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complex 1

 引き連れた腕が振り払われる。怪我人は息を吐いて壁に背を預けた。

「くたばるのか」

 白のタンクトップに脇腹を赤く染めた少年に彼岸は声をかけた。野垂れ死にかけていたところを婚約者が拾ってきた。別居中の弟にその姿を重ねてしまったらしい。

「少し休ませてよ。腹刺されたことあるわけ?」

「ねぇな。休むと後がダルくなんぞ」

 ハイヒールを響かせ少年を置いていく。無駄足だったが心配性な婚約者の辛気臭い面と暮らすのも気が滅入る。少年・紫鴉(しあ)は壁伝いに彼岸を追った。

「死んじまいそうなくらい痛い」

「急所じゃねぇよ」

 こつこつとした足音の間隔が広がる。

「死んじまったら責任取ってくれるのかよ」

「墓参りくらいならしてやる」

 相手にせず彼岸は見失わない程度に距離を保って荒れ果てた廊下を歩いた。

「なんで来たんだよ」

「晩飯の買い出しに付き合わそうと思ったんだがな」

 時間がかかったかま城の外に停まっている屋根のない四輪駆動車の運転席でメオがパンを食っている。彼岸の後ろの怪我人にパンを置き、駆け足でやってきた。

「待たせて悪ぃな」

「…いや…子供が怪我しているのか…」

 口の周りにパンのかすを付け、メオは意識の低そうな眼差しを紫鴉に向ける。

「命にかかわる傷じゃねぇよ。戻ったら病院に連れて行くさ」

「…そうか」

 彼岸はメオの肩を叩いて、車内を整える。その間彼は牛の歩みほどの少年を待っていた。数分後に工具箱を踏み台に後部座席へ怪我人が乗り込み、意外にも世話好きな知人が運転席に戻ってきた。砂漠のような土地を走り、都心部へ帰る。乾燥が鼻の粘膜を痛め付ける。文句の聞こえなくなった後ろを咄嗟に振り返る。

「おいクソガキ」

「ん…んあ?病院着いた?」

 ふごっと鼾を途中でキャンセルしたような声を上げ、目を開けた。

「…行くか…?」

 繁華街に入る前の海岸沿いに病院がある。メオが半端に首を助手席へ傾けた。

「悪ぃが頼む。婚約者(やつ)に連絡する」

 怪我人は小さな鼾混じりの寝息を立て、メオは片手でパンを食いながら病院に行く道へ曲がった。咳払いをして喉を整えるのはまずは夜間の外出を謝り、それから晩飯の用意をしていないことを告げるかそれとも先に預かっている子供を病院に連れて行くことを告げるか迷った。こと15、6歳の少年の前では心配性を発揮する婚約者はそれを告げたなら帰宅にも支障を出しかねない。

「…大丈夫か。台本を…書くか…」

 メモ帳とペンがあることをメオは教える。

「前見てろ」

 電話をかけ、声を作り必要なことを告げる。案の定温和な婚約者は居候の心配をして夕食は済ませる旨を告げる。そして2人に持ち帰る提案をしたが彼岸はメオを一瞥して断った。高めに作った声音は喉を痛めさせ、伴う笑みも引き攣るような疲れを起こす。

「車まで出させちまって随分待たせたからな。奢ってやるよ。クソガキも飯くらい食えるだろ」

 センターコンソールやコンソールボックスに留まらずグローブボックスにもぎゅうぎゅうに詰められたパンの袋へ伸びたメオの手は何も掴まずハンドルに戻る。

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