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スケルトン Lv7

 ゲームオーバーになって、ニューゲームから始め直す。

 つまりこれこそが、アサガオとの関係を断つ計画だった。


 DDDには残念ながらスタートメニューなどから、キャラクターデータの削除や、複数のエントリーを管理する機能が存在しない。

 ただニューゲームを始めること自体はそれほど難しいことではない。


 DDDが『玄人向』扱いされている最大の由縁でもあるのだが、キャラクターの育成に重点が置かれるオンラインRPGでありながら、このゲームには死体が原型を留めていない『灰』や『塵』などの状態からの復活手段が存在しない。つまり死=ゲームオーバー=キャラデータの喪失となってしまうのである。


 だから、逆にこの設定を利用して、自殺――意図的に『灰』や『塵』になることはニューゲームを始めたプレイヤーの常とう手段だった。


 もっと早くこうしたほうがよかったのかもしれない。

 これで晴れて、新しいキャラクターを作って一から始めれば、運営と対立しているアサガオというプレイヤーとも、賞金首だったベスとも、この辛気臭いダンジョンとも無縁の生活を送れるだろう。


 だがこれにはひとつだけ問題点があった。


 スケルトンは首を吊ったり、手首を切ったりするだけで、死ぬような体ではない。ダンジョンの落とし穴(ピット)を利用して飛び降り自殺をしてもすぐに身体は復元することだろう。もしかしたら髑髏だけになっても生き続ける可能性だって大いにあり得た。

 『灰』や『塵』になるには独力では非常に難しい。


 だから第三者の『協力者』が必要不可欠だった。欲を言えばレベルの高い戦闘向けの職についたプレイヤーが望ましかった。無論それはアサガオには頼めることではなく、そうなると必然的に侵入者たちに依頼するしかなかったのである。



 地下三階――寺院墓地から更に下のダンジョンへと続くためのバイバスの役目を担っている自然洞窟。


 ここには駆逐されずに生き残る残モンスターどもがいる。

 腐敗臭を撒き散らしながらうごめく粘性の絨毯のようなもの、いわゆるモールドスライムである。

 彼らは厄介な存在だ。いくら斧を振るっても物理ダメージを受け付けない。それどころか突き刺した刃を溶解してくることもある。おまけに彼ら赤、青、黄と身体の色ごとに猛毒やら病気やら麻痺よけいなオプションを持っている。


 だが岩床のあちこちにモールドスライムたちの死骸。強敵であるはずの彼らが、まるで焼け焦げたように黒く汚れ、微かに煙のようなものをくゆらせ塵のようになって転がっている。


「魔法使いか? 炎系の魔法でやられた?」


 頃よく侵入者が現れたということで、俺は指示されるまでもなく現場へと赴いていた。


 



 通路を抜けて広間のような場所を出ると、鈍色の全身鎧に身を包んだ痩身の少年がいる。一振りのショートソードを、鞘に収めているところだった。

 彼の周辺には、黒く染まったモールドスライムの死骸が十数匹。それが彼の手によるものだということは説明されなくてもわかった。

 彼のつり上がった鮫のような目が動く。こちらに気がついたらしく、嬉しそうに、にたああと開けた口からは牙のような犬歯がのぞく。

 綺麗な顔立ちをしているがそれ以上に「凶暴」そうな印象が強かった。


「おおいたいた。手配書の骸骨野郎だ。あんたがノーライフキングの一味かい」


 彼は魔法使いでもなければ戦士でもないだろう。全身鎧を纏える職業というのは数が少なく一部の戦士系統に限られる。そして肩部分にある紋章。黒い太陽と、剣を象ったそれからどこかの騎士団に所属している――騎士であることが伺えた。


「ノーライフキングってなんだよ」

「おいおい。まじ喋れるのかよ」

「まあ喋れるよ」

「報告書通りプレイヤーなのかよ。ティガーさん一年半近くDDDやってるけどモンスターに化けてるチートくんなんて初めてみたね」


「おれはチートなんてしてないけどな」

「そうかい。じゃあ、ひとつ訊かせてくれ。その姿どうやってなったんだい?」

「……」

「答えられえねだろ。そいつが何よりの証拠さ」


 ティガーさんとやらは、勝手に決めつけて勝手に納得すると、再びショートソードを抜き放った。異様な刀身――刃であるにも関わらず光を弾かない黒よりも尚黒い色。高レベルの鍛冶屋か、魔術付与師の手によって作成された武器だと思って間違いない。


「染まりな三度黒(タランチュラ)


 巨斧を構えて正面から迎え打ったつもりだったが、思った以上に素早い動きで巧みに懐へ入り込まれる。相手の剣撃がスマッシュヒット。後方に吹き飛び、激しい音を立てて崩れる全身の骨。


「こいつにヒットすると一度目で毒、二度目で麻痺、三度目で即死する」


 おいおいせっかちすぎるだろ、せっかく見つけた『協力者』はどうやら話の通じる相手ではないらしかった。

「てぃがーさんが、あらわれた!」


■■■■■■■■■■■■■■


《名前》「ティガ―(黒点の騎士団)」 


《職業》「騎士」


《Lv》「21」 


《HP》「37/37」 


《スキル》

「宣誓」:これを相手に行使すると、任意のスキル、ステータスにレベル分のボーナスを振り込める。但し、宣誓後、半日以内に勝利を納めなければ最大経験値の二割を喪失する。


「知識/毒」:この知識を持っていた場合、毒に関係する判定に+20%のボーナス。


≪所持品≫

黒三度(タランチュラ)」:DDD初期に存在したショートソード。付与がされている追加攻撃の特性があまりにも強力である為、現在では運営により使用が規制されている。攻撃がヒットした場合、相手は一度目で毒、二度目で麻痺、三度目で即死の判定を行う。


黒漆喰(キングコブラ)」:DDD初期に存在したショートソード。付与がされている毒があまりにも強力であった為、現在では運営により使用が規制されている。攻撃がヒットした場合、相手は無条件で腐食性毒を受ける。


「人形」:ティガーさん自作の団長の人形。ストラップにして鞘に括っている。頬ずりしているところを見られて以来、団長から気味悪がられている。

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