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閑話休題『最強のモンスター』 ※注意 ショートショートです

※注意 この作品の母体になったショートショートです。別作品としてお楽しみください。

 ラストダンジョンに挑んだその日、私は戦士であることを、いや人間であることを卒業した。

 単純に言えば死んでしまったわけである。


「こんな最期になるなら、せめて恋でもしておくんだったな」


 だがおかしい。

 死んだはずなのに喋れることができた。

 目を開けて、起き上がることもできる。

 身体には致命傷であるはずの風穴が空いているにも関わらず、痛みはない。


「さすがはここまで辿り着いた男。すさまじい執念、いや怨念というべきか。おめでとう儀式は成功した」


 見上げるとそこには玉座の男。

 そいつは私を殺した魔王だった。


「貴様は余の秘術にてゾンビとして甦った」

「何故!」

「貴様の猛攻でダンジョンの手下どもが激減したからだ。いわば人員補充だな」

「手下になれというのか!」

「断るなら、もう一度殺してやるが?」

「滅相もない!」


 私はその場に這いつくばると、偉大なる主に忠誠を誓った。



 ゾンビというものは存外悪くないものだ。

 何せ死んでいるのだから色々気が楽で良い。

 食事をとる必要がなければ風呂に入ることもしなくていい。

 何よりいいのはこれ以上死なないということ。

 どれだけ殴られても切られても、すぐに起き上がることができる。

 おまけに痛みも感じない。

 ある意味無敵だった。


「魔王様、勇者とやらを葬ってきました」

「ごくろうさん」


 玉座で退屈そうな本を読んでいた魔王が顔も上げずに言った

 だがふいに眉をしかめてこちらを見る。


「臭うな」

「そうですか?」

「臭う臭う。肉がだいぶ腐っているのだ」

「自分ではわかりませんな」

「おい貴様、これ以上臭くなったら追い出すからな」

「それは酷い。ゾンビにしたのはあなたじゃないか」

「知るか。酷いのは臭いだ」

「……」


 私は溜息をついた。

 ただのゾンビになり下がった今、まっとうな生活など営めるはずがない。

 ダンジョンを追い出されてしまったら最後、野良ゾンビとして彷徨うことになるのは必至。

 それは非常に困ることだ。


「こうなったらゾンビを卒業する他ない」

「どうするつもりだ?」

「こうします」


 私は思い切って自分の肉と皮を剥いでみることにした。

 すでに腐りかけ溶けかけていたので存外あっさりと脱ぐことができた。


「そういうことか」

「こういうことです」

「器用な奴だ」


 こうして私はゾンビ改めスケルトンとなったのだった。



「勇者の子孫にしては骨のない奴らでした」


 ゾンビとなり何十年もの月日が経ち、私はいくつもの戦闘を経験した。

 一介のスケルトンながらも歴戦のモンスター。

 今では最強の番兵という呼ばれ、恐れられていた。


「大儀であったな」

「はっ」


 今日も魔王は玉座で気だるそうに本を手にしていた。


「貴様のおかげダンジョンも静かだ。おかげで読書がすすむ」

「ひとつ質問があるのですが」

「なにかね」

「普通のスケルトンやゾンビは一度倒されるとそのまま動かなくなりますね」

「そうだな」

「どうして私だけは例外なのですか?」


 これまで何度もラストダンジョンの侵入者と対峙し、その多くに勝ち越してきた。

 だが時として負けることもある。

 しかし私の場合、暫くするとまたすぐに動きだせたのである。


「アンデッドは、普通、肉体と共に魂が粉砕されるので動かなくなる」

「つまり?」

「貴様の場合、魂がゴキブリなみに強いのだろう。分かり易く言えば根性がある。だからどれだけ負けても死ぬことがない」

「なるほど。では仮にこの骨格がボロボロの粉々になったらどうなるでしょう」

「普通の魂なら消えるな」

「普通は」

「だがお前ならあるいは……ふむわからん」

「なるほど」


 私は考える。

 変化のない日々が続き、そろそろスケルトンの身体にも飽きてきた頃だった。

 このまま退屈に苛まれるよりは一か八か新しい境地に挑戦したかった。



「よし今日限りスケルトンは卒業だ」


 私はそう宣言すると、知り合いのコボルトたちを呼びつけた。


「本当にいいのか?」

「構わん。一思いにやってくれ」


 促すと彼らは呆れた顔で手にしていた棍棒を振りかざす。

 日頃恨みでも買っていたのか私の骨格はすぐに粉々になった。

 果たして一時間ほどで石灰のようなものになる。

 それは風が吹き、飛ばされていった。

 つまり私を形作っていたものはすべてなくなってしまったのである。

 

 だがしかし。


「はっはっはった」


 予想通り私は消えずに魂だけの存在となった。

 いわゆるレイス(幽霊)となることに成功したのである。



 レイスというもはなかなか悪くないもので、いくつか面白いことができるようになった。

 ひとつが空中浮遊。

 ふわふわふわと気ままに浮くことができた。

 もうひとつは物体透過。

 壁をすり抜けることができるし剣で切られても損傷はまるっきりゼロだった。


「つくづく器用なやつだな」


 魔王はこの姿を見て呆れた声をあげた。


「何事もやってみるもんですね」

「次から次と、お前はいささか飽きっぽいようだ」

「そうかも知れません」

「もしレイスに飽きたらどうする?」

「実はすでに飽き始めておりまして。何故かといえばレイスは誰にも干渉されない代わりに誰にも触れないのです。これではまともに闘うことができません」

「難儀だな」

「実に退屈です」

「まあ、わしにはどうしようもできんぞ」

「いえ大丈夫です。問題はすでに解決しております」

「ほう」

「レイスを卒業して次になるものを決めておりまして」

「興味深いな。そいつは何だ? 言ってみろ?」

「魔王にございます」

 

 私は恭しく一礼をすると、大口を開けて魔王を飲み込む。

 憑依。それがレイスになってできたことのひとつだった。



 かくして私は魔王になった。

 だがそれは案外面白いものでもないようだ。

 ダンジョンが平和である限り玉座で始終本を読んでいるだけ。ある意味それは囚人みたいな生活だ。

 これまでの歴代モンスターのなかでランキングをつけるなら間違いなく最下位だ。


「魔王もそろそろ卒業しようかなあ」


 この肉体を捨てまたレイスに戻れば、また新しく誰かに憑依は可能だろう。

 魔王になれたのだからきっと何にでもなれるはずだ。

 だが私は玉座で肘をつき頭を悩ませる。


「はてさて次は何はなるべきか?」


 問題はそこだった。


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