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フラウと加奈 ②


失敗したかしら・・・



あれから30分経ったけど、まだ1体も狩れていない無いなんて・・・こういうのを人間の言葉で『鈍くさい』って言うのでしたわね。

始まってから変わった事といえば、ふらつかずに飛んでいる事。せっかく、グングニルの槍を持たせたってのに・・・

「ちょっと!加奈。何をなさってますの?まだ1体も狩れていませんわよ!」

「そ、そんなこと言ったって〜槍は重いし、インプさんは速いし〜出来ないよぉ。」

まったく・・・こんな調子じゃ、日が暮れてしまいますわ。仕方がないですわね、少しアドバイスしてあげましょう。

「加奈、飛ぶ事に集中し過ぎない!今のあなたなら、意識しなくても飛べますわ。その分の魔力を、槍に使いなさいな。」

「魔力を槍に使うって・・・どうすればいいのよ〜ふわあああん。」

「泣いても駄目ですわよ!槍を身体の1部と思いなさいな。そうすればその槍は、魔力に反応して羽毛のように軽くなりますから。」

「や、やってみる〜」

加奈が意識を集中しだした、さっきまで黒かった槍が白く光っている。やれやれ、上手くいきましたわね。

「か、軽くなった。」

「それでは、そのまま槍を思い切り振り回してごらんなさい。」

ええい、という掛け声のもとに槍を振り回した。すると、加奈の周りに群がっていた数十体のインプが一瞬にして消滅した。

「わ、わ、やっつけちゃった!」

「その調子ですわよ、さぁどんどん狩っていってちょうだいな。」

この子、思ってたよりとんでも無い魔力を持っていますわね。ほんの少し助言しただけで、インプを数十体消し去ってしまうなんて。それにあの槍の反応・・・いきなり最高色の白にするなんて、わたくしの目に狂いは無かったって事ですわね。

などと色々考えていると、加奈がうつむいて棒立ちになっている。何やってるのかしら、まったく!

「加奈、何をなさっていますの!」

俯いていた加奈が、顔を上げてわたしを見た。なによ、泣いてるの?

「低級悪魔って言っても、インプさんは悪魔なんでしょ?フラウちゃんと同じじゃない・・・理由も無いのに、フラウちゃんの仲間に酷い事できないよ・・・」

何を言い出すかと思えば、この子の欠点は優しすぎる事ね・・・そんなもの、後継者争いに必要ないってのに!まったく、腹立たしいったら。

「そんな低級悪魔と、上級悪魔であるわたくしを一緒にしないでくださる?それに、魔界にとって低級悪魔は害でしかないの。」

「害?」

「そうよ、人間界でいう害虫みたいな物ですわ。いわばあなたは害虫を駆除しているのよ、魔界のお掃除屋さんですわ。」

「わたし、お掃除屋さんなの?役に立ってるの?」

小首を傾げて同意を求めてくる、天然ってのは扱いづらいですわ・・・

「立ってますわよ!ですから、インプ達を狩ってしまいなさい。」

「うん!わたしやるね。魔界を綺麗にしなくっちゃ。」

槍をぶんぶん振り回して、加奈はインプの群れに飛び込んでいった。前言撤回、なんとかとハサミは使いようですわね。



あれから、1時間くらいたったかしら。とっくに100体のインプを狩ったというのに、加奈は止めようとしない。あんまり調子にのらないでほしいんですけど・・・

「ちょっと、加奈ったら。もうとっくにノルマは達成してますのよ、いい加減お止めなさいな。」

「え〜駄目だよ〜これからなんだから。わたし全部やっつけちゃうね、ふんふ〜ん。わたしは、魔界のおそうじやさ〜ん♪」

「まったく・・・」

鼻歌を歌いながら、加奈はどんどんインプを狩っていく。調子に乗ったバカって、手が付けられないわね。

はあ、と溜息をついていると、嫌な風が吹いてきた。こ、これってもしかして・・・

「フラウちゃーん、向こうからなんか大きなのがやってきたよ。あれも、低級悪魔さんなの?」

加奈が、指を指した方角を見てみた。げ!あれって・・・『ブルー・アブトゥー』じゃありませんの!そっか、ここは『アブトゥー』の餌場でしたのね。わたくしとした事が、迂闊うかつでしたわ。

「よーし!それじゃ今日は、あの悪魔さんをやっつけてお仕舞いにするね。」

「ば、馬鹿!お止めなさい!!戻ってらっしゃい。あれは悪魔じゃなくて魔獣ですわ、あなたじゃ太刀打ちできませんわ!」

わたくしの忠告が聞こえなかったのか、加奈は真っ直ぐブルー・アブトゥーに向かっていった。アブトゥー・・・魔界に住む、獰猛な肉食獣。

姿は巨大な魚、頭に3本の角が生えている。幸いアブトゥーの中でもランクの低い、ブルー・アブトゥーだけど・・・それでも中級悪魔と同じ魔力がある・・・

「加奈、聞こえないの?戻ってきなさい!」

加奈はアブトゥーの周りを飛び回り、槍でチクチクと攻撃している。そんな事したって、ムダですのに。

「あれぇ〜利いてないのかな?それじゃあ、はああああああ!」

気合を入れた声が聞こえる。加奈は魔力を槍に集中させ、アブトゥーの頭に突き刺した。さすがにその一撃が利いたのか、アブトゥーは身をくねらせて雄叫びを上げた。

「う、嘘・・・冗談でしょ・・・」

中級悪魔と同じ魔力をもつ、ブルー・アブトゥーを苦しめている?だったら加奈は・・・もう、中級悪魔クラスの魔力を持っているっていうの?

「へへ〜ん、わたしってばつよーい。ねぇフラウちゃん、どうどう?」

「ば、馬鹿!油断しちゃ駄目!!」

暴れだしたアブトゥーから、加奈は弾き飛ばされた。そこへ、アブトゥーの尾ひれが振り回され、彼女を直撃した。

「きゃあああああああ!」

「加奈!!」

悲鳴と共に加奈が吹き飛んでいく、わたしはそれを追って飛び出した。わたくしは加奈に追いつき、彼女を抱きかかえた。

「加奈、加奈!しっかりなさい!」

よかった・・・気を失ってるだけですわ・・・怒りが収まらないアブトゥーは、こちらに向かってくる。よくも加奈を・・・

「へっ・・・久々にキレちまったぜ。魔獣の分際で、わたしの友達に手を出すなんて・・・死んでつぐなえ!!」

アブトゥーは、大口を開けて向かってきやがった。わたしはそれを、難なくかわした。

「魔界に住まう、火焔かえんの精霊よ・・・我と我が友を害なす者を焼き尽くせ・・・フレイアス!!」

わたしの手から、火焔が放たれる。その炎はアブトゥーを包み込み、巨体を焼き尽くして消滅した。

「ふん・・・魚ふぜいが、上級悪魔にかなう訳ねぇだろうが。」

あら、やだ。わたくしったら、はしたない。ついつい地がでてしまいましたわ。さっき、わたくし加奈の事を『友達』って・・・な、なにかの間違いですわ。そうに決まってます!

加奈はあくまでも協力者なんですから、それ以上の感情なんて有るわけありませんわね。

「とにかく、加奈の目を覚まさないと。」

わたしは加奈を抱きかかえ、眼下に見える河川に降り立った。



う、うーん・・・あたたたた・・・

身体が痛い、わたしどうしちゃったんだろう・・・そうだ思い出した、大きなお魚さんに向かっていってやられちゃったんだ。

フラウちゃん、怒ってるかな?わたしはそっと目をあけてみた。そこには、心配そうな顔をしたフラウちゃんがいる。

「あ、フラウちゃん・・・」

わたしが声を掛けると、フラウちゃんはほっとした顔をした。それが恥ずかしかったのか、いつもの彼女にもどった。

「ふん!やっと目をさましたのね。死んだのかと思いましてよ、でももう、死んでるのでしたわね。ほほほほ。」

すこし照れながら笑っている。やっぱりカワイイな、フラウちゃんは。

「ねえ、あの大きなお魚はどうなったの?」

「え?あ、あの巨大魚ね。に、逃げましたわ。」

「逃げたの?」

「そ、そう、逃げましたの。あなたの一撃が利いたんでしょうね、『かなわない〜』って感じで逃げ出しましたわ。」

フラウちゃん、嘘ついてる。わたしハッキリと覚えてないけど、大きな力があのお魚を消し去ったって感じがしたから。

「そっか・・・逃げちゃったんだ・・・」

「元気になったんなら立ちなさいな、まだまだ覚えてほしい事は沢山ありましてよ。」

わたしは立ち上がって、フラウちゃんに抱きついた。

「ちょ、ちょっと!何なさいますの?」

「何でもない、ただこうしたいだけ。大好きだよ、フラウちゃん。ちゅ♪」

わたしは、彼女のホッペに軽くキスをした。

「な、な、な・・・なにを・・・」

フラウちゃんは顔を真っ赤にして、目をくるくる回している。どうしちゃったんだろう?

「うーん・・・」

彼女は、その場に倒れてしまった。きゃあ!気を失っている。

「フラウちゃん!ちょっと起きてよ、しっかりして〜」



わたしは、この可愛くてちょっとイジワルな悪魔さんが大好きになってる。こんなカワイイ子が、魔王になったらいいなって。

契約を果たして創太くんにも会いたいけど、フラウちゃんが魔王に成る為になら、なんだってしようって心に決めた。




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