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第10話 いきなり魔王幹部と対決とか早くないですか?

なろう界隈ではよくあること……。

 ぼくはギルドを訪れていた。


 明日までに3000ゴル。

 さすがに魔法を連発しても、スライムを3000匹倒すのは1日では難しい。


 女将さんには「あんた、どうするんだい?」と呆れられてしまったけど、一応当てはあるんだ。


 クエストだ。

 ギルドが受注しているクエストをクリアすれば、一気に大金が手に入るチャンスはある。


 久しぶりにギルドの跳ね板をくぐった。

 冒険者たちのむせ返るような汗の匂いくぐり抜け、ぼくはカウンターに向かう。


 くりくりとしたディル族の受付が応対した。

 リタさんだ。

 随分久しぶりだな。

 完璧な営業スマイルも健在だ。


 ぼくは軽く頭を下げて、愛想笑いを浮かべる。


「お久しぶりです」

「あれ? ご新規様ではありませんか?」


 ちょちょちょちょちょちょっと待って!

 ご新規じゃねぇよ!

 前にあんたに世話になった異世界人だよ!!


 くそ! どうやら完全に忘れているらしい。

 昔、好きだった女の子に同窓会で出会って、会場の店員と間違えられたことを思い出した。


 まあ、いいや。

 気を取り直そう。


「クエストの申し込みに来たんですけど……」

「わかりました。どのようなクエストをお望みですか?」

「一気に3000ゴルとか稼げるクエストありますか」

「3000ゴルですか。それは厳しいかと……」

「でも、あそこに3000ゴルって書かれてますよね」


 ぼくは壁に張られた賞金首の張り紙を指さした。


 最初来た時、わからなかったが、その中のいくつかは3000ゴル以上の賞金が書かれている。


「たとえば、ジャイアントオークとかは3400ゴルですよね。あれとか申し込み出来ないですか?」

「いや、ちょっと待ってください。ジャイアントオークって魔王の幹部なんですよ」


 魔王の幹部か。

 だから、賞金が高いのか。

 ちょっと幹部って聞くと怖いなあ。

 でも、魔王ならともかく幹部ぐらいなら、…レベルマ状態でなんとかなるんじゃないだろうか。


「失礼ですけど、お名前とレベルを教えてもらえませんか?」

「相田トモアキ。魔法使い。レベル1です」


 その時、リタさんの口が「あ」と動くのをぼくは見逃さなかった。

 どうやら思い出したらしい。


「相田様ですね。……ご、ご無沙汰してます」

「良かった。覚えててくれて」

「心配してたんですよ~」


 嘘つけ!

 さっきまで忘れていただろ!


「相田様。残念ですが、クエストの受付は出来かねます」

「ぼくのレベルが低いからですか?」

「ギルドの規定で決まっていまして。一定レベルに達しない限りは、受付は出来ないことになっているんですよ」

「だったら、ぼくが勝手にあいつを倒して、証拠とか差し出せば賞金はもらうことは出来ますか?」

「ま、まあ、可能です。あの賞金はギルドではなく、国から出ているものなので」

「え? じゃあ、賞金の受け取りは王都にいかないとダメなんですか?」

「いえ、それはこちらでご用意できます」

「即金で?」

「ま、まあ……。ただそこまで旅程の交通費や傭兵を雇うなどの費用が支給されませんが、よろしいですか?」

「構いません。1人で歩いていくんで」

「歩いていくんですか?」

「ダメですか?」

「いえ。それは別に……。ギルドとしては問題ないと思いますが」


 なるほど。

 リタさんが心配しているのは、責任問題か。

 レベル1の魔法使いが、幹部を倒しに言くといって、死んでしまった。

 ギルドはそれを知っていながら見過ごし、後に咎められることを恐れているのだろう。


「大丈夫です。ギルドには迷惑をかけませんから。なんなら一筆書きましょうか?」


 というとリタさんは奥へ引っ込む。

 上司みたいな人が出てくると、本当に一筆書かされた。


 場所を聞くと、割と近くだった。

 といっても、馬でも1日かかる距離だ。


 だけど、ぼくには魔法がある。

 何度か試してるのだけど、レベルマになると体力もアップするから、1日中全速力で走っても疲れないのだ。


 ちょっと面倒だけど、仕方がない。

 スライムを倒す以外で町から出るのはいやなんだけどね。


 獣娘を女将さんに頼んで、ぼくは夜通し走った。

 ただ面倒なのは、30分ごとに魔法のかけ直しはしなければならないことだ。

 おそらく今回だけとは思うけど、もう少し持続時間とか長くしてほしいよね。

 今度、他の呪文とか試してみようかな。


 次の日の朝。

 ようやくジャイアントオークの根城に辿り着く。


 岩山をくり貫いた天然の要塞だ。

 周りにはたくさんの武器を持ったオークがウロウロしている。


 うわー、さすがにスライムと違って怖いなあ。圧力すごい。

 中身は如何にも迷路な感じだし……。

 レベルマだったら問題ないと思うけど、ジャイアントオークを探しているうちに効果時間が切れて、かけ直してる間に襲われたら一溜まりもないもんなあ。


 うーん……。


 とりあえず全部吹き飛ばしちゃおうか。


「ゆう○い――」


 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……。


 念のためにかけ直しをする。


 改めて手を掲げた。


「精霊の一鍵イフリルよ。其の力、我の手に宿りて、紅蓮を示せ!」


 炎の弾(ファイヤボール)


 呪文を唱える。


 じゅっどおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおんんんん!!


 轟音と共に岩山が消し飛ぶ。

 黒い煙が上がり、紅の溶岩が降り注いだ。

 さながら火山が噴火したかのようだった。


 気が付けば、動くものはいなくなっていた。



 ★



 夜。

 ぼくはギルドにやってきた。


 営業時間ギリギリで戻ってくることが出来た。


 ぼくの姿を見て、この時間まで受付をしていたリタさんが驚く。


「そ、それ、どうしたんですか、ヒロユキ(ヽヽヽヽ)さん!?」


 トモアキだって!

 “キ”しかあってねぇよ!

 なんだよ、その某巨大匿名掲示板の開設者みたいな名前は。


「ジャイアントオーク倒してきました。これが証拠品です」


 ぼくは気を取り直し、持ち込んだ剣を床に置いた。

 本来なら、カウンターに並べてあげたいところだけど、それは出来ない。

 何せ剣の全長は5メートル近くある。

 ギルドに入りきれなくて、先っちょが外に出たままだ。


「ま、間違いねぇぞ、こりゃ」

「ああ。ジャイアントオークが持つ邪刀『クロユメ』だ」


 にわかにギルドが騒がしくなる。

 ギルドにいた数名の冒険者たちが、集まってきた。


「た、確かにジャイアントオークの武器みたいですけど、これをどうやって?」

「だから倒したんですよ、勇者様が(ヽヽヽヽ)

「勇者様が!!」

「はい。ぼくがお金に困っているというと、代わりに勇者様がジャイアントオークを退治して、これをぼくに」


 しんと、静まりかえる。


 あちゃー。やっぱ無理があったかな。

 思ったが、すぐに杞憂に終わった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 歓声が巻き起こった。


「さすが勇者様だ!」

「ジャイアントオークをあっさりと倒すなんて!」

「レベル40の戦士が束になっても勝てなかったというほど、強いんだぞ」

「すげぇ! 勇者、マジすげぇ!」


 リタさんもカウンターから飛び出し、小躍りしながら喜んでる。


 その肩をツンツンと叩いた

 彼女は振り返ると、ぼくの顔を見て、首を傾げた。


「あの……。早速ですが、お金下さい」


 手の平を上にして、差し出した。



 ★



 ぼくはようやくロダイルの屋敷兼奴隷取引所へと赴く。


 時間は23時。

 ギリギリ間に合った。


 夜遅くでもロダイルは応対してくれた。

 意外と律儀な人なのかもしれない。


 屋敷の中に入ると、奴隷らしき人たちが、こんな時間でも働いていた。

 みんな――あの少女と同じく痩せている。


 応接室に通されると、早速本題を切り出した。


「遅かったな。で? お金は持ってきたのか?」

「はい。その前に、ロダイルさんに紹介したい方がいるんです」


 ぼくの隣に座っているディル族の女を紹介した。


「うん? お前、ギルドにいる受付じゃねぇか」

「は、はい。ギルドで受付嬢をやってるリタと申します」

「なんでお前がこんなところに?」


 ロダイルはぼくの方を向く。

 けど、ぼくは肩を竦めるだけだった。


 すると、突然リタさんはロダイルに向かって土下座した。


「すいません。3000ゴルのお金! 明後日まで待ってもらえないでしょうか?」

「はあ?」


 ロダイルは訳が分からず、ますます顔が不機嫌になっていった。

 ぼくが助け船を出す。


「実は、即金で3400ゴルが受け取るはずだったんですけど、ギルドの金庫に今そのお金がないらしいんですよ」

「な!」

「トモアキさんの言うとおりなんです。まさか1日でジャイアントオークを倒すとは思わず、ギルド本部に賞金の申請もしてなくて」

「ジャイアントオークを倒したのか、お前」

「ぼくじゃなくて、勇者様ですけどね」


 あっけらかんとぼくは嘘を言い放つ。


「一旦本部に連絡して……えっと、王国にも許可をもらわないといけないので、お金を持ってきてもらうまで最短でも2日かかるんです。どうにかそれまで待ってもらえないでしょうか?」


 必死にリタさんは嘆願する。

 ちなみに何故、彼女がギルドを代表してきたかというと、上長はすでに帰っていて、一番上の役職がリタさんだったからだ。意外とお局さんみたいなポジションなのかもしれない。


 さらにぼくは「今日中にお金を出さないと。勇者様の顔を潰すことになりますよ。ギルドとしてそれでいいんですか?」と畳みかける。

 それを信じたリタさんは、業務外にも関わらず、こうして付いてきて、今まさに土下座を披露しているというわけだ。


「ギルドが払うというなら、待ってやれんでもないが……」

「あ、ありがとうございます!!」


 声に汗が滲むぐらい必死さで、リタさんは感謝の言葉を叫んだ。


 ロダイルはまたぼくの方を見る。

 目で「お前、一体何をしたんだ?」と尋ねてきた。


 ぼくはまた肩を竦めて誤魔化し、絶妙な笑みを浮かべるのだった。




 余談だが、勇者が魔王の幹部であるジャイアントオークを倒したことは瞬く間に王国中に広がった。


 その知らせを近くの町の居酒屋で知った同僚(ゆうしゃ)は、酔っ払いながら。


「あれ~。ばれちゃいました~」


 あっさりと認め、即興で作った英雄譚を群がってきた聴衆に披露したのだという。

 そこからは例のお祭り騒ぎ。

 勇者はしこたまハッスルしていたと、風の噂で聞いた。


 手柄を取られたようでちょっぴり悔しい。

 でも、申告したのはぼくだし、今回は許してやることにした。


 本日午後、ジャイアントオークが描写されないまま殺されました。

 作者は警察の取り調べに対し。

「ほら、魔物って描写するのが面倒じゃないですか……」

 と素直に認めており、警察は余罪を追及していく方針です。


日間総合40位! 異世界転移/転生(ファンタジー)12位でした。

ブクマ・評価・感想をいただいた方ありがとうございます。


今日、あともう1回上げる予定です。

しばらくお待ち下さい。

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『ゼロスキルの料理番』
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