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第96話 長雨、時々幼女

新章「そして、魔法使いは……」開幕です。

 アリアハルは雨季を迎えていた。

 ここのところ長雨が続いている。

 水不足を心配することはなくなったが、もはや風物となった縁側や木の陰でオセロに興じる人たちがいないのは、なかなかに寂しい。

 人々は少し恨めしげに、どんよりとした雲を見つめていた。


 普段と比べて格段に人の姿が少ない通りを、1人の少女が歩いている。


 派手な黄色の合羽に、小さな手には傘を持っていた。

 ぴちゃぴちゃと音を鳴らすのは、ゴム製の長靴だ。

 すべて異世界から流れてきたものらしい。


 そんな出自も知らず、獣人娘ガヴは通りを練り歩いている。


 長雨で鬱々としていたが、最近トモアキ(パーパ)からプレゼントされた合羽と傘、そして長靴をもらってから一変した。


 これらを装備して、雨中を歩くのは楽しい。

 雨滴を弾く状態は、ちょっと無敵になった気分だ。


 そんな姿のガヴは、屋台や商店が建ち並ぶ通りで、アイドル的存在になっていた。

 元は奴隷の彼女が、こうして市民権を得たことは、何よりもパーパの存在が大きいだろう。

 だが、彼女がそれを実感するのは、もっと後のお話。

 今の小さな身体が大きくなってからになる。


「ガヴちゃん、今日も可愛いね」


 店先に出た商店のおばちゃんに挨拶される。

 ガヴは少し誇らしげに胸を張り、手を振った。


 …………て。


 ガヴの耳が、つと人の声を捉える。

 雨音の中でも、はっきりと聞こえた。

 助けて、と。

 かなり弱ってる感じだった。


 パーパはいっていた。

 困った人がいたら助けなさい、と。


 ガヴは耳をそばだてる。

 ピクピクと動かし、目的の場所へと近付いていった。


 そこは裏路地だ。

 光が届かず、真っ暗な夜道のような場所を進む。

 つとガヴの長靴が何かに当たった。

 視線を落とす。


 乱れた銀髪が雨を吸い尽くすように広がっていた。



 ◇◇◇◇◇



 ハイミルドのゲーム化計画は進んでいる。

 オセロをはじめとして、将棋やチェス、麻雀なんかを展開しながら、ライドーラ王国国王の指揮のもと、世界中に向けて発信されていた。


 順調そのものだ。

 特にオセロはかなり受けているらしい。

 アリアハルの工房では間に合わず、近くの街の工房にも依頼して、なんとか生産が追いついているような状況だった。

 早速、数ヶ月後には世界大会をしようなんて企画も出ている。


 国王のおかげもあるが、マティスさんとロダイルさんのコンビも凄い。


 マティスさんは人脈を使って、巧みにゲームの面白さをプレゼンしている。

 元々遊び人だから、そういうことを説明するのにも長けているのだろう。

 今やオセロは、社交界で必須のアイテムになっているそうだ。


 ロダイルさんはアリアハルを出て、どんどん販路を開拓している。

 その行動力は凄まじく、今は遠く北の地にいると手紙が来た。

 挟まれていた絵はがきには、雪達磨の横に立つロダイルさんが映っていた。充実しているようで、子供みたいに笑っているロダイルさんが、なかなかにカワイイ。


 で――。


 ぼくはというと、実はそんなに忙しくはない。

 時々、神豆の農園やロダイルさんの販売所に顔を出すぐらいだ。

 お客さんは向こうからやってくるし、たいてい書類の確認をするだけ。


 あとは日がな1日、パーヤが入れてくれた紅茶を飲んだり、ガヴとオセロや将棋に興じている。


 適度に仕事があって、時間がゆったりと流れる生活。

 これこそぼくが望んでいたスローライフかもしれない。

 これで外が晴れていたら最高なんだけどな。


 ぼくは紅茶を置き、うとうととし始める。

 雨の音は良い子守歌だ。

 ソファの上に寝ころび、あるがまま睡魔を受け入れた。


 視界が暗闇に落ちた瞬間、ノックが聞こえる。

 ぼくは目をこすりながら、「どうぞ」と声をかけた。


 パーヤが慌ててやってくる。


「ガヴちゃんが――」


 と聞いて、慌てて飛び出した。

 階下に降りる。

 ガヴがいた。何かケガでもしたのかと思ったが、そうではない。

 その小さな背中に、少女を背負っていた。


「パーパ、この子助ける」


 力強く宣言する。

 ぼくはガヴの頭を撫で、とりあえず少女を居間のソファに寝かせた。


 かなりずぶ濡れだ。

 随分、長い間雨に打たれていたのだろう。

 肌が凍るように冷たい。


「パーヤ、とりあえず神豆を持ってきて」


「はい」


 パーヤは飛び出していく。

 ぼくは居間にある暖炉に魔法で火を付けた。

 たちまち部屋の中は暖かくなっていく。


 次は服を脱がさなきゃ。


 と思った瞬間、ぼくの手が止まる。


 ちょっと待て。

 いくら目の前にいるのが、ガヴと同い年の女の子とはいえ、服を脱がすのはまずい。日本でこんなことをしたら、たちまち防犯情報にアップされてしまうだろう。


 ガヴに任せるか。

 でも、ちと不安だ。

 ぼくが神豆を持ってくればよかったかな。


 よく見れば可愛い女の子だ。


 青白い肌に、キラキラと輝く銀髪。

 血色こそ悪いけど、プニプニの頬からして、きっとおいしいご飯を食べてきたのだろう。

 真っ黒い烏羽をドレスにしたような服には、一部宝石がちりばめられていた。


 良いところのお嬢さんといった感じかな。

 大事に育てられた印象はあるけど、綺麗な手や足には切り傷があった。

 ずっと街中を彷徨っていたようだ。


「パーパ、服を脱がす。冷たい。大変!」


「う、うん。わかった」


 ぼうとしていると、声をかけられた。

 すでにガヴは馬乗りになると、少女のドレスをはぎ取ろうとしている。


「ちょっとガヴ! そんな乱暴にしちゃダメだよ」


 仕方がない。

 ぼくがやろう。

 でも、どうやったらドレスって脱がせるんだ。

 よくテレビでは、後ろのジッパーを下げてることが多いけど。


 上体だけを起こす。

 背後を見ると、ジッパーがあった。

 良かった。ハイミルドでもあるんだ。

 それをゆっくりと下げていく。

 ぷつぷつという音が鳴るたびに、妙な背徳感を感じてしまった。


「意識をするからダメなんだ。これは人助け。人助けなんだ!」


 自分に言い聞かせながら、ぼくは少女からドレスを脱がしていく。


 いよいよ青白い肌が剥き出しになる。

 下着があらわになる。

 レースの結構高そうなやつだ。


 良かった。


 まだ“実”は見えていない。

 見てないぞ。


 今度は布で水気を拭う。

 ガヴに万歳させてもらいながら、脇の辺りを拭っていた時、事件は起こった。


「ご、ご主人様……」


 がたっと物音が聞こえた。

 見ると、パーヤが入口辺りで固まっている。

 手からはぽろりと神豆が落ちていった。


 パーヤの純真無垢な瞳に、幼女で幼女を拘束しながら、胸元の辺りを触ろうとする男の姿が映り込んでいる。


「そ、そんなご主人様が、そんな趣味があったなんて」


「いや、誤解なんだ、パーヤ。これは水気を拭おうと仕方なく」


「わかりました、ご主人様」


「良かった」


 ぼくはひとまず胸を撫で下ろす。


「わたくしも脱ぎますわ」


「へ?」


「だって、わたしもご主人様に拭ってほしいんですもの」


「え? ちょっとパーヤ」


 パーヤは本当に脱ぎ始めた。

 すとんとメイド服が床に広がる。


 真っ白な真珠のような裸体に露わになった。


「わーわー。ちょっとパーヤ! タイム! ちょっと待って!」


「ちょっと騒がしいわね。農園からやっと帰ってきたのに」


 さらにそこにクレリアさんが現れた。

 幼女に幼女を拘束させて、胸に手を伸ばすぼくと、その前で裸になるパーヤの姿を見比べる。

 すべてを理解した魔法使いは、突然宣言した。


「あたしも脱ぐわ!!」


 な、何をいってるのぉぉぉおおおおお!!


 ホントにクレリアさんまで脱ぎ始めた。

 雨に濡れ、むっちりとしたボディが光っている。


「ご主人様!」

「トモアキ!」


 すると、パーヤとともにクレリアさんまで、ぼくの方に飛び込んでくるのだった。


一応、この章にてぺぺぺ……は終了を予定しています。

しばらく最終回まで毎日投稿する予定なので、どうぞよろしくお願いいますm(__)m

(時間については都度変わると思います)

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『ゼロスキルの料理番』
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