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「ようこそ、テレビの裏側へ」(1)

「何だ、お前は……?」


 MP5を構えたまま、軍曹が陽子に問いかけた。


「悪党に名乗る名前なんかないわ。そんなことより、今は戦闘中でしょう。撃たないの?」


 陽子は質問に答えず、余裕に満ちた態度で逆に質問を浴びせた。

 その様子を見ていた武井の顔に不敵な笑みが浮かぶ。


「……だったら……お望み通り撃ってやるぜぁぁ!」


 軍曹の怒声に兵士たちが正気を取り戻す。

 残った五人の兵士が武井と陽子の二方向に銃口を向け、フラッシュライトの光を浴びせた。


「マリュートカ! アクション!」


 武井の号令が響き渡るのと同時に、兵士達は一斉に引鉄を引いた。

 その時――兵士達の体感時間に狂いが生じた。

 陽子が浮揚するように跳躍し、武井が闇に溶け込むように姿を消す光景が、まるでスロー映像のように彼らの網膜に映り込んだ。

 数十秒にも思えた時間はわずか二、三秒ほどでしかなかった。

 すぐに彼らは通常の時間感覚を取り戻した。発砲炎の中から無数の九ミリ弾が虚空を飛び去り、外壁とビルの鉄骨にけたたましい音を立てて突き刺さり、或いは跳ね返る。

 彼らは数十秒に感じた時の中で標的を見失い、それが無駄な行動だと知りつつ引鉄を引き続けた。


「射撃中止ッ、射撃中止!」


 軍曹が大声で射撃中止を伝える。

 サブマシンガンの大合唱が止み、しばしの静寂が訪れた。


「バカな……消えた、だと……俺達は幽霊と戦ってるのか?」


 軍曹は背筋が冷たくなるのを感じながら、思わず呟いた。


「足ならちゃんと付いてるよ」


 少女の声がすぐ後ろから聞こえ、続いて銃声が轟いた。

 軍曹の隣にいた兵士が声もなく崩れ落ちる。軍曹は自らの心臓が高鳴る音を聞いた。


「うッ……撃てぇぇぇ!」


 軍曹以下、四人の兵士が素早く振り返ってMP5を乱射した。

 何発もの弾丸がハイエースのドアや外板を撃ち抜き、その背後にいる景山と芝田の頭上をかすめる。そのうち何発かが景山の残り少ない髪の毛を容赦なく引きちぎった。


「あぎぃぃッ! あ……あいつらッ!」

「もう駄目だ! あの傭兵ども……もう使い物にならねえ!」


 景山と芝田は逃げることはおろか立ち上がることすらできず、ただ耳を押さえ、地面に這いつくばって銃声が止むのを待った。

 数秒後、全員が銃弾を撃ち尽くしたことにより、現場に再び静寂が訪れた。

 MP5の機関部から伝わる熱気によって、軍曹はようやく冷静さを取り戻した。しかし、彼の部下達は既に戦闘を行える状態ではなかった。


「どこ行った! ……どこ行ったんだ、畜生ォォ!」


 完全に恐慌状態に陥った兵士の一人が、叫びながらマガジンが空になったMP5を両手で振り回す。

 残りの二人は同じくマガジンが空になったMP5を捨て、腿のホルスターからベレッタを抜いて乱射した。


「落ち着け、落ち着け! 馬鹿野郎!」


 軍曹の声は部下達の耳には届かなかった。この惨状を目の当たりにして、まともな精神状態を維持できるはずがなかった。

 地面に落ちたMP5のフラッシュライトがあちこちを照らし出す中、部下達は闇雲に発砲を続け、ただ銃弾を空費した。


「そうだ……本部に連絡を!」


 軍曹は衛星携帯電話を取り出し、通話を試みた。増援要請が無駄なことだと分かってはいても、そうせずにはいられなかった。

 軍曹がボタンを操作しようとした時、銃声と共に手の中の携帯電話が砕け散った。携帯電話と共に、彼の平常心も完全に吹き飛ばされた。


「……く……くそッ……くそったれがぁぁぁ!」


 軍曹の絶叫がビルと外壁に跳ね返り、反響する。その声が空しく響く中、軍曹は激しく身を震わせながら膝を屈し、地面に手を着いた。


「大凶……『待ち人・目の前』、なんてね」

「はぁ……?」


 頭上から少女の声が聞こえた。目の前には黒のハイソックスと女の子らしいデザインのショートブーツを履いた足があった。


「……灯台下暗し……か。確かに大凶だ」


 軍曹は自分に呆れたように深いため息をつくと、ゆったりとした動作でベレッタを構え、動作の途中で銃声を聞きながら倒れた。

 遠のく意識の中、軍曹は現在の状況に思いを巡らせた。

 自分達が相手にしたのは一体、何者なのだろうか。

 こちらの弾丸は一発として命中しない代わりに、敵が放った銃弾は吸い込まれるように命中する。それは、あまりにも理不尽な戦いだった。

 敵は映画の主人公で、自分達はただ倒されるだけの雑魚だというのか。

 自分達は途中退場の脇役でしかないというのか――。

 数秒間の思案の後、軍曹の意識は闇に消えた。

 途中退場となった兵士達が楽屋へ戻ることはない。彼らの行き先は文字通り奈落の底だ。

 敵指揮官の死亡を確認した陽子はゆっくりと銃口を上げ、残された部下達に向けた。

 上官の死をまるで他人事のように呆然と眺めていた兵士達が、やっと正気に戻る。

 が……もう遅すぎた。


「このクソ……」


 陽子に銃口を向けようとした兵士は台詞の途中で眉間を撃ち抜かれ、即死した。


「ヒッ……!」


 残った二人が背中を見せて逃走を試みる。次の瞬間、陽子の両足が大地を離れた。

 まるで天から舞い降りたように、月明かりを浴びながら陽子が華麗に空を舞う。

 その姿の美しさに、正通は釘づけになった。

 陽子は身体を空中で一回転させながら兵士の頭上を飛び越え、そっと地面を踏んだ。それは流れるような動きだった。

 背後にいたはずの陽子が目の前に現れたことで、兵士達は金縛りに遭ったように動きを止めた。


「ごめんね。逃がすわけにはいかないの」


 陽子はそう言ってトカレフの引鉄ひきがねを引いた。

 二発の銃声の後、兵士達は声もなくその場に倒れた。


「あはっ……ぜ、全滅……? 何だよ、これ……」


 景山は全身を汗でびっしょりにしていた。

 このままでは殺される。車とその積荷を回収するのも不可能だ。


「どうすんだよ……景山! 景山ァ!」


 狼狽し切った芝田が景山を呼ぶ。景山はゆっくりと振り返って芝田の顔を見ると、だらしない笑顔を見せ、ぼんやりとして口を開いた。


「そういや、もう一人はどこ行ったんだろ……」

「さあ、どこへ行ったのかなぁ……?」


 真上から緊張感のない声が聞こえた。景山と芝田がハッとして上を見上げる。


「さあ、年貢の納め時だね」


 ハイエースのキャビン上から、武井が片膝を着いた姿勢で景山達に銃口を向けていた。


「なあ……助けてくれないか? 降伏するよ……」


 芝田は銃を捨て、両手を上げると気の抜けた声を発した。


「私達、警察じゃなくて処刑人だよ? あんた達を逮捕しに来たんじゃないの。殺しに来たんだってば」

「うっ……!」


 気がつけば、陽子が芝田のすぐ横に立っていた。


「さようなら。地獄は居心地がいいと思うよ。あんたみたいなゴミクズが腐るほどいるだろうから」


 陽子は凍てつくような冷たい目を向け、芝田の心臓に銃口を向けた。


「待ってくれよ! 金ならあるんだ! 頼むから、助けてくれよ! おぉ……お願い! お願いですからぁぁ!」

「マリュートカ、撃て」


 陽子は叫び声を上げる芝田を無言で撃った。

 心臓を撃ち抜かれた芝田は悲鳴すら上げることなく即死した。

 景山は相棒の死を目の当たりにし、声もなく膝を着いた。


「あんたが最後だね。何か、言い残したことはある?」


 陽子に銃口を突きつけられても、景山は何ら反応を示さなかった。


「ないみたいだね。さようなら」


 言うが早いか、陽子は景山の胸を撃ち抜いた。


「あッ……!」


 景山は即死せず、仰向けに倒れ込んでから口をぱくぱくと開け、何事か呻いた。


「え? 何か言った?」


 陽子は面倒くさそうに言ってから、景山に近づいた。


「だッ、誰に……たの、頼まれ……」

「自分の胸に手を当ててみれば?」


 自分の胸に……と言われ、景山はその通りに最後の力で右手を胸の上まで持っていった。

 手には生温かい血がべっとりと付いた。


「あぁっ……血……そう、か……」


 景山は理解した。その流れ出る血が自分達の今までの歩み、そのものなのだと。

 これまでやってきたことを考えれば、自分達に刺客を放った人間を……自分達が不幸にした人々を恨む権利などないのだということを。


「自分のやったこと、分かってるんでしょ」


 陽子の口調は冷たいながら、諭すようでもあった。


「うぁ……あぁ……」


 景山は返事とも呻き声ともつかない声を発して、やがて静かになった。その死に顔は不思議と安らかだった。


 陽子はトカレフのマガジンを抜き取ってブレザーの腰ポケットに差すと、トカレフのスライドを勢い良く引いた。

 エジェクション・ポート(薬莢の排出口)から空に向かって七.六二ミリ弾が排出される。かすかなきらめきを残して暗い夜空に飛び上がった銃弾は数秒後に落下し、地上二メートルの高さで陽子の左手に捕えられた。


「終わったよ、武井さん」


 受け止めた銃弾を再びマガジンに込め直すと、陽子は静かに撃鉄ハンマーを戻し、マガジンをグリップに収めた。その丁重な動作はまるで銃を愛おしむようだった。


「待て」


 武井は地面に飛び降りると、陽子の顔の前に掌を突きつけた。

 突然の動きに陽子はびくん、と身体を震わせ、その場で硬直した。


「勝手に判断するな。終わったかどうかは私が決める。しかもお前は許可なく戦闘状態を解除した。少々、たるんでいるようだな」


 武井の鋭い目に見据えられ、陽子はごくりと唾を飲み込んだ。


「申し訳ありません、ヴォルガ。例の書類と記憶媒体はトランクの底にありました……指示を願います」

「作戦終了だ、マリュートカ。現場はこのまま、戦闘状態を解除せよ。報告は私がする。外部との通信・連絡は迎えの車両が到着するまで禁止だ。以上……ご苦労だった」


 武井は陽子に突きつけた手を下ろし、落ち着いた声で作戦終了を宣言した。


「了解! ありがとうございます、ヴォルガ」


 陽子が緊張した様子で返事をすると、武井は頬を緩ませた。


「お疲れさま、陽子。君と違ってこっちは泥だらけだよ」

「武井さんも、お疲れ様。早く着替えなきゃ」


 労いの言葉に陽子は笑顔を見せた。


「おーい! もう大丈夫だ、出ておいでよ!」


 武井のよく通る声が現場に響き渡る。まるで映画を観ているような錯覚に陥っていた正通だったが、その声にようやく正気に戻った。


「はーい……」


 返事をしてから、はたと気づいた。

 あの二人は自分を助けてくれたが、全く躊躇することなく、何人も人を殺していた。

 警察のはずがないし、自衛隊がこんなことをするはずもない……となれば、あの二人は――?


 ――殺し屋――!


 正通の背中に一筋、冷たい汗が流れた。


「ちょっと! 今更何怖がってんの! 君なんか殺す気だったらとっくに殺してるわよ! 手間かけさせないでさっさと出てきなさいよ!」

「は……はいッ……!」


 陽子の台詞はどう考えても正義の味方の言う台詞ではない。

 正通は両手を上げながら、ゆっくりと立ち上がった。


「……何やってんの、君?」


 陽子が眉をひそめながら問いかけた。


「……あの、降伏しますから殺さないでください!」


 正通の必死な訴えを聞き、陽子は眉をぴくぴくさせた。


「ばっ……バッカじゃないの! 殺したりなんかしないわよ!」

「えっ……だって……」


 大声で怒鳴られ、身をすくめる正通を陽子は更に怒鳴りつけた。


「人を殺人鬼扱いするな! いいから早くこっちに来なさいよ! まったく――」


 なおも言葉を続けようとする陽子を武井が手で制した。

 陽子は一瞬、不満げな表情を浮かべたが、ため息をつくと正通に向かって歩き出した。

 正通はびくん、と身体を震わせて一歩後ずさる。無論、両手は上げたままで。


「早く来なさいよ! こっちは忙しいんだから!」

 正通の元まで駆け足で近づくと、陽子は右手にトカレフを握ったまま、左手で彼の手を掴んで歩き出した。

 正通は悲鳴を上げたが陽子はおかまいなしに歩き続け、武井の前へと彼を突き出した。

 まるで、銃殺刑を宣告された兵士が処刑場へ連行されていくような光景だった。


「武井さん、どうするの? このまま帰すわけにはいかないでしょう?」

「そうだね」


 武井はトカレフのハンマーをハーフコック(ハンマーを少しだけ起こした状態。撃針に衝撃が伝わらない安全位置)にして上着の下のホルスターにしまうと、恐怖に震える正通の顔を覗き込んだ。


「さっきはありがとう。危険を伝えてくれて」


 陽子は武井が礼を言う様子を不愉快そうに見ていた。「礼を言う必要なんかない」と言わんばかりの態度だった。


「いえ! お礼を言うのは僕の方です。助けてくれて、本当にありがとうございました」


 正通は頭を深々と下げ、礼を言った。武井は笑って首を横に振る。


「怖い思いをさせてしまったね、江原君。大丈夫、君の安全はこのトカレフに誓って保証するよ。ただ、帰りが遅くなるから、少ししたらご家族に連絡をしておいた方がいいよ」

「あ……はい」


 武井の笑顔に少しだけ安心して、正通は大きく息を吐く。

 しかし、息を吸い込もうとして異様な匂いに気がついた。それは武井と陽子に射殺された男達の血の匂いだった。


「うぅっ……」

 

 武井のすぐ後ろに胸を撃たれた二つの死体が見えた。正通は改めてこの場の状況に戦慄を覚えた。


「……江原くん、だっけ? 死体を見ないで。息をする時は口と鼻に手を当てた方がいいよ。電話するのは少し落ち着いてからにしてね」


 見かねた陽子が声をかけた。正通は胃からこみ上げるものを必死に飲み込みながら無言で頷き、周りの死体から目を逸らした。


「……この人達は、一体……?」

「生きてちゃいけない人間のクズとその協力者。それ以上は君に教える必要ないわ」


 そう言われて、正通は「殺すには勿体ない」という言葉を思い出した。

 どう考えても、まっとうな人間の台詞ではない……。

 武井はそんな二人を無言で見ていたが、やがて携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかけた。


「やあ、長坂ながさか君。こちらは終わったよ。一人お客さんがいるけど、大丈夫だね? ……うん。それじゃあ車を向かわせてくれ。自転車を載せるキャリアはあったかな? ……そう、頼むよ。それと、負傷者が一名。その手配も頼むよ」


 武井の声から聞こえた「負傷者」という言葉に、陽子がハッとして振り返る。正通も同じ言葉に反応し、思わず顔を上げた。


「負傷者……? 武井さん……」

「ああ、僕だよ。うっかり一発、脇腹にもらっちゃったんだ」


 武井はまるで大したことないように、電話口の相手と陽子の両方に答えた。


「えっ……ちょっと、武井さん!」

「ああ、大丈夫。心配ないよ。ありがとう、よろしく」


 武井は電話を切ると、血相を変えて声を上げる陽子に優しい笑顔を見せた。


「武井さん、どこを撃たれたの? 見せて!」


 陽子はまるで悲鳴のような声を上げながら武井の元に駆け寄った。


「ここだよ、大したことはないさ。弾は残ってないし、縫えばいいだけだよ」

「なんで、もっと早く言わないの!」


 上着をめくると、脇腹から血が流れているのがワイシャツの上からでも分かった。


「あ、あの……」


 あれは自分のせいで負った怪我だろうか。青ざめた顔で声をかける正通を陽子は無視した。

 そんな中でも、武井は微笑んでいた。

 自分を助けた時に撃たれたのではないか――。正通にはそうとしか思えなかった。

 彼にとって陽子が「いつ撃たれたの?」と聞かなかったことはせめてもの救いだった。


「心配いらないよ。止血帯を巻いておけば大丈夫。陽子、ちょっと手伝ってくれないか」

「うん……!」


 武井が上着の内ポケットからファーストエイド・キットを取り出すと、陽子は「ちょっと待って」と言ってからスカートに隠されたファスナーを開けた。

 ファスナーの隙間から、ベルトとホルスターを装着した陽子の白い太腿が露わになる。正通はその刺激的な光景に、思わず唾を飲み込んだ。

 スリットから見えた白く滑らかな太腿と黒のベルト・ホルスターの組み合わせは、これまでに見たことのない艶めかしさを感じさせた。

 もう少しで下着が見えるのではないか……正通がそう思ったところで陽子はホルスターにトカレフをしまい、ファスナーを閉じてしまった。


「……どうかした?」


 視線を感じたのか、陽子が正通に声をかける。その目は武井の患部に向けられたままだった。


「えっ……いや、その……何でもありません」


 正通はほっと胸をなで下ろした。どうやら、スカートの中を見ていたことには気づいていないようだ。


「よかった。思ったほど血も出てないみたい。今、消毒するね」

「大怪我だったら、こうして話してもいられないからね。ありがとう、陽子」


 腹部の銃創は九ミリ弾が横腹を貫通したものだった。弾丸が体内に残る傷と違って、筋肉や周辺の臓器、血管へのダメージも比較的少ない。


「よかったぁ……」


 傷が命に関わるものでないとわかり、正通は再び胸をなで下ろした。

 陽子は安堵の表情を浮かべ、まくったシャツの裾を固定して傷の手当てを始めた。


「もうすぐ車が来るから、大人しく待ってて。君の自転車も修理しないといけないし。それから、手当は私一人でやるから手伝う必要はないからね」


 武井が内ポケットから取り出したファーストエイド・キットを受け取ると、陽子はその中から消毒液と滅菌ガーゼ・滅菌包帯を取り出した。


「あ……はい」


 正通は返事をすると、ゲートの近くに捨てられていた愛車を見つけ、近くに駆け寄った。チェーンはギアから外れ、変速機とブレーキレバーも破損し、昨日磨いたばかりのフレームは傷だらけだった。

 正通は嘆息すると、スタンドを立てて倒れた愛車を起こした。


「それと……江原くん?」


 陽子はパックの口を切り、ガーゼを取り出しながら正通の名を呼んだ。


「はい……何ですか?」


 正通は外れたペダルを手で回し、外れたチェーンをギアに噛ませながら返事をした。


「さっき、スカートの中見てたでしょう。この腐れ変態野郎。あとで一発、殴るからね」

「ひぃッ……!」


 声のトーンをまったく変えずに言うところが、かえって恐ろしい。何しろ、この少女は人を殺すことを何とも思っていないのだから。

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