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死霊魔導師(禁じられた遊び アサガオ) Lv54

 DDDというゲームは死亡イコールキャラクターが消滅ロストするという非常にシビアなゲーム設定になっている。

 であるならば現実世界ではすでに死んでいる私が、ゲーム世界で死亡することは、すなわち完全にこの世から消えてしまう事に他ならない。

 

 その事実に気がついた私は、絶望していた。


 ダンジョンの侵入者たちはまだそれほどの数ではなく、比較的浅い階層にあるトラップやモンスターを操作するだけで撃退すること自体は容易い。


 ただそれでも長い目で見れば、攻略されてしまう事は目に見えている。ダンジョンの外に出られない以上、破損したトラップの修繕や、モンスターの育成、治療にかかる物資の調達もままならずただただ消耗する一方だからである。


 だからあの頃の私は、生きることを諦めていた。

 ダンジョンに籠城し、侵入者たちの足元に怯え、ろくに安眠もできず、ただただ逃げ回るだけの生活に何の意味があるだろうか。いやそれは生活ですらなくただの地獄だ。


 だからある一人の侵入者がダンジョンの最下層まできてしまった時、私は「もう終わりにしよう」と思っていた。すべてを諦め死を受け入れようと。


 ただ誰かと会うのは本当に久し振りのことだった。

 だから例えそれが侵入者であっても少しだけ会話がしたいと思っていた。

 挨拶し、お互いに名乗りあって、それから一分でも、三十秒であってでもいいから何か言葉を交わしたかった。なんでこのダンジョンにやってきたのか、とか今現実では何がはやっているのかそういう事が訊きたかった。


 その侵入者に初めてあった時のことについては今でも鮮明に覚えている。


 彼の第一声は「畜生。つーかこんな最期になるなら、せめて恋でもしておくんだったな」だった。

 そして直後に死んだ。すでに彼はダンジョン内のあらゆるトラップに引っかかっており、胸に風穴を開けほうほうの体で私の前に辿りついたのだ。


 私は呆気にとられた。

 決死の思いで会話を試みようとした、私からしてみればそれはまるっきりギャグ漫画の光景だったのだ。


 それから暫くして自分が笑っていることに気がついた。

 涙を流しながら、お腹を抱えて、大声を上げていた。

 たぶんよっぽど可笑しかったのだと思う。 

 DDDからログアウトできなくなって以来、笑った事なんてずっとなかった。


 ひとしきり笑ってから落ち着いた私は、彼をゾンビにする準備を始めていた。向こうからしてみれば迷惑以外の何物でもないだろうが、それでも彼が傍に居ればきっと、私はもうすこし生きれるんじゃないかという気がしたのだ。

 私はもうすこし頑張りたかったのだ。


 実際、彼――ベスは本当に、私に生きる力をくれた。

 そのことについては本当に感謝してもしきれない。

 例えこのダンジョンからこのまま一生出ることができなくても。

 志半ばで殺されてあの世にいってしまうような事になったとしても。

 私はあの日、笑った時の事を絶対に忘れたりはしないだろう。


「だから私は決めたんだ。前線に出てこのダンジョンを出るために死力を尽くすことにした。後悔しない生き方を、闘いかたをすることにした」


 地下八階層――呪いによって発動した枷の数は計三つ。全力疾走したところで、その速度はたかがしれてる。

 体調だって万全でもない。


 それでも私は歩みを止めなかった。

 闘いの様子を覗き見していてずっと胸騒ぎがしていた。

 勿論、修道女と犬は規格外の強さだった。

 ベスの能力、あの死んで更に強いアンデッドになる力だって、どこまで通用するかわかったものでもない。

 だがそれ以上に何かこのままではまずい気がしたのだ。自分も戦いに参加しなければという気持ちに駆り立てられた。


「おい」


 ふいにベスの声がした。

 立ち止まり辺りを見回すと通路の暗がりのなかに赤い目をした黒い犬――ヘルハウンドが佇んでいる。

 戦闘を中継していて何となく状況は察していたが彼はまたしても別のアンデッドヘと変化したようだ。次から次へと飽きっぽいことこの上ないやつである。


「……まあ骨だらけのハウンドドッグスケルトンよりはキュートだからいいとしておくか」

「馬鹿。なんだって出てきたりしたんだよ」

「だって私も闘うことにしたから」

「急に何でだよ。病人はひっこんでろよ」

「うるさい。闘うったら闘うぞな」

「ぞなってその口癖久しぶりだな」


 私は呆れかえるベスを無視して、通路の先にいる修道女と大きな犬を睨みつけてやる。

 成程、あれが教会の人間か。


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