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エピローグ そして、魔法使いは……

エピローグです!

 ライドーラ王国の王都はお祭り騒ぎになっていた。


 人々は通りに出て、歌ったり、踊ったりしている。

 軽やかな音楽が鳴り響き、紙吹雪が舞った。

 振る舞われた料理や酒に舌鼓を打ち、赤い顔をした男女が何度も「乾杯」と杯を突き合わせている。


 馬鹿騒ぎに近い狂乱の王都には、馬車の車列が出来ていた。

 それは王宮へと続いている。


 そこでは、式典が行われていた。

 各国の代表者が一同に介し、式典を見守っている。

 壇上に昇ったのは、青い肌をした銀髪の少女だ。


 現れるなり「おお」とどよめきが起こる。

 だが、すぐに拍手が鳴り始めた。

 黒ではなく、真っ白なドレスを着た少女は、壇上でぺこりと頭を下げる。


 さらに現れたのはライドーラ王国現国王だった。


 少女が威風堂々としているのに、こちらはいささか緊張した面もちだ。

 登壇している途中でこけてしまい、みんなの笑いを誘っていた。


 怪我の功名か。

 若干張りつめていた空気が緩んだ。


 あらかじめ用意された机に、自分の署名をする。

 それを取り交わすと、2人は握手をした。

 元兵士長の王様と、少女の邂逅。

 大きな手はしっかりと小さな手を握っていた。


「うおおおおおおおおお!!」


 怒号のような歓声が上がった。

 スタンディングオベーションが起きる。

 その中には、魔族の姿もあった。

 泣いている者。笑っている者。人それぞれだけど、みんな嬉しそうだ。


 人類代表ライドーラ王国国王。

 魔族代表ルーナシグ魔王。


 この日、人類は魔族と手を取り合っていくことを決めた。


 現在の領地は保証され、各地にいる魔獣たちは各国に保護区を設けて対応し、その管理は魔族が負うことになった。


 ひとまずこれが、人間と魔族の第一歩になる。


 たぶん、これからもお互いの諍いは続いていくだろう。

 けれど乗り越えられると思う。


 まず手始めにゲームだ。


 間近に迫ったオセロの世界大会では、魔族も参加可能になっている。

 魔王ルーナシグも、早々参加を表明し、優勝を誓っていた。


 人間と魔族の小さな1歩。

 だけど、この歩みはきっと無限に広がる。


 国王に横抱きに抱えられた小さな魔王に拍手を送りながら、ぼくは確信していた。



 そして、ぼくもまた1つの決断を下した。



 ◆◇◆◇◆



 王宮の中庭。

 緩やかな音楽が流れる中、各国代表や功労者が集まって、立食パーティーが行われていた。


 本日は快晴。

 真っ昼間から飲むお酒も悪くはない。

 ハイミルドに来た頃は、癖のある味が苦手だったけど、もう慣れてしまった。


「トモアキ……!」


 軽やかな声が聞こえる。

 近付いてきたのは、魔王ルーナシグだ。


「やあ、ルーコ――じゃなかったルーナシグ様」


「ルーコでよい。お主には返しきれないほどの恩があるからの」


 大神(たいしん)から『かみさま』というジョブを奪った瞬間、ハイミルドのジョブシステムは消滅してしまった。

 同時に、魔法やスキルもなくなり、当時はかなり混乱したものだ。

 それでも、すぐに収まったのは、魔族が敗北を宣言したことが大きい。


 ジョブシステムはあくまで魔族と戦うためのもの。

 その脅威がなくなったことによって、混乱は収拾されたのだ。


 そしてぼくが仲介人となり、一気に人類と魔族の和平へと持っていった。


 今日が栄えある和平式典だったというわけだ。


「ドレス、とても似合ってるよ、ルーコ」


「そうか。妾は黒の方が好きなのじゃがな。うむ。お主にいわれると、少し照れるの」


 青い肌が、キュッと赤くなる。

 ぼくが銀髪を撫でてあげると、ますます顔を赤くした。


「こちらでしたか、トモアキ殿」


 ライドーラ国王がやってくる。

 ルーコと合わせたのか、真っ白な衣装を着ていた。


「カッコ良かったですよ、国王」


「茶化さないでください。壇上で転んだのは、一生の不覚です」


 肩を落とすのを見て、ぼくとルーコは一緒に笑った。


 すると、少し離れたところで歓声が上がった。

 ライオンのような鬣をした魔族が、樽ごと持ち上げ、一気に酒を呷っている。

 その豪快な飲みっぷりに、拍手が送られていた。

 魔族は満足そうに、顔を赤くしている。


 最初はどうなるかと思ったけど、魔族たちもパーティーに溶け込んでいる様子だ。


「あーもー。あやつめ! 羽目を外しすぎるなとあれほど言ったのに! ちょっと叱ってくる!」


 ドレスの裾を掴み、ルーコは酒豪の魔族の元へと駆け寄る。

 屋敷で泣いていた魔王様の姿はない。

 その小さな背中は、とても頼もしかった。


 ぼくはライドーラ国王に向き直る。

 持っていたお酒のグラスを側のテーブルに置いた。


「国王……。お話があります」


 ぼくの真剣な眼差しに、国王は何か感じ入ってくれたらしい。

 穏やかな笑みを浮かべた。


「ようやく決心をなさったのですね」



 ◆◇◆◇◆



「ぼくと結婚してください!」


 ぼくは膝を突き、両手を掲げた。

 その手には箱がある。

 小さな指輪が、キラリと光っていた。


 3つだ。


 そして、ぼくの前にいるのは、3人の女の子たち。


 凄く驚いた様子で固まっていた。


「ずっと前から考えていたんだ。いつか誰かを選ばなくちゃって。3人の気持ちをそのままにしておくのは、卑怯だって。でも、ぼくには選べない。3人のうち、誰かを切るなんてことは出来ないよ」


 だって、彼女たちはぼくの家族だから……。


 大好きな……。

 この世でもっとも愛しい女の子たちだから。


「優柔不断で、頼りない男だけど、受け取ってくれますか?」


 …………。


 深い深い沈黙だった。

 生涯でももっとも長い5秒が、闇市で買い取った置き時計とともに刻まれる。


 ふと手の平が軽くなった。

 そこに3つあった指輪の箱がなくなっている。


 顔を上げると、3人の女の子たちは泣いていた。


「ありがとうございます、ご主人様。パーヤは……。パーヤはとても嬉しいです」

「あたしだけを選んでくれなかったのは、ちょっぴり残念だけど……。あたしも嬉しい。これからも4人で暮らしていけるんだから」

「パーパ! ガヴ、パーパのことがとっても好き! 大好き!」


 ガヴがぼくの元に飛び込んでくる。

 それをきっかけにパーヤとクレリアさんも抱きついてきた。


 3人に押し倒される。


 家族の泣き笑いを見て、ぼくは幸せだった。


 思わず涙が浮かぶ。


 嗚咽を挙げながら、その日家族3人で嬉し泣きをした。



 ◆◇◆◇◆



 カランカラ~ン!


 教会の鐘が鳴り響く。

 花吹雪が舞い、「おめでとう!」という祝福の声が上がった。


 その下にいたのは、ぼく、そして3人の花嫁たちだ。

 白いドレスに身を包み、ぼくの腕を取っている。

 教会の中で誓いを立て、赤い絨毯の向こうに行くと、たくさんの人たちが出迎えてくれた。


 ルバイさん、ルーイさん、ロダイルさんに、販売所の人たち。

 道具屋さんに、マティスさんやタケオさんも手を振っている。

 国王は引き連れてきた兵士たちとともに剣を掲げ、リナリィさんが率いる青い箱船騎士ブルー・アーク・ナイトたちも、それに参加していた。


 魔族たちもいる。

 ルーコがその先頭に立ち、小さな手で拍手を送っていた。


 他にもアリアハルの人たちが大勢詰めかけている。


 あれ? あの青、緑、赤の3人も見たことがあるぞ。

 どこでだっけ?

 考えていると、次の瞬間いなくなっていた。


「どうしました、ご主人様」


 赤い口紅をし、化粧したパーヤがぼくを見つめる。

 目が合うと、思わず見とれてしまった。

 本当に綺麗だ。


「トモアキ! あたしも見てよ」


 と言いながら、クレリアさんは太股を見せる。

 いつの間にドレスにスリットなんて入れたのだろうか。

 綺麗な細い足が見え隠れしていた。


 また動悸が上がる。

 思わず叫びそうになったのを堪えた。


「パーパ、大丈夫?」


 心配して、ガヴがぼくの背中によじ登ってくる。


「大丈夫だよ。ありがとう、ガヴ」


 頭を撫でる。

 相変わらずモフモフだ。

 おかげで少し落ち着いた。


 花道を通る。

 色々な人に挨拶をしながら、ぼくたちは歩んでいった。


「おめでとうございます、アイダ侯爵閣下」


 という祝いの言葉が聞こえた。


 そう。

 ぼくは貴族になることにした。


 ライドーラ王国の法律では、貴族には一夫多妻が認められている。

 つまりは、正室の他に側室を置いていいということだ。

 これなら3人と契りを結ぶことが出来る。

 少し前から国王とは相談していて、向こうから是非にといわれた。

 王様も考えていたことらしい。


 貴族となると、領地の運営や王宮の中でも役職が付くことになる。


 つまりはお仕事だ。


 あてがわれたのは、遊興大臣。

 なんとも怠惰な名前だけど、オセロなどのゲームをハイミルドに広げる仕事だ。

 オセロの世界大会の運営なども、ここに含まれている。

 おかげで、ぼくのスケジュールは一杯だ。


 でも、今とても充実している。


 思い描いていたスローライフとはちょっと違うけど、なかなか悪くない。


 それにぼくには、支えてくれる女の子たちがいる。


 何よりも代え難い家族がいる。


 これからも一緒に、1つ屋根の下で暮らせる。

 それだけで、ぼくは幸せだった。


 ここでぼくのお話は終わる。

 でも、人生は続いていく。

 きっと、色々と苦難はあるだろう。


 その時は、唱えることにしよう。


 あの呪文を……。


 懐かしき“復活の呪文”を。



 ゆう○ いみや ○うきむ

 ○うほ りい○ うじとり

 ○まあ きら



 大きく手を掲げ、ぼくは叫んだ。



「ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ……」







 え? 誰が正室になったって?


 それはね――――。


ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

本編はこれにて最終回となります。

あとは「あとがき」のみとしようと思ったのですが、

明日もう1話だけ短いですが更新させていただきます。

楽しんでいただければ幸いです。

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