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ハウウンドドッグゾンビ Lv2

 DDDにおいて犬は弱い。

 それはここ数日、目玉のとれかけた(ハウンドドッグゾンビ)になってみて分かったことだ。


 前足で床を蹴りつける。

 ギアはニュートラルからトップスピード。


 たしかに機動力はあるかもしれない。

 ヒトはとても遅い。何故ならヒトが走るときに使えるのは脚力ーー下半身のみで、上半身というお荷物が邪魔になるからだ。

 その点、犬は、四肢ーー全身でもってまるで躍動できる。放たれた弾丸のように走ることができた。


「このまま喉笛にかぶりつく」

「……」


 唸りつつ目標へ接近。

 前方に微かな煌めき。

 視認するよりも先に勘が働き、僅かにズラすルート。


 ――がっ。

 ――がっ。

 ――がっ。


 続けざまにつぶてががぶつかるような音。半歩後方、こちらの足取りを追うように床に突き刺さる三本の矢。


 相手の先制攻撃は牽制ではなく速攻。その意味は考えるまでもなくーー様子見の必要すらなく殺せるとなめれられているという事。


「あぶねえ」

「ほう……避けるか犬っころ」


 目標を再度捕捉。

 白髭で左に眼帯をした老兵。手には複合弓――ロングボウ。鎖帷子で身を固めている以外はいたって軽装。おそらく職業は弓兵。


 僅かに変わる老兵の構えーーきっちりと揃えられた両足、こちらに向けた半身、まっすぐに伸ばされた背筋、獲物を狙う猛禽類のような目。


 もはやこちらを侮るような気配は消えている。


「認識変更……久々に面白れえ獲物に出会えたぜ」


 現実と扱いに遜色がないせいで素人に嫌われている弓。故に使用者の多数は弓道、アーチェリーの経験者。おそらく彼はそのなかでも手練の部類に入る。


「ちい」

「影踏み」


 ――がっ。

 ――がっ。

 ――がっ。


 微かな呟きとともに放たれる煌めきーー鏃。

 先ほどと同じ要領で、かすかにルートを左にそれて回避。またしても続けざまーーこちらの半歩後方にかすりもせず影のみ(・・・)に突き刺さる矢。


 ――が後ろ足を引っ張られ、前のめりにはって鼻先が床にぶつかる。


「なんだ?」


 身動きができない。


 DDDにおいて犬は弱い。

 野生の彼らはダンジョンやフィールド上においてモンスター扱いされているものの所詮は、動物。ろくな攻撃手段やスキルを持っていないせいだ。


 ゾンビになっているとは言え、武器は爪と牙。毒などの追加属性を備えている場合もあるが、大した威力を期待できるわけではない。何より、攻撃を届かせる為のレンジは|非常に短い(格闘戦距離のみ)。


 故に機動力を封じられた時点で積みとなる。


「やばっ!」


 まるで地面に縫いつけられたように動かせない後ろ足。おそらくは今し方の攻撃によるもの。何かしらのスキルであることは明白。

 見れば、後ろ足の影にがっちりと突き刺さった矢。原因はこれか。

 おそらくは影縫いの類。影を地面に繋ぎとめておくことで本体を動けなくする技能。


「五月雨。かがり火。千早振る」


 老兵がしゃがれた声で、三度呟いた。

 彼はその後、一度だけ矢を放つと、それですでに仕事を終えたとでも言うように、構えを解いてしまう。


「……なんだ?」


 矢は放たれている。

 だがこちらに向かっては飛んでこない。何故ならば上方に向かって射ったからである。


 あとはこちらに向かって留めの一撃を放つだけでよかったはず。

 だが今、彼は何をした。

 おそらくそれはスキルによる何か――だが何だろうか。

 嫌な予感を覚えて見上げようとして目を細める――急に目を向けた先が明るくなったせいだ。


 たしかに矢はそこにあった。

 但し天井に刺さらずに浮いている。

 但し鏃がこちらに向いている。

 但し本数が数え切れないほどに増えているーーそれこそ天井が針の山に見えるほどに。

 

 そしてそのすべてが炎に包まれていた。


「……もしかしてこれ全部落ちてくるとか言わねえよな?」

「くっくっく……弓術マスタークラスの俺様だからこそ行使できるスペシャルコンボだ。さあ避けれるもんなら避けてみせな」


 口元の皺を深め、にやりと笑い、指を鳴らす老兵。


 ――――ざあっ。

 そして突然、土砂降りがはじまった。


 瞬間、自由になる後ろ足。

 天井の炎に照らし出され、影が消え、解放されたのだろう。


 だが――

 それは救いにはならない。

 何故なら逃げようと考える間すら与えられず、ほぼ同時に、全身に大量の矢が突き刺っていたからである。

 

 超速(・・)で降り注ぐ火の矢の群(・・・・・)


 それらが容赦なく前足を刺し、後ろ足をいぶり、目を貫き、耳を爆ぜさせ、喉を切り裂き、腹を焼け焦がせ、腸を押し潰して、燃やし尽くしていく。


「かーつ失敗したあ……全力でやり過ぎちまったよ、おい」


 老兵が、髪をかきむしり悔しそうに声を上げる。


 DDDにおいて犬は弱い。

 そこそこのスキルを持った相手と遭遇すれば、対抗手段がない。だからこんな風にろくに抵抗することもできずに圧殺されてしまう。


 例え今の老兵のスキルによる攻撃が、それぞれ『矢を大量に降らす』『矢に炎の属性攻撃を追加する』『矢の攻撃速度を上昇させる』であることが事前に分かったとしてもそれは同じ事だ。


 故におれ――ハウンドドッグゾンビは死んだ。


「しょうきんかせぎが、あらわれた!」


■■■■■■■■■■■■■■


《名前》「キュウベエ(単眼入道(キュプロス)の親方)」

《職業》「猟兵」  

《Lv》「34」 

《HP》「44/44」  

《スキル》

「弓術/★」:狩人、弓兵、猟兵など弓を専門とした職であれば習得できるスキル。行使できる弓術の種類については別途マニュアルを参照。


「千早降る/弓術/★」:短歌の枕ことばで「勢いの激しい」意。その言葉通り、射撃速度(+5)と威力(+5)を上げるスキル。


「狙撃/弓術/★」:撃つ攻撃に置いて、遠距離からでもダメージを与える/部位を次より指定することができる。頭、首、胴、腕、脚。


《所持品》

「心の眼帯」:隻眼になるのと引き換えに命中率、十二面ダイス+2。また任意で視界の倍率を上げ下げできる狙撃にはうってつけの代物。可変倍率3-9。

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