同僚の仇
※北野武監督の映画『その男、凶暴につき』のタイトルに似せてありますが、二次創作ではありませんし、インスパイアでもありません。リスペクト、に近い感情だと思ってください。
楢崎真治は、数分前まで刑事をやっていたのだが、個人的な恨みを晴らすために警察手帳を部長のデスクに置いてきた。
警官に支給される正式拳銃を使うのも憚られたので、横浜の不良米兵から押収した大型自動拳銃を懐に忍ばせてある。誰の目から見ても銃刀法違反だ。しかし“コイツ”のズシリとした重みから多大なる頼りがいを感じていた。
まさか自分が法律に反することをやってまで復讐したいと思う日がくるとは思わなかった。
だが同僚を殺された恨みは絶対に忘れない。
同僚――学生時代からの友人で、警察学校時代も現場で働くようになってからも、ずっと一緒にがんばってきた。
二人とも正義感にあふれていた。いつだって自分に誇りを持っていた。警察官であることに使命感を持っていた。
だが、無残にも殺された。ある冬の日、麻薬取引を追っていたら拷問されて死亡したのだ。
指は全部なくなっていたし、眼球も抉られていたし、死に顔はひび割れた岩のように壮絶だった。おまけに死体は警察署の前に捨てられた。
それを見た瞬間――楢崎の倫理の鎖が弾けとんだ。
この世には絶対に殺さないといけない相手がいるのだと悟った。
敵が錦糸町の雑居ビルにいることは個人的な情報網から突きとめていた。だが敵の数と正体がいまいちわかっていなかった。
それでも殺す。全員殺す。誰も逃がすつもりはない。
真夜中の錦糸町に到着した楢崎は、コートの襟をきつく閉めると、興奮して乱れた呼吸を整える。がっしりした体格だが、やや贅肉も目立つ。三十代の中年太りだ。しかし刑事として毎日走り回っていたから筋肉はしっかりついているし、体力にも自信はあった。
あとは敵がロシアンマフィアやチャイニーズマフィアの元軍人じゃないことを祈るだけだ。あいつらは銃の扱いになれているから、一介の日本人刑事では苦戦してしまう。
だが普通のヤクザだったら、なにがなんでも皆殺しにしてやる。たとえ相打ちになってでもだ。
足音を消しながらネオンの瞬く錦糸町を歩き、ついに標的の雑居ビルへ到達した。
見張りが一名。日本人の顔でヤクザっぽい。武器は木刀だけで銃を手にしていない。だが懐に拳銃を隠してあるかもしれない。
さてどうやって見つからないように殺すか。
まずは古典的な手を試すことにした。近くのゴミ箱からビール瓶を発見すると、コンクリートに叩きつけた。
パリンっという特徴的な音が鳴ると、見張りが訝しげに様子を見にきた。どうやら古典は有用だったらしい。
楢崎は衣擦れの音すら聞かれないように気配を消した。
やがて見張りがゴミ箱付近を調べようとした瞬間――そいつの口を塞ぎながら路地に引っ張りこむと、喉笛をナイフで切り裂いてから、きっちりわき腹と背中も突き刺す。血しぶきが路地のゴミ袋を真っ赤に染めると、見張りは瞬きをしなくなっていた。
我ながら鮮やかな殺しだった。プロの殺し屋がやってきた手段を元刑事が真似したのだ。経験の悪用なのかもしれないが、復讐すると決めたときから割り切っていた。
すべては、あいつらを皆殺しにしてから考えよう、と。
初めての連載ということもあり、連載システムの練習を兼ねているので、短い話数で完結します。




