cluster amaryllis 2
アレイドは音楽番組を観ながら紅茶を啜った。金色の装飾が施され、高級品のように見えて安物だ。白を基調とした色のない部屋でテレビの奥の色が映える。
「アレイドちゃん」
テレビのライブ映像が真っ黒く暗転し、見知った自分の部屋が画面に映る。アレイドの父親代わりの白兎だ。白兎はアレイドにバンド活動を勧めたくせ、脱退となった途端にアレイドがチェシャ猫に関わろうとすることを嫌がった。
「新しい依頼が来ているよ」
薄い青を帯びた白髪に黒い大きな眼鏡の奥の果物のような赤い瞳。黄ばんだ膝丈の白衣をだらしなく羽織った男がリモコンを押している。
「おはようございます」
眉間に皺が寄るのを隠そうともせずアレイドは形式的な挨拶をした。白兎は口の端を吊り上げるように笑い、茶封筒をアレイドに渡した。白兎伝てにアレイドへ依頼がくる。白兎の上司といわれるアレイドはよく知らない人物が依頼を受けているらしい。茶封筒から三つ折りの紙を出して読み始める。拒否権はなかった。直接報酬がアレイドに入るわけでもない。
「分かりました。今すぐにでも出ますよ」
ベッドの脇にある真っ白いチェストから真っ白い手袋を取り出し両手をいれる。手首まで入れようと引っ張る癖と洗濯で手首の部分がよれている。チェストの上の大きな置時計を持ち上げると小さな鍵が隠されており、アレイドはその鍵でデスクの引き出しを開け、銃を取り出す。
「気を付けてね~ん」
アレイドの心情に似つかわしくない、ふざけた口調で白兎は手を振ってアレイドを見送った。