24話 Might is right
ランディたちを夕食に連れて行くため、オレたちはそれぞれに割り当てられた家の戸を叩く。
しかし、四つあるうちの三つはもぬけの殻で、どうやらあの狭苦しい部屋に七人もの人数が集まっているらしかった。
「やれやれ。みんなで集まってパーティか?」
ランディたちにはイーヴァが一ガルドという、子供の小遣いにしては大金すぎる金額を渡していたため、東区あたりで果物のパイや糖蜜漬けといったお菓子やジュースを買いあさり、それを家に持ち込んで宴会でも開いているのだろう。
宴会、というか買い食いくらい店で食べてくれば良いだろうに、家飲みとはまたずいぶんと渋いことをする。
そしてイーヴァはそんなランディたちの想像をして「このおませどもめ」などと苦笑をもらす。
「でも、仲がいいのはいいことじゃないか」
「そりゃぁ、四六時中ケンカしたりするよりは、な?」
「うふふ、そうね。それに――あの中で何人、カップルになるかしら?」
「お前はちったぁ自重しろ。つーか、そんなのだからヤコに『儂より色ボケじゃの』とかいわれるんだよ」
「ぎゃふん!」
「やれやれ……」
もう空は薄暗闇なのだ。近所迷惑になるからそう騒ぐなと言いたい。
まぁ、先ほどまでモンスターの襲撃を警戒しながら森の中を歩いていたのだから、安全な場所にやってきて気が緩んだのも当然といえば当然か。
だいたい、気が緩んでいるのは周りも一緒だ。「今日のミノタウロスは~」などと自分たちの戦果を自慢するかのように話すプレイヤーもいて、周囲はなかなかに活気にあふれていた。
そのためオレは注意する気にもなれず、深いため息を漏らしながら扉に手をかける。
「……ん?」
「なんだ? どうしたイノ」
「いや……」
がたがたと扉を揺らし、再度開かないことを確認。
「……閉まってる、な」
それに、ずいぶんと静かだ。
「なんだ、もしかしてもう寝てんのか?」
「騒ぎ疲れて、寝ちゃったのかな?」
そうなのかもしれないが、しかし、騒ぎ疲れて眠ってしまったのであればつっかえ棒をしているはずがない。
それに、いくら彼らが子供とはいえ六畳程度の部屋に七人もの人数が寝られるものだろうか?
なにせランディには額に鋭く尖った角が、チャドには両手武器を片手で扱えるほどの怪力が、アレックスには人よりも遥かに重い樹木の両腕が、デニーには驚くほど発達した筋肉が、そしてカミラには恐ろしく硬い小盾が左腕に発現している。
そのため、たとえ小柄でも六畳程度の居間では眠ることはおろか横になることさえ難しいだろうし、だれかが寝返りをうった瞬間に大惨事がおきるのは想像に難くない。
特に身体能力が向上する常時覚醒技を一切持たないクレッセントであるベッキー。こいつが一番被害を受けそうな気がする。
「おい、お前ら。ずいぶんと遅くなったが夕飯の時間だぞ? 起きているなら顔を見せてくれ」
そんな、いつか起きかねない大惨事を未然に防ぐため、オレは扉を叩く。
すると、中からはがたがたっ! と、何人かが動く音が響き。
『お、オレたちはいい! さっき腹いっぱい串焼き食ったから!』
ややくぐもったランディの声が返ってきた。
そんなあやしすぎる言動に思わず、オレとイーヴァは顔を見合わせた。
「おーい、ランディー。アタシに顔見せてくれねぇかなぁ?」
『きょ、今日はオレたち、姐さんに説教されるようなことはなんにもしてねぇぜ? それに、今日はみんなと寝るから! だからおやすみ!』
ランディのその返答を聞くや否や、イーヴァはオレを見ながら壁と扉の隙間を指差す。
その隙間はほんの数ミリ程度の隙間だが、しかし、たったそれだけの隙間でも、ハイドラの触手には十分な隙間ともいえた。
――つまり、ピッキングしろと、そういいたいのか?
ほおを引きつらせながらイーヴァを見返すと、彼は至極真面目な表情でゆっくりとうなずく。
助けを求めるようにレオンやメノウさんたちを見やれば、彼女らもイーヴァと同じように首を縦に振っていた。
どうやら、ここに味方はいないらしい。いや、これだけ挙動不審な言動を繰り返すのだから皆が心配に思うのは理解できるのだが……。
オレはやれやれと頭をふり『これ、典型的な悪用の例だよなぁ』なんて思いながら、ずいぶんと小さくなってしまった触手をのばす。
触手は小さいながらも細く長く伸び、形を変え、ずるりとその隙間を通り抜け――ややあって、つっかえ棒をはずすことに成功した。
『――え?』
まさかこんな方法でつっかえ棒をはずされるとは思わなかったのだろう。中からはあっけにとられたような声が響き、次いでがたがたと慌てだす。
だが、そんな中のことなど一切お構いナシに、イーヴァがオレを押しのけながらいきなり扉を開ける。
「おーし、お前らー、なにやってたか包み隠さ――」
そしてイーヴァは、目の前に広がるその光景に言葉を失う。
家の中では、窓を締め切り、ランタンの明かりすらないその真っ暗な部屋の中で、ランディたちは薄着の状態で身を寄せ合っていたのだ。
「――おい、これは、どういう、ことだ?」
イーヴァの声が震え、また、オレやイーヴァの肩越しに状況を理解したレオンが、そしてメノウさんまでもが言葉を失う。
ややあって、ランディたちは観念したかのように一斉に正座。
そして、その状態で悔しそうに、悲しそうに頭を垂れる。
「……ごめん、姐さん。オレたち、一回死んだ」
イーヴァの淡く輝く髪の光に照らされて、彼らの目じりが一瞬だけ、きらりと光った。
[jump a scene]
またぞろアタシの言うことも聞かずに外へ狩りにでもいったのか?
そのようなことを言いたげな表情でイーヴァが家の中へと侵入、ハンガクさんは手慣れた手つきでランタンに火をともしてその後へとつづく。
また、土間を含めても七畳半程度の広さしかない家に人が十二人も集まったため、横幅的に一番邪魔になるであろうオレをはじめとして、レオン、メノウさんは外で待機することとなった。
そして、話す内容を他のプレイヤーたちに聞かれたくないためか、イーヴァが扉をゆっくりと閉め、オレたちは城壁から顔をのぞかせはじめた月明かりだけを頼りに、家の外壁にもたれかかる。
「……それにしても、七人全員死に戻り、かぁ」
ややあって、オレの沈黙に耐えかねたらしいメノウさんがポツリと、そんなことをつぶやいた。
「普通はないよね。よっぽどたくさんのモンスターに囲まれるか、コカトリス並のモンスターとかにばったり会わない限り」
この七つ世界がまだゲームのころ、他のゲームで言うところの職業という概念が限りなく薄かったためか、『モンスターを倒す』という目的に絞ってしまえば、その難易度はそれほど高くはなかった。
ただ、その遠因は、これがMORPGとよばれるゲームであるが故にひとつのサーバーに接続できる最大人数自体が少なかったためなのだが……さておき。
「……まぁ、あいつらはほぼ純血だからな」
「それは……うん、たしかに火力不足だね」
そう、純血構成は別名ロマン構成ともいわれ、その強みは覚醒技を存分に使えるということ以外はまったくない。
その上クレッセント以外がもつ覚醒技は使用前後の隙が大きいため、そう乱用できるものでもなく、純血構成の恩恵を受けることができるのはイーヴァやベッキーのような覚醒技主体で戦うしかないクレッセントのみである。
そして――ゲームとは違い死の概念が存在するこの世界において、純粋な純血構成はもはや存在していない。
一見純血構成に見えるレオンですら、種族変異を果たしていないだけで三種混合構成らしい。
「とはいえ、これからあいつら独自の判断で依頼をさせるのであれば、オレとしてはそろそろ次のステップに踏み込んでも良いとは思うんだがな……」
次のステップとはもちろん、二種混合構成や三種混合構成による戦闘スタイルの確立だ。
確立、などといってしまうと大仰に聞こえるかもしれないが、しかし、先も言ったとおりこの七つ世界は他のゲームとは違って職業という概念が限りなく薄い。
そのため、自分の立ち位置を明確にするためにも自己の戦闘スタイルを確立し、それをパーティに伝えるのはかなり重要だったりする。
例をあげれば、オレはデコイ役もできるが基本的に鉄板構成である強化弱化構成の補助職だし、メノウさんはアーマードとドラゴンハーフというその構成からして鉄板ではないにしろ純近接職構成といえる。
「だというのに、その次のステップとやらにはまだ踏み込んでない……理由は、イーヴァ君、かしら?」
「……よくわかったな?」
「当たり前よ、大人だもの。危険なことなんて私たちに任せておけばいい。私も、それにイーヴァ君はそう思ってるはずだわ」
そして、この薄暗闇でもその表情がわかるくらい、メノウさんは不敵に笑う。
「ただ……イノ君、あなたがついさっき言ったみたいに、この常識が、この感情が、この国の仕組みに合致しないからこそ今のイーヴァ君はいびつで、それでいて過保護に見えるわ」
「いびつ……か」
「だってそうでしょ? あの子、まだ高校生であるがくちゃんが弓もって戦っているっていうのになんにもいわないのよ? しかも、それがさも当然であることのように振舞ってる」
いつもいつもオレたちを『恋人』だの『夫婦』だのと茶化していたメノウさんが、いままでのふざけた言葉からは想像もできないような荒々しい口調でイーヴァを批判する。
それは、もしかするとメノウさんが今まで押し殺していた感情の吐露なのかもしれない。
「それなのにあの子達のことになると『あぶない』とか『危険だ』とかいって街の外へ連れて行こうともしない。これをいびつっていわずになんていうの?」
「それは……」
「もし、今まで初心者だったからとか言うのであれば、それは違うわ。ねぇ、イノ君、あの子達、普通に戦えるんじゃないかしら? ――ううん、いいわ、答えなくて。なにせ私たちの存在自体がそれを証明しているんだから」
「……」
「まぁ、純血構成らしいから、私だってあの子たちが私たちなみに戦えるとは思っていないけど。でも――」
そこでメノウさんは一拍おき、先ほどまであれほど荒げていた口調をゆっくりと、諭すような、そんな穏やかなものへと変える。
「一歩でも城壁の外にでればモンスターが群れをなして襲ってくるこの世界で、自分を守るための力があるのに、危険だからと実践経験も積ませず後生大事にしまっておくような行為は、逆にみんなを危険に放り込むような行為だと思うわよ? ねぇ……イーヴァ君?」
「――ああ、耳がいてぇわ」
同時、家の扉ががらりと開き、突然のことにオレは心臓の鼓動を跳ね上げる。
どうやら先ほどの会話は全部、イーヴァに聞こえていたらしい。
……いや、家の壁が薄いのだから当たり前か。そんなあまりにも初歩的な見落としに、オレは天を仰ぐ。
「あいつらの話を聞いて、そんでお前の話を聞いて……あらためて、自分は阿呆だと気付いたわ。そんなダブルスタンダードでワガママなヤツ、いままで五万と見てきたっていうのに、さ」
そんなことをつぶやくイーヴァのその顔は、あのメノウさんから暴言じみたセリフを聞いたせいか、驚くほど青い。
「つーかひどくね? 普通のヤツならここでキレて、乱闘騒ぎだぞ? いや、心の弱いやつなら、いまごろ自分ののどに包丁を突き立ててるね」
「大丈夫よ。たったひと月の付き合いとはいえ、一緒に暮らしてたのよ? 私はあなたのことは十分知っているし、十二分に信頼してるわ。それに――あなただってアタシと同じ大人でしょ? 大人ならこの程度の忠言くらい笑って飲み込みなさい」
「うへぇ、すっげぇスパルタ……まるで田舎の母さんみたいだ」
「やめて!? 私まだそんな年じゃないわ!?」
……それ、本当か? 先ほどまでの雰囲気をぶち壊すようなその発言に、思わず、眉をよせてしまった。
[jump a scene]
聞けば、事件は元ストリートチルドレン仲間がわき道で残飯を口にしていたのを見てしまった事からはじまったらしい。
そのときは昔のような助け合いの精神でそいつらに遅めの昼食を御馳走し、そのまま冒険者ギルドに連れて行って、彼らになにか簡単な仕事を斡旋してもらう腹積もりだったとのこと。
たしかにギルドは一週間も休業していたせいで猫の手も借りたいくらいに忙しく、たとえ浮浪者の子供とはいえ、たとえ新人渡り人の紹介であるとはいえ、もしかすれば、なんらかの仕事にありつけたかもしれなかった。
――だが、食事をしていたところがまずかったらしい。ランディたちは元浮浪者仲間を連れて、日雇いの浮浪者たちがよく利用する屋台で食事を取ってしまったのだ。
そこを選んでしまったのは、もしかすれば、以前から続くランディたちの習慣だったのかもしれない。
そして、彼らが無意識に足を向けてしまうような場所だ。いくらランディたちが種族変異をしたとはいえ、顔つきは変わらない。
また、いままで自分の仲間だったはずの子供たちが、いつの間にか日に何ガルドと稼ぐような高所得者になってしまったと知ってしまえば――
後にあったのは、人間の嫉妬と、強欲。
そして、以前までそんな負の感情のさなかで生活していたとしても、一週間にもわたる普通の生活という蜜のように甘い毒は、おびただしい量の憎悪というものは、容易にランディたちの身体を凍りつかせてしまった。
「――そんで、気付いたら北門の兵士に保護されて、詰め所の仮眠台で寝てたらしい」
ランタンの明かりに照らされながら、イーヴァはランディたちから聞いた内容を要約してオレたちに話す。
また、今、ランディたちが着ている服は、保護されたそのときに渡されたものらしい。
しかも、オレたちが召喚された当日はそんなサービスはひとかけらもしてくれなかったことから見るに、これはヤコが以前から根回しをしていたのだろう。
そう考えるとヤコがたまに酒や食べ物を差し入れしているというのにも合点がいく。
兵士の士気を上げ、なおかつ死に戻りした人をここまで手厚く保護させているのだ。たまの差し入れくらいなら安い投資だろう。
やれやれ、あの言動の癖にずいぶんと有能なことだ。これでは彼女に頭が上がらなくなってしまうではないか。
……いや、もしかするとオレがこんな感情を抱くことまで計算して、今頃自分の仕事部屋で腹黒く笑っているのではないだろうか?
そんな、阿呆みたいな陰謀論を否定できないあたり、思わずため息が漏れてしまう。
ともかく。
レオンとハンガクさんは今、ランディたちに食べさせるためのレーションや、今日の夕飯になりそうなものがないか調べるため冒険者ギルドまで足を運んでいる。
基本的に冒険者ギルドは明けの十二時ごろで営業を終了するのだが、ヤコがまだギルドに残っているだろうから多少の融通は利くだろう。
……その融通を利かせるために、オレがエサにされそうな気がしないでもないが。
いや、それを防ぐ意味合いもこめて、レオンを一緒に連れて行かせたのだ。きっとなんとかしてくれるだろう。
そして今、オレがすべきことはそんな些末なことへの心配ではない。
「なにはともあれ、お前らが無事でよかった」
彼らが死に戻りしてからずいぶんと時間がたった今、重症デバフを受けているものはもういない。
山を越え、全員が生き延びた。そのことにオレは、安堵の吐息を吐き出す。
「無事じゃねぇよ……死んだんだぜ? オレら」
「それをいうなら、アタシもひと月前に死んでるな」
「……姐さん、マジで?」
「ああ。ミノタウロスの棍棒に潰された」
「うわぁ……」
「あ! そういえばイーヴァ君」
「……ん。なんだ?」
「そのあとのことなんだけど、イノ君がブチギレちゃって、そのミノタウロスを」
「メノウさん、それ以上言わないでくれ……頼むから」
「はーい」
そして彼女はちろりと舌をだす。
……畜生、さっきのことがあった手前、怒るに怒れない。
「はぁ……あと、一応訂正しておくが、『死んで生き返った』ではなくて『強引に身体を修復しながら転移した』が正しいからな? オレたちは便宜上『死に戻り』というが」
「……それ、死ぬのとどう違うんだ?」
「たぶん一時的に仮死状態にして――いや、まぁいい。オレにもよくわからん」
ちらりとチャドを見やり、また知恵熱を出されては堪らぬと推測交じりの説明を切り上げる。
「はいはい、そんなイノ君の小難しい話は放っておいて」
いや、オレは聞かれたから答えただけであって、別に薀蓄を垂れ流しているわけでないのだが。しかも途中でやめたし。
しかし、そんなオレの感情などメノウさんは一切合切無視し、手を叩いて話の腰を強引に折る。
「ねぇ、イーヴァ君」
「……ん。なんだ?」
「もう自重しないんでしょ?」
「……ああ。街の中も危険って、思い知ったからな」
そしてイーヴァは悔しそうに顔をしかめ、メノウさんからそっぽを向く。
「もう……イノ君、後でイーヴァ君のフォロー、お願いね?」
「おいおい……それをアタシの目の前で言うか? 普通」
「え? でもあなたたち夫婦でしょ?」
「ねぇよ」
「ねぇよ」
[jump a scene]
「なぁ、オレはランディたちのレーションと、今日の夕飯を買ってきてくれといったんだが」
オレはレオンを引き連れイーヴァたちからやや離れたところに移動し、肩を組みながら彼女にこそこそと耳打ち。
「まさか、それを忘れたわけじゃないよな?」
「当然じゃないか。それとも……まさかイノ君、僕がイノ君のお願いを忘れるとでも思ったのかい?」
レオンはオレのその言葉に対して心外そうに眉を寄せ、唇を尖らせる。
「じゃぁ、なんで、アレがいるんだ」
そしてオレは、親指で後ろを――なぜか料理の支度をはじめているヤコを指差す。
彼女はオレの今の心情など一切知らず、頭に三角巾、袖をたすき掛けといった様相で「今晩は儂特製のシチューじゃよ~」などと口ずさみながら寸胴鍋をかき混ぜていた。
「そんなの、事情を話したら『儂も行こう』なんて駄々をこねたからに決まってるじゃないか」
「だよな……はぁ」
思わず、ため息が漏れる。
「ああ、あと今回のレーションの代金やら、ランディ君たちの食器の代金まで出してくれたから、おかげで僕も強くいえないんだよね」
「……マジか」
「こんなことでウソをついてどうするっていうんだい? たしかに疑いたくなってしまう気持ちもよくわかるけどさ」
それがそれが本当なら、彼女にはかなりの金額を払わせたことになるだろう。
ああ、どんどんどんどんアイツに頭が上がらなくなってくる……思わず、頭を抱えてしまった。
「――さて、皆のもの、食事の時間じゃよ」
ヤコがそんなことを言いながら手を叩き、オレはなにかいいようのないもやもやを抱えたまま木製の皿をアイテム欄から取り出した。
なお、さすがに十三人という大所帯のため、食事は家の前でつくり、焚き火を明かりとして食べることになっていた。
また、オレたち以外のプレイヤーたちも規模は違えど似たような状況になっており、ある意味では家が家として機能していない状況であった。
――まぁ、いくら換気用の窓が空いているからと言っても、まだちゃんとしたかまどができていない家の中で盛大に煮炊きするには少々度胸がいるからなのだが。
さておき。
「ところでランディらよ、今日は災難であったな」
「……おう、まったくだよ」
ヤコからシチューを受け取ったランディはそんな風にぼやき、すぐさまがつがつとシチューを食べる。
「冒険者ギルドとしても、今後このようなことがないよう、近日中までに皆に注意を呼びかけるつもりじゃ」
ここで『警備隊に通報する』という言葉が出ないあたり、ここら辺が半官半民の限界なのだろう。
それに誰だって、金にもならない危険なことをしたいとは思わない。
そしてランディもまた、そのことに対してひとかけらの疑問も抱いていない。
やはり、これがこの世界の常識なんだろう……またイーヴァが荒れそうだ。やや心配になって彼のほうを見やる。
「――んー? なんだ?」
だが、イーヴァはそのことをさして気にした風もなく、パクパクとシチューを食べていた。
「いや……なんでもない」
「そっか。ならいいんだ」
「ああいや! イーヴァ!」
「……んー?」
「その、今回のことなんだが――」
しかし、やはりどうしても声がでず、オレはそのまま口をパクパクと動かして、結局。
「いや、なんでもない」
と、口を閉じた。
「――なぁ、イノ」
「……なんだ?」
「最近、ようやく落ち着いてきたおかげでいろいろ考えるようになったけど、でも、もう気にしてないし、もう気にしない。それに……これでもアタシ、前よりずいぶんと前向きになったんだぜ? そう心配すんなよ、相棒」
そう言って彼は、にやり、と、あの小憎たらしい笑みを浮かべる。
「そうか」
その笑顔は晴れやかで、オレも、そんな前向きな相棒に苦笑交じりの返事を返した。
「……ただ」
「なんだ、どうした?」
「アタシとしては、それはメノウさんたちの前で聞かないでほしかった、かなぁ?」
「ああ……すまん。うっかりしていた」
にやにやと笑うメノウさんたちと、がじがじと爪を噛むヤコににらまれ、オレは思わずため息をついた。




