして寝ていた。


「が、ガヴまで……」


 はあ、と息を吐く。


「どうしました? トモアキ様」


 目を擦りながら、パーヤは目を覚ました。


「どうしましたじゃないよ。ど、どうしてパーヤがこんなところに」

「主が寒そうにしていたので、つい添い寝を」

「ついって……。だったら、布団をかければ」

「人肌の方がいいかな、と」

「メイド服着たままだよね」

「これは失念しておりました。今から脱ぎますので」

「ちょちょちょちょちょっと待って!! ストップストップ!」


 はあ……。

 仮にも貴族令嬢なんだから、もうちょっと淑女としての嗜みに気をつけてほしい。それともあれかな。ハイミルドの女の人ってみんなこんななのかな。

 そういえば、ルーイさんも如何にも襲ってくれと言わんばかりに露出の高い服を着てたよね。

 ぼくの感覚がおかしいのかな。


「ともかく、朝食――いえ、もう時間的には昼食ですね。ご用意できているので、食堂まで入らしてください」

「わかったよ」


 パーヤは身なりを整えると、何故かその場でターンをした。

 ヒラリと揺れるスカートを見ながら、ぼくはぽややんとなる。

 やがて丁寧にお辞儀して部屋を出ていった。


「がう゛ー」


 すると、ようやくガヴも起きてきた。


「またぼくのベッドに潜り込んだね、ガヴ」

「がう゛がう゛」


 何か照れくさそうに耳を掻いた。




 朝食――もとい昼食は、野菜のスープに、半熟卵。あとお粥だ。

 ぼくが、胃が弱いと聞いた彼女は、いつも胃に優しい料理を作ってくれる。

 ロダイルさんのところで厳しい修行を積んだだけあって、彼女の料理の腕はなかなかのものだ。


 おかげで、毎日お腹は幸せで満たされている。


「「いただきます」」

「がう゛がう゛」


 手を合わせると、ぼくたちは昼食を食べ始めた。

 初めはぼく1人だけ摂っていたけど、それでは寂しいので、3人一緒に食べることをルール付けた。


 久方ぶりの複数での食事だ。

 前の世界では飲み屋以外では、昼はトイレで1人飯だったし、家ではいつも1人でコンビニの弁当かカップうどんばかり食べていた。


 今では、家族のようにテーブルを挟んで食事をしている。

 初めてこの光景を見た時は、思わず泣いてしまったほどだった。


「トモアキ様。1つ意見を具申してもよろしいですか?」

「なんだい、パーヤ」

「ガヴさんとわたしはあなた様の奴隷です。如何にしようとあなた様の思いのままです」

「う、うん。まあ、そうだよね」


 女性が「思いのまま」っていうと、何かパワーワードに聞こえてしまうのはぼくだけなのかな。


「だけど、まだ小さなガヴさんを寝床に入れてしまうのは、どうかなと思います」

「し、仕方ないじゃないか……。だって、ガヴがいつの間にか入ってくるんだし。それに――」

「それに?」

「ガヴを抱いて寝ると暖かいんだよ」


 ホントその通りなんだ。

 暖かいし、抱き心地も抜群なんだ。

 あのモフモフの耳と尻尾が身体に密着させると、極上の抱き枕を抱いている気持ちになってくる。


「ダメですよ。そんなの」

「ええー」

「がう゛がう゛」


 横暴だ、という感じでガヴも抗議する。

 意味わかってんのかな?


「寒いんでしたら、もう1枚掛け布団を用意しますから。……それとも、わたしが一緒に寝ましょうか」

「パーヤが!」

「わたしでは不服ですか」


 ギロリと睨まれる。

 ぼくはぶんぶんと首を振った。


「そ、そういうわけじゃないけど……。でも、その一応男と女だし」

「なら、ガヴさんならいいと?」


 パーヤはジト目で追い込んでくる。


 ぼくはパンと手を叩いた。


「ごちそうさま! そろそろスライム狩りに出かけるよ」

「あ! ちょっと! まだわたしの話が終わっていませんよ」

「帰ったら聞くね。ガヴ、おいで」


 ガヴはミルクを一気飲みすると、ぼくの側に駆け寄ってきた。

 ミルクまみれになった口を、布巾で綺麗に拭い取る。


「じゃあ、パーヤ。お留守番をお願いね」

「もう! わかりました。今日は何を食べたいですか?」

「うーん。なんでもいいけど、お魚が食べたいかな」

「わかりました。いってらっしゃいませ、ご主人様」


 パーヤは恭しく頭を下げた。

 その所作は、貴族令嬢らしく――とても素敵だった。




 街を出た。


 空は晴天。

 良い風だ。

 昨夜はちょっと肌寒かったけど、今はちょうどいい。


「こんにちは。トモアキさん」

「こんにちは。門兵さん」

「がう゛がーう゛」

「ああ。ガヴちゃんも、こんにちは。……今日も親子揃ってスライム退治かい」

「ええ」

「そうか。怪我だけに気をつけるんだぞ」

「がう゛!」


 わかった、という感じで、ガヴは手を挙げた。


 門兵さんに見送られ、ぼくたちはフィールドに出る。


「ふわあ……」


 大きな欠伸をする。

 食べたらまた眠くなってきたらしい。

 ちょっと一休みしようかな。


「がう゛がう゛!」


 しかし、ガヴはやる気満々だ。

 ぼくのズボンの裾を引っ張る。


「わかったよ」


 手を掲げた。


「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」


 レベル50にする魔法をガヴにかけた。


 ジャキーンという感じで、ガヴは両手を掲げる。

 すると、近くにいたスライムに襲いかかった。


 ボコッ!


 小さな拳がスライムに突き刺さる。

 スライムはあっさりと消滅し、赤いコアを残した。


 ぼくはパチパチと手を叩く。


「よしよし。上手いぞ、ガヴ!」

「がう゛がう゛!」


 もっと頑張る!

 という感じで、ガヴはそこら中駆け回り始めた。


「あんまり遠くへ行ったらダメだからね」

「がーう゛!」


 返事がかえってくる。

 正直なところ通じているのかどうかわからない。

 けど、これまでぼくの指示を無視したことはないから、大丈夫だろ。


「ふあ……」


 またぼくは欠伸をした。


 ちょっと眠ろうかな。

 フィールドで眠るのは危険かもだけど、周りの魔物はガヴが倒してるし、問題ないだろ。


 ぼくは微睡みに任せ、眠りについた。




 しばらくして、頬にザラザラした感触を感じた。

 水気を帯びている。

 すぐにガヴが舐めているのだとわかった。


 瞼を開けると、金色の髪をキラキラさせて、女の子がこちらを見ていた。

 ヒラヒラと尻尾を振っている。


「終わったの。ガヴ」

「がーう゛!」


 自分の手を叩く。

 おそらく魔法が切れたのだろう。


「どれぐらいやっつけたの?」


 と質問する前に、ぼくの視界に赤いコアが見えた。

 まるで三途の川の石積みのように堆く積まれている。


 ぼくはガヴの頭を撫でた。


「偉いぞ、ガヴ。随分、集めたね」

「がう゛ぅぅ」


 甘えるような声を上げて、大きく尻尾を振った。


 ざっと見て、20個ぐらいはあるだろうか。

 1時間でこれだけ集めたなら大したものだ。

 でも、もうちょっと上積みしないとね。

 屋敷のローンは「く○たきよ……」の魔法を使って返したけど、家族が増えたから、今まで以上に稼ぐ必要がある。

 もちろん「く○たきよ……」を使って、稼げば早いんだけど、あれは体力を根こそぎ奪われて、1日中動けなくなるんだよね。

 もっと効率のいい稼ぎ方を考えないと。


 呪文開発をしたいけど、それはまた今度だ。

 あんまり遅くなると、パーヤが心配する。

 ぼくは呪文を唱えた。


「ゆう○い――」


 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。


 レベルマ状態からの……。


「精霊の一鍵イフリルよ。其の力、我の手に宿りて、紅蓮を示せ!」


 火の弾(ファイヤボール)


 炎の柱がフィールドに炸裂する。

 あっという間に40匹分の赤いコアが、爆心地に転がった。


「よし。こんなものだろう。帰ろうか、ガヴ」

「がーう゛!」


 ぼくはガヴと手を繋ぎ、その場を後にした。


 屋敷に帰ると、夕食の準備が出来ていた。

 リクエスト通り、魚料理だ。

 タララという魚を開いて焼いたもの。

 大きさの割には肉厚があって、プリプリしていた。

 油も載っていて、程良く塩味も利いている。

 そうだ。ホッケに似てるなあ、この魚。


 ぼくはパーヤに頼んで、お酒を出してもらった。

 リッゾという辛口のお酒。お米から出来ていて、日本酒とよく似た味がする。

 これがタララと良くあうのだ。

 夢中になって食べてしまった。

 また食べたいな、とぼくはパーヤにリクエストした。


 ほろ酔い気分でその日はベッドに入った。


 気持ちいい。

 久しぶりに良い酒だった。

 異世界スローライフ最高だ。

 この街を守るなんて使命が、これでうやむやになればなお最高なんだけど、そうはいかないよね。


「パーヤ……。もう一杯」


 そんな寝言を言いながら、ぼくは布団もかけずに寝てしまった。




 次に目が覚めた時には、真っ暗闇だった。


 時計を見ると、夜中の2時を回っていた。

 とても静かで、外からフクロウのような啼き声が聞こえてくる。


 いつの間にか、布団がかかっていた。

 おそらくパーヤの仕業だろう。

 明日、お礼を言わなくちゃ。


 つと身体を動かすと、何かに当たった。

 態勢を変える。

 小さな女の子が寝ていた。

 金髪が星明かりを受けて、キラキラと光っている。


「またぼくの寝床に入ってきたのかい、ガヴ」


 ぼくはモフモフの耳を撫でた。

 むずがるようにぼくの手を払いのける。

 今日一杯、運動したから疲れているのだろう。


「寝顔が可愛いなあ。携帯とかあったら、即写メするのに」


 そうだ。

 今度、写真が撮れる魔法を開発しよう。

 ぼくはそう心に決めた。


 ガヴを引き寄せる。


 フワフワでモフモフ。そして暖かい……。


 そしてぼくはまたガヴを抱いて、眠りにつくのだった。


日間総合6位まで来ました。

ブクマ・評価・感想いただいた方ありがとうございます。

レベル5まであと少し!

まだまだ頑張って更新を続けますので、よろしくお願いします!


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『ゼロスキルの料理番』
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