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婚約破棄を謀る男爵家令嬢の愛情

作者: ぺいじ
掲載日:2015/09/20

その人を一目見た時に思った。なんて素敵な人なんだろう。

陛下により催されたパーティでのこと。私は、胸を張って堂々と歩くその人から、目が離せなかった。

見惚れるあまり、飲んでいた紅茶のカップを落としてしまった。王家の備品を壊してしまったのだ。罪に問われて当然だ。

だがその人は、笑って、こんなものは安いから気にするなと仰った。

明るく輝く金色の髪の毛。形のいい輪郭、顔のパーツ一つ一つが美しく、またそのバランスも絶妙だった。その顔が笑みを浮かべたら。もう、恋に落ちるしか、なかったのだ。

彼はキース=グラン=ファンディア様。

しかし彼には婚約者がいる。

その婚約者も、大層美しかった。全女性から嫉妬を受けそうな程に。羨んで、憧れてやまないであろう顔。私も、生まれてから美人だ綺麗だと言われてきたけれど、自信を失くしそうになる程に、美しかった。

そもそも私は男爵家の生まれ。下級貴族では王家に嫁げないのは、法で決まっている。

でも、それでも。これからもこんな素敵な人は、私の目の前に現れてくれないだろう。


母は昔、笑いながら私に語った。

本当に好きなら、本気でぶつかるべきよ、と。

敬愛する母の言葉が、身分で悩んでいた私に、勇気を与えてくれた。


キース様は、私が精一杯想いを伝えると、返してくれるようになった。素敵な贈り物もしてくれる。

自分に勝る婚約者の存在が、彼に暗い影を落としているようだった。

彼とお忍びで街に出たり、彼とパーティで踊ったり、彼が剣の訓練をしている所を見たり、彼の傍にいる時間は幸せだった。


貴女は…フォルティシア様は、キース様の事をちっとも想っていない。私なら彼を想って、彼を支えてあげられる。

彼への想いは、貴女に決して負けない。

彼を、愛しているのだ。彼もまた、私を愛している。

私がフォルティシア様の事を邪魔だと思い始めるのに、そう時間はかからなかった。だって、彼を好きになればなるほど、彼女の存在が障害になるのだもの。婚約者だから、かなりの頻度で、キース様は彼女に会いに行かなければいけない。

彼を愛していないくせに、彼の時間を奪っていく彼女が許せなかった。


どうすれば彼女を排せるか、そればかり考える日々。キース様も、彼女を邪魔だと思っているようだった。

そんな私にチャンスが訪れた。この前彼女と夜会で会った時、いつもつけている指輪が見当たらないのが気になって、話しかけてみたら、外出した時に失くしてしまったと言う。

これだ!と思った。彼女をキース様の婚約者から引きずり落とす為に、虎視眈々と機会を狙っていた私に、降って湧いたチャンス。

彼なら、私が一生懸命考えた作戦に乗ってくれるはず。徹夜で考えたのだ。彼女を恨みながら。彼を想いながら。


キース様の前で、泣いて、震える声を出す。彼ならきっと、私を信じてくれる。私を愛してくれる、キース様なら。

かくして、私の作戦は成功だった。キース様を騙してしまったけれど、彼と一緒になれるならなんともない。


唯一の苦労は、彼女がつけていた指輪を再現する事。シンプルなのが幸いし、宝石商に頼んだ模造品は、宝石の輝きを除いて瓜二つだった。輝きも、ぱっと見ではわからない程度だ。それで私は、作戦の成功を確信した。


パーティで、キース様が面と向かって彼女を糾弾する。

そんな時でも、彼女は、ゾッとする程整った顔を欠片も歪ませない。まるでキース様の言葉が届いていないようで、イライラする。キース様の言葉なのに…!

彼の腕に抱かれながら、これからの幸せを夢想していた。彼が、彼女ではなく、私と結婚すると仰ってくださった。なんたる幸せだろう。彼の逞しい胸に顔を埋め、誰にも見えないように笑みを浮かべる。


彼女は、私が捏造した証拠の数々をさらりと受け流し、詳しい話は今度にしましょうと去っていった。どこまでもいつも通りな彼女に、苛立ちが募る。

まぁいいだろう、正式に婚約破棄されるのが、遅いか早いかだけの違いなのだから。


ワクワクしながら過ごしていた。彼と愛の言葉を交わしながら。

正式な話し合いが行われた日。私はその場に入れないので、扉の真ん前で、今か今かとキース様が出てくるのを待っていた。

しかし、出てきたキース様は、衛兵に両隣を抑えられ、引きずるように連れられていた。

「キース様…?!どうしたのですか?」

キース様の目は、虚ろで、何も見ていなかった。

「マリア?マリア、愛してる。俺は…。」

衛兵に連れられていくキース様。どうしてキース様があんなことに?

しばらくして出てきたフォルティシア様に事情を聞くと、彼は王位継承権を剥奪され、追放されるのだと教えてくれた。

頭が真っ白になった。なんで、なんで、なんで?

「まだまだ話す事がありますので…不躾ですが、私が訪問させていただきます。」


2日後に訪問されたフォルティシア様。公爵令嬢らしくない。1人でいらっしゃったのだ。

お茶を用意し、応接間で、フォルティシア様の話がはじまった。

「私は、…キース様が王に相応しくないという理由で、裁きました。王家に生まれた以上、国の税金で食べていくわけですから、暴君であってはならないのです。…彼はきっと、貴女に贈り物をしたでしょう?あれは全て、民の税で購入されていました。本来ならば、王族としての執務を対価に購入せねばならないのです。しかし、彼は貴女にうつつを抜かし、執務を執行していなかった。」

「それだけ、ではありません。あなた方は、冤罪で私を裁こうとしました。まず、私が貴女の私物を隠したり、破損したという件。道具には、関わった人間の魔力が、微かにですが残ります。鑑識に出したところ、私の魔力は検知されないとの鑑定書をいただきました。」

「次に、水をかけられたという件。いつどこでかけられたのですか?教えて頂きたいのですが。」

フォルティシア様は真っ直ぐ私を見据えている。なまじ顔が整っているだけに、正面から鋭く射抜く視線が恐ろしい。

「え、ええと、1週間前に、…学園の庭の事でしたかしら。」

私は嘘をついている。

「それでしたら、私は学園を公欠しておりました。外部との式典がありましたので。」

フォルティシア様の話はまだ続く。

「階段から突き落としたと言う件ですが…指輪は、…鑑定に出せばわかります。どうしても私の物であると仰るのなら、鑑定の方に結果を出していただいてからいらっしゃってください。」

「それと、私が貴女の悪口を吹聴して回っていたという件ですが…私は、話す友達もいません。これだけは完全に証明するのが難しいのですが…。」


「最後に、私はキース様の心を壊しました。彼は、王家の生まれだという事を、この上なく誇っていた。次代の王である事に、彼は多大な自信を持っていた。彼の自尊心を、完膚なきまでに崩したのは私です。もう彼は、正常ではない。今日は、それを伝えようと思っていました。

冤罪を証明したのは、…どうしてですかね。自分でもわかりません。私は、自分が正しかったのだと思いたいのかも知れません。他人の人生を左右してしまった免罪符にしたいのかもしれません。

…貴女の愛するキース様を陥れたのは、紛れもなく私です。それが、仕事でしたから。」

それでは、と言って、彼女は帰っていった。


彼女の言葉と、キース様のこれから。考えれば考えるほど、堂々めぐりして、どんどん思考の沼に沈んでいく。


しばらくして、彼が、王都を追放されたと噂に聞いた。王都から離れた場所で暮らすのだと。


…彼が、王子でなくてもいい。彼に会いたい。そう思った。

人に聞いて回り、なんとか彼の住まわされている家を見つけた。

ボロボロの板1枚だけのドアを前に、緊張する。

何て言おう。

貴方が王子じゃなくなっても、愛しています?

私だけは、貴方の味方です?

いや、ここはシンプルに、会いたかったですと言おう。意を決し、ドアを開ける。

彼は、固く質の悪そうなベッドに横たわっていた。

顔は、血が通っていないと思えるほど青白く、そっと触れると冷たかった。

「…キース、さま?」

なんの反応も無い。

「会いたかったんです、キース様。目を開いて、また愛してるって、言ってください。」

声は乾き、頰には涙が伝っている。

わかっているのだ。わかっている。でも私は、受け容れられない。

「あ…あぁ。」

なんで、彼が。なんで?何をしたっていうの?彼はただ、王家に生まれただけじゃない。なんでこんな、酷い最期を。

ねぇ、どうして?

フォルティシア様は、彼を陥れたと言った。彼女の所為?彼女が彼を殺した?だとしたら、私は。

許せるわけがない。いくらフォルティシア様が国の為に正しい事をしたと言ったって、私個人は許せない。


心が潰れそうだ。いっそ潰れてしまえば、こんな思いをしなくて済むのかもしれない。


ご感想や評価をして頂けて、嬉しい限りです。まだまだ未熟ですので、精進いたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 王子は馬鹿だし、男爵令嬢は想い成就の手段を決定的に間違えた。 が、前世記憶持ちで早熟かつチート魔法持ち&表面上は慇懃でも人を単なる測定対象としか見ないような女が婚約者じゃ、歪むのもある程度仕…
[一言] 男爵令嬢のしでかした重大犯罪に対してその扱いは確かに軽過ぎとは私も思います。 ですが、物語中の時点でそれが裁かれる可能性は極端に低いと思います。 男爵令嬢に対する裁きにおいて冤罪被害者で…
[一言] なんか納得いかない。なんでこの男爵令嬢は罰を受けてないんでしょう? 元王子と引き離されて死別したのは、まあ本人的には罰になり、多少は可哀想なのかもしれませんが、それと法による刑罰は別物ですよ…
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