第101話 この世界が大好きだ!
記念すべき101話目!
ぼくはルーコとともに最下層に降りていった。
クレリアさんたちとも合流し、外の敵を掃討したパーヤとガヴも遅れてやってくる。
放射線状に広がった爆心地を見つめた。
周囲が黒焦げになった場所に、人が大の字で倒れていた。
やったか!
と思ったが、魔王勇者は起き上がる。
けほっ、と炭を吐くと、パタパタと埃を払った。
しぶといな。
あれほどの攻撃を受けて生きてるなんて。
ごくりと息を呑んだのは、クレリアさんだった。
「あたしが魔王と戦った時と一緒だわ」
「そうじゃ。あやつは魔王にして、勇者……。魔王は勇者にしか倒せん。唯一の対抗手段が、合体したことにより、最強の存在になってしまったのだ」
「そんな! それじゃあ。どうやって倒せばいいんですか?」
「がう゛~」
パーヤの顔が青ざめる。
横にいるガヴも心配そうにぼくを見つめていた。
その金髪を撫でる。
獣人幼女の毛は、この戦闘の中にあっても、変わらずもふもふだった。
「大丈夫だよ! なんとかなるさ」
再びぼくは魔王勇者に立ち向かっていく。
対し、向こうの余裕は変わらない。
「今ので思い出したぞ。お前、アイダだな。俺と一緒に異世界に飛ばされた。久しぶりじゃないか。元気そうで嬉しいぞ」
嘘吐け。
忘れていたクセに。
そのまま一生忘れたままでいればいいんだ。
「久しぶり。思い出してくれて何よりだ」
「お前、結構強くなったんだな。俺様をあんなにぶん殴れるヤツは初めてだ。なあ、どうだ? アイダ? 俺と組まないか?」
「組む?」
「俺とお前で、この異世界を乗っ取るのさ。お前だって苦労したんだろ? 俺もそうさ。訳のわからないままいきなり勇者に担ぎ出されてさ。モンスターと戦えとか、魔王を討伐しろ、とか。散々だったんだ」
「へぇ……。だからって、人のものを盗んだり、脅したり、女性に暴行するのは間違っているよね」
「そ、それは――。俺は勇者なんだぜ。相当なプレッシャーをかけられていた。周りからな。結果を出せって。ほら、お前だってわかるだろ? そういうストレスを発散しよと思ったら、多少のおいたは許されるはずだ」
「多少ね。……でも、魔王になったのは、やりすぎじゃない?」
「俺は間違っていない。この世界がおかしいんだ! 俺はそれを作り替えたかっただけ。お前だって、不満の1つや2つあるだろう」
確かにそうだ。
異世界に来て、散々な目にあってきた。
けど、ぼくは乗り越えることが出来た。
優しい人たちのおかげで。
ルバイさん、ルーイさん、ロダイルさん、アイテムショップのおじさん、マティスさん、タケオさん、リナリィさん。兵士長さん。
そして、ぼくの家族。
家の事で忙しくても笑顔を絶やさず、綺麗なターンを見せてくれるパーヤ。
怒るとちょっと怖いけど、真面目でぼくを引っ張ってくれるクレリアさん。
まだまだ言葉は未熟だけど、とても優しい心の持ち主のガヴ。
たくさんの人が、異世界で1人ぼっちだったぼくを支えてくれた。
その世界を作り替えようとするなんてとんでもない。
「ぼくはね。このハイミルドが好きなんだよ!!」
ぼくは駆け出す。
鞘から剣を抜きはなった。
綺麗な刀身がまるで野獣の歯牙のように光る。
飛んだ――。
真っ直ぐぼくは、元同僚に襲いかかる。
大上段から思いっきり振り下ろした。
ぽこっ……。
大げさに振ったわりに、とても間抜けな音が魔王城に響き渡る。
元同僚は顔を上げた。
どこも斬られていない。
炭をかぶった身体の隅々まで調べたが、どこも怪我をしていなかった。
「なんだよ、こけおどしかよ」
「そうでもないさ」
すると、ぼくの後ろにぬっと大きな影が現れた。
魔獣や魔族たちだ。
何か興奮したように鼻息を荒くし、爪を研いだり、胸を叩いたりしている。
元同僚は笑った。
「よーし。お前たち、こいつを今すぐ捻り潰せ!」
びしっ、とぼくを指さす。
やがて魔獣たちは動いた。
ぼくをかわしてだ。
「え? あん? ちょ? ちょっと! お前たち! なにしてんだよ! そいつをやれ。あわわわわわ――。ちょ! やめろ!!」
「この剣は、ただの剣じゃない。聖剣ルールブレイカー。どんなジョブでも壊すことが出来る無属性の剣だ」
ぼくは聖剣を掲げた。
どうだ、といわんばかりに、刀身がギラリと光る。
これで同僚は勇者でもなければ、魔王でもない。
ただの無職だ!
すると、魔族の1匹が、元同僚を吊し上げた。
白い息を吐き出し、赤黒い目で元上司を睨む。
「お前ら、何をしている! 俺は魔王だぞ!」
「うるせぇ! てめぇ、よくもオレらをこきつかってくれたな!」
「散々働かせやがって!!」
「残業代、とっとと払いやがれ!」
「ちょっと! この前、ラミアの胸をさわったの覚えてるんだからね。訴えてやるわ」
「お、おでは別に村を襲いたくなかったのに。『できませんでした、じゃすまされないぞ。わかっているな?』って脅されて、おで……」
「知らねぇよ! お前らが勝手に俺の指示に従っていただけだろうが!」
あーあ。最低だ……。
言ってることが無茶苦茶だ。
魔族じゃなくても、これは怒るだろう。
「おい。あんた……。こいつの落とし前は、オレらでつける? いいか?」
「任せるよ。性根から鍛えてやってくれ」
「あと、すまなかった。あんたたちも、ルーナシグ様も」
気がつけば、周りの魔族が傅いていた。
その頭はルーコの方に向いている。
「お主たち……」
「申し訳ありませんでした、ルーナシグ様」
「魔王はあなたをおいて他におりません」
「命令だったとはいえ。裏切ってすいませんでした」
「これからもあなた様に従います」
すっかり改心したらしい。
ルーコを見ると、すでに涙腺が決壊していた。
ポロポロと涙をこぼす。
魔王の流す滴は、人間と変わらない。
むしろ、より綺麗に見えた。
「良かったね、ルーコ」
ポンと頭を叩く。
ルーコはもう言葉にもならないらしい。
うんうんと何度も頷き、涙を払っていた。
「さあ、魔王様。ご命令を」
ぼくが促すと、ようやく落ち着いた彼女は、魔族たちを前に叫んだ。
「皆の者! よく聞け!!」
「「「「ははっ!」」」」
「妾は遊び相手がほしい! よって! 今からオセロを覚えろ!」
「「「「御意!」」」」
え? いいの? そんな命令で。
御意って……。
ま、いいか。
魔族もオセロに熱中しはじめたら、戦うことがアホらしくなるかもしれない。
ゲームの普及も進むかもね。
ひとまず戦いは終わった。
これでとりあえず、一段落ついただろう。
ぼくがほっと胸を撫で下ろした瞬間、次の事件は始まった。
空から盛大に鐘の音が降り注ぐ。
慌ててぼくたちは外へと出た。
空が黄金色に光り、オーロラのような帯が、ハイミルド全体に広がっている。
雲間が切れた。
すると、人――いや、違う天使が現れた。
白い翼を広げ、頭に天輪を浮かべた天使が降臨する。
やがて大きな声が周囲の空気を震わせた。
「我が名は大神である」
とうとう大神が登場です。
残り2話です! 明日も更新します。