第5話
理解できない!
あれ〜おかしいなぁ・・・わたし寝てたんだよね?なのに死んじゃったなんて、そんなことある訳ないじゃない。
そうか、これはフラウちゃんが冗談を言ってるのね。まったく〜しょうがないなぁ。
「ははは、もう〜フラウちゃんたら冗談ばっかし。わたしが死ぬわけ無いじゃない、駄目だよそんな事いっちゃ。」
「はぁ?なんでわたくしが冗談を言わなくてはなりませんの。あなたは死んでしまいましたの、おわかり?」
フラウちゃんを見たら、真剣な目をしていた。
「そっか・・・わたし本当に死んじゃったんだね・・・う、うぇ、うわああああん。」
「ちょっと!泣かないでよ、鬱陶しいですわね。」
「うぇ、うぇ。そ、そんな事言ったって・・・ひぐ、ひっぐ。ねぇわたし何で死んじゃったの?」
わたしは泣きながら、フラウちゃんに尋ねた。
「衰弱死ですわ。」
「衰弱死?」
「あなた、恋人が死んでしまって毎日毎日泣いて暮らしてたでしょう?食事も摂らないで。それで、魂が不安定になっていたんでしょうね、生きてるか、死んでいるかわからない状態だった時に、わたくしがちょこっと・・・おほん、おほん。」
「わたくしが、ちょこっと・・・って?」
「と、兎に角。あなたは死んでしまいましたの!以上、説明おわり。」
誤魔化された・・・はぁああ、わたし死んじゃったんだね。現実を受け止めなくちゃ、でも、何でフラウちゃんはわたしの前に現れたんだろう?
「じゃあ、フラウちゃんは何でここにいるの?もしかして、わたしを迎えにきた天使さま?」
フラウちゃんがフフっと笑った、ちょっと怖い。
「わたくしが、天使に見えて?」
「ううん、見えない。だって天使さまは、そんなだっさいジャージ着てな・・・」
言い終わる前に、オデコに扇子が飛んできた。
「おだまり!」
「うう〜イタイよぉ〜」
半ベソをかいてるわたしをしり目に、フラウちゃんは話し始めた。
「わたくしの名を聞いて、ピンと来ませんでしたの?高名な魔王メフィスト・フェレスよ、ご存知でしょう?」
「ううん、知らない。」
どうしたんだろう、フラウちゃん溜息ついてうな垂れている。なんか、失礼なこと言ったかな?
「魔王メフィスト・フェレスを知らないだなんて・・・人間ってなんて馬鹿なのかしら・・・まぁいいわ、わたしはその魔王の第1子、次期魔王にもっとも近い存在なのですわ。」
おーすごーい、わたしは思わず拍手をした。
「フラウちゃんて、魔王の子供なの?すごいなぁ、魔王って言ったら王様だよね?てことはフラウちゃんて、お姫様なんだ〜わたしお姫様って初めて見たよ〜」
ジャージを着た、お姫様を見るのも初めてだけど。フラウちゃんはちょっと赤くなって、扇子を口にあてて笑い出した。
「おほほほほほ。そうですわよ、わたしはお姫様なんですわ。」
フラウちゃんて、おだてに弱いみたい。わたしは、思わず笑ってしまった。
「なんですの?なにが可笑しいのかしら。」
「ううん、なんでもないの。で、その魔王のお姫様が、わたしに何の御用なの?」
「そ、そうでしたわね。回りくどい話は置いておいて、単刀直入にいいますわ。あなた、わたしが魔王になる為に協力なさい。」
「えー!なんでわたしが?」
そしたらまた、オデコに扇子が飛んできた。もぅ〜、イタイってばぁ〜
「言っておきますけど、これはお願いじゃなくてよ。命令よ、命令。」
わたしは、オデコを摩りながら答える。
「命令って言われてもぉ〜」
「安心なさいな、わたくしが魔王になれたあかつきには、なんでも望みを叶えて差し上げますわ。」
「望みを叶えてくれるの?」
「ええ、何でもね。何が望みなの?一生使い切れない財産?人間の王にでもなってみる?」
「そんなの、いらないよぉ。」
「あら、意外と欲が無いんですのね。もしかして、生き返りたい、とかかしら?」
わたしは、一瞬考えた。でも、すぐに諦めた。
「生き返りたいけど・・・創太くんがいない世界に生き返っても、意味がないもん・・・」
また、悲しくなった。もう創太くんに会えないんだ・・・あの笑顔がもう見れないと思うと、また涙がでてきた。
「はあ・・・あなたって本当におバカさんね。あなたの恋人も死んだんでしょう?で、あなたも死んだ。ここまで言えばおわかり?」
そうか、わたし死んでたんだ。創太くんも死んでる、てことは・・・
「じゃあ、創太くんに会えるってお願いしたら・・・」
「会わせてあげますわよ、でも、そんな事でいいの?富も名声もいらないのかしら。」
「いらない!そんなのいらない!創太くんに会えるならそれでいい!協力する、わたしフラウちゃんに協力する!」
わたしは、フラウちゃんに抱きついた。嬉しい、創太くんに会える!死んでよかった。
「ちょ、ちょっと離れなさいよ。まったく・・・」
フラウちゃんが、照れくさそうにしている。えへへ、なんだか希望がわいてきた、死んでるのに希望って変だけど。
「契約成立ですわね。それでは、今から魔界に向かう準備をしますから、しばらくお待ちになって。」
「もう、行くの?」
「そうですわ、いつまでもここに居る意味がありませんもの。」
「ちょっとまって。」
フラウちゃんを止めたのには訳がある。だってわたしパジャマのままだし、頭だってボサボサだし。
「なんですの?」
「わたし、こんな格好なんだよ。せめて着替えたいよ、下着だって替えたいし。」
オデコに扇子がヒットした、オデコが真っ赤になっちゃうよ。
「あなた・・・何言ってるの・・・死者がそんなこと気にしてどうするのよ!頭おかしいんじゃなくて?」
「おかしくないもん!だって、好きな人に会うのにお洒落したいじゃない。それにフラウちゃんだって、お姫様らしい格好しなくちゃ駄目だよ!」
「お、お姫様らしい格好?わたくしの格好は、お姫様らしくないのかしら・・・」
わたしは、ブンブンと頭を縦に振った。ジャージを着たお姫様なんて、わたしは認めない。
「仕方ないですわね・・・わかりましたわ。じゃあ、あなたわたくしの額に手をあててくださいませ。わたくしに、どんな格好が似合うのか念じて頂けるかしら。」
言われるまま、フラウちゃんの額に手をあてて、彼女に似合う格好を念じた。すると、フラウちゃんの身体がぱあっとひかり、わたしが思い浮かべた衣装にかわった。
「こ、これがわたくしに似合う衣装ですの・・・」
それは、フリルの一杯ついた真っ黒なゴスロリ衣装。ちょっとお姫様とは違うけど・・・
「きゃーカワイイ!どう?気に入ってくれた?フラウちゃんは悪魔さんだから、黒い衣装の方がいいかなと思ったんだ。」
フラウちゃんは、身体をしげしげと見ている。
「こ、これがわたくしに似合う衣装なんですの?」
「うん、めっちゃカワイイよ。」
「そ、そうかしら。まぁわたくしの美貌なら何でも似合いますけど・・・でも・・・」
「でも?」
「この、手に持ってる三叉の槍はなんですの?」
彼女の右手には、槍が握られている。わたしがイメージした悪魔さんの格好なんだけど、気に入らなかったのかな?
「悪魔さんって、みんなそんな槍持ってるんじゃないの?」
そしたら、フラウちゃんは持っていた槍を遠くへ投げ飛ばした。そしてまたまた、オデコに一発くらってしまった。
「わたくしは、虫歯菌じゃございませんことよ!まったく、本来なら百叩きしてやりたいところですけど、この衣装に免じて許してあげますわ。ほら、あなたもさっさと着替えなさいよ!」
「着替えるって、どうすれば・・・」
「あなたが、わたくしにした様にすればいいの。自分の額に手をあてて、念じればいいだけですわ。」
わたしは、額に手をあてて念じた。どうせなら、カワイイ格好にしようっと。
「じゃーん!フラウちゃんとお揃いにしちゃった。」
フラウちゃんと、同じゴスロリの衣装にした。わたしは白い衣装だけどね。
「どう?似合ってるかな。」
「い、いいんじゃなくて?カワイイですわよ、わたくしには適いませんけどね。」
「へへーん、実はこれだけじゃないんだよ。」
スカートの端をつかんで、下着をフラウちゃんに見せた。
「どう?下着もフリルが付いててカワイイでしょ〜」
「な、何いたしますの?はしたない!」
フラウちゃんが、真っ赤になってる。
「なんで?照れることないじゃない。女の子同士なんだし。」
「そんな問題じゃありません!わたくの協力者になったんですから、言動や行動には十分気をつけてくださいまし!」
ちぇ〜つまんないの。だったら、フラウちゃんの下着にクマさんがプリントされてるって事は黙っていたほうがいいかな。
「それでは、もういいですわね。そろそろ魔界に向かいますわよ。」
フラウちゃんが、右手を上げて何か唱えている。そしたら、キラキラ光る虫がわたし達のまわりを取り囲んだ。
「きゃ!な、何これ。」
「金色の蠅、ベルゼバブ様から頂いた使い魔ですわ。さあ加奈、わたくしに捕まっておいでなさい。」
初めてフラウちゃんが、わたしの名前を呼んでくれた。なんだか嬉しい、わたしはフラウちゃんに抱きついた。
「金色の蠅よ、我が身とその協力者、井崎加奈を魔界に運んでくれまいか。」
「ブブブブ・・・フラウロス譲・・・かしこまりました。今日はいつものお召し物と違いますな・・・中々似合っておりますぞ。」
「ふ・・・使い魔が世辞を言うとはな。結構気に入っておる、ここは素直に礼を言っておくぞ。」
無数の金色の蠅さん達が、フラウちゃんとわたしを包み込む。そして、わたしたちは魔界に向かった。