後日談 彼らの戦いは始まった……。
短いといったな……。
あれは嘘だ。
これがホントに最期です。
ここまで読んでくれた方ありがとうございます。
アリアハルが相田トモアキの結婚式に沸く中、それを見つめる3人の姿があった。
1人は茶色の髪に、ゴーグルを巻いた小柄な男。
どんぐりのようなつぶらな瞳の持ち主で、童のような顔には皮肉っぽい笑みが浮かんでいる。前掛けのような司祭服を着て、腰に細身の剣を提げていた。
2人目は、見目麗しい女性だった。
赤い頭巾から流れるように落ちる深い紫色の髪。
色白で、細い体躯には白いローブを纏い、赤い宝石のような瞳を油断なく、結婚式場の方に放っていた。
最後は、大柄な男だった。
真っ青な服に、真一文字に結んだ口元。
青い瞳を冷たく光らせ、魔法瓶のように太い腕を組んでいる。
その背中には禍々しい大剣を背負っていた。
雰囲気、そして服装。
共に結婚式にそぐわない格好をしている3人の共通点は、それぞれの武具に鳥の意匠が施されていることと、どことなく雰囲気が似ていることだろう。
一方、結婚式は最高潮を迎えていた。
トモアキに3人の女たちがキスをする。
すると、パンと花火が上がり、拍手と歓声が上がった。
「主もこれで一人前の男ってわけだな。いいねぇ、結婚……。どうだい、王女? 俺と結婚する?」
「結構よ、王子。パートナーは自分で見つけるから」
「つれねぇなあ」
「……」
「あ。ちょっと……」
青の王子が突然、場から離れる。
結婚式場へと向かう人と逆行しながら、人気のない方へと向かう。
青の王子に追いつくと、緑の王子は切り出した。
「しっかし、俺らどうなるかね?」
「どうなるって?」
「この世界は平和になったんだ。俺らがいる意味なくね?」
「私たちは私たちの使命を果たすだけよ」
「それってどっちよ? 主を守ること? それとも邪神官を倒すこと?」
「…………」
「…………」
「2人とも忘れてないよな? 俺たちの本当の使命のことを」
緑の王子は畳みかける。
3人は立ち止まった。
赤の王女は「それは……」と途中いいかけて、青の王子を見つめる。
一方、その王子は無言を貫いていた。
「俺たちは戻らなきゃならない。いつか……。自分たちの世界へ」
「それはわかっているけど……」
赤の王女は俯く。
緑の王子の言いたいことはわかる。
だが、その方法がない。
このハイミルドに召喚されて、ずっと元の世界に戻る方法を探してきたが、その手がかりすら見つけることが出来なかった。
主にそれを求めても無駄だろう。
彼は自分たちの存在すら気付いていないのだ。
「…………」
寡黙な青の王子は結局何もいわなかった。
そのまま3人はアリアハルの雑踏に紛れていった。
◆◇◆◇◆
夜――。
主の就寝とともに、いつも通り配置に付いた。
青の王子は外。
緑の王子は庭を。
赤の王女は屋根裏に控える。
月が綺麗な夜だった。
自分たちの世界にも似たような星がある。
それはアイテムにもなっていた。
青の王子がやおら腰を上げる。
強い獣臭はすぐ他の2人の知るところとなった。
屋敷の外に出てくると現れたのは、6本の腕を持つロボットだ。
2本の足で立ち、ガチャガチャと賑やかな音を鳴らして近付いてくる。
「なんだ? ありゃ?」
「似てるわね。私たちの世界のモンスターと」
2人は構える。
青の王子も背中の大剣を振りかぶった。
「テキセイセイブツ。ハッケン。ハイジョ。ハイジョ」
「なんかおかしいぞ。あいつ」
「モンスターじゃないわね」
「ロボットってヤツだろ。ジョブじゃなくて、命令されて動いているのかもしれない」
「じゃあ……」
「ああ。あいつの狙いは――」
「ワレ、アイダトモアキ ヲ ハイジョ! ハイジョ!」
6本の腕を持つロボットは3人に襲いかかる。
迎え討ったのは、青の王子だ。
真っ直ぐに振り下ろされた極大の青龍刀を受け止める。
そこにさらに槍や直剣、叉、弓の攻撃が重なった。
だが、それをすべて青の王子は蹴散らす。
「後ろもらい!!」
その間に、緑の王子が回り込んだ。
がら空きの背中に向かって神速の突きを繰り出す。
ガキイィンン!!
「痛てぇ!」
剣が弾かれた。
震動は握った手に伝わり、緑の王子は顔を歪める。
「2人とも離れてください!!」
赤の王女が叫ぶ。
その手には巨大なエネルギーの塊が握られていた。
王女は呪文を解き放つ。
ごおおおぅぅぅぅぅぅぅうぅううううううう!!
爆発が起こる。
大気を振るわせ、爆風がアリアハルに渦巻いた。
ひゅ~、緑の王子は口笛を吹く。
他の王子と王女は爆煙が止むのをじっと待った。
しかし――。
「ハイジョ。ハイジョスル」
赤い炎の中から、6本の腕を持つ異形が出現する。
その装甲こそ煤にまみれていたが、不気味な1つ目は光り輝いていた。
「無傷かよ」
「もう1度やります。2人とも時間稼ぎを――キャッ!!」
赤の王女が吹き飛ばされる。
凄まじい衝撃に王女は意識を失った。
その肩には深々と矢が刺さっているのを見つける。
「王女!」
走ったのは緑の王子だ。
移動しながら、回復魔法を完成させる。
だが、行く手を阻まれた。
「速い!」
王子が唸るほど、ロボットの動きは速かった。
気が付けば、直剣の切っ先が目の前に見える。
反応するが、かわせない。
王子の腕があっさりと貫かれた。
「ぐああああ!!」
緑の王子もまた吹き飛ばされる。
近くに壁に突っ込むと、同じく昏倒した。
残るはお前だ、といわんばかりに、ロボットは青の王子の方を振り向く。
2人に一瞬視線を送ってから、王子は盾を捨て、両手で大剣を握った。
先手を取ったのはロボットだ。
一瞬にして、王子との間合いを詰める。
青龍刀を振り下ろす。さらに直剣の突き、槍、叉の連撃を放つ。
青の王子は防戦一方だった。
反撃は出来ず、凄まじいロボットの膂力に対し耐えるしか手だてがない。
今まで戦ってきた中で最強の相手だった。
もしかしたら、彼らの宿敵。
邪神官よりも強いかもしれない。
いずれにせよ、このままではじり貧だ。
せめて他の2人の意識さえ回復すれば……。
と思った時、青の王子は気配を感じる。
「離れて!」
その言葉は緑の王子でも、赤の王女でもなかった。
だが、青の王子は反応する。
ロボットの攻撃を目一杯の力で弾いた。
一瞬の隙を見逃すことなく、王子は退く。
火の弾!
極大の炎の塊がロボットに打ち下ろされた。
凄まじい光と、轟音がアリアハルにまき散らされる。
太陽もかくやという熱量は、あっさりとその装甲を消し飛ばした。
炎を収まり、やがて目を開ける。
同時に意識を失っていた2人も覚醒した。
3人は同じ方向に視線を向ける。
ロボットは消滅していた。
月光にさらされていたのは、その影だけだ。
「すごい……」
普段寡黙な青の王子が思わず呟いた。
「大丈夫? ケガはない?」
すると、背後で声が聞こえる。
3人は向き直った。
視界に映ったのは――主だ。
相田トモアキ。
“復活の呪文”によって、偶然にも自分たちを召喚してしまった魔法使いだった。
だが、おかしい。
彼が寝ている時、自分たちの存在に気づけないはず。
「いや、知ってたよ……」
「「「えっ?」」」
「こうやって面と向かって会うのは初めてだけど、夜中に誰かがぼくのことを守ってくれていることは知ってたんだ」
「そうだったんですか……」
「なんだよ。そういうことは早くいってほしいぜ、主」
緑の王子と赤の王女はへなへなとその場に座り込む。
トモアキは「ごめんごめん」と謝った。
「いつもありがとう。ぼくを守ってくれて。でも――」
君たちの役割はこれで終わりだ。
青の王子の眉がぴくりと動く。
他の2人も、主の発言に驚いている様子だった。
「君たちには君たちの役目がある。違うかい?」
「でもよ、主。そうなると、あんたは……」
「大丈夫だよ。ぼくはそんなに弱くはないさ。よく知ってるだろ?」
「それはそうですが……。主、我々には戻る手だてがないのです」
赤の王女が俯く。
トモアキは明るい声でいった。
「ぼくが君たちを元の世界に戻すよ」
「そんなことが……」
「召喚したのはぼくだ。なら、君たちを戻す義務もぼくにある」
3人は一カ所に集められる。
揃った王子と王女を見ながら、トモアキは感慨深げに見つめていた。
ちょっとうるっときたらしい。
呪文を唱える前に、ごしごしと涙を拭った。
「やだな……。こういう時に写メとかあったら良かったのに」
「今からでも、絵でも描いてもらうか?」
緑の王子はニヤリと笑う。
トモアキはゆっくりと首を振った。
「いや……。君たちには、早く元の世界に帰ってもらわないと」
「ありがとうございます、主。この恩、一生忘れません」
「いいよ。そんなに畏まらなくて。元々ぼくが悪いんだし」
「ちなみにいうとさ。青の王子の名前はあのクソダサイ名前じゃないぜ」
「わかっているよ、緑の王子。ちなみに君は『すけさん』じゃないんだろ」
「当たり! ちなみに赤の王女は……」
「もういいでしょ、緑の王子。……ささっ、主。お調子者は放っておいて。呪文を唱えてください」
「ありがとう、赤の王女。パッケージの中の君も綺麗だけど、実物を見るともっと綺麗だね」
赤の王女の顔が真っ赤になる。
慌てて目を背けた。
「もう! 主ったら! 結婚式を挙げたばかりでしょ。奥方様に言いつけますよ」
「おお! 怖ッ! 主、そうなる前に俺たちを送ってくれよ」
トモアキは苦笑しながら、頷いた。
青の王子に向き直る。
その青い瞳は、深山にある湖面のように透き通っていた。
「元気でね」
「主も、お元気で」
青の王子は頭を垂れた。
トモアキは呪文を唱える。
「これはね。ぼくが最初に覚えた復活の呪文なんだ。子供の時、この復活の呪文が出来たことが自慢でね。クラスのみんなに教え回ったものさ」
そう――。
これは初めてトモアキが、ゲームをクリアした時の呪文。
世界に1つしかない。
冒険者が世界を救った証だった。
「世界をよろしくね、王子……。王女……」
「かしこまりました」
「またな、主」
「必ず……。世界を救ってみせます!」
長い……。長い“復活の呪文”が唱え終わる。
同時に3人は消滅した。
トモアキは月を見上げ、呟く。
「さようなら。……ぼくの名前の勇者」
◆◇◆◇◆
青の王子は目を覚ます。
視界に広がっていたのは、深い霧。
そして禍々しい形をした城だった。
「どうやら、これが邪神官がいる城の本当の姿らしい」
「戻ってきたのね、私たち。元の世界に……」
「どうやら、そのようだな」
青の王子は剣を握る。
すでにモンスターが出現し、王子たちに襲いかかろうとしていた。
「さーて……。俺たちの戦いはここから見たいだぜ」
「そういう言い方、なんか不吉だわ」
緑の王子と赤の王子は構える。
その2人の間を抜け、青の王子は正面に立った。
「行くぞ!」
「おう!」
「ええ!」
3人は走り出す。
モンスター、そして城の最上階で待つ邪神官を倒すため。
彼らの最後の戦いが始まった……。
これにて、お話は終わりです。
明日は「あとがき」のみになります。
詳しい作成秘話などを書きましたので、是非そちらもお楽しみに。
改めてブクマ・評価・感想いただいた方、
少しでも拙作に触れていただいた方ありがとうございます。
完結まで持っていくことができたのは、ひとえに読んでいただいた読者様のおかげと思っております。
ぺぺぺ……は終了いたしますが、
これからも小説家延野正行は、作品を量産していきますので、
引き続きご贔屓いただければと思います。
とりま明日から新連載『ゼロスキルの料理番』が始まります。
初の飯ものということでドキドキしていますが、
読んでお腹を空かせていただければ幸いです。
ではでは、またどこかお目にかかりましょう(^^)ノシ
追伸
突然、作品が消えたり、作者がリアルで消えたら、
某SE社からの――――おっと、誰か来たようだ……。