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7th Sphere  作者: 竹永日雲
王都騒乱
10/40

10話 Every day

 ――コカトリス討伐より、五日が過ぎた。

 二日前にはモリア公爵領から職人が無事到着し、皆は「ようやく屋根の下で眠れる」と胸をなでおろしていた。

 また、コカトリス討伐に参加していたプレイヤー百二十四名には褒賞としてディタムス王より一人頭十ガルドが下賜された。

「相変わらず、高いのか安いのかわからないな」

 護衛任務のほうは途中で放棄したとはいえ四日分、十二ガルドを支給された。

 つまり一日三ガルド。そう考えるとほぼ半日で十ガルド稼げた今回の討伐はかなり高いのだろう。

 あれだけの労力を裂いたのにたったこれっぽっちとも思わなくもないが。

「ま、仕事なんてそんなものさ」

「損なもの、だけにか?」

「ないわー……」

 イーヴァはあきれた表情を浮かべてオレのジョークを一蹴。

「そういえばコカトリスの死体、アレはどうなったんだ?」

「ああ、アレ? チャットでの発表だと仮設住宅やら炊き出しやらの復興資金に当てるから分配はなし、だってさ。肉や皮はすでに市場に出回ってて、コカトリスの琥珀眼は一週間後に開かれるオークションにだすとかなんとか」

 なるほど、それはいい。あの幼女狐も『宝石として市場に出回るぐらい』と言っていたし、天災ゆえ滅多に市場に出回らないことも加味すればかなりの高額で取引されることだろう。

 ふと、テントの中から外の光景を見渡す。

 ここ中央広場ではプレイヤーたちが立てたテントが雑ながらも整然と並んでおり、戦後の光景をほうふつとさせる。

 もちろんオレたちもその例に漏れず、仮設住宅建築は現在急ピッチで進んでいる。

 ただ、前と違うところがあるとすれば、オレたちのテントの隣にメノウさんとハンガクさんが住んでいて、意外なことにソロだったらしいレオンさんがオレと同じテントで寝起きしているということだろうか?

「そういえばイノ君、知ってるかい?」

「なんだ?」

「最近ギルドマスターに恋人ができたそうだよ?」

「ほう?」

 あれから五日。どうやらジュウゴヤさんの言うとおり本当に三日坊主で、さらには新しい恋を見つけたらしい。

「これで落ち着いてくれると良いのだが」

「ははっ! たしかに。でもなかなかにツンデレみたいだよ? そのトレントの彼氏」

「……は?」

「なんでも『主様は釣った魚にエサを与えぬ鬼畜での? じゃがそれが良い! ツンデレ具合にきゅんきゅんくる!』とかなんとか」

「ツンデレねぇ……」

 なぜかイーヴァが疑惑の目をオレに向ける。

「気のせいかな? アタシ、あの女狐と話した事のありそうな、それっぽいトレント知ってるんだけど?」

「奇遇だね、僕もさ」

「――気のせいじゃないか?」

「そうか?」

「そうかな?」

「そうだ」

 少なくとも、そういうことにしておけば精神衛生上楽だ。

「主様ー? どーこーでーすーかー?」

「はーいマスター、まだお仕事の途中ですよー? というかいい加減あきらめてくださいませんかねー?」

「ぬぅ!? おのれまたか! ええいはなせはなせ! はなすのじゃー! 主様こそ儂の! 儂の運命の――」

「……なぁ、イノ。これでもまだ、気のせいか?」

 タイミングよく――いや、タイミング悪くテントの外から聞こえたその声に、イーヴァの疑惑の目はさらに深くなっていく。

「あ、当たり前だ!」



 夕食の買出しのために中央広場を離れると、道中には切り出した木材を角材や板材に加工する職人たちの姿があちこちに見受けられていた。

 なかには元大工かなにからしいプレイヤーたちが持ち前の身体能力を生かして木材加工する姿もあり、本格的に復興が始まったんだと確信する。

「はーい、どいたどいたー」

 土ぼこりと(ひづめ)の音を上げ、道の中央を歩くのは馬のライカンスロープ。

 その背には荷駄車が結ばれており、運んでいるのは食料か酒が入った大樽の山。たぶん他の街から交易品としてやってきたのだろう。

「活気付いてきたな」

「だな。コカトリス襲来の報を受けたときはどうなるかと思ったけど……すぎてみりゃぁ案外たいしたことじゃぁなかったな」

「ヤツのくちばしにおびえながら足をぶん殴っていたオレからしてみれば、トラウマものだったのだが?」

「なら、今晩慰めてやろうか?」

 にやりと、イーヴァが妖しい笑みを浮かべながらオレの手にその小さな手を重ねる。

 しかし、こいつは今、一番大事なことを忘れている。

「男同士でか?」

「それは……ねぇな」

「だろう?」

 ここにメノウさんたちがいなくて助かった。

 ただでさえ最近活力が有り余っているメノウさんから「ねぇ、イーヴァ君とほんっとうに、何もなかったの?」と聞かれる毎日なのだ。

 あるもなにもここ最近イーヴァはメノウさんたちのテントで寝起きしているのであるわけがない。

 ――それと同時にレオンさんが女友達のノリでべたべたしてくるので、オレたちを好奇の目で見つめてくる腐女子らの熱視線に若干の危機感を覚えていないでもない。

 本当、問題は山積みだ。ため息。

「ところでさー、イノ。今晩はなんにする?」

「久しぶりに黒パン以外が食べたいな」

 なにせあれからずっとハンガクさんが「今度こそ、今度こそ!」とあまり旨くもないパン粥のリベンジを繰り返しているのだ。いくらなんでも口飽きしてしまう。

 ……実はハンガクさん、料理はそこまで上手くないんじゃないだろうか? というのはオレたちのひそかな共通認識。

「じゃーニョッキだ」

「うへぇ……」

 味はともかくとして、こいつが作るニョッキはみんな芋虫そっくりな形をしてるから嫌なんだよなぁ。

「嫌ならいいんだぜ? アタシのかわりにハンガクさんに作ってもらうから」

「……ニョッキで」

「だろー? さーて、ジャガイモと小麦はいくらかなー? ……あ、ジャガイモが高かったら今日は黒パンと串焼きな?」

 ……最近、相棒が性転換で所帯じみてきたんだが、オレはどうしたら良いだろう?



  [jump a scene]



「――さて、皆のもの。食事時で悪いのじゃが、食いながらでも良いので儂の話を聞いてくれ」

 イーヴァが作った芋虫みたいなニョッキを意を決して口の中へ運ぼうとしたとき、幼女狐は中央広場全体に響く透き通った声を上げる。

「皆も知るところじゃろうが、過日、ついに儂らはコカトリス討伐に成功し、彼奴より得た戦利品の売り上げやこれから入るであろう売り上げによってここ北区復興計画のめども立った。そこで!」

 彼女が空中に指を這わせ、アイテム欄から小さな鍵を取り出す。

「これまで拠点がいまだ不安定であり、十分な狩猟や業務が行えないであろうという理由から販売を自粛しておったこのルイスの鍵の販売を近日中に解禁し、なおかつ冒険者ギルドがモンスターよりドロップした戦利品やレーションの売買を一手に引き受けようと思う!」

 まわりからどよめきが沸き起こる。

 ルイスの鍵はアリアドネーの糸と同じく転移系のアイテムだ。

 ただ、アリアドネーの糸とは違ってこちらは他六世界へと転移するためのアイテムであり、オレたちが常に食べているレーションの原材料となる素材や、この世界で不足している鉱石資源を集めるには必須のアイテムでもある。

 しかもそれはゲーム上ではアリアドネーの糸の倍の値段で売買されており、そうそう常備できるものでもない。実際オレも一往復分(二本)しか常備していなかったりする。

 そしてドロップ品の買取は――まぁ、餅は餅屋。この世界においてオレたちにはコネもないし、ジュウゴヤさんのように元営業職というわけでもない。買い叩かれたり違法売買するよりはましだろう。

 あとはあの幼女狐らが真摯にギルド運営してくれることを祈るのみ。

 ……あの腹黒幼女狐のことを考えれば、若干、不安だが。

「さて、少々長話が過ぎたの。これにて冒険者ギルドの業務連絡を終える。またここに居ぬ者らのため、数日間はギルド本部前に同様の内容を記した掲示板を設置するほか、チャットにて質問を受け付けておる。部屋の名は『ヤコのギルド目安箱』じゃ。皆ふるって入室してくれ」

 そして彼女は会話の区切りにと優雅に一礼し、しかし頭を上げるやすぐさま子供のように天高く拳を突き上げる。

「よし! 本日の業務終了! ビバ、アフター! 主様、今そちらへ参ります! <シャープセンス>!」

「……やべ」

 顔が引きつる。まさかオレを探すためだけに百までしか上げられない貴重な侵食率を消費するとは思わなかった。

 しかも本当に業務終了なのか、ジュウゴヤさんは「やれやれ」と渋面を作りながら頭を振り、そのままさっさと帰っていってしまった。

 希望の光は夕闇の向こうへと消えていき、絶望に打ちひしがれたオレは皿に盛られたニョッキを抱えたまま、テントの中へと転がり込んだ。

「もぅ。イノさん、二股はダメですよ?」

「ほほぅ? イーヴァ君、恋人のイノ君が二股かけてたみたいだけど、今の心境は?」

「ねぇよ」

「ふふっ、イノ君は人気者だね。妬けちゃうなぁ」

 テントの外からはオレを好き勝手いうセリフが飛び交い。

 遠くからは「主様ー! どーこーでーすーかー?」という幼女狐の声が響く。

 オレはあのとき平穏な日常とかハッピーエンドを望んだが、しかし、この今の状況はハッピーエンドと言えるのだろうか?

 もしこの稚拙な劇の台本を書いている作者がいるとするならば、いち登場人物としてこう言わずにはいられない。



 ――てめぇ、覚えとけよ!

 一章終了。

 二章は書き溜めが終了次第投稿します。


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