スケルトン Lv6
「ふふふふ。ダンジョンを散歩しておったらこれが落ちててな。おそらくどこかの侵入者が落としていったものだろうが見つけた時には驚いたぞな」
「……」
「これで晴れて貴様も日陰者、公に私の下僕として認定されたわけぞな。私としてはまだ実力不足が否めないとは思うのだがまあ厳しいことは言わんでおこうぞな」
にこにこしていたかと思えば、神妙な顔でひとり頷いているアサガオ。
こちらの事情を理解するわけでもなく、彼女は俺がおたずねもの扱いになったことや、手配書の詳細欄に『アサガオの手下』などと明記されていることが嬉しいらしい。
「――であるからして今後は私の下僕としての自覚をはっきりともってだな――っておい聞いているぞな?」
「勿論ですとも」
説教じみたことまで始め出す始末なので、こちらとしてはうっとおしい限りなのだが、残念なことにスケルトンは皮膚がないのでそれを表情に出すことができない。まあそうしたところで、 それを察せるほどの細やかさをこいつに期待することはできないのだけども。
とりあえず無視だな。無視。
「……しかし困ったな」
葬儀屋から教えてもらったばかりの噂が思い出される。
殺されても死なないダンジョンの主――データ改竄の可能性あり。
死んだらしいと噂されている少女のフェイステクスチャを使用している。
彼女はいくつかの疑惑により『運営』に目を付けられているらしい。
「ベス、ベース。こちらアサガオ、応答するぞな?」
「……」
『運営』とはDDDのサービスを提供する機構のことだ。
彼らはプレイヤーの行動管理、リアルマネートレードやデータ改造などの不正行為の監視及び取締を行う存在でもある。
ルール違反者へは、キャラクターの永久凍結やアカウントの停止など厳重な処分が下す。
勿論、 それはゲーム内での秩序を守る為だが、だがそうなったプレイヤーは二度とDDDが出来なくなる。
こうなった以上、彼女の共犯者とみなされてしまうのは間違いないだろう
救いはゲーム上の仲間として認識されているだけで、『運営』から直接違反行為によって咎められているというわけではない事。
だが彼女が『運営』に目をつけられている以上、今後行動を共にすることで自分にも余計な火の粉が降りかかる可能性は大いにありえる。
「むうう、主人が呼んでいるというのに小癪なやつめ。こうしてくれるぞな」
「……」
勿論、このまま悠長にしている暇はない。
即刻に彼女との関係を絶つ為の行動にでるべきだろう。
その手段として挙げられる方法はまず、アサガオの暗殺である。
彼女を殺し、その首を賞金首ギルドに持って行けば、彼女との関係を疑われることもなく、今後も関わり続けずに済む。これが最もベストな方法ではある。
「むっ。なんだ急にこっちを見おって。睨んでも怖くはないぞなよーだ?」
「……」
だがこの案は却下だ。
何故なら俺は彼女に逆らえる程は強くない。前回奇襲をかけてすら一太刀も振るえなかった彼女をどうやって攻略するというのだろうか。デッドアイ、絶対服従という対アンデッドスキルを何とかしなければこの手は難しい。
そもそも彼女が運営から問題視されている原因にチート行為にあるという前提がある。殺しても死なないらしいという彼女をどうやって始末するというのか。
「これで、よし、と。ふふふふふ私を無視するとこういう目に遭うぞな」
「アサガオ」
アサガオが口の端をにやりとさせながら目をそらせる。その手に握られている鳥の尾羽がついた万年筆をそっと後ろに隠すのを俺は見逃さない。
「おまえ、今おれの額に『骨』って書いたろ」
「……知らんなぞな」
俺は溜め息をつく。
非常に気が進まないが、この状況を回避する為に『もうひとつの計画』を行うしかないようだった。




