そもそもの
前世の私が死んだのは19歳の時だった。
アドルノ王国に生まれ、14歳で実家を飛び出し、以後5年間を冒険者として過ごした。
17歳でそれなりに名を知られるようになったワタシは、故国で戦争が始まると同時に国に戻り国王陛下から騎士の位を賜って戦争に参加した。それが19歳。
騎士というのはたとえ実力があったとしても、女性の得られるはずもない地位だったのだが、冒険者としての名声と実家が騎士の家系ということも作用したのだと思う。
今考えればワタシを戦争に利用する為もあったのだろう。
それでも王国に暮らす者とってそれは誉であり、名誉に憧れ、尊ぶ世界で自分も例外ではなかった。
「それはいいんだよ、それは」
未だに森の中で唸っている私。
前世を復習しつつ、飛ばしちゃいけないところも飛ばした気がするが、一番の問題はその後。
15年間生きてきてずっと疑問だった苦手意識の根幹。
私は戦争の最中、決め台詞を言った直後に死んだのだ。
冒険者として過ごした勘だったのかもしれない。
本陣とは別に遠くから近付く敵の部隊の動きを察知したワタシは、近くにいた者に報告だけすると単身で馬を駆り先回りをした。
敵の部隊は十数人の少数精鋭で強かったけれど、ワタシが勝った。
あからさまではないがワタシを馬鹿にしてたやつもいた。
ワタシは嬉しかったんだ。
敵の作戦を挫き、国に貢献できたこと。
単身で部隊を壊滅できる自分の実力。
最後に隊長格の男を切り伏せ「侮るな」と言い放ったワタシは。
次の瞬間背後から攻撃されていた。
味わったことのない激痛が体を襲った。
多分私は反撃をしたと思う。
残った力で武器を振るい全ての魔力を使ったよう気がするが、体の感覚もなく無我夢中だったのでわからない。
最初の攻撃ですでに目の前が真っ暗で、どうなったかも知れない自身の攻撃と敵の姿を見ることもなく、ワタシの意識は闇に呑まれた。
人に話せば何処が?と思うかもしれない。
おそらく真面目な前世の私は後悔したのだ。
「侮るな」と言った自分自身の慢心と油断。
激痛と死への恐怖を魂に刻んで。
小さい時に泣きそうになっていたのは、その台詞の後にこそ恐怖が待っていると魂が叫んでいたからだろう。
じゃあ今の私は?
記憶を忘れて平和な世界でぬくぬくと生きてきた私がそんな重いことを考えるかといえば、考える訳がない。
想像してみてほしい。
自分の力を過信して格好つけて決め台詞を言った直後に油断して死んだ、前世とはいえ自分をどう思うか。
「恥ずかしい」
赤面して顔を覆う私が答え。
前世の真面目な恐怖と今世で培った常識と。
2つの拗れた感情が長年悩んできた【決め台詞】に対する苦手意識の元だったらしいと、どうしようもないことを思うのだった。