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ゴースト Lv2

「遅い。遅すぎるぞな」


 早速、礼拝堂まで戻ってくる。

 すると意外なこと仁王立ちでこちらの帰りを待っているアサガオがいた。珍しいことだ。普段であればこちらが声をかけても、興味なさげな返事で本に没頭している癖に。


「出ていってから小一時間はかかってるぞな」


 どうやら彼女は戻ってくるのが遅かったことに腹を立てているらしい。


「いや、だって侵入者と闘ってましたから」

「五秒で抹殺しろ」

「ダンジョンの移動だって往復二十階近くありますし」

「五秒で上り下りしろ」

「できるかっ」


 無茶苦茶なオーダーに苦笑するおれ。

 アサガオは、おれがゴーストになったことについては驚いている様子はない。まあいつものデッドアイとかいうスキルで、大方の事情は把握しているのだろうな。


「だいたいあのような雑魚騎士にあっさりさっくり死んだりしおって」

「まあ結構強かったですから」

「主を安心させるのが下僕の務めなのに、逆に心配させてどうするぞな」

「ああ心配してたのか?」

「ち、違う。私が案じたのはダンジョンの存亡だ。貴様ではないぞな」


 何故かあせり、力いっぱい否定するアサガオ。


「……まあ何にせよ。スケルトンの身体にも飽きてたんでちょうどいいかと思ってるけどな」

「その異常事態を飽きたで片付けるのは貴様くらいだ」

「そうかな」

「もしゴーストにも飽きたらどうするんだぞな」

「ああ。次になるものは決まってる」


 おれは大きなため息をつくようにゆっくりと息を吐き出していき、スキルを発動させる。

 肺の空気を極限まで吐き出していくと、白かったはずのゴーストの身体は、次第に無色透明化していく。


「むむっ?」


 こいつはイナイイナイバアというゴースト特有のスキルのひとつ。ふざけた名前とは裏腹に、使用中は完全に透明人間になれるという優れものだ。これについては発動をオンオフするちょっとしたコツがあり、それを見つけるのには多少手間取ったが馴れれば難しくはなかった。


 突然のことで驚いているアサガオ。

 きょろきょろと周囲を見回して、おれを見つけようとしている。

 


 ノーライフキング。

 違反(チート)行為だけではなく、死んだとされる少女のフェイスデータでプレイしているろくでもないプレイヤー。

 噂が真実かどうかはわからない。


だがどちらにしろおそらく彼女は悪いやつではないと、おれは思う。


「デッドアイ」


 アサガオの瞳にぼうっと赤い灯火がともる。

 まあ当然そうくるよな。


 彼女が発動させたスキル、デッドアイは従属化させたアンデッドの――おれの視界を一方的にジャックできるものだ。

 確かにこの能力を使えば、透明になったゴーストは見えなくても、そのゴーストが見ている景色を視ることができる。視界が盗み見みできれば当人の位置を割り出すことなど造作もないこと。

 だがそれは予測済みです。


「――なっ」


 おれはデッドアイ封じを実行する。

 とは言っても大げさな事ではない、ただ瞼を閉じて目に映る一切の景色を消し去っただけのこと。

 おれが何も見なければ、彼女も何も視ることができなくなる。だからおれがどこに居るのか見当すらつけられない。


「な何故、消えたぞな!?」

「次になるものはですね」


 目をつむりふわふわ動き回りしながら、喋る。勿論声から位置を割り出させない為。

 おれは礼拝堂の空間がどの程度の広さで、どこに何があるかは把握している。だから常に動き回っても自分がどのあたりに居るのか自覚することは難しくない。


 彼女は悪いやつではないかもしれない。

 でもおれはおれの為に、彼女との縁を切ることに全力を注ぐつもりだ。


「貴方ですよ、魔王様」

「なっ!?」


 イナイイナイバアを解除。同時に瞼を開ける。どんぴしゃ。目の前には彼女の背後。

 おれはこれでもかというくらいに大口を開けている。ゴーストの身体は粘土のように柔軟で、どこまでも広げることができた。彼女を飲み込むくらいのことは朝飯前だ。


「いただきます」

「――!」


 ぱくり。ごくん。


 アサガオが抵抗するよりも先に、おれは彼女を白く透き通った身体のなかに取り込む。

 これはちょっとした冒険だ。


 スキル――憑依。

 能力の詳細、条件や、制限については一切分からない。ただ説明書きには『他のプレイヤーやモンスターの身体を乗っ取る』とだけある。

 言葉どおりに行くのであれば、これでおれは魔王になれるらしい。



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