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第98話 魔法使い、ルーコの正体に驚く

いつも感想送ってくれる方、ありがとうございます。

返しが遅れに遅れてしまいましたが、一部返信させていただきました。

このまま最終回まで突っ走るので、よろしくお願いします。

 魔族はこの世から去った。


 音を聞きつけ、ガヴが森の奥からやってくる。

 口にスライムの核をくわえていた。

 特にケガなどはしていないようだ。


 ぼくは向き直る。

 平原の上で頭を抱え、震えている少女に近付いた。


「ルーコ、大丈夫?」


 だが、返事はない。

 余程、ショックを受けているようだ。


 あの魔族、凄まじい殺気だった。

 ルーコを殺そうとしていたことは明白だ。


 一体、彼女は何者なのだろう。


 ともかく、ここを一旦離れた方がいい。

 もしかしたら、また魔族が襲ってくるかもしれない。

 ガヴに帰ることを告げる。


「ルーコも帰るよ」


「妾はルーコではない」


「え?」


 すると、ルーコはようやく立ち上がった。

 顔は俯いたまま、ぼくの方を見ようとはしない。

 だが、金色の瞳は涙に濡れていた。

 小さく喉をひくひくさせ、泣いている。


「大丈夫? どこかケガでもした?」


 おろおろしながら、ぼくはルーコをよく観察する。

 外傷らしきものはない。

 何か呪いか毒でも受けたのだろうか。

 心配したぼくは、鑑定魔法を使った。


「とうきょ〇と たいと〇く こまが〇ばんだ〇の がんぐだいさんぶのほし」


 瞬間、ぼくはステータスを見て固まった。


 なまえ   ルーナシグ

 じょぶ   まおう

 れべる   499

 ちから   499

 たいりょく 499

 すばやさ  499

 ちりょく  499

 まりょく  499

 きようさ  499

 うん    499


「うそ! 魔王……!」


 信じられない。

 今、目の前にいるのはガヴと年が変わらないほどの小さな少女だ。

 確かに超然とする雰囲気はある。

 けど、こんな少女が「魔王」だなんて。


「そうだ。妾は魔王ルーナシグ。魔族と魔獣を束ねる王だ」


 ルーコは俯いたまま告白した。

 まるで魔王らしくない。

 嘘みたいな自己紹介だった。



 ◇◇◇◇◇



「うそ! そんな!」

「ルーコが、魔王ルーナシグ!」


 声を張り上げたのは、パーヤとクレリアさんだった。


 一様に驚く。

 そりゃあそうなるよね。

 魔王がこんなに可愛いんだもの。

 ぼくだって、未だに信じられない。


 でも、先ほど襲ってきた魔族は明らかにルーコのことを知っているようだった。

 振り返れば、人類と魔族が争ってきた歴史に詳しかったし、身元が全くわからなかったのも頷ける。


 だけど、ぼくが解せないのは、何故魔族の頂点たる王を、魔族が狙ったかということだ。


「え? ちょっと待って。あたし、1度あんたに会ってるのよ」


 そっか。

 クレリアさんって1度戦って敗れているんだっけ?


「あの時は、こんな小さな少女じゃ」


「それは闘気じゃ。妾は戦闘モードになると、影のようなオーラを纏うことが出来る」


「でも、今は……」


「う、うむ。ちょっと事情があってな。話すと長くなるのだが……」


 本当に話すと長い話だった。

 ルーコこと魔王ルーナシグは、淡々と経緯を語った。


 色々と自分の立場を説明した後、魔王城に勇者がやってきたという本題が始まった。


 ようやく勇者――ぼくの同僚が辿り着いたらしい。

 スポンサーだったライドーラ王国元国王サマーノの支援がなくなったことも、起因しているのかもしれない。

 真面目に勇者業をしないとダメだと、発破をかけられたのだろう。


 とうとう勇者と魔王は対峙した。


「伝統的に魔王は、勇者が現れた時、1つ決まった質問をしなければならんのだ」


「質問……?」


 うむ、と頷いた後、ルーナシグはこほんと咳払いをした。

 結構、もったいぶるなあ……。


 彼女はちょっと魔王っぽい――実際、魔王なんだけどね――声を上げて、こういったんだ。



「もし、わしの味方になれば世界の半分を勇者にやろう。どうじゃ? わしの味方になるか?」



 ぼくは思いっきりズッコケた。


 いや、あ……うん……。

 魔王の質問と聞いて、なんとなく予想はしてたよ。

 この世界は復活の呪文が最強魔法になるぐらいだからね。

 でも、なんでドラ●エ? 定番だけどさ。


「どうした、トモアキ?」


 ぼくの反応にルーナシグは、目を瞬かせている。

 うん。ごめん。1人ツッコミだから。そこは流して。


「それで、勇者はなんて答えたの?」


「はい、と――」


 あいつ~~。


 やりかねないと思ってたけど、本当に選択するとは。

 同僚も同僚だけど、あいつを勇者に選んだ大神って本当に無能だな。


 これにはルーナシグも同意した。


「正直びっくりしたぞ。妾に向かってきた勇者は過去に幾人かおったが、まさかあの問いに『はい』と答える愚か者がいるとはな」


 ホントごめん。

 その愚か者ってぼくの元同僚なんだ。


 あいつも魔王に愚か者といわれたら、おしまいだ。

 しかも、こんな可愛い子に。


 パーヤがおずおずと手を挙げた。


「あの~。もし、『はい』と答えたらどうなるのですか?」


「前例がなかったのでな。味方にしてやったのだ」


「え? じゃ、じゃあ……世界は?」


「魔王軍の領地を半分与えたぞ」


 正直か!!


 世界を半分与えるといって、本当に与える魔王がいてどうするんだよ。


 そこは「わあっはっはっはっ」と高笑いをして、レベル1にして身ぐるみ脱がすのが鉄板でしょうが!!


「トモアキ、お主。時々、怖いことを考えるな」


 いや、普通だよ。

 もっと魔王の自覚もって。

 あと、ぼくの心を読まないで――って、このネタ懐かしいな!


「それで? ルーコはなんでこんなところに?」


 クレリアさんは話を進めた。


 魔王と勇者二大体制で、魔族を統治していたらしい。

 けれど、平穏だったのは、最初だけだった。

 なんと勇者が待遇改善を要求し、統治下にいる魔族と共に決起。

 そのままルーコの領地へ押し入ると、魔王軍を乗っ取ってしまったのだ。


「妾は数人の部下とともに、落ちるに落ち延び。このアリアハルまでやってきたというわけだ」


 ……。


 言葉もでない。


 勇者に魔族領を乗っ取られる魔王も魔王だけど。

 手を結んでおきながら、裏切って魔王の領地を奪おうとする勇者も最低だ。

 これではどっちが魔王なのかわからない。


「頼む、トモアキ。妾に力を貸してくれ」


「力って……」


「妾は魔王じゃ。複雑な気持ちはわかる。けれど、お主しか頼めるものはいない。どうか。魔族領奪還に力を貸してくれぬか。成功の暁にはなんだってする。お主の奴隷になってもよい。人間とだって仲良くする。だから――」


「もういいよ、ルーコ」


「え?」


「わかったから……。君を助ける。だから、奴隷になるなんて寂しいこといわないでくれ。君はぼくの友達だろ?」


「ともだち……?」


「ああ!」


「いいのか? 妾は魔王だぞ」


「魔王だってなんだっていいさ。ぼくはただオセロの好敵手がいなくなるのがおしいだけさ」


 ルーコの目に再び涙が滲む。

 ぐしぐしとドレスの袖で拭ったが、それでも涙滴が溢れてくる。


「よろしく頼む」


 魔王は頭を下げた。

 その頭をぽんぽんと優しく叩く。


「うん。任せて!」


 こうしてぼくたちは、魔王討伐ならぬ勇者討伐に向かうことにしたんだ。


竜王の問いに「はい」と答えて、あまりのひどい扱いに泣いたことがある人は挙手(=゜ω゜)ノ

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