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ヘルハウンドLv5

「……とりあえず終わったな」

「……ああ」


 隣で頷く、アサガオがげっそりした顔をしていた。

 たぶんおれも同じ顔をしているのだろう。

 侵入者たちもいなくなり、このままダンジョン内をうろつき回っても仕方ないので、ぶらぶら最下層にあるアサガオの寝室に戻る事にした。

 彼女の言うとおり、黒幕らしきやつが現れて、それらしい思わせぶりな話をべらべらと喋り立てた挙げ句、すこし闘っただけで去っていったわけだが結局のところ、何故アサガオが閉じこめられていて、どうやれば彼女がここから解放されるのかは今のところ不明なままだった。仮にあいつを殺したところで鍵とやらがドロップするのかは分からないし、そもそもあんな化け物みたいなやつらを殺せる自信があるかと言えば、ない。

 というわけで帰り道の徒労感と言ったら言葉にしようもないもので、それを紛らわせる為にアサガオに適当な会話でからむ。


「なあおまえもしダンジョンの外に出れたらどうすんの?」

「……さあ?」

「もうちょっと先のことも考えろよ。計画性ねえな」

「うるさいな。順当に考えてもお尋ね者のままだしそんなものないよ」

「案外後ろ向きだよな」

「……そうだけど?」

「……開き直るなよ」

「はあ」

「ふう」

「……あのさ」

「なに?」

「現実の方のお前って今どうなってるんだろうな」


「……」アサガオは立ち止まり、暫くうつむき加減で考えた後「……墓のなか?」

と至極真面目な顔。


「身も蓋もないな」

「いや私、幽霊だしさ順当にいってそうじゃん?」

「じゃあ順当にいってなかったらどうなってるんだよ」

「野ざらし?」


 それはさすがにないだろ。


「死体遺棄じゃん。駄目じゃん。せめて火葬と埋葬はされるだろ」

「じゃあやっぱり墓じゃん」

「いやそうじゃない。そこから離れろ。もっと後ろ向きじゃない可能性も検討しろよ」

「例えば?」

「もしかしたら意識が醒めてないだけでまだ病院で生きてるかもしれないだろ」

「……そうかもね」

「だからさ」

「……」

「現実のおまえがどうなってるのかさ、その確認しに行ってもいいか?」


 当たり障りない会話をするつもりだったのに、どうやらおれは面倒なことを口にしていたらしい。言ってしまってから内心、すこししまったと悔やんだ。

 こういう話は性分ではなかったはずだし、軽はずみにすべきではないのに何を血迷っているのか。そもそも知りたいだけなら、勝手に調べて、勝手に確信しにいくこともできたのだ。いや本来そうすべきことだろう。

 本人に確認するほうがフェアだと思う意識がどこかにあって、だがそれは結局のところ自己満足にすぎないのだ。

 などといろいろ頭のなかでぐるぐると渦巻いていたが、


「まあいいけどさ」とあっさりした返事。「いいけどふたつ約束してね」

「なんだよ」

「どういう結果であれ、私に結果を教えないでよね」

「何で?」

「仮にさ。まだ生きてたとしてもだよ。いつどうなるのかも分からない伝聞形の可能性にすがりたくないわけ」

「下手な希望は持ちたくないってことか」

「そう。それに逆に死んでたって話も聞きたくないからね。現状のぼんやりした絶望にはっきりした形を持たせるのなんてお断り」

「要は曖昧なままがいいって事だな」

「そういうこと」

「私はこうみえて怖がりなんだわ」

「わかった……じゃあおれも必ず調べに行くとは言わない。調べに行くかもしれないし行かないかもしれない。この話もこれっきりにしておく」

「ありがと。そうしてもらえると助かるよ」


 アサガオは珍しく気弱そうにはにかみを見せた。普段テンションが高くて横暴な分だけ、こういう一面を見せられるとどう対応していいのか分からずひどく気まずい。

 おれはすべき必要のない余計なことをしてないか、彼女を無用に傷つけてしまったのではないか不安に駆られる。だがもし彼女の現状を確認することで、もし彼女の助けになる可能性があるのならそれはすべきなのだと、自らに言い聞かせる。


「……それでもうひとつはなんだよ?」


 おれが促すと、彼女は歯切れ悪く、「うん、えっと、もうひとつは守ってくれても守ってくれなくてもいいや。だから言わなくてもいいかな」と言葉を濁した。


「なんだよ言えよ」

「えっとじゃあ」暫く迷った後、照れくさそうに言った。「へへ、私がもしここから出れたらさ一緒にピクニックに行こう?」

「……」

「……えっと嫌だった?」


 不安そうな顔で訊いてくるアサガオ。


 一方おれは何のリアクションもできずにその場で固まっている。

 返事がない屍のようだ。

 じゃない何だこれ。よく分からないが急にわいてきた初めての感情に居たたまれなくなってくる。

 全身、皮も肉もない骨だけの身体だったおかげで、まったく見た目に変化がなかったが、これがもし生身だったら全身からじわじわ汗が噴き出してみっともない姿を晒しているに違いない。

 どうなっているおれ。


「い、いつもみたいに言えばいいだろ……」

 「いつも?」

「おまえはおれを殺して、ゾンビにして、手駒にするような横暴なやつなんだからさ」

「うん?」

「いつも通り命令しろよな」


 どうも動揺しているらしい。

 声が上擦っていないか、それを気取られてないか、そんなくだらないことを気にしながら、おれはできる限りぶっきらぼうに言った。


「……うんわかったっ」ぱっと表情を明るくさせて、素直に頷くアサガオ。

「よ、よし」

「じゃあベス、絶対に私をここから連れ出せ。できなかったら消し炭にするからな?」

「よ、よし。約束してやる」


 そう言うわけでおれは彼女の生存を確認しに行くことになった。

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