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現実6『伯爵』

「もう少し保健室で休んではどうかね」

「いえ自宅の方が落ち着けますので」

「まあ良かろう。許可しよう」

「ありがとうございます」


 職員室に赴いて、早退届を提出するとあっさりと許可が下りる。

 判子をくれたのは担任の霞ヶ関。

 すこし偉ぶった口調のせいで「伯爵」と生徒たちから陰で呼ばれている数学教師である。平坦な調子で淡々と授業を遂行し、時間がくれば説明の途中だろうが躊躇なく教科書を閉じて授業を強制終了する。教育熱心でもなく生徒にそれほど関心があるわけでもなさそうな態度には他の教師よりも好感が持てた。


「そういえばアサガオさんという名前の生徒を御存知ですか」


 ついでなので葬儀屋が喋っていた話の裏をとってみることにした。所詮噂である以上どこまでが本当か分からない。もしかしたら全部デタラメの可能性だってありえた。仮に最近までこの高校の生徒だったという情報が本当であれば真実味は増してくる。


「ふむ。――ああもしかして夕凪朝顔のことかな?」


 伯爵はよく手入れされた顎髭に手を当てて暫し視線をさまよわせた後、思い出したように言った。

 DDDon-lineにいるの名前がこちらでも使われることに奇妙な感覚を覚える。

 アサガオはどうやら実在するらしい。珍しい名前なので人違いということではないだろう。


「ええ間違いないと思います。どうすれば彼女と連絡がとれるでしょうか」

「何故、学年の違う君が彼女と連絡を?」


 なるほど学年が違うと言うことは二年生か三年生か。


「実は彼女から借りたままになっているものがあって、できれば返したいと思っているんですが名前以外はよく知らないんです」


 訝しげな顔をする伯爵に対して、僕はしれっと嘘の説明をする。勿論アサガオには「借り」はあっても借りているものなどはない。だが他に怪しまれずに情報を引き出す術を思いつかなかった。


「ふむ。だがそいつは困ったな」


 伯爵はどうやら嘘を信じてくれたらしかったが、何故か眉間に皺を寄せてまた顎髭に触りながら面倒くさそうな顔をした。


「実はあまり大っぴらにできない話だが彼女はもう本校には在籍していない」

「そうなんですか?」

「ああ。元々病気を患っていた彼女は半年程前、体調を崩したのをきっかけに療養に専念することになったんだ」

「入院されているんですか?」

「そういう事だ。遠方だから病院で容易にはいけないだろうな」


 噂によればアサガオは死んでいる。

 だがもしそうであったとして在籍していない元生徒の訃報というデリケートな情報について、容易に漏らしたりなどしない気がする。伯爵の口から出た「療養」という言葉が嘘の可能性もあったが、彼の顔を見てもそれを見抜けそうになかった。


「病院の名前とか、連絡先がわかれば教えていただけませんか?」

 駄目もとで訊いてみることにする。

「いや。御両親にこちらから確認しておいてやろう。君が気軽にとっても向こうの迷惑になる可能性があるだろう」

「そうですね。よろしくお願いします」


 予測していた対応。

 おそらくこれ以上踏み込むのは難しいだろう。

 嘘をついたリスクも伴ってくるのであっさりと引き下がることにする。僕はできるだけ丁寧に一礼をしてみせる。


「君は」


 伯爵の机から離れて職員室の出口へ向かおうとしたが、ふいに声をかけられて足を止めて、振り返る。


「病欠しがちだがかなり礼儀正しいし、学力も高いほうだ。だが他の生徒に比べてなんというかおとなし過ぎるというか、無気力で、無関心な素振りが目立っていた」

「……」

「その目はどこか色んなものに絶望しているようでもあって心配していたが、どうやら私の杞憂だったのかもしれないな」

「どういう意味でしょう」

「いや。関心事があるのはいいことだと思っただけのことだ」


 伯爵は少し悲しそうな笑みをこちらに向けてくる。授業やホームルームではあまり表情を見せない人物なのでそれは珍しいことだった。


 ――ああなるほど。彼が勘違いをしたのだと気がつく。

 恐らく彼は僕が、夕凪朝顔なる療養中、もしくは死んでしまっているかもしれない先輩に恋心でも抱いているのだと勘違いをしたのだろう。

 まあそれならそれで不審がられるよりは心証は良いので良しとしておくことにする。


「それでは失礼します」


 僕はもう一度丁寧に頭を下げてから、職員室を後にする。

 そうではないとは、伯爵には言わない。


 そもそも僕は、アサガオなる人物に興味などない。


 またあの脳天気そうな死霊魔導師が、本当の幽霊だろうが、はたまた実在した故人をかたる悪意あるプレイヤーだろうが僕にはどちらでも構わなかった。

 ただ後者であった場合、彼女に組みしている以上、僕に累が及ぶ可能性がある。最悪の場合、データの改竄等のゲームマナー逸脱行為の片棒を担いでいると運営に見なされる畏れもある。

 そうなれば折角、気に入っているDDDでの生活に支障が生じることになるだろう。最悪出入り禁止になるかもしれない。できればそれを避けたかっただけなのである。


 僕はただ死んだように平穏な生き方を続けたいだけなのである。

ええっと次回はゲーム世界に戻ります。

なるべく早めに更新したいです。


あと簡単で構わないので

「ここがつまんない」

「ここはおもしろいかも」

「今後はこうした方がよさそう」

といったご指摘を頂けると非常に参考になります♪

是非とも、よろしくお願いいたします。


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