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ゾンビ Lv1

「せんしはしんでしまった!」


■■■■■■■■■■■■■■





《名前》「(血啜り斧ブラッディアックス)」 

《職業》「戦士」

《Lv》「15」 

《HP》「0/30」【死亡】

《スキル》

突撃チャージ+5」:危険を顧みず相手の懐に飛び込み加える無謀な一撃。これを行使する際、ダイスの格をひとつだけ上げることができるが、相手から受けるダメージも同じようにひとつ上げなくてはいけない。






 ラストダンジョンに挑んだその日、俺は戦士であることを、いや人間であることを卒業した。

 単純に言えば死んでしまったわけである。


「畜生。つーかこんな最期になるなら、せめて恋でもしておくんだったな」


 思えば下手に斧の才能があるせいで幼い頃から村の連中に煽てられて修行の毎日だったよな。

 モンスターの血にまみれた青春時代の果てに手に入れたのはろくでもねえ徒名。


血啜ブラッディアックスここに眠る。――だせえ。超頂けねえバッドエンドですよこれ」


 だがちょっと待てよ俺。

 おかしくないか俺。

 死んだはずなのに喋れることができたるぞ。

 目を開けて、起き上がることもできた。

 身体を探ると、右胸のあたりに大きな風穴が空いている。そこは心臓があるあたりだった。

 顎をぐいっと思いっきり引っ込めて覗き込んみる。すると向こう側が見えた。


 なんだよこれ。

 客観的に見て明らかにこれは致命傷以外の何物でもなかったが、自由に動き回れるようだし、痛みもなければ痒くもない。


「どうなってんですか」


 事態がよく飲み込めておらず気が動転している。

 俺がいるのは恐らくどこかの礼拝堂。

 遥か天井にある蝋燭によるシャンデリア。様々な異形のレリーフが施された大理石の壁面。左右に規則正しく並んだ棺のような黒曜石の長椅子が何処までも続いている。


「さすがはここまで辿り着いた歴戦の戦士。すさまじい執念、いや怨念というべきか。おめでとう儀式は成功したぞな」


 振りかえるとそこには祭壇の代わりに用意された玉座に座り、頬杖をついている女。

 不健康なほど白い肌。腰まで届きそうなほど長い漆黒の髪。魔術師が愛用するような暗黒職のドレスローブ。その印象を一言で説明するのに相応しい言葉があるとすれば、それは魔女。

 つい最近、この女をどこかで見たことがある気がした。


 ああ思い出した。

 俺を殺した魔王だよこいつ。


 まあ魔王ってもモンスターがそこらじゅうを跋扈するこの暗黒時代に名乗りを上げる自称魔王しょうきんくび共は腐るほどおり、彼女もそのひとりなわけである。

 手配書の情報だと確かネクロノミコンとかいう強力な魔導書を使ってこの近辺で怪しげな研究を繰り返してる死霊魔道師ネクロマンサーだったっけ。

 ちなみにこいつは根城をいくつも所有していて、俺はこれまで、そこいらを虱潰しにして捜索していたのだかどれも主は不在だった。結局最後の根城(ラストダンジョン)でこいつに出会ったわけだが。


 あっさり瞬殺されたのである。


「そう貴様は死んだ。だが私が復活させたぞな」

「マジで? ラッキー!」

「但しゾンビとしてな」

「おいおい冗談だろ……ってわけでもなさそうだな」


 たしかに胸に風穴空いて、心臓が抉れてなくなっているくせに生きてるわけがない。

どうやらと言うべきかやっぱりと言うべきか私は死んでしまったらしい。

 

さらば我が人生。さらば我が青春。さらば我がまだ見ぬ恋人。血啜ブラッディアックスここに眠る。

 そしてこんにちはゾンビ人生。


 ちなみにこの礼拝堂のような場所はダンジョンの地下十二階。魔王の玉座。 俺が這々の体でたどり着き、そして留めを刺された場所である。


「でも、ちょっと質問なんだけどさ」

「うむ。なんぞな」

「なんで俺の事、生き返らせたわけ?」

「うむ。いい質問ぞな。貴様、私のこの住処であるダンジョンに侵入し、地下一階から十一階に至るまでのフロアを次々に撃破していったぞな」

「見境なく突撃(チャージ)かますのが唯一の取柄なんでそこまで褒められると正直嬉しいっす」

「褒めとらん。褒めとらんぞな。貴様のせいで莫大なコストを費やして配備したモンスターや罠の数々が使い物にならなくなったぞな。貴様はもう殺したからいいとしても、このままでは第二、第三の侵入者に対応ができん」

「はあ」

「だからいわば人員補充だな」


 なるほど。

 つまるところこの自称魔王が言いたいのは、


「俺に手下になれということか?」

「うむそういいことぞな」

「断ったら?」

「我が術を解除(キャンセル)するまでぞな」


 魔王は小脇に抱えていた分厚い本をこちらに突きつけてくる。

 それは鑑定眼のない俺でも判別できるほどいかにもな魔道書。

 黒い革張りの装丁。よく見ると脈打っている血管のような筋の通った表面。そこにタイトルはない。

 その所作から伺えること――魔道書は彼女にとっての武器。杖や指輪の代わりに、それに魔力を経由させることで魔術を行使するようだ。


「むふふふ。そうなれば貴様なぞただの肉塊ぞな」


 その口ぶりには余裕があった。

 下手な行動や返事はできない。

 彼女との距離は十歩ほどもなかったが、例えばここで取り押さえるために襲いかかろうとしたりしようものなら、即座に俺をゾンビからただの死体に戻すことが可能なのだろう。

 

「えっと」

「うむ」

「俺は手下になれという言葉に素直に頷くことはできない。だが折角生き返ることができたのにまた殺されるのは嫌だ」

「むう。煮え切らんやつぞな」

「だから研修期間をくれ」

「なぬ?」

「俺はこれからお試しで三ヶ月間、手下として働こう。その間にどうするか決める事にする」

「はあ」


 魔王が呆れたといった声をあげる。

 無理もない俺も自分で何を言っているのか良くわかっていないのだ。本当ならここできっぱり断ってしまえたら潔くて格好良いのかもしれない。だがいくらゾンビであろうが、情けなくあろうが生き続けていたいと思うのが人間である。そんな二律背反の妥協点として思わず口から出た言葉が「使用期間」なのである。


「ここの職場環境や、待遇や、仕事の内容が気に食わなければ俺はダンジョンを出ていくつもりだ」

「ふっ。ふはははは。面白い。だが私がお前の仕事振りを気に食わなかった場合、解雇されるのを覚悟するがよいぞな」

「ああ。それでよければ忠誠を誓おう」

 こうして俺は魔王の手下見習いとなった。


挿絵(By みてみん)

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