スケルトン Lv5
「すけるとんはあたらしいわざをおぼえた」
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《名前》「ベス(魔王の僕見習い)」
《種族》「スケルトン」
《Lv》「5」
《HP》「7/7」
《スキル》
リ・ボーン/スケルトン固有の特異体質。強い衝撃に対して骨がバラバラになるがすぐに復元することができる。物理ダメージを無効化する代わりに、1ターンをスタン扱い。
ボーンスナッチ★/スケルトンの攻撃スキル。落ちている骨を身体に組み込む。取り込んだ骨による影響と、ダブルヘッダー等の派生スキルの詳細については別途マニュアルを確認の事。また骨を千本収集した時点で、千匹骸骨への昇格判定を行う事。
探す必要もなく彼女はすぐに見つかった。
目の前の黒い棺のような長椅子。そこで膝元で広げた分厚い本をぼんやりと眺めている。不健康そうな顔つきはいつもだったがどことなく憂鬱そうだ。
「起きたかぞなベス」
彼女は例によってデッドアイとかいうスキルでこちらがログインしたことに気がついたらしく、急ににんまりすると、本をぱたんと閉じてこちらに顔を向ける。
「思ったよりも早い目覚めだったぞな」
「まあね」
実際には一睡もしてはいないのだがそうは説明しない。
DDDon-lineにおいてログアウト時は『眠っている』ことにするというのがプレイヤー同士の暗黙の了解となっている。できる限りプライベートについて詮索しないようにするのはこちらの 世界を楽しむためのマナーである。
「アサガオ、あんたはまだ眠らないのかい?」
今は、平日の午前。土日を休みにしている多くの一般人にとっては学校で勉強をしたり、会社やバイト先で仕事に勤している時間帯だ。このさり気ない質問には暗に|プライベート(現実)での用事はないのかという詮索を含んでいた。
「うむ。それは私にはもう必要ないものぞな」
あっさりと答えるアサガオ。
なるほど。「必要がない」の意味については推し量ることはできないが、少なくとも彼女がログアウト――まともな現実の社会活動を行っていないことだけはわかった。
まあ珍しいことではない。
所謂廃人プレイヤー――こちら側の世界に営みの主軸を置いた人々はごろごろと存在する。なかには必要最低限の生活行為すらログインしたまま行えるような設備を整えて、何日もこちらに滞在し続ける『解脱』プレイヤーすら存在する噂は耳にしたことがある。
「そうか。そうか」
「む、何を一人で納得しているぞな?」
「だが安心しろ。おれは社会活動を犠牲にして、趣味に没頭することにネガティブな意見を持たないタイプの人種だ。むしろ俺がそうなりたい」
「正直言っている意味がわからんぞな」
だがアサガオは眉をひそめて意味のわからないふりをし続けた。「必要ない」とまで言い切ってしまった以上、カミングアウトしたようなものだろうに。
「それにしても、なんであんたがここにいるんだ?」
「ぞな?」
俺がいるのは地下十二階の礼拝堂だ。
五時間ほど前にアサガオを奇襲し、返り討ちになったすぐ後でゲームを中断させている。原則、ログインした際に出現できるのは前回ログアウトした場所に限られる。
彼女が特に何もせず、今すぐ傍にいるということは俺がここに戻ってくるのを待っていたということに他ならない。
「あれか俺が起きるのを今か今かと待っていたわけか?」
「ち、違うぞな」
「あれかログアウトするつもりはないが、こっちでも話し相手がいないとかそんな感じか?」
「だ、だ、だ、だ、断じてそんなことはない」
目を白黒させながら、慌てふためくアサガオ。
どうやら図星らしい。
「くっくっしょうがねえ。いいぜ聞いてやるよ。で、今日は何の話がしたいんだ?」
「絶対服従!」
アサガオがおもむろに突き出した掌。それがアンデッドをことごとく制圧する類の重圧を伴って、俺の脇腹を抉る。
防御も堪えることもできないまままるで台風に浚われる木のごとく、全身で吹き飛ばされてそのまま壁に激突バラバラコース。
「ふむ前回ぼこぼこにされたのが堪えていないと見えるな」
「も、もしかして何か御用だったでしょうか」
「うむ。面白いものを拾ったので見せようと思ったぞな」
「はあ」
バラバラの状態から復元すると、揉みてしながらできるだけ低姿勢で近づく。
「決して、暇だったとか話し相手を欲していたとかお前に好意があるとかでは断じてないからな?」
「うん、わかった」
これ以上しつこくこの話題を続けても面倒臭いのであっさり流すことにする。アサガオ、ちょっと涙目だし。
彼女は持っている本のページに、栞代わりに挟んでいたものを抜き取り、差し出してくる。
折りたたまれた紙。受け取り開くと、それは非常に見覚えのあるものだった。
なんとなく嫌な予感がした。
『生死問わず』という物騒な文句が飛び込んでくる。
見覚えのある名前、あまり美味しいとは思えない懸賞金額、描かれている大きな斧を構えた骸骨の怪物。
欄を読むと、賞金首であるアサガオの手下で非常に危険なアンデッドモンスターで、多くの賞金稼ぎが犠牲者になどと書かれている。
やはりか。
――それは俺自身の手配書だった。




