猛毒 5
王子は鈍い音を立てて床に倒れる。少年はぎょっとした。薄暗い金髪が赤黒く染まっていく。ハイヒールの女は王子の遺体を見つめていた。アレイドは電波の悪い通信機で任務完了の報告をする。
「一応、止めたぞ」
女はアレイドに呟くように言うと、怪我人の前に屈む。
「痛むか。行くぞ。歩けないなら背負うが。救急車は呼べないからな、勘弁しろ」
女は、脇腹を押さえて前屈みになる少年を連れて出て行った。静けさの戻った謁見の間で、アレイドは横たわる王子を暫くの間眺めていた。地が揺れる。王子の身体に金粉が撒かれたように輝いた。
『街を再編集します』
毒々しいりんごの皮を剥く王子にブルーのラメが入ったプラスチックを向けている。軽い引金を引くと床に水が滴り落ちた。アレイドは水鉄砲を投げ捨てる。胸元に手を忍ばせ、触れた物を引き抜いた。木で出来た子供用の玩具はナイフの形に似ている。
「もうすぐ剥ける。座るといい」
アレイドは木の玩具も捨てた。王子に勧められるまま用意された椅子へ向かう。途中、脇から襲った衝撃を受け流した。姿勢を崩しながらも持ち堪えた少年は血に染まった脇腹を押さえ、訝しげにアレイドを見る。 アレイドは手袋を外し、両手を組んだり、手首を回したりして関節を慣らす。謁見の間の扉が開き、ハイヒールの足音が小気味良く響いた。王子は訪問者を見ると徐に立ち上がり、謁見の間の端に積み上げられた椅子の山を目指した。
「今日は客人が多いようだ」
背を向けた標的へ飛び掛る前に女は口を開いた。
「やめとけ。何十回、何百回繰り返す気なんだ?」
「何十回、何百回と任務を遂行するだけです」
赤いヒールの女はアレイドへ肩を竦めた。近付くと身長差が際立つ。
「そうか」
銀髪が吹き飛ぶ。謁見の間に血溜まりが広がる。少年はぎょっとして発砲した女を見上げる。王子は果物ナイフや皿を落として遺体へと駆け寄った。
「なんてことだ…」
「どうやら王子が生きるべきらしい。これでいいんだろう?世界様」
王子は遺体に縋りついた。