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第12話 呪文を開発してみた。

異世界転移・転生(ファンタジー) 7位(やった! 一桁ゲット!)

日間総合も22位でした(自己最高まであと2つ)。


応援いただきありがとうございます。

 呪文を開発しよう。


 と思ったのは、ここのところ色々あったからだ。


 まず魔王の幹部を倒しに行った時。

 夜通し走る中で、30分に1回魔法をかけなおさなければならなかったのは、面倒を通り越して苦痛だった。


 もう1つは、これは割と前から思っていたことだけど、呪文が長いこと。

 何か即応しなければいけない時に、「ぺぺぺ……」なんて悠長に時間をかけていられない。それが魔物の前なら、命に関わるしね。


 目指す魔法特性は、2点。

 持続時間が長いこと。

 詠唱文が短いことだ。


 ただし、レベルマとは言わないけど、ある程度ステータスアップが見込めること。

 そうだな。

 とりあえず、レベル50ぐらいあれば、なんとかなるかな。


 という目標を立て、ぼくはフィールドにやってきた。


 本当なら安全な街の中でやりたいけど、人目もあるし、何が起こるかわからない。

 いきなり半径数キロに渡って破壊するような魔法とか生まれても困るしね。


 ガヴを女将さんに任せて、街の外へと行こうとしたんだけど。


「がう゛がう゛」


 獣少女はぼくのズボンを掴んで離さない。

 弱ったなあ……。


「ガヴ……。今からぼくが行くところ、ちょっと危険な場所なんだ。だから、いい子でお留守番しておくんだよ」

「がう゛!」


 いやいや、と首と尻尾を同時に振る。

 ズボンを掴む手にも一層力を入れた。


「あんたと一緒じゃなきゃイヤなんだろ?」

「がう゛がう゛」


 そうだそうだ。

 と言わんばかりに、ガヴは頷いた。


「連れてってやりなよ。あんたがいないとこの子も寂しいのさ。なあ、ガヴ」

「がう゛がう゛」

「だって」


 結局、ぼくは折れることにした。

 この辺りにはスライムしかいないし、「ぺぺぺ……」を使えば、対処は出来る。

 万が一の時を考えて、回復薬を多めに持っておこう。


 いろんなやりとりがあって、ぼくはガヴの手を引き、街の外にやってきた。


「がう゛がう゛」


 広がる雄大な自然に、獣人としての本能でも呼び起こされたのか。

 ガヴは戦くどころか、むしろ興奮していた。

 ひらひらと飛んでいた白い蝶を追いかける。


「ガヴ。あんまり遠くへいっちゃダメだよ」

「がう゛」


 ガヴは小さく頷く。

 再び辺りを走り回り始めた。


 ちょっと不安だったけど、連れてきて良かったかもね。

 キャッキャッと笑うガヴを見ながら、ぼくはしばしなごんだ。


 ――あ。いけない。ぼくはぼくのことをやらないとね。


 準備を始める。

 ガヴの方を向かないようにして、手を掲げた。


 まずは初代の方の呪文を試してみるか。

 あっちの方が短いしね。

 とりあえず詠唱時間の短縮は出来ると思う。


 有名なところでいってみよう。


「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」


 呪文を唱えてみる。

 しかし、なにもおこらない。


 ぼくはステータスカードを確認した。


 相田トモアキ

 じょぶ   まほうつかい

 れべる   1

 ちから   1

 たいりょく 2

 すばやさ  2

 ちりょく  3

 まりょく  4

 きようさ  2

 うん    1


 変わってないね。

 これはスカかな。


 諦めてぼくは次の呪文を試そうとした時、事件は起こった。


 ドン、と轟音が背後で巻き起こる。

 後ろを見ると、土柱が立ちのぼっていた。


 げ!? なになに?


 ぼくは呆然とする。

 直後、ハッと気付き、周囲を見渡した。

 ガヴがいない。


「ガヴ! どこいった?」


 叫んだが、返事は返ってこない。


 ぼくは一応「ぺぺぺ……」の呪文を唱える。

 レベルマにして、警戒しつつ彼女を探した。


 すると、立ちこめた土煙の中から、小さな人影が現れる。

 ガヴがタタタッと走ってきた。

 身体中が泥だらけだ。


 いや、それよりも……。

 スピードが速くなっていない?


 あっという間に距離を詰めると、彼女は飛びついた。

 レベルマ状態のぼくをあっさり押し倒す。


「だ、大丈夫かい? ガヴ」

「がう゛!」


 大きく頷く。

 確かに怪我とかしてないみたいだけど、なんか凄く彼女の能力が上がっているような……。


「がう゛がう゛!」


 少女は指をさす。

 土煙の中心の方をだ。


 ぼくはガヴを抱いたまま恐る恐る近づいた。


「あ――」


 そこにあったのは、スライムのコアだった。

 お馴染みの赤いジャスパー石のような核が、陽の光を受けて鈍く光っている。


「もしかして、ガヴが倒したの?」

「がう゛がう゛!」


 そうだよって感じで、両手でガッツポーズを取る。


 マジか……。

 獣人だから力が強い。

 でも、このハイミルドではステータスの能力が絶対のはず。

 奴隷である彼女のステータスを見ることは出来ないけど、決して高くはないはずだ。


 しばらく考える。


「そうか。ぼくの魔法か……」


 さっき唱えた呪文は、ぼくの能力を上げるのではなく、他人の能力を上げるのかもしれない。それならガヴの能力が上がっていることにも説明が付く。


 ちょっと試してみよう。


「ガヴ! ガヴ!」

「がう゛?」

「パンチ! ここにパンチ!」


 ぼくは手の平をガヴの前に差し出す。

 打ってこい、という感じで、反対の手で拳をぶつけた。


 首を傾げ、ぼんやりしていたガヴだったが、ようやくぼくの言っていることが理解したらしい。


 大きく振りかぶると――。


「ぶごっ!」


 何故か、少女の拳はぼくの頬にクリーンヒットした。



 ご褒美ありがとうございます!



 違う! 違うから! ぼくにはそういう性的嗜好はないから!!


 見えざる手によって、思考を書き換えられたような気がしたけど、ともかく気を取り直す。


 結構痛い。

 レベルマ状態だとそうそうダメージは入らないはずだ。

 だけど、ガヴのような少女の拳で、ぼくにダメージが通ったということは、やはり仮説が正しかったということだろう。


 他人の能力を引き上げる魔法か。

 これはこれで悪くない。


 問題はどれぐらいの能力が引き上がっているかということだ。

 パッシブなのか、アクティブなのかもわからないし。

 アクティブだと持続時間も確認しなきゃ。


 後者はわかるけど、ステータスカードを持っていないガヴだと確認しようがないなあ……。


 他の人で試せないかな。

 けど、ステータスカードを持っていて、信頼が置ける人って限られてくる。


 ちょっと怖いけど、声をかけてみよう。



 ★



「あたしのステータスカードを見せろって?」


 安宿『キリン』の女将ルバイさんは、いつも座っているカウンターの向こうからぼくを睨んだ。


 毎日見てる顔なのに、少し眉間に皺が寄るだけで、背筋が伸びる。

 魔物なんかより、よっぽどこの人の方が怖いよ。


「実は、最近習得した魔法があって、その中に能力値を引き上げるものがあるんですよ」

「あたしを実験台にしようってのかい?」

「それは――」


 ここで嘘を吐くのは、彼女の性格上悪手だとぼくは踏んだ。


「正直にいうと、そういうことになります」

「変な魔法とかじゃないだろうね」

「へ、変なっというと……」

「……へ、変なは変なさ」


 ルバイさんの顔が赤くなる。

 珍しい。

 てか、どんな想像したんだ、この人……。


「しょうがないねぇ」


 ルバイさんは吸っていた煙草を置いた。


「ありがとうございます」

「がう゛がう゛」


 ぼくが頭を下げると、ひっついていたガヴも倣った。


「何からすればいい。立ってればいいのかい?」

「まずはステータスカードを見ていいですか」


 ルバイさんは黙ってぼくに、自分のステータスカードを差し出した。


 透明なガラス板を受け取ると、覗き込む。


 ルバイ・キーリン

 じょぶ  やどやてんしゅ

 れべる   13

 ちから    5

 たいりょく 11

 すばやさ   8

 ちりょく  14

 まりょく   1

 きようさ  24

 うん    31


 人のステータスって初めて見るけど、こんなにパラメーターにばらつきがあるんだね。

 ジョブの性質に応じて、上昇する能力もかなり変わるんだ。

 器用さと運が上がっている辺りが、なんか商人らしい感じがする。


 ほうほうと感心していると、ルバイさんに「あんまりじろじろ見るんじゃないよ」と怒られてしまった。


 改めて、呪文を唱えることにした。


「ほりい○う じえにつ○すど ら○くえす とだよ」


 相変わらず、何も起こらない。

 ちょっとでもいいから演出とかほしいよね。

 今のままじゃ、魔法が成功したのかどうかわからないしさ。


「別になんか変わった感じはしないけどね」

「もう1度ステータスカードを確認してみましょう」


 ルバイ・キーリン

 じょぶ  やどやてんしゅ

 れべる    50

 ちから    45

 たいりょく 258

 すばやさ   88

 ちりょく  142

 まりょく    1

 きようさ  432

 うん    502


 おお! すっごい上がってる!!

 魔力はそのままだけど、ちょっとした魔物なら倒せるんじゃないのか、これ。

 器用さと運も爆上がりだ。


 おそらくこの魔法って、対象のレベルを50にする魔法なんだろうね


「うーん。これを見たら、なんか力が沸いてきたような気がするよ」


 ルバイさんはぶんぶんと腕を振った。

 この人の体つきって、宿屋の女将より女戦士があってると思う。


「なんか言ったかい?」

「何でもありません」


 地獄耳もアップしてるのかな。

 でも、ぼく……。何も言ってないはずなんだけど……。


「女将さん。部屋空いてる?」


 入口の方を向くと、冒険者らしき男が立っていた。

 その後ろにはずらりと武装した戦士が居並んでいる。


「はい。一泊8ゴルになります」


 そして女将さんの口調まで丁寧になっていた。


「40人だけどいいかな?」

「よ、40人!!」


 女将さんは珍しく素っ頓狂な声を上げた。


「いつも泊まってる宿なんだけど、改装工事が始まってさ。困ってるんだよ。なんとか泊めてくれないかな」


 ルバイさんとぼくは、顔を見合わせる。

 これはもしかして能力がアップした恩恵なんだろうか。

 つまり、運がアップしたことによって、客が突然増えた――とか?


 でも、部屋ってあと10室ぐらいしかなかったと思うけど。

 40人って入りきるかな。


 ルバイさんはぼくの首根っこを掴む。

 感謝されるのかと思いきや、その顔は怖かった。


「な、なにか?」

「何かじゃないよ。これってあんたの変な魔法の影響じゃないのかい?」

「お、おそらく……」

「40人も捌ききれないよ、あたしゃ」

「だったら断ればいいじゃないですか」

「お客さんのたっての願いを商売人が叶えられなくてどうするんだい! お客様は神さまなんだよ」


 清々しいぐらい前時代的な返答が返ってきた。

 まあ、全くその通りではあるんだけどね。


「で――。ぼくに何を?」

「手伝ってもらうよ」

「え?」

「臨時のバイトだ。その代わり、今日の宿賃はタダにしてやる」


 日雇い4000円のバイトか。

 まあ、いいや。

 女将さんにはお世話になってるしね。

 今日だけならいいだろう。


「ベッドが足りないので、床で雑魚寝をしてもらうことになりますが……」


 ルバイさんはカウンターから身を乗り出す。

 慣れない愛想笑いを浮かべた。


レベル50になっても、その点は能力の開発の余地がありそうだ。


 急造の宿屋のスタッフになったぼくは、ルバイさんの指示で部屋の準備を始める。

 すると、盛大な音が聞こえた。

 振り返ると、ガヴが近くにあったサイドテーブルを真っ二つにしていた。


「が、ガヴ!?」

「がう゛?」


 声をかけると、拳を握りしめた彼女は首を傾げた。

 何をそんなに慌ててるの――と言う感じで、尻尾をひらひらさせている。


 あとでわかったことだけど、この時ガヴの能力も上がっていたらしい。


 つまり、あの魔法は対象を決めるのではなく、効果範囲にいる人間の能力をすべて上げてしまうようだ。


 魔法も使用上の注意をよく理解した上で使わないとね。


 ああ、あと……。

 ルバイさんにはすっごく怒られて、バイト代はなくなりました。


ブクマ・評価・感想をいただきありがとうございます。

目指せ、日間総合1桁!


もしかしたら、今日もう1話上げるかもです。

頑張ります!!

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