第3話
生き返れる!
希望がでてきた、俺は魔王の後継者(候補)レイアに協力すれば、報酬として生き返れるんだ。
だけどちょっと待てよ、協力って何をすればいいんだ?『生き返れる』って事に浮かれすぎて、肝心なことを聞いていなかった。
そこで俺は、レイアに質問をすることにした。
「あ、あのさ、後継者争いって何するの?」
「そっか、肝心なこと話してなかったな。ちょっと待っててくれるか?とりあえずここを出てから話すわ。」
「ん?ここって魔界じゃないのかよ。」
レイアは、空間に指で、何か紋章?みたいな物を描きながら答えた。
「ここは魔界じゃねぇよ。霊道って言ってな、人間界と魔界の境目の空間さ。人間は死んじゃまったら、必ずここを通るんだ。そこで、上に行きか下行きかに選別されるんだよ。」
「上?下?」
「上って言うのは『天界』な、下が『地界』だ。」
「天界?地界?って事は、天界が天国で地界が地獄って事なのか・・・」
彼女は、ぷーっと吹き出し、ケラケラ笑いながら作業を続けている。
「きゃははは、天国とか地獄っていつの時代だよ。そんなモンとっくに廃止になったっての、人間ってほんとバカだな。あー可笑しい。」
俺は、ムッとした。天国と地獄が、廃止になったなんてしらねーっつの。
「そんな事わかる訳ねーだろ、死んだのだって初めてだしよ。『天国と地獄が廃止になりました』なんて、ネットやテレビとかでニュースになって無いだろうが。」
「ははは、わりぃわりぃ。まぁ人間界は独特だからな、そんな情報入ってこなくて当然だな。」
人間界って独特なのか・・・まぁ今のご時世、天国だの地獄だのって信じてる人間なんか少数だからな。
「じゃあよ、天界と地界ってどんな所なんだよ。」
「んー、詳しく説明する時間が無いから簡単に説明すると。天界は、年がら年中気候が安定しててすごし易い。地界は、その反対で湿度が高くてすごしにくいって感じかな。」
は?ナニそれ。俺が知ってる事と、えらくギャップがあるんですけど。
「そんじゃあ、生きてる時に悪いことしていたヤツが、地獄に堕ちて何千年も罰を受けるってのは・・・」
「あーそれな、無いから。」
「無い?」
「そ、無いの。親父から聞いたんだけど、地獄の刑罰ってのは、あたしら魔族から派遣で行ってるんだよ。だけど、地獄に行きたがる人材が年々少なくなってきてさ。そりゃそうだよ、一度の派遣で、最低千年は魔界に帰って来れないからな。それに反比例して亡者の数は年々増えてくる、もう管理が立ち行かなくて限界だったんだよ。だったらもう廃止にしてしまおう、って事になった訳。まぁ天国も似た様な理由だけど。」
そんな理由があったのか・・・つーか派遣って、死後の世界もあんま変わらないんだな。
「だったら俺は、お前に捕まらなかったら、どっちへ行ってたんだ?」
「ん?おまえか。地界。」
「即答かよ!なんで地界なんだよ。」
レイラは、すこしイラついた口調で面倒臭そうに答えた。
「知らないよ、わたしが決めた事じゃないし。いいじゃん地界、悪いところじゃ無いぞ。」
さっきすごしにくいって言ってなかったか?いい加減なヤツだなと、彼女の後ろ姿を睨んでいると、レイアは、よし!と言って俺の方を向いた。
「ふう、やっと出来た。ってなに睨んでんだよ。魔界に通じる道ができたぞ、ボサっとすんな行くぞ。」
レイラは俺の腕を掴み、俺達は、空間に出来た青白い光の中に飛び込んで言った。
俺達は光のトンネルを抜けて、魔界に着いた。眩しい光に目が眩んで、視界がきかない。
「魔界に着いたぞ、目を開けてみろ。」
俺は恐る恐る、目を開けてみた。そして眼前には、信じられない光景が広がっている。透き通るほどに青い空、美しい山脈、白銀に輝く海と河、そして眼下に広がる青々とした草原。これが、魔界・・・?魔界って言うより、楽園って言葉の方がぴったりだ。俺は、言葉が出なかった。
美しい光景に、心を奪われてしまった様だ。呆然としていると、レイアが話しかけてきた。
「どうした?ぼんやりして。想像と違ったか?」
「あ、ああ・・・」
「だろうな。魔界って言うから、暗くて光が無い世界だと思ってたんだろ?それは人間が勝手に作り上げたイメージ、魔界は昔っからこんな感じだよ。」
俺は、レイアが話している事が耳に入ってこなかった。ずっとこの景色を見ていたい、そんな衝動に駆られていた。だがそれは、一発のゲンコツで現実に戻された。レイアが、俺の頭を殴ったからだ。
「おい、いつまで見とれてるんだよ。これから本題を話すからしっかりしろよな、まったく。」
「あ、すまない・・・」
彼女は頬を膨らませ、上目遣いで睨んでいる。あ、ちょっと可愛い。
「いいか、よく聞けよ。わたしが魔王の後継者に成るには、5人の方からお許しを貰わなくちゃいけないんだ。」
「5人?」
「ああ、まず、宰相の『ルキフェル』様、大侯爵『ベルゼバブ』様、同じく大侯爵『バアル』様、大伯爵の『アスタロト』様、んで、最後に伯爵の『サルガタナス』様だ。この方達全員から、魔王に相応しいと認められれば、皇帝サタン様に謁見できるんだ。そこでサタン様からお許しが出れば、晴れて魔王と名乗れる事が出来るって訳。」
おいおい。ベルゼバブにアスタロトだって?悪魔に詳しく無い俺だって、聞いたことのある有名な悪魔じゃないか。この2人はマンガや小説によく登場するからな。
「なんだよ、たった5人じゃないか。楽勝じゃん。」
「バーカ、後継者争いって言ったろ?後継者がわたしだけなら、おまえの様な人間に協力を求めるかよ。」
「つーことは、レイアの他にも後継者候補がいるのか?」
レイアは、真剣な顔をして頷いた。
「ああ、わたしの他に2人いる。姉と弟がな。」
なんてこったい・・・とんだお家騒動に巻き込まれたもんだ。俺って運悪いのな・・・そこで1つ疑問が出てきた。
「そんな大事な後継者争いに、俺みたいな普通の人間の協力が必要なのか?」
するとレイアは、少し迷った顔をして話し出した。
「そ、それは・・・おまえが、『あの方』のまつ・・・」
そう言い掛けて、レイアは突然拳を突き出した。何かを掴んだ拳を握ると、プチリと音がした。なんだ?広げた掌にいたのは、金色の蠅。彼女はそれを、フっと吹き飛ばすと真剣な顔をし、空を睨みつけた。
「ちっ!もう嗅ぎ付けやがったか。」
すると突然、無数の金色の蠅が俺達の周りに集まってきた。そして蠅達は一箇所に集まり、人の形を成していく。
「な、なんだ?」
「・・・」
蠅の集合体から現れたのは、1人の女性だった。彼女は真っ黒なゴスロリ衣装に身を包み、レイアを見つめ不敵に笑っている。
「ふふふふ、久しぶりね、レイアレンド。」
「何の用だよ、フラウロス・・・」
「相変わらず、口の利き方がなってないわね。お姉様って呼べないのかしら?」
この人がレイアの姉か・・・綺麗な人だな、レイアは可愛いって感じだけど。ていうか仲悪いのか?
「これは失礼致しましたわ、フラウロスお姉様。たしかお姉様は、ベルゼバブ様のお屋敷で行儀見習いしていたんじゃありませんでしたっけ?」
「そうですわ。ですが、わたくしも協力者を見つけましてね。後継者争いに専念する為に、ベルゼバブ様からお暇を頂きましたの。」
「左様でございましたの。わたし、てっきりお姉様が不出来なので、追い出されたかと思ってしまいましたわ。おほほほほ。」
「あら、失礼ね。ほほほほほ。」
2人は笑い合っているが、お互い目が笑っていない。それに、彼女達の間の空気が歪んでいる感じがする。ほほほほ、と、乾いた笑いが止むとレイアの姉が突然レイアめがけて拳を放った。レイアはそれを受け止め、2人は鍔迫り合いの様な形になった。
「調子に乗るんじゃねぇよ!この糞餓鬼が。」
「へっ、やっと元のフラウロスになったじゃねぇか。行儀見習いが聞いて呆れるぜ。」
暫く彼女達のにらみ合いが続いた。するとフラウロスは、ニヤリと笑みを浮かべ後方に下がった。怖いよ、レイアのねーちゃん。
「嫌ですわ、私とした事が。今日は貴女と争うために現れたんじゃございませんの。貴女の協力者を拝見しに来ましたのよ、ついでにわたくしの協力者もご紹介させて頂こうと思いまして。」
お姉さんは、持っていた扇子を少し広げ口元を隠して微笑んでいる。いまさら遅いですよ、おねーさん。
「そちらにいる殿方が、レイアランドの協力者さんね。」
ジロジロと、品定めする様に俺を見ている。綺麗な人だけにちょっと照れてしまうな。それを見たレイアは、俺を睨みつけた。
「なに、照れてるんだよ、バカ野郎!」
そんな事言われたって、こんな綺麗な女性に見つめられたら誰だって照れますよ。
「それにしても、こんなのが『あの方』の末裔なんですのね・・・正直ガッカリですわ。」
「しょうが無いだろ、こんなのでも『あの方』の血を引ているんだ。わたしだってあんたの倍以上ガッカリしてるよ。」
こんなの?がっかり?意味わかんないけど・・・泣いていいですか?
「こっちはどうでもいいだろ、そっちの協力者はどんなヤツなんだよ?」
「わたくしの協力者は、そちらのガッカリさんとは違いましてよ。」
誰がガッカリさんだ、誰が。こっちには美並創太って名前があるんだよ、バーカ!って思ったが怖かったので言わなかった。そのかわり精一杯の愛想笑いを返してやった、ざまあみろ。
「それでは、紹介いたしましょう。さ、出てきなさい。」
フラウロスは後ろを向いて、手招きしている。今まで気付かなかったが、彼女の後方に人影が見える。が、なかなか出てこようとはしない。彼女の背中に隠れて、モジモジしている。
「ちょっと、なにをしているんですの?恥をかかせないでちょうだい!」
「え〜でもぉ・・・恥ずかしいよぉ・・・」
なんだ?女の子か?耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている。大丈夫なのか?そんな事を思っていると、フラウロスのこめかみがヒクヒクしだした。
「出ろって言ってるんだよ!人間の分際で手間取らせるんじゃねぇよ。」
そして、持っていた扇子で女の子の頭をバシバシと叩き始めた。っていうか、その子も人間なのか。
「いたぁい、痛いよぉ〜フラウちゃん・・・叩かないでよぉ〜」
頭を抱えて、女の子はおずおずと前に現れた。女の子もゴスロリ衣装だ、しかもフラウロスと対照的な白。俯いているので顔は確認できない。
そして、女の子はそのまま深々とお辞儀をして自己紹介を始めた。
「は、はじめましてぇ〜、この度フラウちゃんの後継者争いの協力者になった、井崎加奈っていいます。宜しくお願いします〜」
へ?ちょっとまって。今、井崎加奈つった?俺は目が点になっていると、彼女が頭をあげた。そこには、俺の彼女が目の前にいる。
「か、か、加奈ちゃん?」
俺は、思わず大声をだしていた。